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3.町にいってみたけど何か違う
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そうして身支度が終わった頃、控え気味に軽く扉が叩かれた。
「トーリ様。朝食の御用意が整っておりますが、こちらで御召し上がりになられますか?」
「……すまないが不要だ。それより、ソロに会えないか?」
「かしこまりました。では確認して参りますので、暫くお待ち下さいませ」
使用人らしき女性の声に、オレは緊張しながら応じる。食事はセスにお願いするつもりだったし、何より昨日の夕食風景みたいな事は二度と御免だった。
オレはセスが一番大切で、セスが不愉快になるような事は嫌だから。団長さんは悪気がないのかもしれないが、セスはあまり好ましく思っていない様子なのだ。可能な限り近寄らせたくない。
再び控え気味に扉が叩かれた。
先程の使用人だろうか。
「トーリ様。大旦那様が御会いになられるそうです。後程こちらへ参られるとの事でしたが、少し御時間を頂きたいとの御伝言です」
「分かった。ソロの食事後で構わない」
「かしこまりました。御伝え致します」
扉越しに会話をしてくれるので、幾分かオレを気遣ってくれているようだ。──もしかしたら怖がられているのかもしれないが。
とにかく、ソロじいさんへ伝言がきちんと伝われば問題がない。
オレとしても、ここの人達へ危害を加えたい訳ではない。理由がどうであれ、距離を保ってくれるに越したことはなかった。
「セス。ソロに確認を取ってからになるが、図書館に行こうと思う」
「はい、トーリ様。では、先に何か召し上がりますか?」
「あ~……、そうだな。えっと、クロワッサンサンドイッチが食べたい。あと、カフェオレ」
「かしこまりました、トーリ様。では、こちらへ」
「ありがとう、セス」
ベッド横の小さなテーブルセットに腰掛け、セスが亜空間から出してくれたクロワッサンサンドイッチを頬張った。
ゆで卵がマッシュされてマヨネーズであえてある、オレの大好きなたまごサンド。そして少し濃いめのカフェオレと一緒に、これが旨い。
セスもイタチ姿ではあるが、器用に両手を使って口に運んでいた。初めて見た時には酷く驚いたが、実際の獣ではないのである。──ちなみに、獣臭もしない。
そうしてセスとオレが朝食を食べ終わった頃。
再び控え気味に扉が叩かれた。
「トーリ。ワシだ」
「ソロ?」
「トーリ様。彼の者はいませんので、御安心下さいませ」
「ありがとう、セス。ソロ、どうぞ」
「失礼するよ、トーリ」
昨夜同様、団長さんが一緒にいたらどうしようかと緊張したオレ。でも問い掛ける前にセスが小声で教えてくれたので、安堵してソロじいさんを迎える。
「昨夜はすまないねぇ、トーリ。……ヴォストが何か仕出かしたようだが、問うても口を割らん。自分でも理解していない様子で、押し黙ったままでのぅ」
「いや……、オレも正直分からない。オレこそ、部屋を壊してしまってすまない」
「あぁ、あれは良いのだ。もとはヴォストが直接の原因。ワシこそ、不愉快にさせてしまって申し訳ない」
「ソロが悪い訳ではない。ただ、オレは町を出る」
「な……ワシが言えた義理ではないのぅ。すぐにかの?」
「いや。その前に図書館に行こうと思う」
「それならば、ワシに案内させてくれ」
「……?……昨日行ったから、場所は分かる」
「いや、その……。ワシも昨日行きそびれてしまったからのぉ。今日こそは読書に興じたいのだよ」
「あぁ……、分かった」
「ありがとう、トーリ」
そうして、図書館へはソロじいさんも一緒に行く事になった。
確かに彼は昨日、団長さんとのやり取りの後で踵を返してしまっている。
そもそも歩いて行ける距離だ。セスもソロじいさんの事は嫌っていないようで、視線を向けた時に首肯していたので問題ないだろう。
「では、先にこれを食べて待っていてくれないか。ワシは馬車を用意してくるからのぉ」
「待ってくれ、これは。それに、馬車って何だ」
「あぁ、これはトーリの朝食だよ。共に食事をしたくないようだったんで、手早く作ってきたのだ。今すぐ要らなければ後で食べてもらっても構わない。あと、朝方は馬車を使った方が良い。人通りが激しいのでな」
「……逆に気を遣わせてしまったか」
「問題ないさ。では準備が整ったら、また声を掛けるからのぅ」
「分かった」
そんなやり取りをして、ソロじいさんが退室していった。彼は少し強引なところがある。それに、オレが断る隙を与えない頭脳派だ。
思い返せば、昨夜もそんな流れでこの屋敷に留まる事になったのである。
もしかして、オレは流され体質なのだろうか。今まで──前世も含めて、そう感じた事はなかった。
だが自覚していなかっただけで──この異世界転生もそうだが、周囲のごり押しに耐性が無さすぎるのかもしれない。
「トーリ様。そちらは御召し上がりになられないのでしたら、セスが亜空間に収納しておきます」
「あぁ、そうだな。とりあえず今は食べない。頼むよ、セス」
「かしこまりました」
自己反省していると、セスからそんな提案を受けた。
そういえばオレは鞄一つ持っていない訳で、セスに言われて初めて気付く。ソロじいさんからもらった食事を、ずっと手に持っている訳にもいかないのだ。
そうしてセスの亜空間に収納してもらったあと、オレはセスに手頃な鞄を出してもらう。
