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本編
6. 乙女ゲーム
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――『悪役令嬢』
その耳慣れない単語に私は戸惑いました。
悪役とは物語や劇などで登場する敵役であり、令嬢とは私たちの様な貴族の娘を指すのは分かります。つまりは物語などの敵役として登場する令嬢の事なのでしょう。
しかし、何故に私がその『悪役令嬢』なのでしょうか?
彼女が知る物語に私の名前、もしくは容姿に似た『悪役令嬢』なるものが登場したのでしょうか?
その後のエリーは何やら押し黙ってしまい、私とエンゾ様で今後の方針を話し合ったのですが、既にご高齢のエンゾ様に負担をかけるわけにもいかず、また私と同世代である事を鑑みて、自然とエリーの聖女教育は私が引き受ける事になりました。
事前に得た情報から、彼女は人を思い遣る方の様ですし、会った時に感じた彼女の聖なる力はとても大きく、潜在的な力だけなら彼女は私よりも高いように思われました。
だから彼女が聖女となっていただけるのはとても心強いはずでした。
ですが彼女の口にした言葉『悪役令嬢』がどうにも私の胸に棘の様に刺さったまま残り、もやもやとした不安を抱えたまま、新しい聖女エリーとの邂逅を終えました。
そして、彼女の聖女教育が始まって、私の漠然とした不安は形となったのでした。
「この黙祷は神との繋がりを強めて……」
「あっ、そういうのはいいです」
「え!?」
私が聖女としての修練の一つをエリーと行おうとした時に拒絶する彼女の態度に私は絶句しました。
「私は『ヒロイン』だから、そんな事しなくても強くなれるんです!」
「ヒ、ヒロイン?」
この娘がいったい何を言っているのか意味が分からず、私は困惑してしまいました。
「確かに貴女の潜在能力は私よりも高そうですが、聖女としての修練を行い、功徳を積み上げねば神より恩寵を賜る事ができなくなりますよ」
「だ~か~ら~私は『乙女ゲーム』のヒロインだからそんな事しなくても神様に愛されているの!」
――『乙女ゲーム』?
彼女はまた訳の分からない単語を口にする。
「あっ、分かったわ。私を虐めようとしているのね」
「い、虐め?」
「だって、あなたは『悪役令嬢』だもんね」
彼女の話は意味不明な単語が多く、全く要領を得ないものばかりでした。何かと彼女に聖女としての心構えを説いてもみましたが、その度に『乙女ゲーム』、『ヒロイン』、そして『悪役令嬢』という言葉を口にして私が彼女を虐めていると詰るのです。
しかも聖女の修練だけに止まらず、彼女の問題は更に『聖務』にまでも及びました。
「これから『聖務』の一つである『魔獣』の討伐に向かいます。貴女はまだ経験がないでしょうから、私の務めを見学して……」
「あっ、その討伐は『イベント』にないのでパスします」
――『イベント』?
まただ。彼女はいったい何を言いたいのか?
「パスって……何を言っているの?」
「だって、それに行っても『攻略対象』との好感度が上がらないしぃ」
エリーの拒絶に私が呆気に取られている間に、彼女はさっさと私の前から姿を消した。
――『攻略対象』?
彼女の話す内容を幾ら考えても理解ができない。
それからもエリーは聖女としての修練に参加せず、『聖務』も自分がやりたいと思ったものだけを行い、私やエンゾ様の呼び掛けに応じず、いつもフラフラと何処かへ消えてしまうのです。
「困った娘ね」
エンゾ様も困惑の表情を隠せませんでした。
「彼女が口にする言葉は意味が分からず、私もどうしたらよいのか……」
「教会の修道士達もみな彼女の行動には困惑しているのよ」
深い溜息を吐くと、エンゾ様は視線を窓へと向け、釣られて私も何気なく窓の外へと視線を流しました。
「珍しく嫌な天気ね」
「雨が降らないとよいのですが……」
そこから見えた空は、いつもの晴れやかで暖かな春のものとは違い、少し昏い鬱蒼とした雲が立ち篭めていたのでした。
その耳慣れない単語に私は戸惑いました。
悪役とは物語や劇などで登場する敵役であり、令嬢とは私たちの様な貴族の娘を指すのは分かります。つまりは物語などの敵役として登場する令嬢の事なのでしょう。
しかし、何故に私がその『悪役令嬢』なのでしょうか?
彼女が知る物語に私の名前、もしくは容姿に似た『悪役令嬢』なるものが登場したのでしょうか?
その後のエリーは何やら押し黙ってしまい、私とエンゾ様で今後の方針を話し合ったのですが、既にご高齢のエンゾ様に負担をかけるわけにもいかず、また私と同世代である事を鑑みて、自然とエリーの聖女教育は私が引き受ける事になりました。
事前に得た情報から、彼女は人を思い遣る方の様ですし、会った時に感じた彼女の聖なる力はとても大きく、潜在的な力だけなら彼女は私よりも高いように思われました。
だから彼女が聖女となっていただけるのはとても心強いはずでした。
ですが彼女の口にした言葉『悪役令嬢』がどうにも私の胸に棘の様に刺さったまま残り、もやもやとした不安を抱えたまま、新しい聖女エリーとの邂逅を終えました。
そして、彼女の聖女教育が始まって、私の漠然とした不安は形となったのでした。
「この黙祷は神との繋がりを強めて……」
「あっ、そういうのはいいです」
「え!?」
私が聖女としての修練の一つをエリーと行おうとした時に拒絶する彼女の態度に私は絶句しました。
「私は『ヒロイン』だから、そんな事しなくても強くなれるんです!」
「ヒ、ヒロイン?」
この娘がいったい何を言っているのか意味が分からず、私は困惑してしまいました。
「確かに貴女の潜在能力は私よりも高そうですが、聖女としての修練を行い、功徳を積み上げねば神より恩寵を賜る事ができなくなりますよ」
「だ~か~ら~私は『乙女ゲーム』のヒロインだからそんな事しなくても神様に愛されているの!」
――『乙女ゲーム』?
彼女はまた訳の分からない単語を口にする。
「あっ、分かったわ。私を虐めようとしているのね」
「い、虐め?」
「だって、あなたは『悪役令嬢』だもんね」
彼女の話は意味不明な単語が多く、全く要領を得ないものばかりでした。何かと彼女に聖女としての心構えを説いてもみましたが、その度に『乙女ゲーム』、『ヒロイン』、そして『悪役令嬢』という言葉を口にして私が彼女を虐めていると詰るのです。
しかも聖女の修練だけに止まらず、彼女の問題は更に『聖務』にまでも及びました。
「これから『聖務』の一つである『魔獣』の討伐に向かいます。貴女はまだ経験がないでしょうから、私の務めを見学して……」
「あっ、その討伐は『イベント』にないのでパスします」
――『イベント』?
まただ。彼女はいったい何を言いたいのか?
「パスって……何を言っているの?」
「だって、それに行っても『攻略対象』との好感度が上がらないしぃ」
エリーの拒絶に私が呆気に取られている間に、彼女はさっさと私の前から姿を消した。
――『攻略対象』?
彼女の話す内容を幾ら考えても理解ができない。
それからもエリーは聖女としての修練に参加せず、『聖務』も自分がやりたいと思ったものだけを行い、私やエンゾ様の呼び掛けに応じず、いつもフラフラと何処かへ消えてしまうのです。
「困った娘ね」
エンゾ様も困惑の表情を隠せませんでした。
「彼女が口にする言葉は意味が分からず、私もどうしたらよいのか……」
「教会の修道士達もみな彼女の行動には困惑しているのよ」
深い溜息を吐くと、エンゾ様は視線を窓へと向け、釣られて私も何気なく窓の外へと視線を流しました。
「珍しく嫌な天気ね」
「雨が降らないとよいのですが……」
そこから見えた空は、いつもの晴れやかで暖かな春のものとは違い、少し昏い鬱蒼とした雲が立ち篭めていたのでした。
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