龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

波動砲

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龍王と狐の来訪者

57話目

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「二つ返事で了承してくれるのは、話が早くて助かるわ。けど"契約"である以上は、お互いの納得のためにきちんと明文化させておくわね」


姫は何もないはずの空間から俺が初めに契約させられた奴隷誓約書とよく似ている古ぼけた文書と羽のついたペンを取り出して字を走らせていた


「勘違いされるのが嫌だから初めに断っておくけれど、私は別に博愛主義者じゃないわ。ただ物事の落とし所をつける時に真っ先に殺しを持ち込む事が嫌いなだけ」


「《……耳が痛い》」


そこからアナムは姫に言われるがままに契約を結んでいた。殺される直前で冷静では無かったにしろ、弱った心につけ込む新興宗教の手口を見てるかのようだった


宗教といえば日本人は無宗教が大半だったりするわけだが、俺はこう見えてとある宗教の敬虔なる信者だったりする。その名もバクシン教だ。信者になったのにはワケがある


誰もが子供の頃に一度はやる人体錬成ごっこ。俺はその時に真理の扉の向こう側を見てしまったのだ。この世の理は即ち速さなのだと。物事を早く成し遂げれば、その分時間を有効に使えるよと否が応でも分からせられてしまった。夏休みの宿題を後回しにしてする後悔よりも、早く全部やってしまってとっとと解放されるのが良いのだと気付いてしまった。
遅い事なら誰にでも出来る。有能なのは月刊より週間、週刊よりも日刊。つまり速さ=有能。文化の基本法則を子供ながらにむざむざ見せつけられる身にもなって欲しい。ちなみに対価は毛髪量だった。諸行無常である。この世には髪もホト毛もいないと再認識させられた


「じゃあ契約を復唱するわね。アナムに何もしない代わりの条件としてこちらが挙げる条件。
先ず1つ目に相手の命を奪わない事。必要以上に相手を傷つけたり苦しめたりするのも禁止。自己防衛も必要最小限に留める。
2つ目に周りとは共存共栄を目指す。生きてく上で助け合いは大事だものね。
3つ目。これは個人的な私のお願いになるわ。危険な呪装霊具を発見したら可能な限り確保して魔導教会に渡してください。こんな所かしら」


アナムは先ほどより落ち着いた様子であるが、どこかへりくだるように姫に質問をした


「了解しました。所でこの子の右腕を依代にして目覚めてしまったので、魂が定着してしまったのですが、彼女の右腕だけ頂くということは可能でしょうか?」


姫は俺の方へ視線を寄越すので、俺は指で小さくバッテンをする


「2つ目に条件を追加。今までの贖罪も兼ねて、先ずはこの子と互いに共生を目指す。それにアナム独りでは何かと不都合があるでしょう?」


「分かりました。契約をつつがなく行えるように、このアナムめ尽力することを約束しましょう」


毒のような甘い言葉に化け物が陶酔しきった感嘆の言葉を漏らしている。真に恐ろしいのは人間だったか


「それと契約を破った時のペナルティを聞いていないのですが……」


「破る予定があるの?」


「いえ……」


「なら聞く必要はないわ」


姫の純粋に不思議そうな首を傾げる問いかけにアナムは失言と言わんばかりに目を伏せる。パン!と手を叩いて、これで終わりだと言わんばかりに姫は柔らかに微笑み締めくくった



「……契約はこれで締結されました。もう私もアーカーシャもそちらには何もしません。ですが、こちらが何もしなくても、この国はそうもいかないでしょう。騒動が収まり事態に気が付けば貴方たちを直ぐにでも捕まえに来ますよ。そうなる前に、第三者の手助けを得て逃げる必要がありますね」


「門は全て閉じてます。親衛隊も全員揃っている現状で力付くで逃げるのは現実的ではないですが、貴方ならどうしますか。ダストスモーキー」


姫が見透かしたように言葉を漏らすと、桐壺の師匠篝火が力無く姿を現した。
そして一目でわかった。もうこの人は殆ど死んでる。生きてるのが不思議なくらいの重症。強靭な気力がか弱い生命力を辛うじて支えているだけだ


