SEIREI ── せい れい ── 自然に好かれるオレはハッピーライフをおくる

まひる

文字の大きさ
21 / 53
3.町にいってみたけど何か違う

3-4

しおりを挟む
 そうして身支度が終わった頃、控え気味に軽く扉が叩かれた。

「トーリ様。朝食の御用意が整っておりますが、こちらで御召し上がりになられますか?」
「……すまないが不要だ。それより、ソロに会えないか?」
「かしこまりました。では確認して参りますので、しばらくお待ち下さいませ」

 使用人らしき女性の声に、オレは緊張しながら応じる。食事はセスにお願いするつもりだったし、何より昨日の夕食風景みたいな事は二度と御免だった。
 オレはセスが一番大切で、セスが不愉快になるような事は嫌だから。団長さんは悪気がないのかもしれないが、セスはあまり好ましく思っていない様子なのだ。可能な限り近寄らせたくない。

 再び控え気味に扉が叩かれた。
 先程の使用人だろうか。

「トーリ様。大旦那様が御会いになられるそうです。後程こちらへ参られるとの事でしたが、少し御時間を頂きたいとの御伝言です」
「分かった。ソロの食事後で構わない」
「かしこまりました。御伝え致します」

 扉越しに会話をしてくれるので、幾分かオレを気遣ってくれているようだ。──もしかしたら怖がられているのかもしれないが。
 とにかく、ソロじいさんへ伝言がきちんと伝われば問題がない。
 オレとしても、ここの人達へ危害を加えたい訳ではない。理由がどうであれ、距離を保ってくれるに越したことはなかった。

「セス。ソロに確認を取ってからになるが、図書館に行こうと思う」
「はい、トーリ様。では、先に何か召し上がりますか?」
「あ~……、そうだな。えっと、クロワッサンサンドイッチが食べたい。あと、カフェオレ」
「かしこまりました、トーリ様。では、こちらへ」
「ありがとう、セス」

 ベッド横の小さなテーブルセットに腰掛け、セスが亜空間から出してくれたクロワッサンサンドイッチを頬張った。
 ゆで卵がマッシュされてマヨネーズであえてある、オレの大好きなたまごサンド。そして少し濃いめのカフェオレと一緒に、これが旨い。
 セスもイタチ姿ではあるが、器用に両手を使って口に運んでいた。初めて見た時には酷く驚いたが、実際の獣ではないのである。──ちなみに、獣臭もしない。

 そうしてセスとオレが朝食を食べ終わった頃。
 再び控え気味に扉が叩かれた。

「トーリ。ワシだ」
「ソロ?」
「トーリ様。の者はいませんので、御安心下さいませ」
「ありがとう、セス。ソロ、どうぞ」
「失礼するよ、トーリ」

 昨夜同様、団長さんが一緒にいたらどうしようかと緊張したオレ。でも問い掛ける前にセスが小声で教えてくれたので、安堵してソロじいさんを迎える。

「昨夜はすまないねぇ、トーリ。……ヴォストが何か仕出かしたようだが、問うても口を割らん。自分でも理解していない様子で、押し黙ったままでのぅ」
「いや……、オレも正直分からない。オレこそ、部屋を壊してしまってすまない」
「あぁ、あれは良いのだ。もとはヴォストが直接の原因。ワシこそ、不愉快にさせてしまって申し訳ない」
「ソロが悪い訳ではない。ただ、オレは町を出る」
「な……ワシが言えた義理ではないのぅ。すぐにかの?」
「いや。その前に図書館に行こうと思う」
「それならば、ワシに案内させてくれ」
「……?……昨日行ったから、場所は分かる」
「いや、その……。ワシも昨日行きそびれてしまったからのぉ。今日こそは読書に興じたいのだよ」
「あぁ……、分かった」
「ありがとう、トーリ」

 そうして、図書館へはソロじいさんも一緒に行く事になった。
 確かに彼は昨日、団長さんとのやり取りの後できびすを返してしまっている。
 そもそも歩いて行ける距離だ。セスもソロじいさんの事は嫌っていないようで、視線を向けた時に首肯していたので問題ないだろう。

「では、先にこれを食べて待っていてくれないか。ワシは馬車を用意してくるからのぉ」
「待ってくれ、これは。それに、馬車って何だ」
「あぁ、これはトーリの朝食だよ。共に食事をしたくないようだったんで、手早く作ってきたのだ。今すぐ要らなければ後で食べてもらっても構わない。あと、朝方は馬車を使った方が良い。人通りが激しいのでな」
「……逆に気を遣わせてしまったか」
「問題ないさ。では準備が整ったら、また声を掛けるからのぅ」
「分かった」

 そんなやり取りをして、ソロじいさんが退室していった。彼は少し強引なところがある。それに、オレが断る隙を与えない頭脳派だ。
 思い返せば、昨夜もそんな流れでこの屋敷に留まる事になったのである。

 もしかして、オレは流され体質なのだろうか。今まで──前世も含めて、そう感じた事はなかった。
 だが自覚していなかっただけで──この異世界転生もそうだが、周囲のごり押しに耐性が無さすぎるのかもしれない。

「トーリ様。そちらは御召し上がりになられないのでしたら、セスが亜空間に収納しておきます」
「あぁ、そうだな。とりあえず今は食べない。頼むよ、セス」
「かしこまりました」

 自己反省していると、セスからそんな提案を受けた。
 そういえばオレは鞄一つ持っていない訳で、セスに言われて初めて気付く。ソロじいさんからもらった食事を、ずっと手に持っている訳にもいかないのだ。
 そうしてセスの亜空間に収納してもらったあと、オレはセスに手頃な鞄を出してもらう。
 帆布はんぷ製の鞄なら、この世界でもそれ程違和感を感じられないだろうと思っての選択だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

処理中です...