5 / 12
社会人──思いがけない再会
しおりを挟む
※ ※ ※ ※ ※
(え、どうして……)
いりやは目の前の光景に硬直し、反応が出来なかった。
何で、どうして──そんな事ばかり脳内に湧き上がる。
けれどもそれ以上に、心の中ではいりや一人でサンバを踊っていた。
現在は就職初日の顔合わせである。
いりやは猛勉強のすえ『税務職員採用試験』に合格し、税務署職員に採用されたのだ。
就職を機に独り立ちをするという思惑で、親から反対される要因を一つでも排除したかったいりやである。そこで公務員であれば収入も安定するし、休日も確保される筈との理由で選んだ職だ。
そうして配属された管理運営部門──なのだが、何故か『彼』がいる。
意識と視線が彼に全集中してしまいそうないりやだが、いざというときの為に現状把握はしておかなくてはならない──と、脳内で冷静な自分が叫んでいた。
そうして確認した部署内は十五人程で、更にその中で担当ごとに数名のチームになっているようだ。
部署のトップは、バリバリのキャリア・ウーマンといった様子のスーツを着た女性。
しかしながら服装は基本的に自由となっている為、社会人として逸脱した格好でなければ良い。身に付ける装飾品もそれに準ずるので、普通に自由度が高かった。
「はい、今年のうちの部の新入社員はこの二人です。皆さん、仲良くお願いしますね」
「楓一輝です。宜しくお願いします」
「か、樫山いりや、です。宜しくお願い、します」
ただでさえ知らない大人達に囲まれてどぎまぎしているのに、さらに意味不明ながら隣に彼がいるのだ。
脳内が『何故』のオンパレードである。
そう、ずっと見てきた彼──楓一輝が同期入社の存在となった、らしいのだ。
高校時代のアルバイト先でいりやが耳にした情報では、頭脳明晰故に結構な有名大学への推薦が出ているとか。水泳界の推薦があり、スポーツ選手として大学に籍を置きながらプロの世界に進出するとか。
様々な人々の口にあがる一輝の話題に、とにもかくにも普通に就職などの選択肢はみえなかった筈である。
つまりはもう目にする事が出来なくなると、卒業後のアルバイト最終日にいりやは泣いた。
その頃もう一輝はスイミングに通っていなかったようで、一週間程見かける事はなかったのである。
いりやにしてみれば、それだけで人生の楽しみが半分以上失くなってしまった気分だった。
「初めは二人一緒に教育を受けて頂きます。その後はそれぞれの教育担当を付けて、実務補佐にあたって頂きますので。本日は私、久保雅美が受け持たせて頂きますので、宜しくお願いします」
「「宜しくお願いします」」
そんな風に始まる。
業務の流れなどを手短に教えてくれるが、いりやは隣に座っている彼──一輝が気になって仕方がない。
当然ながらあからさまな視線を向ける事は出来ないので、端から見た様子は真剣に研修を受けている感じだった。
内心での小躍りを、無表情デフォのいりやからは誰も察する事が出来ないようである。
(え、どうして……)
いりやは目の前の光景に硬直し、反応が出来なかった。
何で、どうして──そんな事ばかり脳内に湧き上がる。
けれどもそれ以上に、心の中ではいりや一人でサンバを踊っていた。
現在は就職初日の顔合わせである。
いりやは猛勉強のすえ『税務職員採用試験』に合格し、税務署職員に採用されたのだ。
就職を機に独り立ちをするという思惑で、親から反対される要因を一つでも排除したかったいりやである。そこで公務員であれば収入も安定するし、休日も確保される筈との理由で選んだ職だ。
そうして配属された管理運営部門──なのだが、何故か『彼』がいる。
意識と視線が彼に全集中してしまいそうないりやだが、いざというときの為に現状把握はしておかなくてはならない──と、脳内で冷静な自分が叫んでいた。
そうして確認した部署内は十五人程で、更にその中で担当ごとに数名のチームになっているようだ。
部署のトップは、バリバリのキャリア・ウーマンといった様子のスーツを着た女性。
しかしながら服装は基本的に自由となっている為、社会人として逸脱した格好でなければ良い。身に付ける装飾品もそれに準ずるので、普通に自由度が高かった。
「はい、今年のうちの部の新入社員はこの二人です。皆さん、仲良くお願いしますね」
「楓一輝です。宜しくお願いします」
「か、樫山いりや、です。宜しくお願い、します」
ただでさえ知らない大人達に囲まれてどぎまぎしているのに、さらに意味不明ながら隣に彼がいるのだ。
脳内が『何故』のオンパレードである。
そう、ずっと見てきた彼──楓一輝が同期入社の存在となった、らしいのだ。
高校時代のアルバイト先でいりやが耳にした情報では、頭脳明晰故に結構な有名大学への推薦が出ているとか。水泳界の推薦があり、スポーツ選手として大学に籍を置きながらプロの世界に進出するとか。
様々な人々の口にあがる一輝の話題に、とにもかくにも普通に就職などの選択肢はみえなかった筈である。
つまりはもう目にする事が出来なくなると、卒業後のアルバイト最終日にいりやは泣いた。
その頃もう一輝はスイミングに通っていなかったようで、一週間程見かける事はなかったのである。
いりやにしてみれば、それだけで人生の楽しみが半分以上失くなってしまった気分だった。
「初めは二人一緒に教育を受けて頂きます。その後はそれぞれの教育担当を付けて、実務補佐にあたって頂きますので。本日は私、久保雅美が受け持たせて頂きますので、宜しくお願いします」
「「宜しくお願いします」」
そんな風に始まる。
業務の流れなどを手短に教えてくれるが、いりやは隣に座っている彼──一輝が気になって仕方がない。
当然ながらあからさまな視線を向ける事は出来ないので、端から見た様子は真剣に研修を受けている感じだった。
内心での小躍りを、無表情デフォのいりやからは誰も察する事が出来ないようである。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる