説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第2章──少年期5~10歳──

050 混乱からの困惑でぶちきれてもおかしくないよね

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 フェリシアは混乱していた。
 そもグーリフとのスキル【以心伝心】テレパシーが途切れた時点で、スキルを阻害する何かの存在を感じてはいたのである。──けれどもそれが地下一面を覆う程だとは。

(四角い……地下。壁や床に、魔力を遮断する系統の建築素材を使ってるって事だよね)

 フェリシアがこれまで見た事のない物だ。一度スキル【神の眼】説明書に掛かった事があれば、それが視界に反応するから分かる。
 そして今の視界には、それらしき表示がなかった。

 見た事がなければ、フェリシアのスキル【神の眼】説明書に反応しない。──それならば、視界に納めれば良いだけの事だ。
 フェリシアは藁の山に身をひそめながらも、屋敷の壁へと向き直る。

(何度でも挑戦だもん。この辺りの壁に穴を開けちゃっても、問題ないよね~……って事で。リンナ・ペア・細くユーゼ長く・ネアードそれを・メト・切断するレンリィ

 そうして突き出した前足から、再び屋敷の破壊工作にいそしむ事にした。
 まずは地面の土と壁を構成している木材に、リンナの魔力で創ったレーザー光線を当てる。
 素材が違えばリンナの魔力の使用量が異なるようで、先程以上の集中力と魔力消費を伴った。それでもレーザー光線は通過するようで、地面の一部と壁板を焦がす。

(あ、この先には魔力が通らない。ここが目的の素材だね)

 ある一定の深さに達すると、萎むように魔力が消えていくのを感じたのだ。
 フェリシアは目標の深さを定め、そこを起点にクルリと丸く円を描くようにする。先程と違うのは、向こう側に抜けるような構造ではないだけだ。

 そこからはせっせと、四つ足を使いながらの発掘作業へ移行する。
 焼き切った壁板は、爪を引っ掻ければ簡単に取り外せた。押し固められた地面も、一度レーザー光線を当てて崩しているからか、思ったより簡単に掘り進められる。──そうして出てきた黒っぽい石。
 削るようにして平らに加工されているが、れると通常の石とは違い、ピリピリとした感覚で魔力が奪われる。

≪名前……封魔石
材質……加工魔法石
用途……装飾品・建築材
強度…… D
特長……魔力を吸収する≫

(……これだ。これが、シアとグーリフの邪魔してるし)

 ただでさえ色々ありすぎて精神的にギリギリなのに、現時点で障害になっている物質が目の前にあるという事実はフェリシアの極限を突破した。

 封魔石にれた前足を起点に、フェリシアの体内にある三属性の魔力が流れ出る。障害物に対する苛立ちもあり、封魔石は一点に集中して許容量以上の魔力を受けてしまった。
 ピシッと小さな亀裂が入る。そしてそれは植物の根のように、細やかな枝分かれした筋となって四方へ拡がっていったのだ。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 不意に正気に戻る。今の今まで理性が崩壊しそうだったのだが、何故か突然我に返ったのだ。
 グーリフは視線だけで周囲を見回す。同室の子供は無事のようである。そしてこちらはどうでも良いが、ウゲインは小刻みに身体を震わせたまま脂汗を流していた。──つまりは、まだこちらも生きている。

「……ふ……、ふざけるな、よ……っ。こ、この※※※、※※※※、※※※※※!」

 青ざめた顔のままではあるが、何やら罵詈雑言の嵐だ。最早聞く耳を持たないグーリフは、ウゲインの声を理解する事を放棄する。
 同時に、何故正気に戻ったのかを考察した。

(何か……があったのは、確かだよな。この室内ここではないとすると……外部、だなぁ)

 意識を周囲へ拡げる。
 先程までより感覚が鋭敏なのが不思議で、思わずそのまま頭を動かして部屋の四方を確認した。

(……フェル?)

 当然視認出来る筈もないのだが、これまでよりも明確にフェリシアの存在が分かる。
 そして、『近い』という事すら伝わってきた。

(銀色がもうフェルを救出にきた……は、ねぇな。仮にそうだとすれば、もっと騒々しい筈だ。まさか……一人で脱出してきたのか?)

 思い当たるふしを羅列し、行き着いた答え。
 グーリフにとっては、『守るべき存在』であるフェリシアだ。そんな彼女が危険をかえりみず、敵地を単独突破して来てしまったかもしれない感覚がする。

(マジか……?そこまで不安にさせた……んだよなぁ、やっぱり。…………………………くそっ。情けねぇけど、何だか嬉しいじゃねぇかっ)

 いまだ横たわったままであったグーリフだが、その自然とにやけてしまう顔を隠す為に片手で顔を覆った。
 ウゲインはグーリフの視線が隠れた事で、先程とは違って妙に元気に叫んでいる。
 本能的な恐怖心から解放されたのだろう。身体の震えもわずかに収まっていた。

「………………ふぅ~」

 グーリフは深く息を吐く。
 己の状態を認識し、幾つか肉体的損傷はあるものの、動く事に問題がないと判断した。

 そして立ち上がる。ウゲインが視界の隅でびくついているが、グーリフの興味から既に外れていた。
 天井を確認しながら、フェリシアに近い方向を探す。すぐに当たりがついた為、グーリフは肉体を形成している魔力を意識する。

(封魔石は強度からして、俺の全力ならば破壊する事は容易だ。今の肉体は若干貧弱で魔力もかなり消費してるが、拳を魔力で覆うくらいなら出来るな。……っし、やってやろうじゃねぇの)

 その場にいるだけで魔力が削られる現状なのだ。魔力放出しようものなら、それ以上の虚脱感に襲われる。
 それでもフェリシアが近くにいるのならば、長々とこんなところにいる意味はない。臭気が強すぎて、既に嗅覚が機能停止している程なのだ。

 グーリフはわずかにかがむと同時に、魔力を纏わせて拳を強化する。そして、天井目掛けて飛び上がった。

 ガツンッ!

