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第1章──幼年期1~4歳──
032 驚きが一定を越えると
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ぐったりと力なく、横たわったままのフェリシア。
その幼い顔を埋めているのは、グーリフのたてがみである。
〈疲れてんなぁ、フェル〉
〈……もぅガウ兄には逆らわない怖いマジでごめん本当に子供なのか疑っちゃう笑顔なのに笑ってないあの……〉
夜の帳が降りた頃──漸く自室へと解放されたフェリシアだったが、自身の心を癒す意味で思い切りグーリフにしがみついているのだ。
そして呪文のように内心で呟く。勿論内容はスキル【以心伝心】でグーリフに筒抜けだったが、隠すつもりは毛頭なかった。
今までのフェリシアといえば、終始ガウリイルに『お人形さん抱っこ』をされたまま、まさに『お人形』のようにフリフリキラキラに着飾られていたのである。──それだけで精神的ダメージはレッドゾーンだ。
更には何故か屋敷内でプチ・パーティーのようなものが開かれ、それまでフェリシアに近付けなかった多くの使用人が彼女の周囲を取り巻いていた。──当然のように、父であるヨアキムも、母であるナディヤもその中に含まれる。
誘拐事件から生還したフェリシアの普段は、魔獣であるグーリフにべったりだったので、専属侍女であるミア以外、おいそれと近付く事も出来なかった。──基本的に魔獣は、ヒトの敵対種である。追加要素として、グーリフの大きさがあった。
〈まぁ、俺のせいでもあるんだろうが……〉
〈うぅ……、分かってるよぉ。皆がシアを大切に思ってくれてる事も、シアがグーリフに守られている事も理解してるもん〉
〈あ~……、あれか。てんせい?の影響だったよな?〉
〈……シアが女の子なのも分かってるけど、ちょっと前の『記憶』の自分は男の子だったんだよぉ?それを、まだこっちに来て一年も経ってないのにさ……〉
〈ふむ。フェルは雄でありたいのか?〉
〈…………正直、分かんない。何かもう本当、良く分かんないんだ。身体の性別に引き摺られてるのかも知れないけどさ。お風呂で見る自分には、当たり前だけど『あって欲しいもの』がついてないし……〉
〈だがまぁ、そうはいっても幼体……あ、子供、だしな〉
〈うぅ~……。もう少し成長して、『性』を自覚してからになるのかなぁ〉
〈よし。その時にまだ、フェルが雄になりたかったら、俺が雌になってやる〉
〈は?何言ってるの、グーリフ。グーリフが雌に仮になれたとしても、シアが男にはなれないでしょ。ってか、人の姿になれるような口振りじゃん?〉
〈ん?言ってなかったか?〉
そう口にすると、突然黒い馬の姿がぼやける。そしてフェリシアの目の前で少し小さくなっていき、黒い髪と浅黒い肌の青年が現れた。
フェリシアは眼前で起こった出来事ながら、既に目と口を開いたまま自失状態である。
「な?……お~い、フェル?」
(ぅにゃ~~~~~っ!)
