「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
305 / 515
第七章

1.鎮まるまで待つか【2】

しおりを挟む
「どうしてもか?」

 首をかしげたままでいる私に、再度ヴォルが問い掛けます。
 『外を見たいのか』という確認でしょうが、そんなに念を押されると──困ってしまいました。逆に言えば、そうまでして二人が見せたくないと思っている訳でして。

「まぁ……平和育ちのメルシャ様には少々刺激がキツいかも知れませんが、世の中の敵は魔物だけではありませんからね。宜しいのではありませんか?」

「……仕方ない」

 ベンダーツさんが肩をすくめ、ヴォルが小さく溜め息をきます。
 な、何でしょう。二人が視線を合わせ、変な意気投合をしてしまっている感じがしますけど。しかも、どう考えても良い感じのしない雰囲気でした。
 それでも見る事をやめるとは言えない私です。これは怖いもの見たさというのでしょうか。

「Eizou wo Miseyo.」

 ヴォルの声が響きました。魔力を乗せた音です。
 そしてすぐに魔法の効果が起こりました。

「っ?!」

 私は息を呑みます。
 まず始めに壁一面が光り、そこに映し出されたのは町長さんの屋敷の壁でした。次に、玄関の扉──があった筈の場所。けれども既に扉はなく、知らない男の人達がいました。
 五人くらい?しかも、手には棍棒や包丁を持って屋敷内に入ってきます。

「な……っ」

 違和感を感じて反対側に視線を移した私は、そこで信じがたい光景を目にしてしまいました。
 映像は部屋一面の壁に映し出されていたのですが、玄関と逆に窓ガラス──透明ガラス自体高価なのでお金持ちのお屋敷にしかないのです──を粉々に打ち破って侵入して来ている町民を見てしまったのです。
 それ等の数え切れない方々も、同じように手には斧やくわなた等を持っていました。

 ──えっと、これ……何の暴動ですか?

「これくらいで良いでしょう。分かりましたか、メルシャ様?」

 ベンダーツさんの言葉と共に、映像が一瞬の内に途切れます。でも私には彼の言葉に応じるだけの心の余裕がありませんでした。
 自然と身体はカタカタと小刻みに震え、本能的にでしょうか──ヴォルの服にしがみついていたのです。
 私の頭の中は凄く混乱していて、映像で観た武器を振り上げる人々がこびりついていました。直接ではないにしろ、自分に向けられる凶器です。怖くない筈がありませんでした。

「メル」

 耳元でヴォルの声がします。
 ゆっくりと彼に視線を向けると、ボヤボヤと顔がゆがんで見えました。──あ……れ……?私、泣いてます?
 気付かないうちに瞳一杯の涙を溜めている私です。

「当たり前ですが、あちらからは結界の中は見えないようですね。それでもあれは私達がここにいる事を分かっての行動なのです」

「ど……して……っ」

 震えて言葉に出来ませんが、言いたい事はベンダーツさんが読み取ってくれました。

「何者かがあらぬ事を吹き込んだのでしょうね。私たちに対する明らかな憎悪が感じられましたから。どうされますか、ヴォルティ様」

「……首謀者を捜す」

「そうですね。しかしながらそれなりの力を持つ者でしょうから、これもまた面倒な事になりそうですね」

 冷静な対応の二人の会話です。
 ヴォルとベンダーツさんが黒幕についての推理を話始めました。──も、もしかして。

「町長……さん?」

「いいえ」

 私がポツリと思いのままに呟いた言葉は、即座にベンダーツさんに却下されます。
 うわ──、即否定されました。とはいえ、私も確証があって口にした訳ではないですけど。

「彼は違います。ただの小心者でしょう。現にヴォルティ様とメルシャ様の待遇は変わらなかったようですし。そのくせ私を己の屋敷地下に監禁とか、支離滅裂すぎです」

 ベンダーツさんは静かに町長さんを論じます。
 ですが言葉の端々に刺を感じました。
 ──あぁ、根に持っていますね。当たり前でしょうけど。
 やはりあの時見たベンダーツさんの傷は本物だったようです。既に癒えているのでしょうが、痛みの記憶を簡単に忘れるなんて有り得ませんでした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

処理中です...