12 / 28
第3章
わたしはイタチではないのに 1
しおりを挟む「うーん。何回見てもただの動物だ。」
風呂上がりで僅かに濡れているような気がしないでもない髪のまま、わたしはベッドに飛び込んで携帯を凝視していた。
つい数時間前まで秋川さんと一緒にフェレットのソラを可愛がってたのが、かなり遠くの記憶になったようだ。現実的じゃない光景を目にし続けたせいで、時間軸の記憶がどこかでこんがらがっているのかもしれない。
それくらい、今日の秋川さんは凄かった。すごかったとかいう語彙力ゼロの言葉を使いたいくらいすごかった。
で、せっかくだからさらに距離を詰めようと、イタチの勉強と評して画像検索を行っていたのだが……。
「いやまあ確かに可愛いけどさ……。」
イタチ かわいい で検索すると、それなりにバズってそうなイタチの写真が出てくるが、やはり犬や猫と同じ、可愛いことは可愛いが、わたしに刺さるものではない。
これに全身全霊を注いでいる秋川さんの気持ちが分かる日は遠そうだ。
携帯を眺めながら、今日の疲れからか、そろそろ寝ようかなと思って電源を切ろうとした時だった。
誰かからのSNS通知が届いた。
蒼がまたおしゃれなディナーの写真でもあげたのか、はたまた冴乃が宿題が分からなくて泣きついてきたのか。
見ると、知り合いと情報伝達できる例の緑色のアイコンに通知の記載があった。
どうせ大した案件でもないだろうけど、一応確認しておこうとアプリを開いたわたしだったが、そこで一気に目が覚めた。
「えっ!?秋川さん?」
初めて友達になった日に無理やり交換して、わたしの『はじめまして』のスタンプだけが未読スルーされていた秋川さんとのチャットが反応を示しているではないか。
いつかわたしの方から連絡しないとな、と思っていたが、まさか向こうからのメッセージが来るとは。良くて未読スルーが既読スルーになるくらいかと思ってた。
一体なんの連絡だろうかと恐る恐るチャットを開くと、立て続けに二つの文が流れてくる。
《これ、今日のお礼。》
《要らなかったら消して。》
そして、その下にはURLが青い文字で貼り付けられていた。
「………………?」
文章は淡白そのものだが、URLがお礼ってどういうことだろうか。
そもそも秋川さんがわたしなんかにお礼をくれるなんてこと自体緊急事態なのだが、今のわたしはその中身が気になって仕方がない。
他人から送られてきた正体不明のURLを踏むのはなかなか勇気がいるが、その中身を本人に聞くのも失礼かと思ったので、わたしは意を決して、画面をタップしてサイトに飛んだ。
すると、画面は真っ暗になった。ど真ん中に小さなボタンがありその下に[入手する]という文字が白く書いてある。
「怪しすぎるだろ……。」
誰がどう見ても健全なサイトではない。
普段のわたしなら今すぐタブを閉じている頃だろう。
真面目に危険な物ではないかと心配したが、でも秋川さんが送ってくれたわけだし、あの人はこんな陰湿な方法でわたしを陥れる人ではない。
気に入らないことがあったら真正面から顔面をぶん殴るタイプだ。
つまり、このサイトは彼女の好意によりわたしに教えてくれたもの。それを無碍にすることは裏切りになるんじゃないか?
……………………ええい、ままよ!
数秒迷ったわたしだったが、秋川さんへの思いが上回ったからか、自分でも若干錯乱状態になりながらスイッチをタップした。
「…………………………。」
押してからしばらく時間が経ったが、特に何かが起こる様子はない。いきなり携帯がぶっ壊れるなんてこともなければ、音とかがなってファンファーレが鳴り湧くわけでもない。
長押ししたり連打したりしてみたが、反応はなかった。
なんなんだよ一体。
秋川さんが送ってきたってことはなんの意味もないなんてことはないはずだ。でも、現に何も起こってないし、何かしらの原因でサイトに不備が生じたか、或いはわたしの携帯の方がどこかおかしかったのか。
「明日本人に直接聞いてみようかな……。」
幸い、今日のこともあって話しかけるハードルは少し下がっている。消してもいいとか書いてあったし、緊急性がある物でもないだろう。
わたしは今度こそ眠ろうと、タブを閉じてホーム画面に戻った。
しかし、そこで異変に気がついた。
「………なんだっけこれ。」
一番最近入れた写真加工用のアプリ、の隣に、見たことないアプリのアイコンが存在していた。
アプリの名前はA gathering of weasel lovers、その場で検索してみたところ、英語名で『イタチを愛する者たちの集会』ということらしい。アイコンに出ている名前の文字を見るに、略称はWEASEL LOVERSか。
イタチ……イタチといえば秋川さんだ。
そして、秋川さんの要素がわたしの携帯に直接介入する機会といえば、先ほどのURLしかあり得ない。
つまり、さっきの[入手する]のボタンは、アプリをインストールすることの意味だったということだ。
結果として今わたしの携帯に知らないイタチアプリが入っているのだから間違いないだろう。
イタチアプリってなんだよって突っ込みはわたし自身にさせてくれ。
ゲーム……なのかな?イタチに関係していることは分かるけど、こんなの見たこともないし聞いたこともない。
直接WEB上で検索してみたが、ただイタチの画像が出てくるだけで、アプリに関してはなんの情報も得られなかった。
つまり、表向きに存在している物ではないということだ。
そもそも、公式のストアから入手した物じゃないわけだし、いくら秋川さんからのものとはいえ流石にいきなりインストールしてしまったのは怖いな……。
とはいえ、イタチに関係してるってことは、秋川さんが熱心になっているものの可能性もある。そうなると、本人に『このアプリなんなの?』と聞く前に、自分で情報を得て、秋川さんとの話のネタに利用した方が良い関係を築けるかもしれない。ことイタチに関しては、あの人の熱意は本物だ。つまり、このアプリも危ない物ではないだろう。
多少疑惑は残ったままだったが、悪いことがあったら全部秋川さんのせいにしようということで、わたしは意を決してアプリを開いた。
0
あなたにおすすめの小説
百合活少女とぼっちの姫
佐古橋トーラ
青春
あなたは私のもの。わたしは貴女のもの?
高校一年生の伊月樹には秘密がある。
誰にもバレたくない、バレてはいけないことだった。
それが、なんの変哲もないクラスの根暗少女、結奈に知られてしまった。弱みを握られてしまった。
──土下座して。
──四つん這いになって。
──下着姿になって。
断れるはずもない要求。
最低だ。
最悪だ。
こんなことさせられて好きになるわけないのに。
人を手中に収めることを知ってしまった少女と、人の手中に収められることを知ってしまった少女たちの物語。
当作品はカクヨムで連載している作品の転載です。
※この物語はフィクションです
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
ご注意ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる