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2.異世界人の習性を実際に見てみた
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※ ※ ※ ※ ※
またしてもオレは、『ここは何処だ』状態である。
今回は真っ直ぐ進んできただけなので、先程とは少し違うかもしれないだけだ。けれどもオレの予想では町の出口に行く筈だった訳で、ここは明らかに違うと分かる。
「あら、坊や。ママを捜してるの?」
「可愛い子ね。綺麗な顔をしてるけど、男の子よね?」
「黒髪は珍しいから、初めて見る子よね?」
複数人の女性が囲ってきて、オレは質問責めにされた。──というか、ここでも『坊や』なのか。
オレは女性からも子供扱いされ、思わずムッとする。更には女性達の香水のにおいなのか、酷く鼻をついた。
「母親を捜してはいない。出口を探している」
「あら、ママじゃないの。でも出口って……、歓楽街の?」
「自分から入ってきたんだろうし、違うんじゃない?もしかしたら、リドツォルの出口の事かしら」
「そうだ、それ」
「え、でもこの時間って」
「うん、閉まってるわよね」
「何?」
「だって木の時から光の時までは締め切りだもの」
「そうよねぇ。早くても土の時にならないと、門番さん来ないもの」
次から次へと女性達が話すので、オレは聞き取れる言葉にだけ反応して返す事しか出来なかった。
けれどもこの状況でも、相手の人数が多いと会話が何となく成り立つものである。そして重要な情報を知る事も出来た。
町の出口は終日通行出来る訳ではないらしい。
「どうするの?ぼく」
「泊まるところはあるの?」
「あら、私のところに来ない?キミ可愛いから、相手してあげても良いわよ?」
「あら、嫌だ。それなら私のところに来てよ」
「私のところは?」
やたら露出が多い服装だと思ったが、どうやら水商売的な職業の方々なのだろう。
最終的には自分がと強引に売り込んできて、オレの腕やら服やらを引っ張り始めた。──どうして何処でも、こんなにオレに構うのか。放っておいてほしいものだ。
「おい、やめてやらんか」
そんな状態に眉根を寄せ始めていたオレの耳に、年配の男性の声が聞こえる。
実際には女性達に囲まれていた為、オレの視界は派手な薄手の布しか見えなかったが。
「あら、将軍」
「ツェシェルア様のお知り合い?」
「そうだ。ワシのところの客人だから、あまり無体はしないでやってくれぬかの」
そうして自然と開けられた人垣の向こうから、何処と無く見覚えのあるおじいさんが現れた。
白髪だが、見た事のある赤い瞳。杖をついた厳格な雰囲気の──あ、団長さんのおじいさん。
「ほら、トーリくん。ワシを迎えに来てくれたのだろう?」
おじいさんはシワの刻まれた顔に笑みを深め、オレと視線を合わせてくれた。
優しそうな瞳ではあるが、おじいさんの素性が分かった事で、オレは本来ならばここから立ち去るべきである。団長さんと関わらないと決めたのだから、おじいさんとも距離をあけるべきなのだ。
しかしながら、今この場でおじいさんに話を合わせないとするならば。オレは強引な女性達の誰かに、断りきれずに連れていかれそうな気がした。
さすがに害意をもって接近している訳ではない女性達に、オレが先に危害を加えてはいけないだろう。
そこでオレは内心で溜め息を吐きつつも、おじいさんの言葉に首肯した。
「あら、そうなの?」
「でも出口って」
「時間的に間違えただけじゃない?」
「どちらにしても閉まってるものね」
「それなら仕方ないわよね」
「あん、残念だわぁ?」
「そうよね。こんな可愛い子、初めて見たのに」
「それじゃあ、将軍様。またいらして下さいね」
「可愛い子、貴方もね」
「おぉ、またの。さぁ、行こうかトーリくん」
口々に囀ずる女性達を軽くあしらいながら、おじいさんはオレの背に手を当てて促してくれる。
そうして両サイドに大きな柱が立つ場所を抜けた。
「ここからは色町の外だ。……さて、トーリくん。どうしてあのような場所にいたのか、聞いても良いのかの?」
「………………町の出口を探してた」
「ふむ、迷子か。普通すぎて笑えない。まぁ、この町に不慣れならば仕方ないの」
渋々質問に答えれば、僅かに驚いた表情を浮かべた後に頷かれる。
『笑えない』とか言われたが、オレだって好きで行きたい方向を見付けられない訳ではないのだ。
「ともかく、だ。町を出るのはやめた方が良い。陽の見えない間は特に、肉を喰らう魔物が活動的だ。人は大人しく、食って寝るべし。その様子では、宿の用意はなさそうだの。うちに来るが良い」
「……嫌だ」
「ほぅ?ヴォストと何やらあったようだが、あれは基本的に騎士団の宿舎だ。屋敷にはそうそう戻ってこない。このままトーリくんに何かあれば、老い先短いワシは生涯悔やむ事になるだろうな」
「………………はぁ、周囲の絡みがウザい。オレは独りになりたいのに」
「ふむ。そういう事は、誰もいない場所で口にするものだ。ワシの屋敷に来れば食事と風呂、暖かい寝床を用意するだけだ。それ以上に構う事はせぬ」
「変な脅迫。もうそれで良い」
「うむ、決まりだの。行こうか、トーリくん」
一日中様々な人に絡まれ、もう精神的にかなり疲弊している。
団長さんはまだ口の回転が遅いので放置しておけるが、おじいさんは回避不可能だ。頭も口も、オレより断然早い。──人生経験の差か。
