魔女の闇夜が白むとき

古芭白あきら

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第七章 新緑の少女と猿の妖魔

七の参.

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 三年前――


「ちょっと、森に入っちゃダメって言われてるでしょ!」

 翠の瞳を怒らせて翠蓮は強引に手を引く赤髪の少年に怒鳴った。

「俺様が一緒なんだから問題ねぇって」

 だが、嫌がる少女の手を握って離さない赤髪の少年に悪びれたところは無い。構わず木々が生い茂る森の奥へと進んで行く。

「大人達も敵わない妖魔あやかしがいっぱいいるんだよ――この『常夜の森』には!」

 人を喰らう恐ろしき妖魔が蔓延る常夜の森。
 森自体が意思を持って人を惑わせる魔の森。

 常人では入れば二度と出られず、屈強な武人でさえ尻込みする魔境である。

 しかし、そんな森でも自然は豊かで、結界の外縁部でも実りを享受できる。翠蓮は伏せった母の為に好物の木苺を採取しようと訪れた。

 翠蓮が一人で木苺探しをしていると、この赤髪の少年がもっと良い場所があると言って森の中へ連れ込んだのである。

「はん! 大人は臆病なだけさ。妖魔なんて俺様が一捻りしてやる」
「だったら路干ろかん一人で行けばいいじゃない!」

 翠蓮は顔を険しくして少年を睨み付けた。

 この赤髪の少年は名を路干という。彼は平民では稀有な神賜術かみのたまもの勇武之達ゆうぶのたつ』を授かり、幼い頃から威張り散らしていた。

 十五になりまちの誰よりも強くなると増長が更に激しくなった。

 今も人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべている。

「なんだ怖いのか?」
「当たり前でしょ!」
「安心しろって、俺様が守ってやるからよ」

 自信満々に拳で胸を打つ路干にはしたなくも翠蓮は舌打ちしたくなった。

 まだ十三になったばかりの翠蓮であったが、しっかり者で容姿も愛らしい姑娘むすめである。しかも、まちの有力者丹頼の孫娘であり家が裕福でもあるからまちの男達は彼女の心を射止めようと必死だった。

 路干もその一人である。

「こんな森くらい俺様なら余裕だぜ」

 だから、他の男達と差をつけるべく路干は良いところを見せようと嫌がる翠蓮を引っ張って常夜の森へとやって来たのだ。

 だが、この路干の行為は逆効果。
 翠蓮は年よりも大人びた少女だ。

 だから、自分より二つも歳上の癖に幼稚な行為で気を引こうとする路干への好感度がだだ下がりである。

 もっとも翠蓮はこの乱暴で横柄な路干が元より大嫌いだったが。

 (ガキかこいつは!)

 心の中で翠蓮は悪態をいた。

 ガサカサ――
「きゃっ!?」

 突然、茂みから茶色兎とも鼠ともつかぬ頭が飛び出してきた。

「ていっ!」

 真っ直ぐ翠蓮に襲い掛かってきたに路干は手に持つ棍を振り下ろした。
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