「結婚しよう」

まひる

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第四章

9.限界だ【3】

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 ヴォルの指が私の顎に掛けられました。俯きそうになる顔を固定され、上を向かされます。
 ゆっくりと近付いてくるヴォルの整った顔。
 私はそれを少し離れたところから、実況中継している私の声を聞いていました。

「……ん……っ」

 柔らかい唇が重なり、優しく幾度となく触れてきます。──心が震える感覚でした。
 背筋をゾクゾクした電気が走り、何だか身体の中心が熱くなってきます。

「……あ……ふっ……」

 キスをしながらも、ヴォルの手が私の身体を撫でていきます。
 触れられるたびに、それとは違った疼きが身体を走るのです。
 私は自分が怖くなってきてしまいました。

「あ……ん……っ。も……、おかしく……なる……っ」

「俺は既におかしくなっているのだがな」

 フッと息をこぼしたヴォルは、立つのもままならなくなった私を抱き上げて寝室へ向かいます。換気の為にカーテンと窓が開け放ってありましたが、ヴォルは迷いなくカーテンを閉めます。
 まだ明るい時間なのに、カーテンを閉じた部屋は薄暗いベールをかけたようでした。

 部屋が──ではなく、私の思考そのものが正常ではありません。
 もう、壊れてしまったのでしょうか。それでも──、幸せを感じている私なのでした。



 壊しそうになる──壊したくなる。
 俺の欲求を全てぶつけたら、メルを傷付けてしまうだろう。触れるだけでこんなにも身体の芯からたけるのだから。

 もう限界だった。メルが足りなくて──、おかしくなりそうだった。
 だが実際にメルを前にして気付いた。どうやら俺はその前からおかしくなっていたようだ。
 恐らく、メルへの感情に気付いてから。

 触れるたびにピンクに色付く白い肌は、しっとりとして指に吸い付くようだ。薄く開いた唇からは止めどなく甘い声がこぼれてくる。

 煩い程の側室の話も全て必要のないものだ。
 メル以外の女へは、こんなにも引かれるものを感じた事はない。ただ性別が違うだけの同種族──そんな観点でしか見た事もなかった。

 ベンダーツにはめられた気もするが、あの頃の俺はメルに必要以上近付けなかった為に都合が良かった。
 自分の欲求をぶつけそうになるからだが、それは今もたいして変わらないかもしれない。いや、触れられなかった事で増大したのかもしれなかった。
 この小さな──少女とも言える彼女に己のくいを打ち込むなどとは、酷く嗜虐しぎゃく的な、背徳的な事のようにも思える。

 ゾクゾクする程の快感が身体を走る。もう放しはしない。──放せはしないだろ。
 メルも俺を求めてくれているようだ。まぁ、俺の欲求とは違うかもしれないが──構いはしないだろ。

 メルシャは俺のものだ。
 誰にも触れさせはしない。
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