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3.町にいってみたけど何か違う
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※ ※ ※ ※ ※
ノックの音が聞こえて、オレは扉へ視線を向ける。だが音の主は一向に入ってくる様子がなかった。
そして再び、ノックの音がする。
「トーリ」
「ソロ?」
「あぁ、ワシだ。食事を持って来させた。入ってもよいかの」
「……あぁ」
今度は声で相手が分かり、僅かに肩の力を抜くオレ。
だが、わざわざソロじいさんに食事を運ばせてしまった。──オレはセスだけではなく、こちらにも悪い事をしてしまったようである。
心苦しく思いながらも、オレは扉へ歩み寄ろうと腰を掛けていたソファーから立ち上がった。
そしてそのタイミングで扉が開かれ、入ってきた使用人の数に驚く。
料理が乗っているだろう台車を押す者、お盆のような物を持っている者。次から次へと部屋に入って来て、総勢五人もだ。
「これは……」
「あぁ、すまないトーリ。あちらにも人員を少しは残しておかないとならないので、少なくて申し訳ないのぅ」
「いや、そうではなく」
「ワシも一緒で構わないかのぉ?」
「それは良いが」
「では、ここへ運んでくれ。ん?どうしたんだ、トーリ」
「……いや」
オレが言い淀んでいる間に、あれよあれよと料理がテーブルに並べられる。
ソファー前のテーブルなので低めだが、先程の食事とは違い軽食に近いメニューとなっていた。
つまりは使用人の数はさておき、あちらはそのままで新しく作り直して来たという事である。
「座らないのか、トーリ。もしかして、また何か……」
「あ、いや………………ここまでしてもらって、すまない」
戸惑いのあまりに立ち尽くしていたオレに、ソロじいさんが不思議そうな表情を浮かべていた。
既にソファーに腰掛けているソロじいさんの前には、大きなグラスに紅茶のような赤みがかった飲み物。見たところビールに似ているが、泡立ちと炭酸が少なくて匂いも紅茶や花を連想させる。
「酒か?」
「うむ。トーリには申し訳ないが、食事は先程済ませてしまった。だがキミを独り食させる訳にはいかないからな。そういう言い訳で、ワシは酒とツマミなのだよ。だから気にせず、食事をしてくれないかのぉ」
「……分かった。ありがとう、ソロ」
そんなやり取りの後、オレはソロじいさんの対面のソファーに腰掛けた。
オレはそこで、改めてテーブルの上の料理を見回す。
「では遠慮なく食べてくれの」
「あぁ」
オレは先程の食事に殆ど手をつけていなかった為、ソロじいさんに言葉に従い、遠慮なく口に運んだ。──小声でセスが『こちらも安全です』と、薬物反応調査のような事をしてくれている。先程もそうだった。
飲み物が酒しかないのは痛いが、水が貴重なのだろうとこちらの世界観から想像は出来る。
そして言ってはダメかもしれないが、先程の夕食のメニューよりも食べやすそうだった。──何より手掴み食にも違和感がなく、他のものもフォークで食べられる。
薄く切った白パンに、薄切りの肉や野菜を挟んだサンドイッチ。
甘くないペイストリー生地で、塩コショウで味付けした肉とジャガイモ系や玉ねぎ系の詰め物を包んで焼いたもの。
そしてベーコンの塊のような塩味がしっかりとついた肉を蒸し焼きし、スライスした状態でプレートに乗っているもの。
前世でも同じ様な物を食べた事があり、味的にも多少濃いが飲み物が酒なので合うのだ。
オレも初めてアルコールを口にしたが、飲める体質のようで安心した事は内緒である。──これが下戸ならば、この世界で完全に生き残れない。ソフトドリンクが入手困難ならば尚更だ。
「トーリは酒に強いのぅ」
「……そうなのか?」
「顔にも出ないようだ。エールも平気だし、何よりワシと一緒にワインが飲めるとは嬉しいのぉ」
