こころの中の貴方

まひる

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社会人──コミュニケーションとは

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  ※  ※  ※  ※  ※

(はあ……疲れた)

 休憩室の椅子に深く腰掛け、いりやは俯く。
 気分的にはテーブルに突っ伏してしまいたい程の疲労感にさいなまれているのだが、新入社員という立場上さすがに体裁ていさいが悪い。

「大丈夫?樫山さん」
(ぅえっ?!)
「は、はい……」

 いりやの心の中でおかしな悲鳴があがる。
 だが無表情がデフォルト装備になって長い為、突然の一輝からの声掛けにもわずかな戸惑い程度しか外面に出なかった。

 午前中の中休みである現在は、休憩室にてコーヒータイムである。
 教育係の久保は別件で呼び出された為、彼女が戻ってくるまで継続的に待機なのだ。

「しっかし……なかなかに、みっちり覚える事があるよね。さすがの俺も、これは一度には覚えられないや」
「そう、ですね」
「やだなぁ、敬語は外そうよ。俺等、同い年じゃん」
「はい、いえ……うん」
「ククッ、警戒心バリバリのにゃんこみたいだな」
「にゃん、こ……」
「うん。小さいし、何なら子猫?」
「こね、こ……」

 何故か四人掛けテーブルの隣へ、普通に一輝が腰掛けている現実に緊張しているいりや。
 それに見つめてきた対象である一輝が隣にいるという事実に、コミュ障なのにさらにこじれたストーカー気質が目の前に大きく分厚い壁を作っている。

 一輝がいりやにフレンドリーに話し掛けるも、いりやの内心は薄氷の上にいるような緊張感があった。下手に気を許せば即落下する、サーカスの綱渡りピエロの気分である。
 見ているだけで幸せだったいりやは、直接的コミュニケーションを想定していなかった。
 相手がどう対処してくるか想像もつかず、学生時代も空気が読めないこともあって対人関係は紙より薄いペラペラのコミュ障である。

(はあ~、隣に座っている~。凄くない?え、なんで?くんか、くんか……はあはあ……、一輝さんの匂いがするような気がする~。同じ空気を吸ってる~。やばやば、私の変態が出ちゃう~)

 言ってしまえば、相手の言葉をおうむ返しする程度の幼稚な対応しか出来ない。
 だが内心は、とても他者にオープンに出来ないようなフィーバー中のいりやだった。

 対する一輝は、全くいりやの事を記憶していないようだ。
 六年程同じスイミングスクールに通っていた事も、なんなら密かに凝視されていた事すら気付いていないようである。
 いりやが知る範囲では一輝は人気者であったので、見られる事に慣れていて気にならないのかもしれない。

 相手が不快に思っていないのであれば、犯罪行為にはあたいしない。ただ遠くから見ていただけなのだから。
 いりやはそれ以上の行為──つきまといなどの直接的な接触行為は出来なかった。実際には単に、コミュ障ゆえなのだが。
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