6 / 9
5
しおりを挟む次の日、私が出勤すると、所長は乱雑なデスクの上に両足を投げ出し、一心不乱に新聞を読んでいた。
きらめく朝日をきっちりと閉じたブラインドで遮る薄暗いオフィスは、立ち込めたタバコの煙と相まって、どんよりとしていた。
清々しいはずの朝が台無しだ。
いや、まあそもそも所長自体が清々しさとは程遠いのだから仕方ないのかもしれない。
はっきりした年齢は知らないが、白髪混じりの髪と目元の皺で判断すると60歳前後だろう。
恰幅のよい体と野太い声、顎をそらし豪快に笑う様は、フレンチ・クォーターの裏通りによくいる土産物なんかを売りつける陽気なおっさんに見えるが、薄いブルーの瞳だけは常に抜け目なく光っていて、実のところ全く油断のならない男なのだ。
所長がもし土産物屋なら、観光客にゴミ同然のガラクタをとんでもない高値で売りつけるに違いない。
私は所長の背後に周り、窓のブラインドを開けた。
差し込む眩い朝日が所長の背中に当たるのを見て、ふと灰になって消えてくれないかなーと淡い期待をしたけども、残念ながら何も起こらなかった。
私が所長のデスクの上、うずたかく積まれた週刊誌と投げ出された足のわずかなスペースにかなり薄め&ぬるめのコーヒーを置くと、所長はようやく顔をあげてこちらを向いた。
「おはよう、リアナ。昨日は一日オフィスを空けてすまなかった。
新しい依頼はどうなった?
進捗状況を報告してくれ」
私は昨日の日報を手に取った。
「昨日は三件の依頼と一件の苦情がありました。
依頼のうちの二件はアダムさんで、ひとつはすでに片付いていますが、もうひとつは今現在も遂行中です」
「ひとりの依頼人からふたつの依頼?内容は?」
所長は自分の足の真横にあるかなり薄め&ぬるめのコーヒーに手を伸ばし、一口啜るなり顔をしかめた。
私はざまあみろと内心舌を出したが、事務的な口調で続けた。
「ひとつ目の依頼は子供さんへのクリスマスプレゼント購入の代理です。
ターボ戦隊クラッシャーズの隊長アイスマンのフィギュアをご所望でした。
今朝5時からローランさんが整理券をもらうためにデパートに並びに行ってるはずです。
なにせ子供達に大人気のアイスマンですから。
アイスマンの背中を押すと『食らえ、クラッシュボンバー』と…」
「もういい。で、ふたつめの依頼は?」
所長はため息をつきながら首を振ると、気を取りなおしたのかタバコに火をつける。
盛大に煙を吐きだし、満足そうに椅子にふんぞり返った。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる