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3.町にいってみたけど何か違う
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※ ※ ※ ※ ※
目の前のクロスで覆われたテーブルに並べられた皿。パンと煮込み料理、果物は分かる。だがそれの近くにダーンと置かれた──これぞ肉って感じの、解体したばかりの生き物を焼きましたと言わんばかりの骨付き肉だ。
オレがその肉に視線を奪われていると、察したかのようにソロじいさんが大きめのナイフを取り出す。
「今日は食用魔獣を狩る事が出来てな」
「ふん……?」
「食用魔獣です、トーリ様」
「魔獣、なのか」
「そうさな。こいつは脂が甘いし、肉質も柔らかくて旨いのだ」
そう言いながら、ざっくりと切り分けてオレの前に置いてくれた。しかしながらそれでも腕の二倍はある大きさで、どうやって食べるのかと不思議に思う。
オレの目の前には金属製のフォークと、木製のスプーンがあるだけだ。せめてソロじいさんの使った様なナイフが──と思ったのだが、視線を向けた時に食べ方が判明する。
「うん、旨いのぅ」
がっつり手掴みで肉にかぶり付いたソロじいさんは、見た目の年齢より歯が丈夫なようだ。──否、それで良いのか。そういえば食事マナーとか、今日読んだ本には記載がなかったと思い出す。
周囲に視線を送れば、先程挨拶された団長さんの両親も団長さんも、同じ様に肉に噛り付いていた。ソロじいさんが切り分けた肉を、手掴みで。
そしてテーブルクロスで手を拭い、スプーンを使って煮込み料理を食べたりしている。
スプーンとフォークは使うのに、ナイフはソロじいさんの近くに一本だけだ。
肉は見た目からして脂が乗っていて、手を使えばギトギトになる事は深く考えなくとも分かる。
「どうしたんだ、トーリ。食べないのか?」
「……食べる」
普通の事のように問い掛けられ、逆に肉へ手をつけないオレが異質な反応だ。
これに口をつけなくては、招かれた側のオレが不満を表している事になりそうである。
そう判断し、オレは皿に置かれた肉へ手を伸ばした。
「トーリ様」
「ん?どうしたんだ、セス」
それまで大人しくオレの肩に乗り、一言も口を開かなかったセスである。
声を掛けてきた理由までは分からなかったが、とても小さな声であった為、オレもそれに合わせるように小声で応じた。
「いつも御使用の道具をお出しする事が可能です」
「あぁ……。大丈夫、郷に入っては郷に従えって言うからな。ありがとう、セス」
「出過ぎた真似を致しました、トーリ様」
「いや、気を遣ってくれてありがとう。ほしくなったらお願いするよ、セス」
「他に何かお困りの事が御座いましたら、セスにお申し付け下さいませ」
そして改めて肉へ手を伸ばすオレだったが、不意に団長さんからの視線に気付く。
顔を向ければ、じっとこちらを観察しているようだ。
「あ、いや……。不躾な視線を送ってすまない。やはり精霊様は、トーリとならば会話をするのだと思ってな」
「……そうか」
「あ……」
セスとオレの会話の内容を聞き取れたのかは不明だったが、話している様子は分かったようである。
団長さんは目の前でセスが口を利いた事を見ているから、これは団長さんの両親へ知らせる為のパフォーマンスかも知れなかった。
そう思ってさらりと話を受け流したのだが、団長さんは更に食い下がってくる。
「……何だ」
「あぁ~……その、トーリは普段……ど、とうやって食事をするんだ?あ、いや……すまない。先程の精霊様との会話が聞こえてしまったもので」
続けられた団長さんの問い掛けに、オレの眉根が寄った。──聞こえた、だと?
ここの食卓は無駄に広く、長い。
ソロじいさんの隣にオレが座っているが、それでも手を伸ばして漸く届く程度の距離感だ。そして対面に団長さん両親、団長さんと座っている。
だがテーブル自体の幅は、オレが転がっても落ちない程にあった。
場所的に団長さんは斜め前にいるが、その直線距離は人サイズで二人分以上あるかと思える程。それなのに、小声で会話していたセスとオレの会話が聞こえたという。
「人の話を盗み聞きして、更にはそれについて問い掛けるなどと。良くもまぁ、堂々と出来るものだ」
ピシャリとソロじいさんが告げた。
それに対して団長さんは、多少の罪悪感があるのだろう。苦い顔をしながら、視線を落としていた。
セスに興味がある事を悪いとは思わないが、相手の感情によるだろう。だいたい、迷惑そうな顔をしているセスが可哀想だ。
「はぁ……。ソロ、席を外しても良いか」
「ん?良いぞ。精霊様の方を優先してやってくれ」
「ありがとう」
オレはソロじいさんに了解をもらい、食卓を離席する。周囲が僅かにざわめいたが、もうどうだって良いと思えた。
そうしてオレは、初めにソロじいさんから宛がわれた部屋へ戻ってくる。──というか、ここしか場所を知らなかった。
否、話を盛った。ここまでもセスに案内してもらった。
「悪いな、セス」
「いいえ、トーリ様。セスを慮って下さり、感謝致します。ですが、トーリ様の食事をセスの不手際で中断させてしまいました」
「オレにはセスの方が大切だ」
「ありがたき幸せで御座います」
気分を悪くさせてしまって申し訳なく思ったのだが、セスはそれでもオレの事を気遣ってくれる。
