上 下
69 / 141
龍王と冒険者ギルド

65話目

しおりを挟む
我の魂の祖国日本は実に国土の7割が山岳地帯だった。故に土砂移動現象自体はそう珍しいものではない。

この大陸が地質学的にそうであるかは置いといて、話を聞くに地震が起きたから、地盤が緩んだ事による崖崩れかなと我は大まかに推察してたけど、それでも普通はこんなペースト状にはなったりしないだろう


つまり、誰かが意図的に、明確な手段を持ってこれを故意に行ったということなのだろう。察しの悪い我ですら分かるのだから、誰が見てもそう判断するはずだ


「苺 解析をお願いしてもいいかしら」


「お任せを 玉!」


《かしこまりました。2番検査キットに変更します》


「承認!」


花ちゃんの持ってる魔導具 玉手箱は、様々な機構を備えているらしく、その黒い棒状の身体を注射器に良く似た形に変えて、対象物に刺して吸い上げる


《pi...pi...解析終了。強力な毒により土砂は溶解したと断定。魔力の特徴と残滓を照合結果、人に従えられたベネノペリンカンだと思われます》


「だ、そうです……これでやった相手が確実にいることが分かりましたが」


「……偉大なる龍王様アーカーシャ、貴方はどうすべきだと思いますか?」


なぜ我に振る。あくまでも主導権は我にあると言いたいのだろうか?
ならば相手がいてもいなくても答えは当然決まっているのだがな


「《世のため人のため。そして金のために全てを解決するだけだ》」


「ふふ……聞くまでもありませんね」


言葉は通じていないはずだが、姫は少しだけ満足そうに薄く口角を上げて言葉を吐き出す
しかし、そこでトーチカさんがすかさず待ったをかけてきた


「俺たちはあくまで冒険者だ。本来なら必要以上に踏み込むべきではないが、お前はどこまでやるつもりなんだ?」


「……必要ならどこまでも」


平平淡々と述べるその言葉に少しだけトーチカさんは怪訝そうにするも、了承したのか何も言うことはなかった


「氷結」


振り返り姫がフッと息を吹きかけると、白い吐息がパキパキと土砂を凍てつかせていく


「凍らせて分解でもしていくか?それでもだいぶかかるが」


「違うわ。偉大なる龍王様。殴って」


「は?おいおいいくら龍でも殴ってどうにかなる規模じゃ」


「《あいよ》」


言われた通りに、拳に力を乗せて打ち放つ。眼前の土塊は殴られた軌跡に沿って、綺麗に一直線に抉れて開通していた


「ただの殴打がなんつぅー威力だ。つくづく龍ってのは規格外の種族だな、おい」


「さて、次に行きましょうか」


此処から暫く離れた二つ目の街道も同様の状況であり、同じような方法を取った。なんかトーチカさんはドン引きしていたが、これでも全力で殴っている訳ではないのでそんな顔をしないで欲しい


「これで依頼自体は完了ですね、先輩」


「そうね 後はこれをしでかした人を見つけるだけなのですが、探すのは手間です。彼方から来るまで少しばかり待ちましょうか」


陽が真上に登った辺りで件の相手はこの事態に気付きこちらを見つけたようだった


「まさかのまさか。あんな依頼を受ける変わり者がいるとはね……ポッポさんは驚きだぜ」


げんなりした様子の1人の少女が現れた。ツートンカラーで左右で髪の色が違う。瞳の色も左右で異なり、ハイカラだった。その背後にはデカいペリカンみたいな鳥と豚頭……白いモフモフとしたオーク?と奇妙な卵の殻を半分だけ被ったモンスターが控えていた。下半身は蛸みたいな足を生やしていて、端的に言おう。めちゃくちゃ気持ち悪い。え?コズミックホラー過ぎんだろ!この世の物とは思えない。
eggっていうか、エッグイ!!!


