イタチを愛する変わり者美女はわたしだけを抱きしめる

佐古橋トーラ

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第4章

災い転じて福となす 5

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 とりあえず住宅街の周りをぐるっと回っていたわたしだったが、少々対応し難い現象が二つ起こった。

 一つ目は、下校途中の小学生に絡まれたことだ。公道を丁寧に歩き回るイタチなんてそうそういなかったからか、小学3年生くらいの三人組の女の子たちに『可愛い。』『どこ行くの?』なんてナンパみたいなことをされながらストーキングされた。
 向こうから見たら野良猫みたいなものなんだろうけど、その正体が全裸の女子高生だとバレたら速攻警察行きだ。間違えて人間に戻ってしまったら当然アウトだが、現時点でさえ普通に公然わいせつ罪だから、捕まるんじゃないかと怖くなる。
 ちょっとくらいは威嚇とかしてやろうかとも思ったけど、ただ純粋に追いかけられているだけなのにそんなことをするのも申し訳なく思ったので、自慢の足で脱兎の如く逃げ出した。
 ちやほやされるのは気分的に悪くないんだろうけど、そこまで気持ちが堕ちたら人間として終わりだ。

 二つ目は、一つ目の反省を生かして、申し訳なく思いつつも他人の家の敷地内を移動していた時に起こった。
 不法侵入は人目を避けるためにまあ仕方ないことにするとして、そこでわたしよりも体が大きい野良猫と遭遇してしまったのだ。

 とある家の敷地内だったのだが、その家にはウッドデッキみたいなのがあって、その下は野良猫が住むには最適な軒下になっていたのだ。
 わたし目線で見る野良猫は、いつも見ている抱っこできるようなサイズとはとても言えなく、自分よりも大きい化け猫と対峙したと錯覚したくらいだ。
 真っ黒で片目が潰れていたその猫は、わたしの姿を確認すると唸り声を上げながらジリジリと近づいてきた。

 わたしは逃げようと思ったが、足を動かそうとした時にはいつの間にか軒下の四角に追いやられていた。
 こうなったらわたしにやれることは一つ。

『ごめんなさい!』

 正々堂々全裸で土下座だ。いや、デフォで全裸なんだけど、そう言った方が誠意がありそうだよね。
 最悪、人間姿に戻って食われるのは避けようと思っていたイタチだったが、幸いなことに、頭を下げてじっとしていると、黒猫はわたしの頭をぺろぺろと舐め始めた。
 よく分かんないけど、服従の姿勢を崩さなかったことでなんとか命だけは許してもらえたらしい。寛大な猫様で助かった。
 いや、わたしが全力(人間になる)出せば勝てるんだけどね?あ、でも意外と素の状態でも負ける可能性はあるな。

 ということで二つの山場を乗り越えたわたしにとって、今日の外出は流石に疲労が溜まるものとなった。

 ちょうど日も沈んでくる時間だし、一時間を過ぎると自動的に人間に戻ってしまうので、ポイントの貯まり具合を楽しみにしつつ家に戻ることにした。

 なんの用途にもなっていない空き地の草むらを通り抜けて、車に気を付けつつ道路を渡ろうとした時だ。

 すぐ横から、自転車が近づいてくる音が聞こえて、わたしは慌てて草むらに逆戻りした。
 自転車に轢かれるのも、肉体的にかなりまずいので気をつけなければならない。
 間一髪でかわして自転者が過ぎ去るのを待っていたわたしだったが、なぜか自転車は空き地を通り過ぎたところで停止した。

『…………?』

 自転車の乗り主は、そのまま自転車を止めると、空き地の草むらまで舞い戻って、何かを探すかのように草が高く生える狭い土地の前で止まった。
 わたしは上手いこと草の陰に隠れていたが、ちょうど日が沈むタイミングだったからか、見上げても眩しくて、空き地の前に立つ人物の姿が目視できなかった。
 でも、制服のスカートを履いているのは見えた。うちの学校のものと同じだった。

「見間違いだったのかな……。」

 そして、その人物が小さく呟いた一言で、わたしはそれが誰だか確信した。
 わたしが憧れて焦がれている人、秋川さんその人だった。

 ……なんでこんなところに?

 この道は、確かにうちの学校帰りの生徒の多くが通る道だが、わざわざこんなところで止まる意味がない。事実、何度も小学生や高校生が空き地の前の通りを抜けていったが、だれもここで留まるなんて行動はしなかった。それなのになんで秋川さんはここに。

 わたしがイタチ姿で身を縮めていると、やがて太陽は沈んできて、暗くなって秋川さんの表情を見上げることができた。

 そのタイミングで、わたしと秋川さんの目がバッチリと合った。

 やば、バレた?

 こんな姿であることがバレたらイタチへの冒涜として捻り潰されるかもしれない。
 認識されたかもしれない以上、逃亡の選択肢が頭をよぎる。

 秋川さんはそのまま目線をわたしに向けたまま、ゆっくりとしゃがみ込んだ。

 ビクッと、わたしの身体が震える。
 恐怖なのか動揺なのか、あるいは別の感情か。この時のわたしは、もしも自分が曽鷹ひなただと秋川さんにバレたらどうしようかということで頭がいっぱいになっていたのだ。

「おいで。怖くないよ。」

 だからこそ、こんなセリフが飛んできたことに頭が真っ白になった。

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