説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第1章──幼年期1~4歳──

027 悪意と敵意

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 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 何故だか、言い争いをしている男四人が目の前にいる。
 それを半目で見ながら、フェリシアはスキル【以心伝心】テレパシーでグーリフに説明を求めた。

〈ねぇ、グーリフ。これって、いったいどういった状況な訳?〉
〈あ~……。まぁ、話すと少し長いが、ようは鳥がリスを人にしたら、三人に喧嘩を売ったんだなぁ、うん〉
〈……だ、ダメだ。全然分からない〉

 要約するのが面倒なのか、グーリフの説明ではフェリシアに真意が伝わってこない。
 けれども、寝起きの──それまで魔力の使いすぎによる疲労で意識がなかった──フェリシアにとって、目の前で男児が四人も喚いていれば鬱陶しいものだ。

〈ちょっとグーリフ。彼等に威圧を放ってくれる?〉
〈ん?まぁ、良いが……〉

 フェリシアのお願いに、意図を知れずとも実行するグーリフである。──ちなみに、フェリシアは変わらずグーリフの背に乗ったままだ。
 グーリフは、その場にいる男児四人に対し、殺気とまではいかないが、少し強めの意識を向けたようである。全身の毛を逆立たせる兄弟達を見てフェリシアは察しただけだが、リスのタイだけは違っていた。

「な、何だっ?!お前ら、急に毛がボンッて……」
「……さすがに、心臓が止まりそうになります」
「本当に、こういうのはやめてほしいよな」
「ん、漏らした」
「「……アース、着替え」て来なさい」

 言い争っていたガウリイル、マルコ、エリアスの様子が変わった事に、タイだけが状況を理解出来ていない様子である。
 ガウリイルとマルコは、気配でグーリフだと分かるものの、直接向けられた威圧に耐えきれず、完全に耳が後ろに倒れていた。エリアスは残念ながら、下の方が緩んでしまったようである。

「ねぇ、聞いて良い?何でリスじゃないの?」
「……えっと、これはですね、シア」
「そう、シアの時と同じだよ」
「ふうん、そうなんだ」

 着替えの為、エリアスと彼専属侍女が退室したタイミングで、フェリシアは問い掛けた。
 言い淀むガウリイルをよそに、マルコが簡潔に答える。しかしながら、理屈が分かっている訳ではないようだ。フェリシアの時にミアと共に治療に当たったのだから、マルコには耐性があっただけなのである。
 フェリシア自身も、自らが獣型から人型に変化した事を聞いていた。その後、【獣化】のスキルが追加された事に気付いたが──
 それにしても今現在、彼女の視界に写るスキル【神の眼】説明書が、はっきりと事実を伝えていたのだ。

≪名前……ミア・レンナルツ
称号……【白魔女の後継者】【フェリシアの崇拝者】→【白魔女の後継者】【フェリシアの崇拝者】【解放せし者】≫
≪名前……タイ・ミバル
称号……【脱走者】→【脱走者】【影使い】≫

 いつの間にか、ミアとタイの能力値補正がされている。
 初めて見る称号があり、フェリシアがスキル【神の眼】説明書に意識を向けた。

 称号……【解放せし者】
呪術等による状態異常解除をおこなえる者に与えられる。
 称号……【影使い】
ダードを背負いし者に与えられる。

 両極端な称号のようである。【影使い】は字面からしたら、何だか根暗な感じを受けるが、そんな可愛いものでもないとフェリシアは首をすくめた。
 ミアはフェリシアを含め、二人目の呪いを解いた事で補正された能力アップのようである。しかしダードの魔力は、警戒すべき対象だ。

〈グーリフ、ちょっと困った〉
〈何だ、フェル。そのリス、敵か?〉
〈あ~……、確定ではないけど、黒に近いグレーかな。ダードを背負いし者って、どういう意味だと思う?〉
ダードダードの魔力を持ってるってぇと、魔族か?人族にいねぇだろ〉
〈や、違う。ヒト科獣属リス種って出てるし、彼の魔力の素質はサジルなんだよね〉
〈それなら、さっきの影が要因か。チビ銀狼とチビ金狼が、リンナネアンの魔力で払っていたが……あの程度で滅する感じではなかったんだよなぁ〉

 グーリフがダードの魔力に魔族を連想したのは、一般的に人族では存在しないとされているからのようである。
 しかしながら、『背負っている』のと『素質をもっている』では、同じではないとフェリシアは感じた。実際にどうかは不明なのだが──

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 グーリフは、初めに影と対峙した際、かなりの威圧感を捉えていたのだ。それが──素質があるとは言え──こんな幼い子供達に打ち払われるようなやわな存在ではない筈である。
 しかしながら、目の前にいるリスの少年からは、それほど魔力自体感じられなかった。彼よりも、フェリシアの侍女であるミアの方が、断然強い魔力を感じる。

〈わりぃ、俺には分からねぇな。鳥の方が魔力そのものは強いだろうし、ダードってのも感じられねぇ〉
〈そうだよねぇ。シアとしても、タイからダードの魔力を直接は読み取れないんだよね〉
〈まぁ、警戒対象である事には変わらねぇだろ〉
〈うん。あ、そう言えば、タイが人型になったのって、ミアの魔力の影響?みたいだよ。称号がついてるし〉
〈マジか。でも、それすら鳥は無自覚だろ。フェルの時もそうだったが、リスが獣型から人型に変わった時、結構驚いていたからな。変化の効力が切れた?って、金色ウサギと話してたし〉