まさに驚愕だった。
思わず叫んだ口をグーリフが覆っていなければ、屋敷中の人が駆け付けたに違いない。
「大丈夫か?もう叫ぶなよ?」
〈わ、分かってる……、ごめん〉
グーリフは先程の青年の姿のまま、魔獣であった時の馬の耳と尻尾を装備していた。
どうやら聴覚を最大限引き出す為に必要だったらしく、屋敷内の気配を探っていたようである。
そして大声を出さないとグーリフに約束させられ、承諾する形でフェリシアの口元にあった手が放された。
「驚いたぞ……」
「こっちがびっくりだってっ。何、え?初めから?」
未だ困惑しているフェリシアの視界の隅で、グーリフのスキル【神の眼】が変更を示している。
一度内容を確認したそれに至っては、『変化』を示す表示が小さいのだ。
≪名前……グーリフ
魔力…… +D→-C【風】
スキル……【以心伝心】→【以心伝心】【人化】≫
「あ……【人化】だけじゃなくて、魔力も上がって『-C』になってるよ。何もう、短期間に成長しすぎじゃない?」
「そうだなぁ。フェルと出会ってからの俺は、これまでの魔獣生をこれでもかってくらい塗り替えてるな。まぁ、俺にフェルが見ているその数値は見えないが、力が満ち溢れるのは分かるぞ」
「マジで……。何かもう、良いのか悪いのか分かんないけど……」
「良いに決まってるだろ。強いものが全てだ。あ、ちなみにこの形状、小さくもさせられるぞ?」
そうしてグーリフは、いとも簡単に幼児化してみせたのだ。
身に纏った色彩は同じまま、フェリシアと同じくらいのぷっくりとしたお子ちゃま体型となったのである。
「か、可愛い……っ」
「フェルの方が、断然可愛いけどな」
「お、何か凄い殺し文句きた~。それにしても、もう本当に何処からどうみてもヒトじゃん」
「いや、俺は形を真似ているだけだぞ。ヒト族と違って魔核があるから、こうして大きさが変えられるんだ」
魔核は魔核科の力の源であり、逆にそれさえあれば見た目の形に捕らわれないようだ。
強くなる程に体内の魔核数が増加し、奪われる事があればその分弱体化する。──ある意味、分かりやすい基準だった。
「耳や尻尾の出し入れが出来るのも、同じ理由なの?」
「そうだ。俺にとって重要なのは、形じゃないからな。まぁ……本来の魔獣としての形の方が、自然と言うか、楽ではあるがな」
「あ、それは何となく分かる。シアも獣化出来るけど、生まれた時のヒトの形がしっくりくるから、そんなのでしょ」
互いに通常の生命の在り方から離れつつあるが、フェリシアが『ヒト科獣属オオカミ種』である事も、グーリフが『魔核科魔獣属ツノウマ種』である事も変わらない。
これはフェリシアの『称号』による影響が大きいのだが、現時点で本人達に不利益をもたらすものではなかった。
「まぁ、良いって事にしよう。もう疲れたし、今日は寝よう」
「そうだな。俺は魔獣型に戻った方が良いか?」
「え?良いよ、その小さい姿、可愛いし」
「何を言っている。フェルの方が可愛いぞ」
「あ~……、うん。ありがと……、グー……リフ……」
「ん?……寝落ち、か。……本当に……、フェルと出会って良かった」
静かにフェリシアの額へグーリフは唇を寄せる。──中身の年齢はどうであれ、見た目だけは幼児同士の可愛らしい触れ合いだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここはラングロフ邸内、ヨアキムの執務室。
執務机に腰掛け、様々な書類に目を通しながら署名をするヨアキムは、常のようにベルナールの報告へ耳を傾けている。
「ベルナール、亜人族の動向は?」
「はい。未だ、大きな動きはないようです。ホーチュメディング少将の方は、今のところ、子飼いを使っての情報収集に集中しているようです」
「ふむ…。時期を見計らってるのか」
「そのようですね。ラングロフ中将のお嬢様を拐かす事に失敗したからか、現状では真面目な軍人を演じているといったところでしょうか。私からは、滑稽な道化にしか見えませんが」
手元の書類の束を捲りながら、ベルナールは淡々と告げた。
しかしながらベルナールは、相変わらず他者に対しては辛辣な物言いをする。彼にとっての良し悪しの判別は、ヨアキムの道を邪魔するか否かに尽きるようだった。
「だが悔しいが、一度隙を突かれた事実があるからな。幸か不幸か、今のフェルには魔獣がついている。彼女をアレから奪うのはかなり苦労しそうだが、警戒を怠るな」
「承知しております」
「……けど、パーティーでのフェル、かっわいかったなぁ」
「………………ところで、御子息が取り押さえたという賊の処遇はいかがされますか」
「あ~……、それは良い。ガウリイルが処理する」
「毎回思うのですが、いくら優秀とはいえども、六歳の子供です。重荷ではありませんか」
「問題ない。俺もそうだったが、それがラングロフだ」
「ラングロフ中将の御判断でしたら、私に否やはございません。ですが、闇の魔法石は気になります」
ベルナールの手元には、マルコから上がってきた報告書もある。
基本的にヨアキムに出される書類だが、今回の案件は『フェリシア誘拐事件』も含まれると判断したのだ。したがってマルコは、ベルナールにも同じものを渡したのである。
「報告書によれば闇の魔法石は現状で取れない、諦めろ。……それにしても、うちの息子達ってば、優秀だなぁ」
「……否定は出来ません。同様に、危険を孕んではいますが」
ベルナールは『ヨアキムありき』の思考の為か、非常に偏った物の見方をする傾向があった。それはヨアキムの実子であれども、彼に向けられる刃となるならば、躊躇いもなく排除するだろう。
しかしながら、そんなベルナールですら微笑ましく思うヨアキムだ。──口にはしないが。
「ガウリイルは継承者だからな」
「それはそうなのですがね」
そんな執務室に、慌ただしい音が近付いてくる。
ヨアキムは登頂部の獣耳をピクピク動かし、それを聞き分けていた。執務室にこのような暴挙で突撃してくるなど、使用人である筈がない。
「父様!!」
そして声を荒げて入室してきたのは、三男のエリアスだった。
荒々しく開け放たれた扉が壁に激突する直前に、前もって移動していたベルナールが受け止める。──彼も近付いてくる人物が分かっていたようで、涼しい顔をしていた。
「騒々しいぞ、エリアス」
「それどころじゃないっ。シアが男と!」
「っ!!」
エリアスが騒々しいのは珍しい事ではないが、内容が内容である。
耳にした途端、ヨアキムは執務机を飛び越えていた。そしてそのままエリアスの首根っこを掴むと、立ち止まる事なくフェリシアの部屋へ駆けて行く。
「………………男、ですか」
ベルナールの呟きは、誰の耳に止まる事はなかった。
そして暫く後で、ヨアキムの悲鳴にも似た叫び声が屋敷内に轟く。夜が深い時間にも関わらず、屋敷中の動ける者が集まった事もまた、言うまでもなかった。
ぐったりと力なく、横たわったままのフェリシア。
その幼い顔を埋めているのは、グーリフのたてがみである。
〈疲れてんなぁ、フェル〉
〈……もぅガウ兄には逆らわない怖いマジでごめん本当に子供なのか疑っちゃう笑顔なのに笑ってないあの……〉
夜の帳が降りた頃──漸く自室へと解放されたフェリシアだったが、自身の心を癒す意味で思い切りグーリフにしがみついているのだ。
そして呪文のように内心で呟く。勿論内容はスキル【以心伝心】でグーリフに筒抜けだったが、隠すつもりは毛頭なかった。
今までのフェリシアといえば、終始ガウリイルに『お人形さん抱っこ』をされたまま、まさに『お人形』のようにフリフリキラキラに着飾られていたのである。──それだけで精神的ダメージはレッドゾーンだ。
更には何故か屋敷内でプチ・パーティーのようなものが開かれ、それまでフェリシアに近付けなかった多くの使用人が彼女の周囲を取り巻いていた。──当然のように、父であるヨアキムも、母であるナディヤもその中に含まれる。
誘拐事件から生還したフェリシアの普段は、魔獣であるグーリフにべったりだったので、専属侍女であるミア以外、おいそれと近付く事も出来なかった。──基本的に魔獣は、ヒトの敵対種である。追加要素として、グーリフの大きさがあった。
〈まぁ、俺のせいでもあるんだろうが……〉
〈うぅ……、分かってるよぉ。皆がシアを大切に思ってくれてる事も、シアがグーリフに守られている事も理解してるもん〉
〈あ~……、あれか。てんせい?の影響だったよな?〉
〈……シアが女の子なのも分かってるけど、ちょっと前の『記憶』の自分は男の子だったんだよぉ?それを、まだこっちに来て一年も経ってないのにさ……〉
〈ふむ。フェルは雄でありたいのか?〉
〈…………正直、分かんない。何かもう本当、良く分かんないんだ。身体の性別に引き摺られてるのかも知れないけどさ。お風呂で見る自分には、当たり前だけど『あって欲しいもの』がついてないし……〉
〈だがまぁ、そうはいっても幼体……あ、子供、だしな〉
〈うぅ~……。もう少し成長して、『性』を自覚してからになるのかなぁ〉
〈よし。その時にまだ、フェルが雄になりたかったら、俺が雌になってやる〉
〈は?何言ってるの、グーリフ。グーリフが雌に仮になれたとしても、シアが男にはなれないでしょ。ってか、人の姿になれるような口振りじゃん?〉
〈ん?言ってなかったか?〉
そう口にすると、突然黒い馬の姿がぼやける。そしてフェリシアの目の前で少し小さくなっていき、黒い髪と浅黒い肌の青年が現れた。
フェリシアは眼前で起こった出来事ながら、既に目と口を開いたまま自失状態である。
「な?……お~い、フェル?」
(ぅにゃ~~~~~っ!)
