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第拾漆記 荒御魂の反動
しおりを挟む――光炎を解き放ったあーちゃん。
髪は金色の割合が増え、羽衣と髪留めのリボンは伸び、頭にはクラウンが付いた。
「もうあたしに、ついて来れない」
「ぐううううおおおぬぬぬぬおおお!!」
「……死ね」
先程まで動いていた醜い彼は、肉塊となって辺りに飛散した。
究極あーちゃんは返り血など浴びることなく一撃で瞬殺。
ビクビクと不気味に動くそれらは、黒い光の玉となった。
「逃がさない」
究極あーちゃんは手をかざすと、吸い込まれるようにそれらは集まり一つになった。
それを、わし掴みにするとあーちゃんは真顔で握りつぶす。
「消されたのう」
「はい、消されましたね」
「烙や曝の時と何が違うの?」
「あやつらの時は見送ったのじゃよ。見送るってことは黄泉がえりのチャンスがあるのじゃ。今のは、魂そのものの破壊じゃな。これをされるとのう……どの神でも黄泉がえりは叶わなくなってしまうのじゃ」
「補足で言うなら、先程の天手力雄様は禍神へと成り果てました。だから魂も黒くなっていたのです。その状態になってしまった神は他の神によって抹消されるのですが、それが可能な神となると、あー様、月読様、そして、うー様の父君である素戔嗚様より位階が上の神になるので私やうー様にはできません」
「ほれ、前にウチがプリン食べた時に言ってたじゃろ? おばちゃまは本気になると消滅させる力があるとな」
「そー言えばそんなこともあったね」
「ウチがビビってた理由が分かったじゃろ」
「なるほどねぇ」
「さて、問題はここからですね……」
「じゃな……」
二柱ともあまり浮かない様子。
まるで月曜日を迎えたくないサラリーマンのようである。
「うーむ……とりあえず守りを固めておいた方が良さげじゃのう」
「ですね……ですが、私だけでは恐らく止められないのでうー様にも頑張って頂きますよ」
話に置いてけぼりの俺は、間に入る。
「さっきから守るとか止めるとか、荒御魂ってやっぱり物騒なのかい?」
「そうじゃぞ、煌。ウチらでおばちゃまを止めるのじゃよ」
「え、待って、俺たち殺されるの? てか、荒御魂を使ったうーちゃんも……まさか襲ってくるんじゃ?」
「結論から言うと、可能性はゼロではないのう。ちなみに、ウチは発動時間が短かったのと力のほとんどを目にまわしていたから負担が少ないのじゃよ。故に副作用があってもウチの中で完結なのじゃ」
なるほど。
荒御魂は薬のようにさじ加減で副作用の調整がきくらしい。
「とにかくじゃ! ウチらは緊急クエスト、おばちゃまを止めよを強制受注したのじゃ!」
「私の最強防御、九重抱籠を張ります。前回の反省を生かしてスペースに余裕も作りますね。止めきれたら嬉しいのですが、もしダメだったら、うー様が八枚目と九枚目の間で止めて下さいね」
「うむ。止め切れるか分からんが了解なのじゃ」
抱籠一つでも相当な防御力なのにそれを九つも展開する程、副作用は強烈らしい。
よっちゃんが余裕を持って張り終える頃にはあーちゃんは荒御魂化から解放されていた。
あーちゃんは、こちらをちらりと見る。
「……グッ、う、ウワァぁぁぁあああ!!」
全身から金色に煌めく炎なのかオーラなのかよく分からないモノを吹き出し、頭を抱え、膝から崩れるあーちゃん。
「あーちゃーん! だいじょーぶー?」
呼びかけてみるも反応は無し。
しばらくするとあーちゃんは立ち上がった。
そして、こちらをチラリと見ると何かをボソボソと聞き取れない声を発しながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「壱之盾! 八重桜!」
桜の花びらを模した八枚のシールドがあーちゃんの前に立ち塞がる。
しかし、あーちゃんが近寄るとその熱気でシールドはプラスチックが溶けたかのようにダラダラとしたたり、薄くなったシールドを一発で殴り壊していく。
あっという間に八枚全てを破ったが、シールドに熱を吸われたのかオーラの度合いが減ったように感じた。
そして、一枚目の抱籠へタッチ。
「……邪魔」
抱籠を殴るもヒビは入るが壊れはしない。
ただ、殴る蹴る度に少しずつだがヒビは大きくなっていく。
「あれ? 確か抱籠ってあーちゃんなら一発で破壊できたよね?」
「はい、普段のあー様なら余裕です。ですが、今の状態では力の制御が上手くできていないため本来の力を発揮できないのです。そうですね……抱籠のダメージを見る限りですと、うー様と同等もしくは少し上といったところでしょう」
パリィィインッ!!