 グーリフは、その時の状況をフェリシアに告げた。
 現時点でダードの魔力を感じられないとはいえども、フェリシアのスキルによって知る事の出来る情報に嘘はない。ましてや、彼女が自分に虚偽を告げる事はないと、グーリフは思っていた。──例えそれが偽りだとしても、その時はグーリフの為であるからなのだと。
 そしてグーリフは、今は無害に見えるリスに向け、警戒を解かずにいるのだった。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 フェリシアは考える。タイのダードの影響は気になるが、それよりもミアの事だ。
 変化の魔法液シハー・リュイドによって変化させられた場合、解呪の魔法液シルア・リュイドによってでしか姿を戻す事は出来ないとされている。だからこそ、フェリシア誘拐時の被害者が、いまだに獣の姿で生活しているのだ。
 今回その枠に当てはまらなかった、フェリシアとタイ。周囲からしてみれば、二人の共通点は不明の筈である。
 しかしながら、もしミアの能力が漏れてしまった場合、今後の彼女の身辺が心配だ。獣型被害者の救済に役立つだろうと思われるが、それ以上に狙われる危険性が高い。
 ただでさえ、ミアは襲われてラングロフ邸に転がり込んで来たのだ。しかも、その相手が不明のまま──

「ガウ兄、マル兄。リスを包んでいた影は、完全に消えたと思う?」
「……いいえ、シア。残念ながら、そこまでの手応えはなかったように思われます」
「兄様がいくら鬼畜とはいえ、あの状況で逃がしてやるとは思えないけど。もしかして、もっと強くなってもう一度やりあおうぜ的な?」
「いやいや、待って下さい、マル。わたしは、そんな殺伐とした嗜好しこうはありませんからね?」
「またまたぁ。そんな謙遜しなくて良いから」
「いえ、謙遜ではありませんよ?」

 ガウリイルとマルコのいつもの言い合い──じゃれ合いが始まったところで、フェリシアはグーリフに意識を向ける。

〈ねぇ、グーリフ。ミアが危険になるかもだから、気を付けておいてくれる?〉
〈あぁ、鳥なら大丈夫だと思うけどな。心配なら、フェルがそばにいるように言えば良いさ。バカみたいに喜んで、べったり張り付いて来るだろうけどなぁ。俺は、フェルから離れる気はねぇし〉
〈あ~……うん、分かった。グーリフと一緒にいるシアと、ミアが一緒にいれば安心だもんね。ありがとう、頼りにしてるよ、グーリフ〉
〈お、おぅ……くっそ、可愛いな……〉
〈ん?〉
〈や、何でもねぇ〉
〈そっか〉

 不意打ちの微笑みに、グーリフが頬を染めた事を知らないフェリシアだ。毛並みが黒い馬面なので、表情が悟られにくい事もある。
 フェリシアはグーリフを心の底から信頼しているし、そもそも内心ではいまだ女の子になりきれていないのだ。勿論、前世の記憶がそれを妨げている事も要因の一つだが、そもそもグーリフを、『角がある馬』としか外見認識していない。

「おい、おれの存在を忘れてんじゃねぇっ。お前ら、おれの事をバカにしてないか?リスがオオカミに負けるとか、思ってんじゃねぇよなっ」

 突如、強気な口調で割り込んで来たタイ。
 ガウリイルやマルコより年上なだけはあり、使用人を含めないと一番年長者だ。
 しかしながらその口調は悪く、育ちがあまり宜しくはないと知れる。

「おめぇもよぉ!おれに温かい食い物、くれるんじゃなかったのかよっ」
「……あ、そうだった。その誘い文句でつれたんだっけ」
「あぁ、空腹だったのですか。それは気付かず、申し訳ありません」
「またまたぁ。兄様、彼の腹の虫が、聞こえなかった訳じゃないでしょ」
「いえいえ、聞こえませんでしたよ?それに、開口一番から罵詈雑言を放たれるような者を、客人とも認められません」

 タイの意識がフェリシアに向けられた途端、ガウリイルとマルコの対象が彼に変わり、攻めに回った。
 そしてフェリシアはすっかり忘れていたが、リスの時から彼は空腹を訴えていたのである。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ガウリイルは、タイと名乗ったリス種の少年を伺っていた。今回邸内に入れたのは、フェリシアが守ろうとしていたからである。
 けれども彼は、動物ではなくヒトであった。明らかに、警戒対象である。
 そしてガウリイルとマルコは、タイが人型になった後、腹部から放たれる騒音に気付いていた。しかし、タイの口の悪さに気遣ってやる気も失せたようで、本人が直接訴えるまでは放置を決め込んでいたのである。

「くそっ……。こんな事なら、さっさと台所にでも侵入しておくんだった」
「あ、無駄だと思いますよ?敷地内に立ち入った部外者が、何事もなく・・・・・屋敷に足を踏み入れられはしませんから」

 明らかな意思をもって、侵入した事を告げたタイだ。故意であるならば、いくらフェリシアが擁護しようが関係ない。
 屋敷の主人である父ヨアキムが不在の時は、ガウリイルが守るのだ。
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