説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第1章──幼年期1~4歳──

018 散歩の程度はヒトそれぞれ

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 この短時間サッドの衝撃に、フェリシアの脳内は既にオーバーフロー気味である。
 幼い脳は悲鳴をあげ、瞬時に自己修復をおこなう判断をくだし、一旦全ての意識を強制終了してしまった。

「フェルっ?」
<……あ~……大丈夫、グーリフ。えっと今、再起動中だから>
「は?さい、きど?何の事だ、フェル。ってか、喋りがおかしく……」
<うん、内心で話し掛けられるテレパシースキルをゲットしたよ。あ……もう、本当に起きるから>

 フェリシアの意識が途絶えたのを感じ、慌てたグーリフである。
 しかしながら、彼がパニックになる前にリアクションがあった。当人であるフェリシアが、脳内に直接話し掛けて来たのだ。そして、新しいスキル【以心伝心】について説明をする。
 その間に意識が再浮上したフェリシアは、元々グーリフに抱き付いていた状態であった事もあり、ミアには気付かれていなかった。──つまり彼女は、いまだに自分の世界で恍惚こうこつとしている。
 ホッとする反面、これにはれるべきではないとフェリシアは判断した。

<あのね、グーリフ。これ、ソウルメイト限定なんだけど、【以心伝心】っていうスキルなんだよね。グーリフもやってみて?心の中で話すの>
「心の、中で?」<こ、こうか?>
<おぉ~、グーリフにもスキル付与!>
<マジでか!>

 思い付きでグーリフに内心で話し掛けられるテレパシー状態を伝えれば、フェリシアのスキル【神の眼】説明書びっくりエクスクラメーションマークが出る。
 確認すると当たり前のように、グーリフのステータスにスキルが追加されていた。

<ソウルメイト限定になってたから、グーリフにも出来ると思って>
<マジで凄いな、フェル。お前は俺の解放者だな>
<や、やめてよぉ。また変な称号つくじゃん>
<ははっ、確かに>

 フェリシアとグーリフが二人でスキル【以心伝心】テレパシーの会話をしていると、通路の右側が騒がしくなる。
 「時間サッドかけすぎた」と呟きつつ、フェリシアは身体を起こしてそちらへ向き直った。
 予想通りではあるが、そちらから足早にやって来たのは父親ヨアキムで、その背後に数人伴っている。

「何処へ行くのだ、フェル」

 威圧的に問い掛けられ、フェリシアは自然と眉根を寄せた。
 父親とまともに会話を交わしたのは孵化直後で、その後は挨拶程度だったのである。フェリシア誘拐事件処理もあってか、ヨアキムは非常に忙しそうだった。

「……散歩」

 フェリシアは、その問いに端的に答える。
 ヨアキムの態度もあって、言葉を交わす気がないという、意思表示だった。

「ダメだ……、父様が一緒じゃなければ、ダメだぁっ」
「……は?」

 速攻否定された為、苛立ったフェリシア。しかしその怒りが膨れ上がる前に、ヨアキムが暴走を始める。何故か泣きながらグーリフの足元にすがり付き、フェリシアを見上げていたのだ。
 さすがに予想外だったのか、ヨアキムが伴ってきた男達は硬直している。そして、すがり付かれたグーリフは、とても不機嫌そうに体を震わせていた。

<え、何?これ、どういう状態?>
<知らねぇよ、俺だって。とりあえず気持ち悪りぃから、まず蹴り飛ばして良いか?>

 混乱するフェリシアは、スキル【以心伝心】テレパシーの会話でグーリフに説明を求める。
 けれども当たり前ながら、グーリフに理由など想像がつく訳がないし、そもそもヨアキムをおもんぱかってやる気もなさそうだ。
 既にヨアキムがすがり付いている足を浮かせ、振り払おうとしている。

<あ~……、とりあえず我慢して。たぶん父様は丈夫だろうけど、家が壊れる>
<親より家の心配かよ>
<だってそりゃ、ステータス的に家の壁の方が、断然脆いんだもん>
<あぁ、なるほどな。分かった。それなら、このまま引きって行ってやる>
<OK、それなら良いよ>

 あまりの事態に驚きを一回りして、冷静になったフェリシアだ。グーリフもフェリシアと言葉を交わした事で、思い切り蹴り飛ばしたい衝動を抑えられたようだった。
 そしてこれらの言葉が聞こえていたら、ヨアキムがかなりショックを受けそうな事を、グーリフと相談して案外簡単に決めたのである。
 意向を決めれば、フェリシアとグーリフは断然行動が早い。ヨアキムを左後ろ足にぶらさげながら、グーリフは屋敷内を玄関に向かって進み始めた。

「よ、宜しいのですか?シア様……」
「大丈夫。本人が、一緒が良いって言ってたし」

 この時、既に我に返っていたミアは、現状に不安げな質問を投げ掛けてくる。
 対してフェリシアは、無駄に時間サッドを掛けた事を悔いていた。部屋を出てから、既に30ポドンは経過しているものと思われたからである。

「「団長~……」」
「ふふふ~ん、フェルと一緒~っ」

 後ろで数人が困惑のまま見送っていたが、ヨアキム自身はグーリフに引きられながらも、全く苦痛を感じていないようだった。
 それどころか、鼻歌まで歌っている。

「……では、我々は戻りましょう。はい、行きますよっ」

 背後で号令をとっているのはベルナールだが、フェリシアは彼を知らないのでその他大勢の軍関係者父親の仕事仲間としか認識していなかった。
 ベルナールも、この時のフェリシアの印象は最悪のようであり、歩み寄る事もしなかったのである。──ただ魔獣の背に乗るフェリシアを、羨ましそうに見ていたくらいだ。