「そうか」
いつの間にか酒の種類が変わっていたが、オレは普通にソロじいさんと飲み食いを続けていた。
丸みを帯びたグラスで飲む、赤みを帯びた酒。渋味があるが、食べている肉が塩辛く脂身が強いので逆に旨い。
「あいつらはエールも酔うと抜かすから、ワシはいつも独り酒だったぞぉ」
「オレはこんなに飲んだのは初めてだ」
「そうなのか?それならば尚更、酔い潰れるまで飲むかのぅ」
初めて飲酒したオレは、少しばかり気が大きくなっていたようだ。そして同じものを飲み食いしていた為か、珍しくセスもオレの肩の上でうつらうつらしている。
それをオレは、この場の安心感からなせる事だと判断してしまったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆sideヴォスト
いつまで経っても戻ってこない祖父を捜して、俺はトーリに宛がわれている部屋までやって来た。
ここに来ている筈だけれども、灯りは漏れているが話し声が聞こえない。
「お祖父様……。入りますよ?」
ノックをしても返答がなく、仕方なく了解がないままに扉を開けた。そして目にした光景に、俺は暫くその場に立ち尽くしてしまう。
そこには珍しく机に突っ伏して眠っている祖父と、ソファーに横たわっているトーリがいた。
使用人達は既に帰したようで、部屋には祖父とトーリ、精霊様のみである。──ちなみに精霊様は、定位置のトーリの肩の上で丸まっていた。
テーブルの上は飲み残しの酒が僅かに入ったグラスと、少しのツマミだ。どうやら2人で飲み交わしていたらしい。──羨ましい。
俺は両親と同じで、飲料の主体であるエールなどがあまり身体に合わないのだ。祖父に付き合わされて、何度も潰されている。
「トーリ……」
声を掛けても起きない彼は、普段より血色の良い頬をしていた。
先程の食事時、俺の失態で彼と精霊様を不快にさせてしまった事を思い出す。
そして眺めていた俺は、自然と彼の頬へと指先が伸びていた。
ノックの音が聞こえて、オレは扉へ視線を向ける。だが音の主は一向に入ってくる様子がなかった。
そして再び、ノックの音がする。
「トーリ」
「ソロ?」
「あぁ、ワシだ。食事を持って来させた。入ってもよいかの」
「……あぁ」
今度は声で相手が分かり、僅かに肩の力を抜くオレ。
だが、わざわざソロじいさんに食事を運ばせてしまった。──オレはセスだけではなく、こちらにも悪い事をしてしまったようである。
心苦しく思いながらも、オレは扉へ歩み寄ろうと腰を掛けていたソファーから立ち上がった。
そしてそのタイミングで扉が開かれ、入ってきた使用人の数に驚く。
料理が乗っているだろう台車を押す者、お盆のような物を持っている者。次から次へと部屋に入って来て、総勢五人もだ。
「これは……」
「あぁ、すまないトーリ。あちらにも人員を少しは残しておかないとならないので、少なくて申し訳ないのぅ」
「いや、そうではなく」
「ワシも一緒で構わないかのぉ?」
「それは良いが」
「では、ここへ運んでくれ。ん?どうしたんだ、トーリ」
「……いや」
オレが言い淀んでいる間に、あれよあれよと料理がテーブルに並べられる。
ソファー前のテーブルなので低めだが、先程の食事とは違い軽食に近いメニューとなっていた。
つまりは使用人の数はさておき、あちらはそのままで新しく作り直して来たという事である。
「座らないのか、トーリ。もしかして、また何か……」
「あ、いや………………ここまでしてもらって、すまない」
戸惑いのあまりに立ち尽くしていたオレに、ソロじいさんが不思議そうな表情を浮かべていた。
既にソファーに腰掛けているソロじいさんの前には、大きなグラスに紅茶のような赤みがかった飲み物。見たところビールに似ているが、泡立ちと炭酸が少なくて匂いも紅茶や花を連想させる。
「酒か?」
