「結婚しよう」

まひる

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第一章

3.抱き枕になるんだろ【3】

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 ヴォルの前方の空中に水が集まり始めます。まるで風船のように、小さな丸い状態から膨らんでいくのです。身体の幅くらいの大きさの球体になったら生成をやめ、そのままの状態で宙にとどめました。そしてその中に先程の使用済みの調理器具やお皿を入れると、今度は竜巻のようにその中が高速回転を始めます。

「Honoo yo koko ni.kaze yo fuke.」

 ある程度それを行ったら、今度は乾燥です。火と風が集まり、熱い風が水の塊を蒸発させていくのです。それはもう、ジュッと音がする程に。この時にヴォルが操る言葉は私にはわかりませんが、魔力を使う為の呪文なのでしょう。

 ジーッと私が見ているのに気付いたヴォルが、小首を傾げてこちらに視線を移した。

「どうした、メル」

「あっ、ご……ごめんなさい」

「謝罪はいらない。質問の答えは」

「あ……、その……魔法が珍しくて……ジッと見すぎました」

 小さくなって答えます。無表情なヴォルの追求は怖いのです。

「そうか」

 ですがヴォルはそれだけ答えると、先程乾燥させた食器などを皮袋に片付け始めました。全てが空中に浮いたまま行われるので、本当に私の手伝う事がないのです。

 食事の片付けが終わると、次は寝床の準備です。勿論これも、ヴォルが魔法でパパパーっと済ませてしまいます。あ……、いつもと違うところに気が付きました。寝具がくっついてます。仲良く隣に、ピタリと。ん?これって……。

 私が見ているのに気付いているはずですが、ヴォルは何も言わずそのまま寝具の一つに身体を滑り込ませました。

「どうした、メル」

 いつものように名を呼ばれます。けれど私は、少しばかり状況が読めません。どうしたら良いのでしょうか。

「来い」

 呼ばれました。丁寧に寝具の端を浮かせています。えっと……、そこに入れと言うのですね?

 私、自慢じゃないですが男の人と一緒にお布団に入った事はありません。16歳にもなってと、周りの友達──主にマーサ──に良くからかわれました。今となっては懐かしい彼女の恋愛無駄話です。もっと真面目に聞いておけば良かったと、ホンの少しだけ思いました。

「二度も言わすな」

 ヴォルの瞳が、少しだけ鋭く光ったような気がします。短気なのですね。
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