説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

文字の大きさ
47 / 60
第2章──少年期5~10歳──

047 気分転換の為の町の散策だったのに

しおりを挟む
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「あ、これ美味しそう」
「あぁ。んじゃ……おっちゃん、これを二つ」
「あいよ~」

 小さな小屋で肉焼きを売っている店で、フェリシアの胃袋を直撃した匂いがあった。手を繋いで歩いていたグーリフは、すぐにそれを手慣れた感じで注文する。
 店主はすぐに良い焼き色の串を選び、にこやかな表情で二本ともグーリフに手渡した。
 フェリシアは串に刺した肉を受け取り、熱さにビクビクしながら噛み付く。噛んだ瞬間から甘い肉汁が口腔内に広がり、甘辛い味と合わさってとても美味しかった。
 隣では同じように串に刺した肉を噛るグーリフ。その後ろには財布を仕舞うミアがいる。──当然、支払いはミアがおこなっているのだ。

 ヨアキム父様との面談の結果は、やはりというか駄目だった。グーリフの策で収集したミアの情報は、まるごと全部持っていかれたのである。
 けれどもナディヤ母様の作ってくれた魔道具は、しっかりフェリシアの装飾品の一部になっている。ペンダントと腕輪、イヤリングだ。体躯の小さなフェリシアに合わせ、小振りながら繊細な造りである。

「美味しいね、グーリフ」
「そうだな。たまにはこういう食い歩きも悪くねぇな」

 なごみながら町を散策しているが、出てくる前まではフェリシアがかなり落ち込んでいたのだ。
 ヨアキムに話が通じなかった事もあるが、フェリシアが言い出したおとり捜査に、全く関係のない子供がさせられる事となったからである。
 ベルナールが報酬を支払った上で両親の承諾を得ていると言っていたが、いくら金品をもらおうとも命の危険さえある場所へ子供を送り出すのだ。そして軍人の子供でも、十歳未満にそれは酷だろう。

 フェリシアはそれを聞いて、烈火のごとくヨアキムに食い掛かった。だがもう決まった事だと一蹴されてしまい、ナディヤに泣き付く。──ナディヤはフェリシアの捜査を知っていてなお、守りの魔道具を作ってくれたのだ。
 そしてヨアキムに対する不満をぶつけ、謝罪してくるまで二人して言葉を交わす事をやめようという同盟を組む。そこへエリアスも加わり、三人になったが。

 だが結局それまでで、ヨアキムは毎イトネ屋敷に戻ってくる訳ではないのだ。あれから半クタヴテ程経つが、顔を合わせたのはわずか数回である。
 その度に顔をそむけて無言で立ち去るフェリシアに、ヨアキムが何を思ったのかは分からなかった。──つまりは全く効果も成果もみえない。
 そうしておとり捜査自体どうなっているのかは分からないが、ミアが集めてくる情報にはいまだ犯人を捕獲したと上がっていなかった。

「……はぁ」
「何だ、また溜め息か?俺とのデートなのに、余所事を考えるとは心外だなぁ」
「あ、ごめんグーリフ。グーリフと一緒の散歩は楽しいんだけど……」

 フェリシアの視線の先には同じくらいの子供達が遊んでいる。
 それを見て、自然と誘拐事件を想像してしまったのだ。

「くくく、分かってるって。フェルが優しいことはな」
「ち、違うよ。……シアは優しいんじゃない。ただ、自己嫌悪してるだけだもん」
「あぁ、自分のせいでってか?」
<……それなら、少し鳥をまくか>
「え?」

 グーリフに愚痴っていると、少し悪い顔をしてニヤリと笑う。
 町の散策にきたフェリシアとグーリフのそばには、ミアの他に護衛として数人が周囲に散らばっていた。

<まく、って……どうして?>
<あぁ……。さっきから、こちらを伺っている視線があるんだ。護衛達とは違う、じっとりとした気分悪りぃヤツがな>
<そ、それって……>
<あぁ。もしかすると、釣れたのかもしれねぇ>

 視線を正面に向けたまま、グーリフがスキル【以心伝心】テレパシーで話してくる。
 実際、珍しくグーリフが町に行こうと誘ってきた事に、フェリシアは酷く驚いていた。普段は気配やら音が面倒臭いとかで、ヒトが多い場所は行きたがらないのにである。
 つまりはフェリシアの為に、誘拐犯を誘い出そうとしてくれたらしいのだ。

<わ、分かった>
「あ、グーリフ。あれも美味しそう」
「おぅ。鳥、あの黄色いやつ、二つな」
「はい、畏まりました」

 目についた出店でみせの商品に、フェリシアはわざと声をあげる。そしてグーリフは少しだけ後ろを振り返りつつ、ミアに買いに行くように告げた。
 正直、ミアには悪いが仕方がない。もしかしたら、誘拐事件に関わる事が出来るのかもしれないのだ。フェリシアは自分の言葉が原因で、他の誰かの命が脅かされる事が酷く苦痛だったのである。

「あ、あっちにも美味しそうがあるっ」
「ちょ、待てよフェル」

 あからさまな台詞を口にしながら、ミアから離れて走っていく。勿論グーリフもフェリシアについて行った。護衛達の慌てる様子が何となしに伝わってくる。
 そして──急に呼吸を圧迫された。口元に何かが押さえ付けられているようで、それでも身体をグーリフの熱が包み込んでいるのが分かる。
 何故か、それだけで安心出来た。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 気が付くと、狭い荷馬車の中。
 フェリシアを抱き締めるグーリフの熱が、混乱する意識を宥めてくれる。