《人物判定。ポルポポ・ポッポ A級賞金首と一致 罪状は封印指定を受けた魔法術式の故意の取得》


「……なぜこんなことを?ポルポッポ」


開口一番の姫の問いかけに、自身をポッポと名乗る少女は首を傾げた


「親しみを込めてポッポさんと呼べ……
仕事だよ、あんたらと一緒」


「あんたも気付いてんだろ?あそこの魔草は上質だ。その価値に気付かないとはいえ、あんな安値で売られて、露天で出回られたら商売上がったりで迷惑被った所がある。知らなかったじゃ済まされないんだよ。だから、まあ分かんだろ?」


「分かりませんね。なら誰かが教えてあげれば良かったんです」


「安値で売ってくれるカモに教えるお人好しも、商売敵をわざわざ助ける変わり者もいなかった。それだけの話だろう?
強いて言うなら自分の無知を棚に上げて他人の良心に期待する輩が1番悪い、とポッポさんは思うがね」


「マスター ポッポ これ以上喋るのは」


背後に控えていた灰色のオークが嗜めるように言うと、まるで少女には似つかわしくない苦笑いを浮かべて言葉を続けた


「さて、どうする?これでもポッポさんは大分良心的な方法を取ってる。住人が町を見捨てればいいだけだからな。だがこれが失敗したら今度はもっと直接的な手段を取るやつが来るぞ。まさかお前らずっと町に住み着く気か?」


「……睨むなよ。だからこちらから一つ提案がある。"コロッセオ"を知っているか?」


「コロッセオ?」


トーチカさんは初めて耳にしたと言わんばかりに戸惑うが、対照的に姫と花ちゃんは知っている様だった


「コロッセオってあれですよね……数百年前にいた従魔士たちが互いの従えた魔物たちを戦わせたっていう」


「そうね。けど、どうしてそう思ったのか知りませんが、私たちは従魔士ではありませんよ?そもそも彼らが存在したのは今は昔の話です」


少女は我に指を向ける。人を指さしちゃダメって知らないのか?いや、人じゃないんだけど


「どうやって龍を従えている?」


「従えてはいません。対等な"契約"を結んでいるだけです」


言葉を否定されて尚、少女ポッポの目は嬉しそうに一層輝いた


「そうかそうか、ポッポさんはお前らの言う従魔士というやつでな。まあ、恐らくはこの世界で最後の従魔士になるだろう。だからどうしても最後に叶えたい悲願があるのだ」


「未だかつて誰も成し得ていない龍を従えるという、従魔士の悲願を叶えてあげたい。
そのためにも、その龍が欲しい。
コロッセオを行い、ポッポさんが勝ったら契約を移行してその龍をくれ。お前が勝ったら、今後町には手を出さないし、誰にも出させないと約束する。どうだ?」


「え、普通に嫌ですけど。彼を渡すつもりはないので、そんな条件は呑めません」
  

即答だった姫に対してアテが外れたのか、ポッポは少しだけ困った様に顔を掻く


「……ならあの町はどうする。関係ないと見捨てるか?まあ自分に不利益が生じるならそれも当然か」


「貴女たちを捕まえて、雇った奴らももちろん捕まえます。それで解決です。アーカーシャ。あの不届き者たちの全身の骨をへし折って捕まえますよ」


反応を見るにめちゃくちゃキレてるのがひしひしと伝わり、心なしか姫から怒りの炎がメラメラと燃え上がっている様にさえ思える


「……待て待て!原始的な暴力じゃ何も解決しない。
分かった。なら、勝ったらその龍の仲間で比較的人間に友好的な奴を紹介してくれ!」


「……それ以外はさっきの条件で?」


姫の視線は未だ鋭い


「ええい、お前たちが勝てばポッポさんに依頼したやつの情報も教える。これでどうだ?」


「マスター? それは如何なものかと」


「黙れ、人に友好的な龍だぞ!?こんなチャンス2度もない。絶対に見逃せん」


「わかりました。そのコロッセオ受けて立ちましょう」


……ちょっと待って!?受けてたたないで!我この世界に龍の知り合いなんていませんよ?
なんなら紹介出来る知り合いなんて、イルイと玉藻ちゃんと桐壺だけだよ!?


負けられない戦いを本人の承諾無しで勝手に始めないでくれ!これこそ我に了承取るべきだろ!?
しおりを挟む

処理中です...