<やっと外に出られたね、グーリフ>
<あぁ、やはり外の空気は良いな>

 表玄関は執事のノルトが開けてくれた為、ようやく完全な屋外に出られた一向。
 ヨアキムはいつの間にか普通にグーリフの後ろを歩いており、彼がいるからか、ミアはその後ろに付き従っていた。
 仮採用期間の侍女とはいえども、屋敷のあるじはヨアキムである。特別、尊敬も崇拝もしている様子はないが、彼に逆らうのは悪手だ。最悪、フェリシアのそばにいる事が出来なくなるかもしれないのだから、仕方がないのだろう。
 少しフェリシアに対しての態度がおかしいミアだが、その程度の判断がつかないようでは先が思いやられるのだ。

<屋敷の敷地内ってのが、どの程度の広さか分からないけど、柵とかあったらそこから沿って回ってみようか>
<あぁ、分かった。ならば、行くぞ?>
<はぁ~い>

 フェリシアとグーリフは、スキル【以心伝心】テレパシーの会話で方針を決定する。
 元々、気分転換の散歩なのだ。ついてくるメンバーは、ただのおまけである。
 そしてグーリフが常歩なみあしから速足はやあし駈足かけあしと徐々にスピードをあげていく。
 フェリシアは、グーリフのネアンの魔力で留まっている為、どれだけグーリフが速度を上げたところで、揺れも落ちもしない。安心安全なシートベルトなのだ。

<くくくっ。やはり、たまに駆け回るのも気分が良い>
<グーリフは体が立派だから、ちょっと走ったくらいじゃ、疲れないでしょ>
<そうだなぁ。今はしっかりエサをえるから、逆に無駄な贅肉がつきそうだ>
<ふふっ……。太ったグーリフ、ヤバいかも>
<ふはっ、むちむちのフェルも可愛いよな>
<ちょ、やめてよ。ただでさえ、幼児体型なのが嫌なのにぃ>

 このような無駄話も、スキル【以心伝心】テレパシーの会話でなされている為に言いたい放題だ。
 そしてこの時点で、襲歩しゅうほによってかなりの速度が出ている。並みの馬では並走出来ない程であり、魔獣たるグーリフの馬力の証明でもあった。

<けどよぉ。さすがというべきか、ついてくるぜ?>
<あぁ、うん。シアも、ちょっと意外だった>

 グーリフが指しているのは、勿論おまけの二人である。
 ミアは飛んでいるのでまぁ、可能かもしれないが、ヨアキムは自走だ。さすがは軍人だからか、体力と持久力が共に半端ではない。
 しかしながら、グーリフは散歩気分での襲歩しゅうほなので、これでも本気の走りではない。悪戯心に火がついてもおかしくはなかった。

<やって良いか?>
<そうだね。さっきの父様の態度にはイラッと来たから、ちょっと苛めても良いよ>

 フェリシアの許可が出た為、グーリフはさらに襲歩しゅうほの速度を増していく。
 既にフェリシアの視界では、景色が前方と後方しか確認出来ない速度の中、少しずつヨアキムとの間隔が開いていった。ミアは追い付けないとみたのか、上空に上がっている。
 確かに上からの方が確認をしやすい為、鳥ならではの賢さだとフェリシアは評価を下した。

「ま……、フェル……っ」

 微かにヨアキムの声が聞こえたが、フェリシアは待つ気など最初からない。
 グーリフはまだまだ体力が有り余っていそうなので、周回遅れにしても問題がなさそうだ。

<良いんだろ?>
<うん、大丈夫。敷地内からは出てないし、グーリフもまだ走れるでしょ?>
<あぁ、勿論だぜ。腹が減るまで走ってても良いぜ?>
<ははっ、さすがグーリフ>

 楽しい笑い声をあげるフェリシア。
 この世界に生まれ、波乱に満ちた毎イトネの中で、ここまで楽しいのは初めでなのではなかっただろうか。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 そうして敷地内──といっても、一周がかなりの広さなのだが──を三周ほど回り、途中でヨアキムをくわえて戻ってくる。
 理由としては、グーリフが疲れた訳ではなく、フェリシアが眠ってしまったからだ。
 勿論、ヨアキムを連れ帰って来たのは、フェリシアをベッドに運ぶ為。

「ほら、早くしろ」
「あぁ、分かったよ。そんなにかすな」

 ブルルッとグーリフから鼻先でつつかれ、言葉が分からないながらも、ヨアキムは小さなフェリシアの身体を、グーリフの背からベッドに移動させる。
 グーリフは、自分の口が届けばおこなうのだが、さすがに魔獣といってもベースは馬と変わらないのだ。

「もう良いぞ、向こう行ってろ」
「何だよ、今度は遠ざけるのか?本当にお前、ムカつく程フェルにべったりだよな」

 フェリシアがベッドに寝かされたのを確認した途端、ヨアキムとの間を裂くようにグーリフは角を差し入れる。
 ネアンの魔力で背中に乗せ、落ちないように補助は出来た。けれどもヒトのように器用な動きは不可能である。
 しゃくさわるが、ヨアキムがフェリシアと同じ血統である匂いの為、その辺りを考慮して手伝わせているだけだ。
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