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第十章
5.戦闘開始だ【2】
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俺は可能な限りの風を圧縮し、山を切り裂ける程の巨大な刃として魔物へ叩き付ける。
ゴウッと空気が鳴くがしかし、当たる手前で魔物の咆哮によって瞬時に掻き消されてしまった。
「Daichi no kiba.」
続けて放った土元素──大地から突き出した円錐形の牙は、魔物に当たると同時に強度が足りず砕け散る。
『防御力、高すぎじゃね?』
ベンダーツの言葉は無視──答えている暇がなかった。
俺は即座に新たな魔力を集中する。
「Honoo no tama.」
次に火の元素を使い、特大の火炎球を投げ付けた。同時にベンダーツが風の弓矢を放ち、相乗効果でより大きな攻撃になる。
その大きさは魔物と同程度まで膨れ上がった。山にでも当たれば、岩を溶かす程の熱量を含んでいた筈である。──だが、ヤツは何を思ったのかそれを口で受け止めた。
否、食ったと言うべきか。
『何……、アレ』
「……食わ、れた」
ベンダーツの呟きが聞こえたが、さすがの俺も一瞬唖然としてしまっていた。
「っ、来る!」
発動したままだった魔力感知による脊髄反射で、俺は迫り来る魔力に頭で考えるよりも先に身体が防御を行う。
それでも魔物の攻撃に耐えきれず、咄嗟に何重も作り上げた結界の障壁が幾つか砕け散る音が聞こえた。
しかしながら魔物は軽く火焔を放った程度──。その証拠に、先程の位置と寸分違わない場所でこちらを見ている。──まさしく、俺は観察されていた。
この魔物がどれ程の知能を持っているかは不明だが、敵意を俺に向けてはいるものの闇雲に突っ込んでは来ないのがその証拠である。
かといって決して臆している訳でもなく、空中に留まって攻撃魔法を繰り出す俺に静かな視線を向けていた。
そもそも相手には四元素魔力が効かないし、攻撃力と防御力は半端ない。対して、俺は魔力値が高いだけの人間──。
──そうか。
「俺は人間だったんだな」
思わず口に出た思いに、ベンダーツが呆れたように応える。
『はあ?何言ってんのヴォル、当たり前じゃん。規格外の魔物を相手にして、何処か壊れちゃった?』
相変わらずの口の悪さだ。
しかも若干苛立ちが込められているのを感じる。──だが言っている事はまんざら外れていなかった。
俺はこの魔物と対峙して、初めて人間である事を自覚した感がある。
「……強いな、この魔物」
『それでもやんなきゃ、でしょう』
はっきりとベンダーツに告げられた。
こういう時のコイツは強い。『ヤられる前にヤれ』を地で行くのだ。しかも物理的にではなく、精神的に追い詰める事を得意としている。──王城では様々な場面で役立った。
「あぁ」
苦笑いが浮かぶ自分に嫌気がさす。
──気持ちで負けてどうするというのだ。
『魔法攻撃はいまいち効果がないようだから、ここは正統派で物理攻撃っしょ』
「……分かった。マークはそのまま風魔法の矢を放て。それは魔法攻撃と物理攻撃の両方の特性をもつ。石が砕けても構わない。俺は……、ヤツとの近接戦に入る」
俺も覚悟を決めなくては。
危険は元より承知──しかもあの高温の身体を持つ魔物だ。近付くだけでもダメージを受けそうである。現在の距離感でも熱風を感じる程なのだ。
竜は依然として火山の頂上にいる。山頂部が砕けた山は、時折痙攣するように熔岩を吐き出していた。
とてもではないが、魔力を持たないベンダーツが近付ける場所ではない。──山頂まで辿り着く事すら出来ないと思われた。
そしてベンダーツに渡してある魔力を込めた宝石は、限界値を越えると砂のように砕けてしまう。そうなれば例え近付けたとしても、アレへの攻撃方法がなくなるのだ。