一枚目の抱籠が割れた。
あーちゃんはすぐに二枚目に迫る。
「……ああッ! 邪魔邪魔ッ!」
二枚目、三枚目、四枚目と次々に破壊していく。
しかし、流石はよっちゃんの最強防御だけあって、次第にあーちゃんの勢いは落ち着いてきたようだ。
七枚目を割る頃には息を切らしている模様。
八枚目に手がかかり、うーちゃんはヤレヤレとスタンバイ。
天之仙狐招現笛を吹き鳴らし鋭爪憑狐を展開した。
さらに朱呪憑誕を纏い、三狐眼も真っ赤に染まって準備は完了だ。
「……フンッ!」
パリィィインッ!!
ついに八枚目の抱籠も崩れた。
だが、流石のあーちゃんも肩で息をするくらいには溢れんばかりの力を使ったようだ。
次は我らがうーちゃんの砦である。
「おばちゃま、そこまでじゃ! そろそろ荒御魂を収めるのじゃよ!」
体勢を崩す狙いなのか、勢いをつけてあーちゃんに体当たりをかますも、あーちゃんはそれを受け止け流す。
「ウカァ……気を……つけて……まだ、力が……残ってる……」
あーちゃんの右ストレートが迫る。
負けじとこれを、うーちゃんは何とか止めた。
そして、それを両手でしっかり掴んで離さない。
その間によっちゃんは動く。
「恐らく、うー様で何とかなるとは思いますが、念の為、最後の抱籠を可能な限り厚くしますので、後は任せました」
「え、ちょっと、後は任せたって……」
よっちゃんは微笑むと天之豊瘴國守之杖に神力を注ぐと壁は次第に厚くなっていった。
何故だろう、外側にだけ広げればいいのに内側にも少しずつだが迫っている気がする。
――いや、完全に内部のスペースを侵食している!?
よっちゃんとの距離が触れ合うところまで来たと同時に杖が宙へ消えた。
と、思ったのも束の間、よっちゃんが俺に寄りかかってきた。
「先の戦いも含めて、少々力を使い過ぎましたので、お休みさせて下さいね」
そう言い残すと、すやすやとよっちゃんは寝てしまった。
またも作られたこの狭い密室。
よっちゃんの顔が横にあって寝息が耳にかかる。
その度にゾワゾワと何かが身体を駆け抜ける。
それだけでなく、膨らみがガッツリ当たっていて、よっちゃんの、まるで森林浴でもしているかのような爽やかな髪の毛の香りが、俺の嗅覚に エロス を訴えかける。
なるべく見ないようにするのでいっぱいいっぱいだ。
「おばちゃま! 手を掛けさせるでない! ウチは、ビビってるのじゃぞ!」
「……ごめん……もうちょい、だから……」
「せめて手加減はして欲しいのじゃ! 止めるためだけに荒御魂なぞ使いとうないぞ!」
「ハァ……ハァ……んなこと言っても……さ……あ、避けて!」
あーちゃんの左がうーちゃんに迫る。
しかし、うーちゃんの両手は既にあーちゃんの右手に。
「うわわわわ、ちょ、ちょっと待つのじゃあ!」
ヒュッ! ドッ!!
