こころの中の貴方

まひる

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社会人──思いがけない再会

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(え、どうして……)

 いりやは目の前の光景に硬直し、反応が出来なかった。
 何で、どうして──そんな事ばかり脳内に湧き上がる。
 けれどもそれ以上に、心の中ではいりや一人でサンバを踊っていた。

 現在は就職初日の顔合わせである。
 いりやは猛勉強のすえ『税務職員採用試験』に合格し、税務署職員に採用されたのだ。
 就職を機に独り立ちをするという思惑で、親から反対される要因を一つでも排除したかったいりやである。そこで公務員であれば収入も安定するし、休日も確保される筈との理由で選んだ職だ。

 そうして配属された管理運営部門──なのだが、何故か『彼』がいる。
 意識と視線が彼に全集中してしまいそうないりやだが、いざというときの為に現状把握はしておかなくてはならない──と、脳内で冷静な自分が叫んでいた。

 そうして確認した部署内は十五人程で、更にその中で担当ごとに数名のチームになっているようだ。
 部署のトップは、バリバリのキャリア・ウーマンといった様子のスーツを着た女性。
 しかしながら服装は基本的に自由となっている為、社会人として逸脱した格好でなければ良い。身に付ける装飾品もそれに準ずるので、普通に自由度が高かった。

「はい、今年のうちの部の新入社員はこの二人です。皆さん、仲良くお願いしますね」
かえで一輝かずきです。宜しくお願いします」
「か、樫山かしやまいりや、です。宜しくお願い、します」

 ただでさえ知らない大人達に囲まれてどぎまぎしているのに、さらに意味不明ながら隣に彼がいるのだ。
 脳内が『何故』のオンパレードである。
 そう、ずっと見てきた彼──楓一輝が同期入社の存在となった、らしいのだ。

 高校時代のアルバイト先でいりやが耳にした情報では、頭脳明晰ゆえに結構な有名大学への推薦が出ているとか。水泳界の推薦があり、スポーツ選手として大学に籍を置きながらプロの世界に進出するとか。
 様々な人々の口にあがる一輝の話題に、とにもかくにも普通に就職などの選択肢はみえなかった筈である。

 つまりはもう目にする事が出来なくなると、卒業後のアルバイト最終日にいりやは泣いた。
 その頃もう一輝はスイミングに通っていなかったようで、一週間程見かける事はなかったのである。
 いりやにしてみれば、それだけで人生の楽しみが半分以上失くなってしまった気分だった。

「初めは二人一緒に教育を受けて頂きます。その後はそれぞれの教育担当を付けて、実務補佐にあたって頂きますので。本日は私、久保くぼ雅美まさみが受け持たせて頂きますので、宜しくお願いします」
「「宜しくお願いします」」

 そんな風に始まる。
 業務の流れなどを手短に教えてくれるが、いりやは隣に座っている彼──一輝が気になって仕方がない。
 当然ながらあからさまな視線を向ける事は出来ないので、はたから見た様子は真剣に研修を受けている感じだった。
 内心での小躍りを、無表情デフォのいりやからは誰も察する事が出来ないようである。
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