こんなにオレの事を大切に思ってくれるセス。本当にオレは、セスとこの世界に来られて良かった。
目の前のクロスで覆われたテーブルに並べられた皿。パンと煮込み料理、果物は分かる。だがそれの近くにダーンと置かれた──これぞ肉って感じの、解体したばかりの生き物を焼きましたと言わんばかりの骨付き肉だ。
オレがその肉に視線を奪われていると、察したかのようにソロじいさんが大きめのナイフを取り出す。
「今日は食用魔獣を狩る事が出来てな」
「ふん……?」
「食用魔獣です、トーリ様」
「魔獣、なのか」
「そうさな。こいつは脂が甘いし、肉質も柔らかくて旨いのだ」
そう言いながら、ざっくりと切り分けてオレの前に置いてくれた。しかしながらそれでも腕の二倍はある大きさで、どうやって食べるのかと不思議に思う。
オレの目の前には金属製のフォークと、木製のスプーンがあるだけだ。せめてソロじいさんの使った様なナイフが──と思ったのだが、視線を向けた時に食べ方が判明する。
「うん、旨いのぅ」
がっつり手掴みで肉にかぶり付いたソロじいさんは、見た目の年齢より歯が丈夫なようだ。──否、それで良いのか。そういえば食事マナーとか、今日読んだ本には記載がなかったと思い出す。
周囲に視線を送れば、先程挨拶された団長さんの両親も団長さんも、同じ様に肉に噛り付いていた。ソロじいさんが切り分けた肉を、手掴みで。
そしてテーブルクロスで手を拭い、スプーンを使って煮込み料理を食べたりしている。
スプーンとフォークは使うのに、ナイフはソロじいさんの近くに一本だけだ。
肉は見た目からして脂が乗っていて、手を使えばギトギトになる事は深く考えなくとも分かる。
「どうしたんだ、トーリ。食べないのか?」
「……食べる」
普通の事のように問い掛けられ、逆に肉へ手をつけないオレが異質な反応だ。
これに口をつけなくては、招かれた側のオレが不満を表している事になりそうである。
そう判断し、オレは皿に置かれた肉へ手を伸ばした。
「トーリ様」
「ん?どうしたんだ、セス」
それまで大人しくオレの肩に乗り、一言も口を開かなかったセスである。
声を掛けてきた理由までは分からなかったが、とても小さな声であった為、オレもそれに合わせるように小声で応じた。
「いつも御使用の道具をお出しする事が可能です」
「あぁ……。大丈夫、郷に入っては郷に従えって言うからな。ありがとう、セス」
「出過ぎた真似を致しました、トーリ様」
「いや、気を遣ってくれてありがとう。ほしくなったらお願いするよ、セス」
「他に何かお困りの事が御座いましたら、セスにお申し付け下さいませ」
そして改めて肉へ手を伸ばすオレだったが、不意に団長さんからの視線に気付く。
顔を向ければ、じっとこちらを観察しているようだ。
「あ、いや……。不躾な視線を送ってすまない。やはり精霊様は、トーリとならば会話をするのだと思ってな」
「……そうか」
「あ……」
セスとオレの会話の内容を聞き取れたのかは不明だったが、話している様子は分かったようである。
団長さんは目の前でセスが口を利いた事を見ているから、これは団長さんの両親へ知らせる為のパフォーマンスかも知れなかった。
そう思ってさらりと話を受け流したのだが、団長さんは更に食い下がってくる。
「……何だ」
「あぁ~……その、トーリは普段……ど、とうやって食事をするんだ?あ、いや……すまない。先程の精霊様との会話が聞こえてしまったもので」
続けられた団長さんの問い掛けに、オレの眉根が寄った。──聞こえた、だと?
ここの食卓は無駄に広く、長い。
ソロじいさんの隣にオレが座っているが、それでも手を伸ばして漸く届く程度の距離感だ。そして対面に団長さん両親、団長さんと座っている。
だがテーブル自体の幅は、オレが転がっても落ちない程にあった。
場所的に団長さんは斜め前にいるが、その直線距離は人サイズで二人分以上あるかと思える程。それなのに、小声で会話していたセスとオレの会話が聞こえたという。
「人の話を盗み聞きして、更にはそれについて問い掛けるなどと。良くもまぁ、堂々と出来るものだ」
ピシャリとソロじいさんが告げた。
それに対して団長さんは、多少の罪悪感があるのだろう。苦い顔をしながら、視線を落としていた。
セスに興味がある事を悪いとは思わないが、相手の感情によるだろう。だいたい、迷惑そうな顔をしているセスが可哀想だ。
「はぁ……。ソロ、席を外しても良いか」
「ん?良いぞ。精霊様の方を優先してやってくれ」
「ありがとう」
オレはソロじいさんに了解をもらい、食卓を離席する。周囲が僅かにざわめいたが、もうどうだって良いと思えた。
そうしてオレは、初めにソロじいさんから宛がわれた部屋へ戻ってくる。──というか、ここしか場所を知らなかった。
否、話を盛った。ここまでもセスに案内してもらった。
「悪いな、セス」
「いいえ、トーリ様。セスを慮って下さり、感謝致します。ですが、トーリ様の食事をセスの不手際で中断させてしまいました」
「オレにはセスの方が大切だ」
「ありがたき幸せで御座います」
気分を悪くさせてしまって申し訳なく思ったのだが、セスはそれでもオレの事を気遣ってくれる。
こんなにオレの事を大切に思ってくれるセス。本当にオレは、セスとこの世界に来られて良かった。
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