説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第1章──幼年期1~4歳──

012 魔力って凄い

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「騒ぐなよぉ。フェル、マジでうるさい」
「だって、だって」
「だから静かにしろってぇの。大丈夫だ。お前の入れられた黒い箱を壊す時、俺がネアンの結界を張ったからな。音はもれれねぇし、震動なんかも伝わらねぇから」

 混乱しながら叫ぶフェリシアの頭部を、グーリフは口先でいじりながらなだめる。
 大きい図体だが、グーリフは妙に優しいところがあるようだ。

「……何だか色々と、本当にありがとう、グーリフ」
「良いって事よ。で、どうする?……いや、どうしたい?俺はフェルとなら、ここから出られるぞ?」
「えっ?!で、でも、他の皆は……」

 フェリシアが改めて感謝を伝えると、グーリフから思いがけない提案をされる。あまりの突然の申し出に、フェリシアは戸惑いを隠せなかった。
  勿論、脱出はしたい。ここにいては確実に危険な事が分かるのだ。けれども、他にもたくさんの檻がある。確認まではしていないが、囚われている中にフェリシアと同じように、獣型に変えられてしまっているヒトもいるのではと思ってしまった。

「えっ、それ必要か?第一、俺はフェル以外を連れて行く気はないぞ?いちいち俺を見てビビるし、何もしてないのに泣きわめく。うるさいし、そもそも面倒だ」

 ツンとねたようにそっぽを向くグーリフは、もしかしたらフェリシアの時と同じように、他の皆にも声を掛けたのかもしれない。そして、結果的に拒絶されたのだ。
 それでもフェリシアに声を掛けてくれたのだから、本当に心根が優しいのだろう。

「分かった、グーリフと行く。でもあのね……他の皆の、檻だけでも壊してくれない?」
「……何だか甘え上手だな、フェル。仕方ない。壊すだけだからな?」

 そうと分かれば、フェリシアに迷いはなかった。
 けれども、閉じ込められたままでは何かと危ないだろうから、各自で脱出出来るように檻を壊してもらいたい。
 そうフェリシアが願うと、複雑そうな顔──馬面うまづらでも分かった──をしながらも、グーリフは了承してくれた。
 そしてグーリフは立ち上がると、幾つかの檻を纏めて、先程と同じく軽々と角で破壊していく。
 そばで見ている分には壮観な破壊だったが、中に入れられた様々な生き物達にとっては生きた心地がしなかっただろう。実際、チラリと見えたテンが、小さな体を丸めて震えていた。
 更には何処からかアンモニア臭が漂ってくる。ヒトも動物も、恐怖で筋肉が弛緩しかんしてしまうのは同じなのだと判明した。──あまり知りたくはなかったが。

「こんなものか。おい、どうした、フェル」
「あ~、うん。シアの鼻の良さに驚いてた」

 こうも激しい臭いを嗅いだのは、転生後初めてだった。──それ以前に、この狭い空間に大勢の生物が押し込められているので、それなりに臭ってはいたのだが。
 鼻を押さえたくなったが、何しろ現状は四つ足の獣型である。肉球で上から押さえたところで、あまり効果が感じられなかった。

「まぁ、すぐにここから出るのだから問題ないだろ?んじゃ、フェル。行くか」
「えっ、ちょ……簡単に言ってくれるけど。シアってば獣型だから、よじ登れないし掴んでいられないんだけど」

 ヒトの背丈以上もありそうな背中に、どうやって子犬のようななりで乗れというのか。
 思わずフェリシアは、見上げたずっと先にあるグーリフに文句を投げ付ける。

「そうなのか?どんくさいな。ってか、魔力があるだろぉ?」
「いや、待って。生後二イトネ目だからっ。そんな、呼吸するように魔力使えないからっ」

 当たり前のように告げられ、フェリシアは驚きを通り越して怒れてきた。
 波瀾万丈の人生など望んでいないのに、何故だか静かに暮らせない。

「仕方ないな、御子様め。俺におんぶにだっこで恥ずかしくないのか?」
「いやいや、そんな事を言われても。生まれてすぐに何でも出来たら、それこそこんなとこにいないよ」
「まぁ、それもそうだな。俺も相手がヒトだからと、油断したのが失敗だった。うん、反省終わり。行くぞ」
「はやっ。でもOK。お腹も空いたし」

 グーリフの揶揄にへこんでもいられない為、フェリシアは開き直る。
 首から下がった黒い鎖が重いが、グーリフいわく、魔力を使えばフェリシアごと切り裂き兼ねないとの事だった。
 さすがにこの場で真っ二つは勘弁なので、床に繋がった部分を壊してもらっているだけでも感謝しなくてはならない。
 空腹に対しても、目の前に『餌』らしき何かの肉片が置いてあるが、そんなもの口にしていられないのだ。

「そうだな。ここの飼い葉エサは不味い。俺も最低限しか喉を通らなかった。ここを出て青い草をみたい」
「よぉし、それなら早いところ外に出ようっ」

 意見が合ったので、早速グーリフにネアンの魔力で壁をぶち壊してもらう。
 ──さすがに他の生き物達には避難してもらい、あえて『賊1』が入って来た方とは逆側を破壊してもらった。
 理由としては、賊と早々に合間見あいまみえたくはないし、他の生き物達の生存確率を少しでも上げる為である。
 そして実際、グーリフの破壊は物凄かった。
 ネアンの魔力で作られた大きな半円形の刃は、前方の障害物を紙のように切り裂き、吹き飛ばす。圧倒的な力だ。