「……使い捨ての小型転送魔法術式搭載のポータルがここにある……ここから北に半日ほど歩いた小さな村外れに繋がっている。これを使うのはどうだ」


「……転移ではなく転送、ですか?」

 
「ああ、転移だと距離が短い上に魔力痕跡を辿られ易いが、転送ならポータルを破壊すれば、復元に時間を要してる間に……遠くへ逃げられる……準備を幾つもしてたが、この転送が逃げられる可能性が1番高いと……俺はみてる」


だがそれを聞いても、姫の顔はどこか浮かない感じだった


「それだと問題が幾つかあるわ」


「転送魔法は、術者が対象を目的地へ飛ばす魔法。誰か使う方はこの場に残る必要があるのでこの場合はダストスモーキー。貴方になる」


「次に。転送されてもいつ意識が戻るか分からない今のこの子じゃ、どちらにせよ先がない。見たところ、その有り様では起きるのに最低数日はかかる。まさかその間、軍国の優秀な兵たちから見つからない策があるのかしら」


「言ったろう。問題は無いと 俺にはどちらにせよ 先がないから、俺の命の使い方はこれで合ってる
それにもう一つの方も、アテがあるのさ」


「おい!宿木、夕霧!どっかで見てるんだろ 頼みたい事がある 出てきてくれ」


桐壺篝火が死にかけの重症人とは思わせないほどの声量で辺りに呼びかけると、ボロボロの女性2人が様子を伺うかのように、木の影からコソリと現れた



「チッ……」


「お願いがあるんだ」


「……言いたいこと、分かってる……転送魔法で此処から私たちを逃す……代わりに…そっちの子も一緒に連れて逃げる……でしょ?」


夕霧と宿木って言われてたな。姫の話だと昨日めちゃくちゃボコボコにした相手に逃げられたって言ってたがこの2人のことか


姫の話だとマスケット銃抱えた顔色の悪い丸眼鏡の女性が夕霧って子で。
目つきの悪い眼帯と雀卵斑が特徴的なジャケット着てるのが宿木って子だ。


個人的にソバカスという言い方は余り好きでは無い。カスって言い方はどう考えても響きが悪い方に働くからだ。気にする人は気にするだろうし、後は夏日班とか天使のキスとかって言い方が絶対良いだろう


カスってつけて良いのはカステラとカスタードクリームだけです。
No more チクチク言葉!
他人を平気で傷つける。そんなチンカス野郎がいるとしたら、その時は俺が月に代わってお仕置きしてやるんだぜ


「そうだな。出来るなら桐を自由都市ミーディアにあるギルド黄金の美貌ゴールデンバウムまでを目指して欲しい」  


「自由都市……ギルドの庇護下に置いて、軍国から護ってもらう…そういう…こと?」


首を傾げて夕霧が疑問を呈すると、息も絶え絶えの桐壺の師匠に代わって、姫が答える


「自由都市ミーディアは元を正せば多数のギルドが寄り集まって出来た大規模コミュニティ。自由都市なら統治権のある王や貴族がいませんし、ワケアリも多いから目立たないと。それにミーディアも多くの自由都市と同様、他所の国の干渉を極端に嫌っているからでしょうか」