そもそも普通の剣では、魔物の熱で鈍ってしまう為に使えない。
ゴウッと空気が鳴くがしかし、当たる手前で魔物の咆哮によって瞬時に掻き消されてしまった。
「Daichi no kiba.」
続けて放った土元素──大地から突き出した円錐形の牙は、魔物に当たると同時に強度が足りず砕け散る。
『防御力、高すぎじゃね?』
ベンダーツの言葉は無視──答えている暇がなかった。
俺は即座に新たな魔力を集中する。
「Honoo no tama.」
次に火の元素を使い、特大の火炎球を投げ付けた。同時にベンダーツが風の弓矢を放ち、相乗効果でより大きな攻撃になる。
その大きさは魔物と同程度まで膨れ上がった。山にでも当たれば、岩を溶かす程の熱量を含んでいた筈である。──だが、ヤツは何を思ったのかそれを口で受け止めた。
否、食ったと言うべきか。
『何……、アレ』
「……食わ、れた」
ベンダーツの呟きが聞こえたが、さすがの俺も一瞬唖然としてしまっていた。
「っ、来る!」
発動したままだった魔力感知による脊髄反射で、俺は迫り来る魔力に頭で考えるよりも先に身体が防御を行う。
それでも魔物の攻撃に耐えきれず、咄嗟に何重も作り上げた結界の障壁が幾つか砕け散る音が聞こえた。
しかしながら魔物は軽く火焔を放った程度──。その証拠に、先程の位置と寸分違わない場所でこちらを見ている。──まさしく、俺は観察されていた。
この魔物がどれ程の知能を持っているかは不明だが、敵意を俺に向けてはいるものの闇雲に突っ込んでは来ないのがその証拠である。
かといって決して臆している訳でもなく、空中に留まって攻撃魔法を繰り出す俺に静かな視線を向けていた。
そもそも相手には四元素魔力が効かないし、攻撃力と防御力は半端ない。対して、俺は魔力値が高いだけの人間──。
──そうか。
「俺は人間だったんだな」
思わず口に出た思いに、ベンダーツが呆れたように応える。
『はあ?何言ってんのヴォル、当たり前じゃん。規格外の魔物を相手にして、何処か壊れちゃった?』
相変わらずの口の悪さだ。
しかも若干苛立ちが込められているのを感じる。──だが言っている事はまんざら外れていなかった。
俺はこの魔物と対峙して、初めて人間である事を自覚した感がある。
「……強いな、この魔物」
『それでもやんなきゃ、でしょう』
はっきりとベンダーツに告げられた。
こういう時のコイツは強い。『ヤられる前にヤれ』を地で行くのだ。しかも物理的にではなく、精神的に追い詰める事を得意としている。──王城では様々な場面で役立った。
「あぁ」
苦笑いが浮かぶ自分に嫌気がさす。
──気持ちで負けてどうするというのだ。
『魔法攻撃はいまいち効果がないようだから、ここは正統派で物理攻撃っしょ』
「……分かった。マークはそのまま風魔法の矢を放て。それは魔法攻撃と物理攻撃の両方の特性をもつ。石が砕けても構わない。俺は……、ヤツとの近接戦に入る」
俺も覚悟を決めなくては。
危険は元より承知──しかもあの高温の身体を持つ魔物だ。近付くだけでもダメージを受けそうである。現在の距離感でも熱風を感じる程なのだ。
竜は依然として火山の頂上にいる。山頂部が砕けた山は、時折痙攣するように熔岩を吐き出していた。
とてもではないが、魔力を持たないベンダーツが近付ける場所ではない。──山頂まで辿り着く事すら出来ないと思われた。
そしてベンダーツに渡してある魔力を込めた宝石は、限界値を越えると砂のように砕けてしまう。そうなれば例え近付けたとしても、アレへの攻撃方法がなくなるのだ。
そもそも普通の剣では、魔物の熱で鈍ってしまう為に使えない。
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