「凄いね、グーリフ。何で捕まったの?」
「……自分でもびっくりだ。俺の魔力、弱い奴の中で更にだった筈なんだが」

 なかあきれつつ問い掛ければ、グーリフ自身も力の増加に驚いている様子である。
 確かにフェリシアが名付ける前は『魔力……-E』だった為、今は普通ランクの上位に位置する『魔力……+D』だ。この変化に馴染むのは少し時間サッドが必要となる。

「ま、まぁ、強くなったなら良いよね」
「そうだな、強くなったんだ。良いに決まってる」

 二人して『ははは』と笑いながら、この現実をスルーした。
 そして壁を壊したと同時に結界も解除された為、背後がバタバタと慌ただしくなる。賊がこの場に押し入ってくるのも時間サッドの問題だ。

「それじゃ、行こうか」
「うん。グーリフ、お願い」

 互いに視線を合わせ、頷き合う。
 するとフェリシアの体がふわりと浮かび、グーリフのたくましい背中に乗せられた。そのネアンは暖かく、昨日長兄ガウリイル次兄マルコにされた時と同じである。
 再び懐かしく思えて涙が浮かびそうになり、初めてグーリフに名を呼ばれた時の感情がはっきりとした。あの愛称は、父親ヨアキムと同じ呼び方であったからである。
 郷愁を感じる程この世界にいないし、実際に会ったのはわずか一イトネだ。それでもこの意味不明な現実より、心穏やかに──黒い影の襲撃などはあったが──過ごせた筈で。
 駆けるグーリフの背中で、彼のネアンの魔力で守られながらも、フェリシアの顔に微笑みが浮かんだ。

「どうした、フェル。嬉しそうだな。まぁ、俺も久し振りに外を駆けるから、結構楽しいがな」
「うん、嬉しい。外に出られたのも、帰れるのも。全部、グーリフに出会えたおかげだよ」
「待て待て。言っただろ。俺が強化されたのは、フェルに名をもらったからだ。感謝されるのは、まぁ……気持ちが良いが、過剰にはいらねぇ」

 逃走中のグーリフの背中でも、こんな穏やかな会話が出来ているフェリシアである。
 賊のあじとは森の中だったようで、高速で木々の合間を駆け抜けるグーリフに、賊は追い掛けて来ているものの、中々追い付けなかった。
 昼中なのに、かなり薄暗い森である。グーリフが走るここが未開の地であるだけなのか、小さな獣道はあるものの、大勢で進む事は困難なようだ。

「うん……。グーリフってば、ちょいワルな照れ屋さん?」
「ちょ、待っ。一言で俺をしょうするなよ。違うからなっ?」

 徐々に後続との距離が離れていくさまを見ている為、フェリシアの精神的に余裕が出てくる。
 酷く焦ったようなグーリフの反応も面白く、彼の対人スキルのとぼしさも明らかになった。

「は~い。でもグーリフってば、こんな木がたくさんの中を、良くこんなスピードで走れるね」
「んあ?そんなの、ネアンの魔力を使えば簡単だぜ」

 感心しながらフェリシアが問えば、当たり前のようにグーリフから返答がある。
 聞けば、魔力を超音波のように飛ばし、障害物の先読みをしているようだ。その魔力の使い方に、フェリシアははやる気持ちを隠せない。

「魔力って、凄いねっ」

 尊敬の眼差しでグーリフを見つめるフェリシアだ。
 一つの属性しか持っていないグーリフがこれ程凄いのだから、三つ使える筈のフェリシアはもっと凄い事が出来ると想像を膨らませる。

「そうだぞ?フェルも俺のように、自分の魔力を頑張って使いこなせるようにならないとなぁ」

 誉められて嫌な気分になる者は珍しく、魔獣であるグーリフも嬉しそうに笑っていた。
 そうこうする間に、少しずつ明るくなってくる。森を抜ける気配だ。

「そろそろだな。後ろからの追走も撒けたようだぞ?」
「うん。グーリフが早いから、随分前から誰もついてきてないよ」
「そうか?くくく、そう誉めるな。照れるじゃないかぁ」
「いよっ、さすがグーリフ!」

 歩みをゆっくりにし、共に森を出る。
 しかしながら、目の前に広がる広大な草原に唖然とするフェリシアだ。
 そもそも、自分の住んでいた地が分からない。

「あ~……、絶望的な事実が判明したよ」
「何だ?今のところ、周囲に敵意はなさそうだが?」
「いや、本当にごめん。シア、何処から来たか知ってる?」
「……それ、俺に聞くか?」
「だよねぇ~」

 冗談のような本気の話だ。
 生まれて二イトネ目のフェリシアが、家の敷地から出た事もなかった超箱入り娘が誘拐されたのである。現在地どころか、家がある土地の名前すら知らなかった。
 今の時間サッドは夕刻辺りなのだろう。太陽が沈みつつある赤く染まった空の下で、何もない草原地帯を魔獣と子狼が目的地不明の状況にたたずむ。
 完全な迷子だった。
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