まさに驚愕だった。
思わず叫んだ口をグーリフが覆っていなければ、屋敷中の人が駆け付けたに違いない。
「大丈夫か?もう叫ぶなよ?」
〈わ、分かってる……、ごめん〉
グーリフは先程の青年の姿のまま、魔獣であった時の馬の耳と尻尾を装備していた。
どうやら聴覚を最大限引き出す為に必要だったらしく、屋敷内の気配を探っていたようである。
そして大声を出さないとグーリフに約束させられ、承諾する形でフェリシアの口元にあった手が放された。
「驚いたぞ……」
「こっちがびっくりだってっ。何、え?初めから?」
未だ困惑しているフェリシアの視界の隅で、グーリフのスキル【神の眼】が変更を示している。
一度内容を確認したそれに至っては、『変化』を示す表示が小さいのだ。
≪名前……グーリフ
魔力…… +D→-C【風】
スキル……【以心伝心】→【以心伝心】【人化】≫
「あ……【人化】だけじゃなくて、魔力も上がって『-C』になってるよ。何もう、短期間に成長しすぎじゃない?」
「そうだなぁ。フェルと出会ってからの俺は、これまでの魔獣生をこれでもかってくらい塗り替えてるな。まぁ、俺にフェルが見ているその数値は見えないが、力が満ち溢れるのは分かるぞ」
「マジで……。何かもう、良いのか悪いのか分かんないけど……」
「良いに決まってるだろ。強いものが全てだ。あ、ちなみにこの形状、小さくもさせられるぞ?」
そうしてグーリフは、いとも簡単に幼児化してみせたのだ。
身に纏った色彩は同じまま、フェリシアと同じくらいのぷっくりとしたお子ちゃま体型となったのである。
「か、可愛い……っ」
「フェルの方が、断然可愛いけどな」
「お、何か凄い殺し文句きた~。それにしても、もう本当に何処からどうみてもヒトじゃん」
「いや、俺は形を真似ているだけだぞ。ヒト族と違って魔核があるから、こうして大きさが変えられるんだ」
魔核は魔核科の力の源であり、逆にそれさえあれば見た目の形に捕らわれないようだ。
強くなる程に体内の魔核数が増加し、奪われる事があればその分弱体化する。──ある意味、分かりやすい基準だった。
「耳や尻尾の出し入れが出来るのも、同じ理由なの?」
「そうだ。俺にとって重要なのは、形じゃないからな。まぁ……本来の魔獣としての形の方が、自然と言うか、楽ではあるがな」
「あ、それは何となく分かる。シアも獣化出来るけど、生まれた時のヒトの形がしっくりくるから、そんなのでしょ」
互いに通常の生命の在り方から離れつつあるが、フェリシアが『ヒト科獣属オオカミ種』である事も、グーリフが『魔核科魔獣属ツノウマ種』である事も変わらない。
これはフェリシアの『称号』による影響が大きいのだが、現時点で本人達に不利益をもたらすものではなかった。
「まぁ、良いって事にしよう。もう疲れたし、今日は寝よう」
「そうだな。俺は魔獣型に戻った方が良いか?」
「え?良いよ、その小さい姿、可愛いし」
「何を言っている。フェルの方が可愛いぞ」
「あ~……、うん。ありがと……、グー……リフ……」
「ん?……寝落ち、か。……本当に……、フェルと出会って良かった」
静かにフェリシアの額へグーリフは唇を寄せる。──中身の年齢はどうであれ、見た目だけは幼児同士の可愛らしい触れ合いだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここはラングロフ邸内、ヨアキムの執務室。
執務机に腰掛け、様々な書類に目を通しながら署名をするヨアキムは、常のようにベルナールの報告へ耳を傾けている。