帆布製の鞄なら、この世界でもそれ程違和感を感じられないだろうと思っての選択だった。
「トーリ様。朝食の御用意が整っておりますが、こちらで御召し上がりになられますか?」
「……すまないが不要だ。それより、ソロに会えないか?」
「かしこまりました。では確認して参りますので、暫くお待ち下さいませ」
使用人らしき女性の声に、オレは緊張しながら応じる。食事はセスにお願いするつもりだったし、何より昨日の夕食風景みたいな事は二度と御免だった。
オレはセスが一番大切で、セスが不愉快になるような事は嫌だから。団長さんは悪気がないのかもしれないが、セスはあまり好ましく思っていない様子なのだ。可能な限り近寄らせたくない。
再び控え気味に扉が叩かれた。
先程の使用人だろうか。
「トーリ様。大旦那様が御会いになられるそうです。後程こちらへ参られるとの事でしたが、少し御時間を頂きたいとの御伝言です」
「分かった。ソロの食事後で構わない」
「かしこまりました。御伝え致します」
扉越しに会話をしてくれるので、幾分かオレを気遣ってくれているようだ。──もしかしたら怖がられているのかもしれないが。
とにかく、ソロじいさんへ伝言がきちんと伝われば問題がない。
オレとしても、ここの人達へ危害を加えたい訳ではない。理由がどうであれ、距離を保ってくれるに越したことはなかった。
「セス。ソロに確認を取ってからになるが、図書館に行こうと思う」
「はい、トーリ様。では、先に何か召し上がりますか?」
「あ~……、そうだな。えっと、クロワッサンサンドイッチが食べたい。あと、カフェオレ」
「かしこまりました、トーリ様。では、こちらへ」
「ありがとう、セス」
ベッド横の小さなテーブルセットに腰掛け、セスが亜空間から出してくれたクロワッサンサンドイッチを頬張った。
ゆで卵がマッシュされてマヨネーズであえてある、オレの大好きなたまごサンド。そして少し濃いめのカフェオレと一緒に、これが旨い。
セスもイタチ姿ではあるが、器用に両手を使って口に運んでいた。初めて見た時には酷く驚いたが、実際の獣ではないのである。──ちなみに、獣臭もしない。
そうしてセスとオレが朝食を食べ終わった頃。
再び控え気味に扉が叩かれた。
「トーリ。ワシだ」
「ソロ?」
「トーリ様。彼の者はいませんので、御安心下さいませ」
「ありがとう、セス。ソロ、どうぞ」
「失礼するよ、トーリ」
昨夜同様、団長さんが一緒にいたらどうしようかと緊張したオレ。でも問い掛ける前にセスが小声で教えてくれたので、安堵してソロじいさんを迎える。
「昨夜はすまないねぇ、トーリ。……ヴォストが何か仕出かしたようだが、問うても口を割らん。自分でも理解していない様子で、押し黙ったままでのぅ」
「いや……、オレも正直分からない。オレこそ、部屋を壊してしまってすまない」
「あぁ、あれは良いのだ。もとはヴォストが直接の原因。ワシこそ、不愉快にさせてしまって申し訳ない」
「ソロが悪い訳ではない。ただ、オレは町を出る」
「な……ワシが言えた義理ではないのぅ。すぐにかの?」
「いや。その前に図書館に行こうと思う」
「それならば、ワシに案内させてくれ」
「……?……昨日行ったから、場所は分かる」
「いや、その……。ワシも昨日行きそびれてしまったからのぉ。今日こそは読書に興じたいのだよ」
「あぁ……、分かった」
「ありがとう、トーリ」
そうして、図書館へはソロじいさんも一緒に行く事になった。
確かに彼は昨日、団長さんとのやり取りの後で踵を返してしまっている。
そもそも歩いて行ける距離だ。セスもソロじいさんの事は嫌っていないようで、視線を向けた時に首肯していたので問題ないだろう。
「では、先にこれを食べて待っていてくれないか。ワシは馬車を用意してくるからのぉ」
「待ってくれ、これは。それに、馬車って何だ」
「あぁ、これはトーリの朝食だよ。共に食事をしたくないようだったんで、手早く作ってきたのだ。今すぐ要らなければ後で食べてもらっても構わない。あと、朝方は馬車を使った方が良い。人通りが激しいのでな」
「……逆に気を遣わせてしまったか」
「問題ないさ。では準備が整ったら、また声を掛けるからのぅ」
「分かった」
そんなやり取りをして、ソロじいさんが退室していった。彼は少し強引なところがある。それに、オレが断る隙を与えない頭脳派だ。
思い返せば、昨夜もそんな流れでこの屋敷に留まる事になったのである。
もしかして、オレは流され体質なのだろうか。今まで──前世も含めて、そう感じた事はなかった。
だが自覚していなかっただけで──この異世界転生もそうだが、周囲のごり押しに耐性が無さすぎるのかもしれない。
「トーリ様。そちらは御召し上がりになられないのでしたら、セスが亜空間に収納しておきます」
「あぁ、そうだな。とりあえず今は食べない。頼むよ、セス」
「かしこまりました」
自己反省していると、セスからそんな提案を受けた。
そういえばオレは鞄一つ持っていない訳で、セスに言われて初めて気付く。ソロじいさんからもらった食事を、ずっと手に持っている訳にもいかないのだ。
そうしてセスの亜空間に収納してもらったあと、オレはセスに手頃な鞄を出してもらう。
帆布製の鞄なら、この世界でもそれ程違和感を感じられないだろうと思っての選択だった。
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