攻防は体力精神力共に削られる為、今回は諦める事が良策と判断したのだった。
またしてもオレは、『ここは何処だ』状態である。
今回は真っ直ぐ進んできただけなので、先程とは少し違うかもしれないだけだ。けれどもオレの予想では町の出口に行く筈だった訳で、ここは明らかに違うと分かる。
「あら、坊や。ママを捜してるの?」
「可愛い子ね。綺麗な顔をしてるけど、男の子よね?」
「黒髪は珍しいから、初めて見る子よね?」
複数人の女性が囲ってきて、オレは質問責めにされた。──というか、ここでも『坊や』なのか。
オレは女性からも子供扱いされ、思わずムッとする。更には女性達の香水のにおいなのか、酷く鼻をついた。
「母親を捜してはいない。出口を探している」
「あら、ママじゃないの。でも出口って……、歓楽街の?」
「自分から入ってきたんだろうし、違うんじゃない?もしかしたら、リドツォルの出口の事かしら」
「そうだ、それ」
「え、でもこの時間って」
「うん、閉まってるわよね」
「何?」
「だって木の時から光の時までは締め切りだもの」
「そうよねぇ。早くても土の時にならないと、門番さん来ないもの」
次から次へと女性達が話すので、オレは聞き取れる言葉にだけ反応して返す事しか出来なかった。
けれどもこの状況でも、相手の人数が多いと会話が何となく成り立つものである。そして重要な情報を知る事も出来た。
町の出口は終日通行出来る訳ではないらしい。
「どうするの?ぼく」
「泊まるところはあるの?」
「あら、私のところに来ない?キミ可愛いから、相手してあげても良いわよ?」
「あら、嫌だ。それなら私のところに来てよ」
「私のところは?」
やたら露出が多い服装だと思ったが、どうやら水商売的な職業の方々なのだろう。
最終的には自分がと強引に売り込んできて、オレの腕やら服やらを引っ張り始めた。──どうして何処でも、こんなにオレに構うのか。放っておいてほしいものだ。
「おい、やめてやらんか」
そんな状態に眉根を寄せ始めていたオレの耳に、年配の男性の声が聞こえる。
実際には女性達に囲まれていた為、オレの視界は派手な薄手の布しか見えなかったが。
「あら、将軍」
「ツェシェルア様のお知り合い?」
「そうだ。ワシのところの客人だから、あまり無体はしないでやってくれぬかの」
そうして自然と開けられた人垣の向こうから、何処と無く見覚えのあるおじいさんが現れた。
白髪だが、見た事のある赤い瞳。杖をついた厳格な雰囲気の──あ、団長さんのおじいさん。
「ほら、トーリくん。ワシを迎えに来てくれたのだろう?」
おじいさんはシワの刻まれた顔に笑みを深め、オレと視線を合わせてくれた。
優しそうな瞳ではあるが、おじいさんの素性が分かった事で、オレは本来ならばここから立ち去るべきである。団長さんと関わらないと決めたのだから、おじいさんとも距離をあけるべきなのだ。
しかしながら、今この場でおじいさんに話を合わせないとするならば。オレは強引な女性達の誰かに、断りきれずに連れていかれそうな気がした。
さすがに害意をもって接近している訳ではない女性達に、オレが先に危害を加えてはいけないだろう。
そこでオレは内心で溜め息を吐きつつも、おじいさんの言葉に首肯した。
「あら、そうなの?」
「でも出口って」
「時間的に間違えただけじゃない?」
「どちらにしても閉まってるものね」
「それなら仕方ないわよね」
「あん、残念だわぁ?」
「そうよね。こんな可愛い子、初めて見たのに」
「それじゃあ、将軍様。またいらして下さいね」
「可愛い子、貴方もね」
「おぉ、またの。さぁ、行こうかトーリくん」
口々に囀ずる女性達を軽くあしらいながら、おじいさんはオレの背に手を当てて促してくれる。
そうして両サイドに大きな柱が立つ場所を抜けた。
「ここからは色町の外だ。……さて、トーリくん。どうしてあのような場所にいたのか、聞いても良いのかの?」
「………………町の出口を探してた」
「ふむ、迷子か。普通すぎて笑えない。まぁ、この町に不慣れならば仕方ないの」
渋々質問に答えれば、僅かに驚いた表情を浮かべた後に頷かれる。
『笑えない』とか言われたが、オレだって好きで行きたい方向を見付けられない訳ではないのだ。
「ともかく、だ。町を出るのはやめた方が良い。陽の見えない間は特に、肉を喰らう魔物が活動的だ。人は大人しく、食って寝るべし。その様子では、宿の用意はなさそうだの。うちに来るが良い」
「……嫌だ」
「ほぅ?ヴォストと何やらあったようだが、あれは基本的に騎士団の宿舎だ。屋敷にはそうそう戻ってこない。このままトーリくんに何かあれば、老い先短いワシは生涯悔やむ事になるだろうな」
「………………はぁ、周囲の絡みがウザい。オレは独りになりたいのに」
「ふむ。そういう事は、誰もいない場所で口にするものだ。ワシの屋敷に来れば食事と風呂、暖かい寝床を用意するだけだ。それ以上に構う事はせぬ」
「変な脅迫。もうそれで良い」
「うむ、決まりだの。行こうか、トーリくん」
一日中様々な人に絡まれ、もう精神的にかなり疲弊している。
団長さんはまだ口の回転が遅いので放置しておけるが、おじいさんは回避不可能だ。頭も口も、オレより断然早い。──人生経験の差か。
攻防は体力精神力共に削られる為、今回は諦める事が良策と判断したのだった。
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