「ベルナール、亜人族の動向は?」
「はい。未だ、大きな動きはないようです。ホーチュメディング少将の方は、今のところ、子飼いを使っての情報収集に集中しているようです」
「ふむ…。時期を見計らってるのか」
「そのようですね。ラングロフ中将のお嬢様を拐かす事に失敗したからか、現状では真面目な軍人を演じているといったところでしょうか。私からは、滑稽な道化にしか見えませんが」
手元の書類の束を捲りながら、ベルナールは淡々と告げた。
しかしながらベルナールは、相変わらず他者に対しては辛辣な物言いをする。彼にとっての良し悪しの判別は、ヨアキムの道を邪魔するか否かに尽きるようだった。
「だが悔しいが、一度隙を突かれた事実があるからな。幸か不幸か、今のフェルには魔獣がついている。彼女をアレから奪うのはかなり苦労しそうだが、警戒を怠るな」
「承知しております」
「……けど、パーティーでのフェル、かっわいかったなぁ」
「………………ところで、御子息が取り押さえたという賊の処遇はいかがされますか」
「あ~……、それは良い。ガウリイルが処理する」
「毎回思うのですが、いくら優秀とはいえども、六歳の子供です。重荷ではありませんか」
「問題ない。俺もそうだったが、それがラングロフだ」
「ラングロフ中将の御判断でしたら、私に否やはございません。ですが、闇の魔法石は気になります」
ベルナールの手元には、マルコから上がってきた報告書もある。
基本的にヨアキムに出される書類だが、今回の案件は『フェリシア誘拐事件』も含まれると判断したのだ。したがってマルコは、ベルナールにも同じものを渡したのである。
「報告書によれば闇の魔法石は現状で取れない、諦めろ。……それにしても、うちの息子達ってば、優秀だなぁ」
「……否定は出来ません。同様に、危険を孕んではいますが」
ベルナールは『ヨアキムありき』の思考の為か、非常に偏った物の見方をする傾向があった。それはヨアキムの実子であれども、彼に向けられる刃となるならば、躊躇いもなく排除するだろう。
しかしながら、そんなベルナールですら微笑ましく思うヨアキムだ。──口にはしないが。
「ガウリイルは継承者だからな」
「それはそうなのですがね」
そんな執務室に、慌ただしい音が近付いてくる。
ヨアキムは登頂部の獣耳をピクピク動かし、それを聞き分けていた。執務室にこのような暴挙で突撃してくるなど、使用人である筈がない。
「父様!!」
そして声を荒げて入室してきたのは、三男のエリアスだった。
荒々しく開け放たれた扉が壁に激突する直前に、前もって移動していたベルナールが受け止める。──彼も近付いてくる人物が分かっていたようで、涼しい顔をしていた。
「騒々しいぞ、エリアス」
「それどころじゃないっ。シアが男と!」
「っ!!」
エリアスが騒々しいのは珍しい事ではないが、内容が内容である。
耳にした途端、ヨアキムは執務机を飛び越えていた。そしてそのままエリアスの首根っこを掴むと、立ち止まる事なくフェリシアの部屋へ駆けて行く。
「………………男、ですか」
ベルナールの呟きは、誰の耳に止まる事はなかった。
そして暫く後で、ヨアキムの悲鳴にも似た叫び声が屋敷内に轟く。夜が深い時間にも関わらず、屋敷中の動ける者が集まった事もまた、言うまでもなかった。
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