 幼い体躯の子供が放った一撃とは思えないような鈍い音が響き渡る。ついで、地響き。
 着地と同時に後方へ飛び退いていたグーリフは、己の上方じょうほうに空を確認した。

(っしゃあ~っ、一回で抜けたぜっ)

 喜びから目を細めて両拳を握り締めたグーリフは、チラリと周囲を確認する。
 ウゲインはパカンと口を大きく開きながら、唖然と天井に開いた穴に視線を固定していた。茫然自失としている今ならば、こちらの動きを邪魔する余裕はないだろう。
 もう一人のヒトの子供も、とりあえず無事のようだ。

 グーリフは再度腰をかがめる。そして勢い良く上へ飛び上がり、自分の開けた天井穴へ片手を掛けた。そして壁に足をつけ、身軽にその上へと這い上がる。

<フェル?>

 屋外へ脱出してすぐ、フェリシアの姿を捜した。周囲を見回わして安全を確認し、気配がする藁の山へ歩み寄る。
 両手で分けるようにしてそっと藁をければ、意識を失っているフェリシアを発見。

 クタリと全身の力が抜けているが、その姿も服装も、別れる前の状態と変わらなかった事に安堵した。
 抱き上げつつ、フェリシアの状態を調べる。
 大きな怪我はしていないようだが、両手が土にまみれている。それに合わせて指先がわずかに損傷し、爪の先にも割れや損傷が確認出来た。

<地面を……掘ったのか>

 フェリシアのいた辺りの屋敷壁面には穴が開いていて、大地には掘り起こした痕跡がある。獣型で掘った形跡があるものの、今はヒト型だ。
 そして剥き出しになっている封魔石の表面には、細やかなヒビ。状況から推察するに、封魔石に魔力をぶつけたのだと思われた。──そして現状が、魔力枯渇による昏睡状態であるのだという事も。

 フェリシアが理解した上で封魔石を破壊しようとしたのかまでは分からないが、破損された事で内側へ通じるものがあったのだろう。
 結果的にグーリフは助かったのだ。

<チッ……。しっかりしろ、フェル!>

 グーリフはスキル【以心伝心】テレパシーで呼び掛けつつ、即座にフェリシアに己の魔力を分け与えた。
 枯渇状態が長引けば、自己回復に時間が掛かる。グーリフも自分の魔力残量は少ないが、フェリシアの回復を促す程度のわずかな魔力譲渡に問題はなかった。──あったとしても、実行に移してしまいそうではあるが。

 実際問題、ここは敵地の真っ只中なのだ。グーリフまで倒れてしまっては、それこそフェリシアを守れない。
 魔力を幾らか譲渡していると、青白かったフェリシアの頬に赤みが戻った事を確認出来た。ちょうどその頃くらいから周囲がざわついてきた為、グーリフも警戒をし始める。
 さすがに幾らグーリフが強いといっても、意識を失っているフェリシアを抱えたままで囲まれてしまえば苦しいものがあった。
 複数人から同時に攻撃をされれば、両手が塞がっている現状では離脱する事も当然困難になる。

(さて……、どうすっかなぁ)

 まだ動けるが、既に肉体的損傷による疲労も魔力残量も厳しい状態だった。
 抱き締めているフェリシアの温かさだけが心を慰めるが、危機的状況に変わりはない。

「フェル~~~っ」
(何だか……助かるんだが、間抜けだよな)

 ここで登場するのはヨアキムだ。
 大音量でフェリシアの名を叫びながら、敵地に真っ向から飛び込んで来る。そしてその後ろから大慌てで追い掛けてくる、ベルナール他部下の面々だ。

 子守り役には酷だが、グーリフは屋敷の壁に背を預けながらとりあえずの終着に安堵する。──正直、もう眠い。
 けれども確実に気を抜ける場所ではない為、フェリシアを腕に抱いたままで意識を飛ばす訳にはいかなかった。

「フェルっ!」
「………………やぁ、オヤジ殿」
「………………お前に親父呼ばわりされるいわれはないぞ」
「……どうでも良い、そんな事」
「………………フェルは」
「……魔力枯渇で気を失ってるだけだ」
「………………そうか」
「あぁ。………………後は頼んで良いか?」
「………………任せろ」
「……ん」

 そんな会話がなされる。
 グーリフにとってはヨアキムも心許せる存在ではないのだが、フェリシアにとっての悪ではない事を理解していた。そして現状、自分はかなりボロボロである。
 壁に預けた背を離す事も出来ず、一度抜けた気持ちを盛り立てる気力もついえていた。そうして不本意ながら、グーリフはその意識を飛ばしたのである。
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