<グーリフ……>
<あぁ、気が付いたか>
<うん……。ここは、何処?>
<馬車の中で、たぶん誘拐犯の元へ連れていかれる最中だろうな>
<……周りにも、知らない子供がいるね>
<あぁ。俺達の他に三人。少し前まで泣いていたんだが、男に怒鳴り付けられて静かになった>
<そう……。ミアは大丈夫かな?>
<まぁ、さらわれたのは俺達だけだからなぁ。たぶん護衛のやつらに抑えられてるだろうな>

 騙し討ちをしてしまった事に罪悪感を感じるが、当初の目的通りに誘拐された事実が嬉しくもあった。
 確実に危険へと首を突っ込んだのは分かっているが、グーリフの存在とナディヤの魔道具がフェリシアの心を支えている。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 そしてどれ程の時間サッドが経ったのか、ようやく荷馬車が停車した。

「ほら、降りろ」

 威圧的な物言いで、屈強な男が三人荷馬車を取り囲んでいる。
 連れて来られた子供はフェリシアとグーリフの他、三人──つまりは合わせて五人だ。他の三人の子供達は、ベソベソ泣き顔のまま荷馬車を降りる。フェリシアはグーリフにくっついたまま、とりあえず指示に従う方針だった。

「こっちだ。ついてこい」

 男達の指示に従い、馬車を降りた先にある別荘のような屋敷に向かう。そこで他の三人は着替えさせられていたが、フェリシアとグーリフは問題なかったのか、そのままの連れて来られた服装で良いらしい。

 そして二階に上がるように指示をされ、右手の通路の先にある部屋へ押し込まれた。
 壁際に並んで立つように告げられる。反論した子は、即座に男の持つ棒で殴られていた。反抗的な態度は、すぐにその場で潰されるようである。

 そして少しそのまま待っていると、腹部に脂肪を蓄えたような男が使用人らしき男と部屋に入って来た。

≪名前……ウゲイン・ワカー
年齢……46歳
種別……ヒト科獣属キツネ種
体力…… D
魔力…… -D【サジル
スキル……【虚偽】
称号……【加虐嗜好】≫

 フェリシアの視界に、スキル【神の眼】説明書の文字が反応する。
 すぐにこれが誘拐事件の黒幕だと分かった。

<大丈夫か、フェル>
<あ……、うん。このお腹出たヒト、黒幕>
<あ~……。まぁ、しっかりと血の臭いがするからな>

 フェリシアがスキル【神の眼】説明書で分かると同様に、グーリフも己の鋭い嗅覚で察していたようである。
 黄色い三角の耳と、ふさふさの尻尾。これだけなら可愛いのに、そこに付随するヒトの身体は思い切り中年肥りの男なのだ。

<もう少し体型に気を配れば良いのに>
<はぁ?フェル、ふさふさの尻尾だったら誰でも良いのか?>
<え?いや、違うけど……。あ、このヒト、スキル持ってる>
<何?>
<【虚偽】、だって。『真実ではないと知りながら、真実であるかのように故意によそおい、見せかける事が出来る』?え?何かチートじゃない?>
<きょぎ……虚偽か。あとは、ちいと?前にも聞いたな>

 フェリシアは他者のステータスを読み取る事が出来るが、スキル持ちは稀な存在であるとスキル【神の眼】説明書から教えられていた。
 だがこの目の前の男──ウゲインは、詐欺師のようなスキル保持者である。

「こちらが新しい御品となります」
「……ふむ」

 フェリシア達を連れてきた男の一人が、ウゲインに話し掛けた。
 こちらを舐めるように観察するウゲイン。

「この色……銀、か?」
「まさか。下町にいたのですから、灰色のイヌ種ではないかと。それに、ラングロフの銀は男でしょう。娘が生まれたのは耳にしていますが、それこそ銀の女児はここ百ロミ程ないようですから、伝説上の存在ですよ。あ、この芦毛ウマのガキはどうしても離れない為、やむを得ずこのままつれてきましたが」

 ウゲインはフェリシアの纏う色に何か気付いたようだったが、誘拐犯はそれをすぐに否定する。
 確かに、銀狼の女性は超激レアなのだ。──というか、グーリフの扱いが酷い。

「要人の子供でなければ良いが。一応調べておいてくれ。まぁ、今回も見目が良いのが揃ってるな。約束通りの金額だ」
「一人当たり五十……はい、確かに。では、今一度この娘について調べてご報告致します」
「うむ」

 一人五十って、安くないだろうか。
 フェリシアは先程の町散策で見聞きした金銭感覚から、野菜一籠の値段であると分かってしまった。だが即金で支払われるからか、誘拐犯に異論はないらしい。しかも新たに、フェリシアの素性調査まで請け負っていた。
 余程の太客なのか、誘拐犯は金を受け取ると他に何も言及する事なく、足早に退室してしまう。残されたのは黒幕と思えるウゲインと、フェリシアを合わせた子供五人。

「売人の癖に、下調べくらいちゃんとしておけっ。金で買った品に、何故オレが我慢しなきゃならんのだっ」

 吐き捨てるように告げるウゲイン。
 先程の誘拐犯に対する不満らしいが、その後にこちら側へ向けた醜悪な顔は頂けなかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...