446 / 515
第九章
≪Ⅸ≫溶け合って【1】
しおりを挟む「けどまぁ……魔力所持者が関係者でないとはいえ、魔力所持者の乗客も絶対にいなくはないんだから迷惑かもしれないよなぁ。それでも高価な魔封石を使う理由があって、本当はこの船の乗っ取りを防ぐ為であるんだ」
淡々と説明をするベンダーツさんでした。
でもいったい誰が、大陸間の大型客船を乗っとると言うのでしょうか。けれど、もしそんな事をしたら移動方法に困ると思います。
こんな大きな船でも五日掛かる程離れてい大陸間なのですから、他に手段があれば実行に移されている筈でした。
「それ程、この移動船は重要っていう事だね。けれども狙い目ではあるんだけど、この船を奪う際は魔法が使えないからね。武力行使でセントラルの騎士に勝つような自信がないと。まぁ、実際に魔力所持者が起こした事件を元に対処された結果だけどさ」
そんな事を考えていたら、本当に船を襲った魔力所持者さんがいたようです。
魔法を使われてしまえば、普通の騎士では対処が難しいと思いました。
「騎士はそれ程強くない」
「そりゃ勿論、ヴォルに勝てる人間は稀だろうね。けどあれでも普通の人間相手では不釣り合いな程、強靭な肉体を持っているんだぜ?」
「お前が言うのもな。そもそも、騎士に一目おかれていたのは出自が原因ではないだろ。文官だなんて、お前の剣の腕を知っている奴からしたら歯がみして悔しがる」
確かにベンダーツさんは書類相手の職業です。そして御実家は子爵位から伯爵位に昇格した貴族ですが、騎士の方々も貴族の御子息が大半なのでした。
貴族の御子息は基本的に頭脳派を謳っているので、ベンダーツさんのように剣の腕が立つ訳ではないようです。しかもあの戦闘力ですから、普段から身体を鍛えている騎士さんからは尊敬の眼差しを向けられるようでした。
「そうかなぁ?あ、俺はこれを片付けて来るよ。さすがに魔封石の部屋では、今まで通りに魔法で片付けられないからね」
さらりと流したようでしたが、ベンダーツさんの耳が赤くなっている事に私は気付きます。
けれども早口気味にそれだけ告げたベンダーツさんは、ヒラヒラと手を振りながら、逃げるように食器を一纏めに抱えて退室してしまいました。
ベンダーツさんの照れた姿は珍しいです。でも彼はヴォルが幼い頃から仕えている訳で、言葉を交わさずとも意思の疎通が出来たりする仲でした。
「あの……マークさんは、ずっとヴォルと一緒にいるのですよね?」
「そうだ。俺が城へ入ってからになるから、メルが生まれた頃には共にいた事になる」
凄い長い付き合いです。
しかも普通の関係ではなく、ベンダーツさんは常にヴォルを気にかけていた人物でした。
──比べるものではない事は分かっていますが……、負けそうです。
「どうした、メル。……まさかアイツとの時間を比べているのか?」
私が押し黙った事で、ヴォルは察したようでした。
こういう時の私は、本当に単純なのかすぐに内心を読まれています。
「そ……です」
「……メル以上に近しい存在はないのだがな」
そう言われた途端、ベッドに抱き込まれました。
傍に立っていた私にも隙があったのですが、素早さに差がありすぎです。気付いた時にはもう横たわっているって、結構怖くないですかと問い掛けたくなりました。
「どれ程接しても足りない。いっそ溶け合ってしまいたい程に」
けれどもその疑問を口に出来る雰囲気でもなく、ヴォルからギュッと強くその腕に包まれてピタリと頬がくっつきます。
不安を体現したような彼の行動ですが、このままヴォルと私の境界がなくなってしまったらと考えて──嫌だと思い至りました。
「だ、ダメですっ」
勢い良く胸を押し返した私です。
そしてヴォルの僅かに細められた目が向けられました。
怒り──不満、でしょうか。でも私はそれに怯んではいられませんでした。
「だ……だって一つになってしまったら、ヴォルに触れられないではないですか」
ヴォルがヴォルであるように、私が私でないと触れ合えないのです。
一つになってしまったら、それって結局は一人という事でした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる