説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第1章──幼年期1~4歳──

030 逆らってはならないものがある

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 リンナダードが対極の力であり、それゆえ、唯一互いを制する事が出来る。これは他の属性にも当てはまる事だが、何事にも反する力というものはあるものだ。
 そこでフェリシアは、ダードが素材であるらしき黒い檻に対し、ノコギリをイメージする。──これは意識的に、対象物が鉄を連想させたからだ。
 そして現在、障害物がフェリシアの周囲に存在する。つまりは、おのれの四方を取り囲む邪魔者を排除する必要があった。

リンナ・ペア・妨げられないオンジレア・……円型刃メッド

 フェリシアはスキル【神の眼】説明書によって、この世界の常識を得る事が出来る。と同時に、『記憶』からこの世界に有り得ない想像も出来た。
 そしてそれは、フェリシアのイメージ通り──円盤状のノコギリとなって、グーリフを取り囲むダードの檻を切り裂く。

「な……っ?!」
「すげぇ~」
「嘘だろ?」
「……さすがですね、シア」

 分断された檻は、上部からかすみとなって消えていった。
 それを目を見開いて見ていたのは、戦闘中だった四人である。
 タイとエリアスは、互いの武器を打ち合わせたまま。マルコは、作り出していた魔法が消失してしまった事に気付かない程だ。
 しかしながら、復活が早かったのはガウリウルである。
 タイの一瞬の隙を突き、リンナの魔力で、彼を易々と拘束してしまった。

「くっ……ボボッ?ゴボッ……」

 そして鋭い視線をしたタイは、憎々しげにガウリウルに向けてその口を開く。──が、それはサジルさえぎられ、音として伝わる事はなかった。
 タイの鼻下辺りに掌サイズの水球があり、彼が口を開く度、ボコボコと空気の球が出て来る。
 本人は焦ってはいるものの、鼻呼吸はしっかりと出来ているようで、生命の危機を感じさせるようなものではなかった。それに、手足を含めた全身が縄状のリンナに拘束された芋虫状態である以外、特に目立った傷もないようである。
 追記するならば、あの激しい戦闘後であるにも関わらず、ガウリウル他、兄達もさほど怪我をしていない事に、フェリシアは驚く以外に反応出来なかった。

「悪いけど、あまり汚い言葉をぼくの大切なシアに聞かせたくないんだ。とりあえず、鼻までは塞がないから、ちょっと大人しくしててくれないかな」

 予想はついていたが、どうやらマルコがタイの口を塞いだようである。
 しかもその内容を聞くからに、フェリシアに罵声を届けたくないから、らしい。
 過保護というか、妹至上主義というか。何にしても、聞いたくらいでは何の問題もないようにフェリシアは思えた。

〈えっと……シアって、そんなに純真無垢だと思われてる?〉
〈くくくっ、そりゃあなぁ。フェルは見た目、一歳児。ヒト族としては、幼子相手に手荒なところ、見せたくないのだろうなぁ。俺は、フェルがそんなやわな性格でないと知ってるんだがな〉
〈あ~……、グーリフになんか、酷い事言われてる気がしなくはないけど。でも本質的に正しいのはグーリフの方だから、シアとしても反論の余地がないって感じ?……でもマジ、兄様達ってば、冗談じゃなく強いよね。あれで上が六歳とか、チート過ぎでしょ〉
〈ちいと、は分からんがな。とにかく、それ程心配しなくても良かっただろ?〉
〈う~……ん。それとこれとは、別って感じだったんだよね〉

 なかば茫然とガウリウル達を見ながら、フェリシアはグーリフとスキル【以心伝心】テレパシーでの会話だ。
 取り留めのないものであっても、己の混乱を抑える為と、事態を納得する意味もある。
 そんな中、ガウリウルがポケットから小さなベルを取り出した。そして、静かにチリンと鳴らす。

「はい、御呼びでしょうか、ガウリウル様」

 すると、いつの間に来たのか、ガウリウル付き護衛三人衆が現れた。これには、ベルを鳴らせば三人衆が現れると知っていたフェリシアでも驚く。
 というか護衛ならば、彼女達が侵入者と対峙すれば良いのではないかと、フェリシアは今更ながらに思ってしまった。──前回もガウリウルの単独戦闘である。
 実際、タイの方が年齢が上で、身長もガウリウルより大きいのだ。魔法で拘束したものの、運ぶにはさすがにサイズ的に無理である。

「侵入者です。いつもの部屋へお願い出来ますか?」
「はい、畏まりました。あるじへも御伝え致します」
「宜しくお願いします」
「はい、お任せを」

 そんな、以前にも聞いたようなやり取りを交わしていた。──フェリシアとしては、『いつもの部屋』が気になるが。
 そうして三人の女性は、軽々とタイを抱えると、用は済んだとばかりに屋敷の方へ足を向ける。何とも淡白な関係だと、フェリシアは他人事のように思った。

「……ところで、シア。何故こちらへ?」
「あ……」

 『忠犬』と『侵入者』を振り返りつつ見送っていたフェリシアだが、底冷えするようなガウリウルの低音での問い掛けに、本能的に顔がひきつりそうになる。
 ──そうだったぁ。ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい……。
 フェリシアはガウリウルに、『その場で待て』と言われていたのである。

