イタチを愛する変わり者美女はわたしだけを抱きしめる

佐古橋トーラ

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第3章

わたしはイタチではないのに 1

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「うーん。何回見てもただの動物だ。」

 風呂上がりで僅かに濡れているような気がしないでもない髪のまま、わたしはベッドに飛び込んで携帯を凝視していた。

 つい数時間前まで秋川さんと一緒にフェレットのソラを可愛がってたのが、かなり遠くの記憶になったようだ。現実的じゃない光景を目にし続けたせいで、時間軸の記憶がどこかでこんがらがっているのかもしれない。
 それくらい、今日の秋川さんは凄かった。すごかったとかいう語彙力ゼロの言葉を使いたいくらいすごかった。

 で、せっかくだからさらに距離を詰めようと、イタチの勉強と評して画像検索を行っていたのだが……。

「いやまあ確かに可愛いけどさ……。」

 イタチ かわいい で検索すると、それなりにバズってそうなイタチの写真が出てくるが、やはり犬や猫と同じ、可愛いことは可愛いが、わたしに刺さるものではない。
 これに全身全霊を注いでいる秋川さんの気持ちが分かる日は遠そうだ。

 携帯を眺めながら、今日の疲れからか、そろそろ寝ようかなと思って電源を切ろうとした時だった。

 誰かからのSNS通知が届いた。

 蒼がまたおしゃれなディナーの写真でもあげたのか、はたまた冴乃が宿題が分からなくて泣きついてきたのか。
 見ると、知り合いと情報伝達できる例の緑色のアイコンに通知の記載があった。
 どうせ大した案件でもないだろうけど、一応確認しておこうとアプリを開いたわたしだったが、そこで一気に目が覚めた。

「えっ!?秋川さん?」

 初めて友達になった日に無理やり交換して、わたしの『はじめまして』のスタンプだけが未読スルーされていた秋川さんとのチャットが反応を示しているではないか。
 いつかわたしの方から連絡しないとな、と思っていたが、まさか向こうからのメッセージが来るとは。良くて未読スルーが既読スルーになるくらいかと思ってた。

 一体なんの連絡だろうかと恐る恐るチャットを開くと、立て続けに二つの文が流れてくる。

《これ、今日のお礼。》
《要らなかったら消して。》

 そして、その下にはURLが青い文字で貼り付けられていた。

「………………?」

 文章は淡白そのものだが、URLがお礼ってどういうことだろうか。
 そもそも秋川さんがわたしなんかにお礼をくれるなんてこと自体緊急事態なのだが、今のわたしはその中身が気になって仕方がない。
 
 他人から送られてきた正体不明のURLを踏むのはなかなか勇気がいるが、その中身を本人に聞くのも失礼かと思ったので、わたしは意を決して、画面をタップしてサイトに飛んだ。

 すると、画面は真っ暗になった。ど真ん中に小さなボタンがありその下に[入手する]という文字が白く書いてある。
 
「怪しすぎるだろ……。」

 誰がどう見ても健全なサイトではない。
 普段のわたしなら今すぐタブを閉じている頃だろう。

 真面目に危険な物ではないかと心配したが、でも秋川さんが送ってくれたわけだし、あの人はこんな陰湿な方法でわたしを陥れる人ではない。
 気に入らないことがあったら真正面から顔面をぶん殴るタイプだ。

 つまり、このサイトは彼女の好意によりわたしに教えてくれたもの。それを無碍にすることは裏切りになるんじゃないか?

 ……………………ええい、ままよ!

 数秒迷ったわたしだったが、秋川さんへの思いが上回ったからか、自分でも若干錯乱状態になりながらスイッチをタップした。

 
「…………………………。」

 押してからしばらく時間が経ったが、特に何かが起こる様子はない。いきなり携帯がぶっ壊れるなんてこともなければ、音とかがなってファンファーレが鳴り湧くわけでもない。
 長押ししたり連打したりしてみたが、反応はなかった。

 なんなんだよ一体。

 秋川さんが送ってきたってことはなんの意味もないなんてことはないはずだ。でも、現に何も起こってないし、何かしらの原因でサイトに不備が生じたか、或いはわたしの携帯の方がどこかおかしかったのか。

「明日本人に直接聞いてみようかな……。」

 幸い、今日のこともあって話しかけるハードルは少し下がっている。消してもいいとか書いてあったし、緊急性がある物でもないだろう。

 わたしは今度こそ眠ろうと、タブを閉じてホーム画面に戻った。
 
 しかし、そこで異変に気がついた。

「………なんだっけこれ。」

 一番最近入れた写真加工用のアプリ、の隣に、見たことないアプリのアイコンが存在していた。
 アプリの名前はA gathering of weasel lovers、その場で検索してみたところ、英語名で『イタチを愛する者たちの集会』ということらしい。アイコンに出ている名前の文字を見るに、略称はWEASEL LOVERSか。

 イタチ……イタチといえば秋川さんだ。
 そして、秋川さんの要素がわたしの携帯に直接介入する機会といえば、先ほどのURLしかあり得ない。
 
 つまり、さっきの[入手する]のボタンは、アプリをインストールすることの意味だったということだ。
 結果として今わたしの携帯に知らないイタチアプリが入っているのだから間違いないだろう。

 イタチアプリってなんだよって突っ込みはわたし自身にさせてくれ。
 ゲーム……なのかな?イタチに関係していることは分かるけど、こんなの見たこともないし聞いたこともない。

 直接WEB上で検索してみたが、ただイタチの画像が出てくるだけで、アプリに関してはなんの情報も得られなかった。
 つまり、表向きに存在している物ではないということだ。
 そもそも、公式のストアから入手した物じゃないわけだし、いくら秋川さんからのものとはいえ流石にいきなりインストールしてしまったのは怖いな……。

 とはいえ、イタチに関係してるってことは、秋川さんが熱心になっているものの可能性もある。そうなると、本人に『このアプリなんなの?』と聞く前に、自分で情報を得て、秋川さんとの話のネタに利用した方が良い関係を築けるかもしれない。ことイタチに関しては、あの人の熱意は本物だ。つまり、このアプリも危ない物ではないだろう。
 
 多少疑惑は残ったままだったが、悪いことがあったら全部秋川さんのせいにしようということで、わたしは意を決してアプリを開いた。

 
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