「……なんで、ミーディアなの…もう少し近くに自由都市、あるよね……」


「恐らくですが、黄金の美貌はこの国が支援しているギルド"百手の巨人"と仲が悪いから、かな?」


「……そんなとこだ」


だが面白く無さそうに宿木が目つきの悪い目を更に細めて吠える


「おいおい!ウチら殺し屋なんだけど、そこまで子守りに付き合う義理がどこにあんだっての!?」


「タダで引き受けてくれるなんて思ってないさ。自由都市にある預かり屋の貸金庫に聖金貨3枚と金塊20キロがある。それを全部やる」


それを聞いた瞬間、2人の目の色がガラリと変わった。具体的に言うと、目がお金みたいなマークになっていた


「せ、聖金貨ってあの聖女が即位する度に1枚だけ発行されるやつか!1枚でデカイ屋敷一つ建つっていう」


「……うん…まだ、世界に99枚、しかない……貴重なお宝……」


一拍の間を置いて、2人は互いに顔を見合わせた。初めに口を開いたのは夕霧の方だった


「……花宴はやらないで……いい。私が、やる……」


「誰もやらないなんて……」


「助かるよ。ほら、貸金庫のカードだ」


「ずりぃ!やる!絶対やるかんな!」


師匠が投げたカードキーみたいなものを夕霧が受け取る


「……たしかに……受け取った……」


「あー!渡せよ!ちっ。あー~もう!しゃーねえな。」


気を失っている桐壺の体に無造作に近寄り宿木が抱える。心なしか篝火へムスッとした様子で顔を向けていた。次に小バカにするように空気を振るわせた


「ギャハハ……!笑えるくらい辛気臭え顔してんな……最後なんだからコイツに言ってあげることあるんじゃないの。同業者のよしみで伝えてあげっからさー。出来れば明るいの頼むわ」


憔悴し切っていた篝火は目を伏せ僅かに逡巡した様子で、桐壺に負い目があるのか、途切れ途切れにおどろおどろしく言葉を紡いでいく


「じゃあ謝罪を。……俺の魔法に魔香っていうやつがある。魔物の思考能力を奪い操る魔法だ。それで一度だけ。本当に一度だけだが、お前と組むずっと前の仕事で魔獣ネメイアの肉体の一部を取り込ませた魔物を使いエルガルムにいたターゲットを襲わせたことがある。だけど途中で手に負えなくなって放逐した。
それで、確証はないけど……その、魔物がネメイアに変貌して…!つまり、えっと、お前の島を滅ぼしたネメイア可能性があって…だから間接的に俺がっ!」
  

「だから辛気臭えっての!」


頬を宿木が軽く打ち、胸ぐらを掴む


「テメエが死ぬ今日この瞬間まで仮にも一緒にやってくれたやつに、その言葉は違うだろ。
アタシら自由に好き勝手やって他人様に迷惑かけてるんだぜ?恨まれて憎たらしく殺されてやるなら兎も角、こんな。如何にもな死んで逃げれるタイミングを見計らって白状して赦しを乞うのは卑怯だろ。それなら黙って死ねよ」


そう言われて、少しだけ口惜しそうに過去を振り返って篝火は口元を歪めて、下手くそに笑った


「は、ははっ。そうだな……本当にその通りだ。じゃあ……楽しかったとだけ伝えてくれ」


「ギャハハ。良いね、分かりやすくて。けど短いな、もっとねえの」


「じゃあ、さっきのは相棒として言わせてもらった。次は師匠としての言葉だ…
お前は凄い弟子だよ。真っ直ぐ一直線で自分が死ぬかもしれない場面でも……信念を絶対に曲げたりしない……そこが長所でもあり短所でもあるんだが……師匠としてはもうちょっと自分の身を大切にして欲しい所だな……」


絞り出すような声を漏らした


「せめて……せめて……今の俺よりは長生きしてくれよな」 


瞬間。目覚めてない筈の桐壺が篝火の手を握ったように見えた。まるで一緒に行こうとでも言うように。

涙をこぼしながら、篝火はゆっくりと惜しむように。その手を離した








「ポータルニヨル転送ガ完了シマシタ」


「ポータルニヨル転送ガ完了シマシタ」


「ポータルニヨル転s…」


無機質なアナウンスが流れると同時に動けない彼に代わって雪姫が地面に置かれているポータルを粉々に踏み潰した


体を壁に預けている彼を前に姫は終始顔を曇らせていた。不愉快そうに。不機嫌そうに。
そんな姫の機嫌など気にも留める様子はなく彼は言葉をゆっくりと紡いだ


「なあ、最後に先代桐壺の……姉さんの話が聞きたいんだ」


姫は静かに同意して、口を開いた
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