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第十章
6.逃げろっ【2】
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空中にいた俺は大した防御も出来ず、とにかく両腕で顔を覆っていた。これに防御の意味がある訳ではないが、あくまでも本能的なものである。
そして俺は──生きては、いた。
詰めていた息を吐き出すが、全身が溶けそうな程に熱い。
やはりこの魔物は強かった。完全に結界を壊されたのである。十枚もの障壁を、たったの一撃でだ。
俺は腕を下ろしながら、自身の身体を確認する。結界に守られたからか、これでも軽い火傷程度で済んでいた。
だが、魔力が残り僅かだ。更には目眩がする為、空中浮遊を継続出来ない。
俺は落ちるのと大差ない速度で降り、到着する寸前に一瞬だけ落下を止めてから大地へ足をつけた。
そしてふらつく足取りで再び見上げたが、竜の方は火山を覗き込んだまま動かない。
距離があった為に確証は持てないが──アレは本当に卵だったのだろうかと疑問に思った。
ベンダーツは無事だろうか。
メル……。
とりとめもなく溢れる思考。
そして立っていられない程の疲労に、俺は崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
肩で息をしながら、身に付けていた宝石の一つを取り出す。
まさか、ここまで苦戦するとは思っていなかった。
──何だ、あの魔物は。規格外だろ。
この辺り一帯に漂う魔力が、あの魔物から発せられているのだとしたら。
俺は魔力の坩堝を探してはいるが、そもそも形すら不明なのだ。あの火山かもしれないし、もしかしたらあの魔物かもしれない。
しかしながら考えるだけ無駄だった。それに、愚痴が出るならまだやれる。
俺は自分の思考に苦笑を浮かべ、そして宝石を噛み砕いた。
ちなみにこの行為は食べる為ではない。これは俺自身の魔力を込めた物であり、それを砕く事で内部に蓄積された魔力を再度己の力として吸収するのだ。
暫く休めば、魔力欠乏によるこの目眩も治まる。だが問題は、魔力が回復しても打つ手があまりないという事だ。それほどに竜は強すぎる。
魔物へ視線を向けるが、いつの間に降り立ったのか──しかし、火山内部を覗き込んだまま動きがなかった。茫然としているようにも見えなくないが、魔物の感情の機微は分からない。
そもそも、そこまで感情を持つ魔物に出会った事がなかった。
しかしながら──余裕だな、全く。
俺の魔力が回復つつある事くらい感付いているだろう。人間の俺ですら、あの竜が火山に降り立ってから回復していっている事に気付いているのだ。
──さて、いつまでも休んではいられないな。
完全回復されれば、また同じ事を繰り返さなくてはならない。だがこの規格外な魔物とは、当然ながらそう何度も戦いたくはないのだ。
俺は軽く頭を振るって、僅かに残る目眩を誤魔化す。立ち上がりながら確認した天の剣は、魔法で包んでいた為か刃毀れ一つしていなかった。
──まだやれる。
暗示のように自分に言い聞かせる。
実際、魔力を強制的に回復させたとは言え、俺は端から見たら満身創痍だった。それでも今は休んでいる暇もなく、況しては回復などを行う余裕もない。
やるしかなかった。今この場から脱する事が出来たとしても、あの魔物の存在はあきらかな脅威である。
俺は弱気になりそうな己を叱咤しつつ、風の魔力を全身に纏った。そして天の剣に冷気を宿す。
不本意ながら、暫く休ませた為に竜の鱗が修復されてきているのだ。
本当に──あの強さで自己修復とか、規格外にも程がある。
そして俺は──生きては、いた。
詰めていた息を吐き出すが、全身が溶けそうな程に熱い。
やはりこの魔物は強かった。完全に結界を壊されたのである。十枚もの障壁を、たったの一撃でだ。
俺は腕を下ろしながら、自身の身体を確認する。結界に守られたからか、これでも軽い火傷程度で済んでいた。
だが、魔力が残り僅かだ。更には目眩がする為、空中浮遊を継続出来ない。
俺は落ちるのと大差ない速度で降り、到着する寸前に一瞬だけ落下を止めてから大地へ足をつけた。
そしてふらつく足取りで再び見上げたが、竜の方は火山を覗き込んだまま動かない。
距離があった為に確証は持てないが──アレは本当に卵だったのだろうかと疑問に思った。
ベンダーツは無事だろうか。
メル……。
とりとめもなく溢れる思考。
そして立っていられない程の疲労に、俺は崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
肩で息をしながら、身に付けていた宝石の一つを取り出す。
まさか、ここまで苦戦するとは思っていなかった。
──何だ、あの魔物は。規格外だろ。
この辺り一帯に漂う魔力が、あの魔物から発せられているのだとしたら。
俺は魔力の坩堝を探してはいるが、そもそも形すら不明なのだ。あの火山かもしれないし、もしかしたらあの魔物かもしれない。
しかしながら考えるだけ無駄だった。それに、愚痴が出るならまだやれる。
俺は自分の思考に苦笑を浮かべ、そして宝石を噛み砕いた。
ちなみにこの行為は食べる為ではない。これは俺自身の魔力を込めた物であり、それを砕く事で内部に蓄積された魔力を再度己の力として吸収するのだ。
暫く休めば、魔力欠乏によるこの目眩も治まる。だが問題は、魔力が回復しても打つ手があまりないという事だ。それほどに竜は強すぎる。
魔物へ視線を向けるが、いつの間に降り立ったのか──しかし、火山内部を覗き込んだまま動きがなかった。茫然としているようにも見えなくないが、魔物の感情の機微は分からない。
そもそも、そこまで感情を持つ魔物に出会った事がなかった。
しかしながら──余裕だな、全く。
俺の魔力が回復つつある事くらい感付いているだろう。人間の俺ですら、あの竜が火山に降り立ってから回復していっている事に気付いているのだ。
──さて、いつまでも休んではいられないな。
完全回復されれば、また同じ事を繰り返さなくてはならない。だがこの規格外な魔物とは、当然ながらそう何度も戦いたくはないのだ。
俺は軽く頭を振るって、僅かに残る目眩を誤魔化す。立ち上がりながら確認した天の剣は、魔法で包んでいた為か刃毀れ一つしていなかった。
──まだやれる。
暗示のように自分に言い聞かせる。
実際、魔力を強制的に回復させたとは言え、俺は端から見たら満身創痍だった。それでも今は休んでいる暇もなく、況しては回復などを行う余裕もない。
やるしかなかった。今この場から脱する事が出来たとしても、あの魔物の存在はあきらかな脅威である。
俺は弱気になりそうな己を叱咤しつつ、風の魔力を全身に纏った。そして天の剣に冷気を宿す。
不本意ながら、暫く休ませた為に竜の鱗が修復されてきているのだ。
本当に──あの強さで自己修復とか、規格外にも程がある。
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