とっさに取ったうーちゃん渾身の回し蹴りがあーちゃんの横っ面を捉えた。
軽く宙を飛び、地に伏すあーちゃん。
「やっちまったのじゃ……オバチャマー……ダイジョブかのー……」
青冷めるうーちゃん。
本来ならばその攻撃は余裕で防がれていたはず。
それなのに命中してしまうほど今のあーちゃんはあーちゃんではない。
「いったいなぁ! 避けろって言ったのに、蹴ることないじゃない! ああ! もう、まだ体が言う事聞かな……避けて!」
速度は俺の目でも捉えられる速さだったが、即座にうーちゃんの元へと移動し拳を振りかざす。
うーちゃんは両手で受け止めるも自身の踏ん張りを超えるあーちゃんの力に負け、抱籠まで飛ばされ身を打ち付けてしまった。
「グハッ……」
地に伏すうーちゃんの元へと歩み寄り、あーちゃんはしゃがむ。
「何まともに受けて……避けて避けて避けて避けて避けて避けてぇ!」
あーちゃんは拳を振りかざす。
「避けるかぁ!!」
手足の爪をしっかりと地に穿ち至近距離からあーちゃんに飛び掛かった。
くるりと宙で体を丸め渾身のムーンソルトかかと落としを放つ。
しかし、それはあーちゃんには届かない。
左手で軽く受け止められたからだ。
「ウカがあたしに……かなうわけないでしょ……体の自由……きかなくたって……三狐眼……なし……だし……」
先程の攻撃を受けた衝撃で、本人も気付かずに解除してしまっていたようだ。
いつものクリクリとした愛らしい黒い眼に戻っていた。
「あ、しまったのじゃ!」
あーちゃんの右ストレートがうーちゃんを刺さんと迫る。
しかし、ニヤリと笑ううーちゃん。
目を閉じるその時、目が紫になっていたのを俺は見逃さなかった。
あーちゃんの拳が届くと同時にうーちゃんは幻影と化し瞬時にあーちゃんの背後を取っていた。
「そっちだって少しは痛いの、我慢するんじゃよ!!」
三狐眼も次はちゃんと紅色だ。
両手を合わせた渾身のハンマーをあーちゃんの頭めがけて叩きつける。
だが、あーちゃんは左サイドにスッと避ける。
うーちゃんのハンマーは地へと穿たれた。
「……避けて」
身動きの取れないうーちゃんの尻をめがけて、あーちゃんの蹴りが炸裂した。
またしても抱籠に叩きつけられたうーちゃん。
自慢のもふもふはシュンとなり完全にダウンしてしまった。
「煌……トヨ……」
普段の厚さの二倍、いや三倍はある抱籠にあーちゃんは攻撃を開始した。
流石は最後の砦にふさわしい。
二発、三発と受ける、あーちゃんの攻撃にビクともしない。
腰を入れて溜めた正拳突きを放つあーちゃん。
ついにミシミシと抱籠にヒビが入る。
「……はぁ…………はぁ…………」
放った拳を中心に亀裂が放射状に延びる。
内側にも亀裂は侵食した。
流石にマズイ。
うーちゃんとよっちゃんに揉まれたにも関わらずまだこんなに力を残しているとは、流石は日本を代表する神だ。
「……もう……止まってぇ……」
ガッシャァァァァアアアンッ!!
抱籠は破られた。
肩で息をしながら、そのおぼつかない足取りであーちゃんはこちらに向かう。
「……逃げて」
よっちゃんを後ろに、俺はあーちゃんを前に両手を広げた。
「……なに……してんの……逃げて……」
逃げないのではない。
足がすくんで逃げられないのだ。
せめて、無抵抗のよっちゃんだけはと、足りない体を張ってみせた。
「……ダメ……あんたじゃ……あ……あぁ……」
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