「結婚しよう」

まひる

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第四章

6.知りたい【5】

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「綺麗……」

 改めてヴォルに着けてもらった既婚の証の腕輪へ視線を落としました。
 細い銀色の腕輪で、勿論ヴォルとお揃いです。表面には物凄い細やかな細工がなされていました。
 文字のようにも見えますが、普段使う言葉ではないようで読めません。

「俺も……こういう装飾品は初めてだから、何と言って良いのか分からないが」

 私を後ろから抱き締めるように包み込むヴォルは、何かを思慮するかのように一旦口を閉じます。

「メルが着けていると綺麗だ。俺は男で良かったと、心から思う。メルと一つになる事が出来て……良かった」

 そして首筋に顔を埋められて続けて呟かれた言葉は、私を真っ赤にさせるのに十分な破壊力がありました。──こんな明るい時間に何を言ってくれているのでしょうか。
 いえ、昨日までの私なら分からなかったのですけどね。
 そうなのです。私はヴォルと……っ。

「真っ赤だな。……マトトみたいだ」

 ヴォルに指先で頬を撫でられました。
 『マトト』というのは赤い丸い野菜でして、生は勿論煮ても焼いても食べられる万能野菜です。──いえ、今は赤面する私への例えなのですけれど。

「マトトは苦手だが……、こっちは食べたいな」

「ひゃっ!?」

 首筋を舐められ、変な声が出てしまいました。──ヴォルにはもう少し時間帯をわきまえてほしいですね。
 とっても貴重な情報が開示されたのに、今の刺激で何処かに飛んでいってしまいましたよ。

「ヴォ、ルっ?!」

 焦りまくりの私に、ククッと笑うヴォル。どうやら、わざと意地悪をされているようです。

「も……、もぅ……」

 怒っていると体現する為に、顔を背けてみます。
 そっぽを向いても、後ろから抱き締められているのでさして変わらずなのですが。わずかながらの抵抗と言いますか、意思表示ですよ。

「愛している、メル」

 ところが私の態度にも関わらず甘い声で囁かれ、ヴォルに耳の後ろに口付けをされます。途端にゾクリとした痺れが背筋を走りました。もぅ──敵わないですよ。

「メルの気持ちを知りたい」

 その甘い雰囲気のヴォルは、そのまま私に問い掛けます。
 な……っ?!ま、まさかヴォルからそんな事を聞かれるとは思わなかったです。

「メル……」

 混乱中の私に、更なるヴォルの声が鼓膜を震わせました。
 それも艶っぽい声で返答を急かされます。

「す……、好き……です」

「……それだけ?」

 必死に──つっかえながらですが、答えました。
 でも、『それだけ』って何ですか。これでも精一杯ですっ。

「俺の求める想いとメルの想いは少し温度差があるようだな。……いや、俺が焦りすぎなのか。独りよがりもダメだろ」

 ヴォルは急に身体を離し、陰りのある瞳を向けました。後半は呟くような感じだったので、独り言なのでしょうか。
 ──え……っと、温度差?そこだけは聞こえましたけど……。
 私には彼の言葉の意味を理解出来ません。でも、不快に思われたのだと感じました。

「あ、あの……」

「いや、良い。今日はこれからどうするのだ」

 雰囲気の変わったヴォルに戸惑いましたが、謝罪しようとした私の言葉を遮られます。そしてヴォルの問いに、ガルシアさんに本を貸してもらった事を思い出しました。
 でも先程までの甘い雰囲気が綺麗さっぱりなくなってしまったのは、私の間違った対応の結果ですよね?

「あの、ガルシアさんに本を貸してもらったので……。部屋に帰ってから読もうかと思っています」

「そうか。俺はこのまま研究室に籠りきりになる。少し実験が立て込んでいるのだ」

 空気が変わったのを良いタイミングとして、お邪魔にならないようにと私は退室する意思を示します。このまま居座ったとしても、また対応を間違ってヴォルを不快にさせてしまうかもしれないと怖くなったのでした。

 部屋の出口で見送ってくれたヴォルは、触れるか触れないか程度で頬に手を伸ばされます。
 その時見えた青緑の瞳は、何故か沈んだ色をしていました。

「また夕食の時に、な」

「はい」

 私の返答を聞くと、ヴォルはゆっくり研究室の扉を閉めます。でも、私はしばらくその場から動けませんでした。
 何とか頭を下げてお辞儀をしましたが、私は失敗してしまったのです。それが何か分からないまま、私の心の奥に引っ掛かったままでした。
 ──もっと上手く対応をする事が出来たら。もしあの時にこう言っていれば……。
 『たら』『れば』なんて考えたところで、後の祭りですよね。
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