「うむ。トーリには申し訳ないが、食事は先程済ませてしまった。だがキミを独り食させる訳にはいかないからな。そういう言い訳で、ワシは酒とツマミなのだよ。だから気にせず、食事をしてくれないかのぉ」
「……分かった。ありがとう、ソロ」
そんなやり取りの後、オレはソロじいさんの対面のソファーに腰掛けた。
オレはそこで、改めてテーブルの上の料理を見回す。
「では遠慮なく食べてくれの」
「あぁ」
オレは先程の食事に殆ど手をつけていなかった為、ソロじいさんに言葉に従い、遠慮なく口に運んだ。──小声でセスが『こちらも安全です』と、薬物反応調査のような事をしてくれている。先程もそうだった。
飲み物が酒しかないのは痛いが、水が貴重なのだろうとこちらの世界観から想像は出来る。
そして言ってはダメかもしれないが、先程の夕食のメニューよりも食べやすそうだった。──何より手掴み食にも違和感がなく、他のものもフォークで食べられる。
薄く切った白パンに、薄切りの肉や野菜を挟んだサンドイッチ。
甘くないペイストリー生地で、塩コショウで味付けした肉とジャガイモ系や玉ねぎ系の詰め物を包んで焼いたもの。
そしてベーコンの塊のような塩味がしっかりとついた肉を蒸し焼きし、スライスした状態でプレートに乗っているもの。
前世でも同じ様な物を食べた事があり、味的にも多少濃いが飲み物が酒なので合うのだ。
オレも初めてアルコールを口にしたが、飲める体質のようで安心した事は内緒である。──これが下戸ならば、この世界で完全に生き残れない。ソフトドリンクが入手困難ならば尚更だ。
「トーリは酒に強いのぅ」
「……そうなのか?」
「顔にも出ないようだ。エールも平気だし、何よりワシと一緒にワインが飲めるとは嬉しいのぉ」
「そうか」
いつの間にか酒の種類が変わっていたが、オレは普通にソロじいさんと飲み食いを続けていた。
丸みを帯びたグラスで飲む、赤みを帯びた酒。渋味があるが、食べている肉が塩辛く脂身が強いので逆に旨い。
「あいつらはエールも酔うと抜かすから、ワシはいつも独り酒だったぞぉ」
「オレはこんなに飲んだのは初めてだ」
「そうなのか?それならば尚更、酔い潰れるまで飲むかのぅ」
初めて飲酒したオレは、少しばかり気が大きくなっていたようだ。そして同じものを飲み食いしていた為か、珍しくセスもオレの肩の上でうつらうつらしている。
それをオレは、この場の安心感からなせる事だと判断してしまったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆sideヴォスト
いつまで経っても戻ってこない祖父を捜して、俺はトーリに宛がわれている部屋までやって来た。
ここに来ている筈だけれども、灯りは漏れているが話し声が聞こえない。
「お祖父様……。入りますよ?」
ノックをしても返答がなく、仕方なく了解がないままに扉を開けた。そして目にした光景に、俺は暫くその場に立ち尽くしてしまう。
そこには珍しく机に突っ伏して眠っている祖父と、ソファーに横たわっているトーリがいた。
使用人達は既に帰したようで、部屋には祖父とトーリ、精霊様のみである。──ちなみに精霊様は、定位置のトーリの肩の上で丸まっていた。
テーブルの上は飲み残しの酒が僅かに入ったグラスと、少しのツマミだ。どうやら2人で飲み交わしていたらしい。──羨ましい。
俺は両親と同じで、飲料の主体であるエールなどがあまり身体に合わないのだ。祖父に付き合わされて、何度も潰されている。
「トーリ……」
声を掛けても起きない彼は、普段より血色の良い頬をしていた。
先程の食事時、俺の失態で彼と精霊様を不快にさせてしまった事を思い出す。
そして眺めていた俺は、自然と彼の頬へと指先が伸びていた。
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