「えっと……ね?」
「えぇ、何でしょうか」

 焦りつつも、必死に頭を回転させるフェリシアだ。
 対するガウリウルは、一見笑顔であるものの、何故だか背後に黒いオーラが見える。
 フェリシアはチラリと視線を動かし、ガウリウルの後ろのマルコとエリアスを見た。この場を何とか出来るのは彼等だろう。

「マル、アース。屋敷の修理をお願い出来ますか?」
「は、「はい」っ」

 しかし、そんな救済を求めたフェリシアの希望は、即座に断たれた。
 振り返る事なく、ガウリウルは二人へお願いというていで、その実、断れない雰囲気を存分に纏っている。勿論マルコもエリアスも──フェリシアよりも長く共に過ごした経験からだろう──この状態のガウリウルに何を言っても無駄な事を分かっていた。
 それどころか、下手をしたら自分に火の粉が降り掛かるより、もっと酷い事になりそうな予感までする。そんな直感から、マルコとエリアスは、揃って良いお返事をしたのだ。

〈うぅ~……。見捨てられた感、満載なんだけどぉ〉
〈くくくっ、面白いなぁ。ヒト族とは、こうも愉快な存在だったのか。いや、今まで勿体ない事をしたなぁ〉

 チラチラとこちらを振り返りつつも、走っていくマルコとエリアス。
 フェリシアには、『骨は拾ってやるからなっ』としか見えない。いや、実際にそんな酷い事にはならないだろうが、にこやかに近付いてくるガウリウルが怖かった。
 目が笑っていない笑顔のガウリウルは、そのままグーリフの真横に立つ。
 そして、背に乗っているフェリシアに届く筈もないのだが、両手を差し伸べてきた。

〈お、終わった……〉
〈そんなに嫌なら、俺がどうにかするが?〉
〈や……、う~……。そ、そばにいて?〉
〈……可愛いな、本当に。あぁ、約束しよう、フェル〉

 そんなやり取りをグーリフとしているとは、ガウリウルは思っていないだろう。
 しかし、隣に立っても逃げる事なくたたずむグーリフに、フェリシアにれる事を許されたと判断。ガウリウルはネアンの魔力で、その背にいるフェリシアを包み込んだ。
 そして、慎重に己の腕に引き寄せる。

「……久し振りのフェリシアの感触……っ」

 ガウリウルは、そっとフェリシアを抱き締めた。それはフェリシアが予想していたよりも優しい手付きで、逆に安心する匂いに包まれる。
 長子ゆえか、きょうだいの中で一番幼子の扱いが上手いのはガウリウルだった。しかしながら、彼がフェリシアをその胸に抱いたのは、孵化直後の初日のみである。
 その後誘拐されたフェリシアは、数日後に無事戻ってきたものの獣化していた。そしてその時から、辺り前のようにグーリフがそばにいたのである。
 勿論、それはガウリウルだけではなかった。誰もが皆、人の形を取れるようになってからも変わらず、フェリシアにほとんどといって良い程、れる事は出来なかった。

〈……けどこの、ベタ甘な感じ。何かこう……、キモって言いたくなるよ。いやまぁ、頭では分かってるんだよ、頭ではさぁ。けど何か……気持ちがついていかないって言うか?〉
〈くくくっ、愛されてるなぁ、フェル。俺も抱き締めてやろうかぁ?〉
〈良いよ、潰れるからマジで本当にやめて。だいたいグーリフは馬なんだから、幼女を抱き締める事なんて出来ないでしょ〉

 スリスリと頬を擦り付けられられ、鳥肌が立ちそうな気配を感じつつ、『相手は子供』『相手は兄』と、自己暗示をしながら耐えるフェリシアである。
 いまだ気持ちの上でフェリシアは、『記憶上では男だった』という感覚が抜けきれていないからだ。けれども実際に肉体は女性体なのだから、いずれは『男』を恋愛対象にしなくてはならない。──今は幼女だから良いが。
 スキル【以心伝心】テレパシーではグーリフに愚痴りつつも、愛されているという実感がない訳ではなかった。
 そして当然の事ながら、『嫌』ではないのがフェリシアの本心である。

「さてと、シア。綺麗綺麗しましょうね~」

 そのガウリウルの言葉に、フェリシアの全身の毛が逆立さかだったのは仕方がなかった。──普段の言葉遣いとは異なり、妙に甘い物言いである。
 だがそれはもう、フェリシアにとっては死刑宣告のようなものだった。

〈い~や~~~〉

 声なきフェリシアの悲鳴が響く。──実際にはグーリフにしか届かなかったが。
 結果、フェリシアは『お人形さん』のようなキラキラフワフワ仕様へと大変身させられた。普段は本人の拒絶がある為、フェリシアは最低限の装いしかしない。
 それをガウリイルは理解していたのだが、今回は『おしおき』なのだ。一度はやってみたかったと、後で弟達だけではなく、父母にも『グッジョブ』と言葉なく告げられたのである。
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