26 / 53
3.町にいってみたけど何か違う
3-9
しおりを挟む
※ ※ ※ ※ ※
それから五日が経過した。
何故『五日』なのか。──そう。通常ならば二、三日もあれば回復すると言われていた魔力欠乏症である。
それが五日もベッドの住人となってしまったオレだ。
「さすがです、トーリ様。総数、百を超える精霊との契約で御座いました」
「……あぁ、そうみたいだ」
まだ気だるさが抜けきらないオレだったが、何とか室内移動程度ならば自力でこなせる程度までは回復している。
実際にはあの翌日、寝て起きた時には半分程度まで回復していたのだ。
それがここまで長引いたのは、あの後もオレの周囲から離れなかった精霊達が、次から次へと契約を申し込んできたからである。
さすがに起き上がる事すら出来なくなったオレを見て、セスがキレた。
魔力残量が数値で確認出来る訳ではないので正確には分からないが、オレが歩行困難に陥る手前になると精霊を引き離すという、マネージャー的行動に出たのである。──セスがいなければ魔力が枯渇して、オレはミイラのようになっていたかもしれない。
ともあれ、結果的にオレは集まった全ての精霊との契約を完了したのだ。
その数、百六。──これが何故か不思議と、感覚で分かる。七つの種別ごとにそれぞれ、十から三十程だ。恐らく偏りがあるのは、オレ自身との属性的な相性もあるのだろう。
「トーリ様。彼の者が近付いて来ています」
「……またか」
「排除致しますか?」
セスが緊迫したような空気で毛を逆立たせた。これは団長さんが来た時に見せる反応で、オレもこの五日の間に何度となく体験したので知っている。
最低、朝晩の二回はこの部屋にやって来る団長さんだ。表向きはオレの見舞いとしてではあるが、セスがその都度かなり警戒するのである。
あまりにセスが嫌っているようなので、オレとしてもお近づきになりたくなかった。
「ソロは?」
「共にいないようです」
「そうか。それなら扉に近付けないようにしてくれ。今は休みたい」
「かしこまりました、トーリ様」
セスにお願いして、団長さんに会わないで良いようにしてもらう。
風の魔力で壁を作れるので、シールド的なもので扉をガードしてくれる筈だ。
とにかくオレは身体を休めて、魔力を回復させたい。そして早くこの町を出たいのだ。──オレとしては、セス欲しさで暴走した団長さんに暗殺されるのも嫌だし。
セスの態度から好かれていない事を察して欲しいのだが、団長さんは折れない性格らしい。
この部屋に顔を出す度に剣呑な雰囲気のセスを見つめているのに、ここへ立ち寄らないという選択肢は存在していないようなのだ。
オレの気疲れ要因の一つでもある。
そうして団長さんの訪問を拒絶したオレは、再びベッドに身体を沈めた。──やはり、このふわふわ布団は最高である。
※ ※ ※ ※ ※
どれくらい時間が経ったのか、オレはいつの間にか爆睡していたようだ。
目覚めた時には周囲が薄暗く、既に日が暮れている事が分かる。
「お目覚めですか、トーリ様」
「あぁ。セス、今は何時頃だ?」
「はい。この世界の時間で言うなれば、木の時でございます。何度か訪問者が御座いましたが、全て追い払ってございます」
「……そうか。手間を掛けさせたな」
「いいえ、トーリ様。深く御休みになられていたので、セスは邪魔者を排除しただけです。何か御召し上がりになられますか?」
「あぁ……、そうだな。うどんが食べたい」
「かしこまりました、トーリ様」
そうして幾分軽くなった身体を感じながら、近くのテーブルにうどんを出してもらった。
セスの亜空間は本当に便利で、オレの想像する通りの品物を出す事が出来る。温度も大きさも関係なく、更には思うまま某ファストフードのバーガーやチキンも普通に出せるのだ。
当然の事ながらお盆や箸は完備で、定食にしたり漬物を添えたりも出来る。──最高だ。
そうしてセスと二人で海老天うどんを食べた。異世界で衣食住に全く困らないのもセスがいるからで、非常に助かっている。
ちなみにセスもうどんを食べたのだが、さすがに箸は使わず手掴みだった。それ故にか熱いのは好みでないようで、普段からオレが食べるものより少し温度を下げた同じものを食べている。
「あ、セス。あの布団も亜空間に入れておくな」
「はい、トーリ様。どの様なものでも、お気に召した時に御想像下さいませ」
「いつもありがとう」
「セスはトーリ様と共にあれる事が喜びでございます」
食べ終わった食器類をセスが亜空間に戻したところで、思い出したようにオレは言った。
連日ふわふわ布団で寝ていたので、既に手放し難く思っていたのである。こうしていつでもオレの思い浮かべる想像物をセスの亜空間に格納出来るので、この世界の金銭を持っていなくても不都合がないのだ。
「……そろそろここから出るか」
「はい、トーリ様。いつでも出立出来ますので、お声掛け下さいませ」
セスの楽しそうな声音に後押しされるように、オレは身の回りに自分のものがないか確認する。
とはいえ、いつ人が入ってきても良いように、基本的にオレのものは出しておかないようにしているのだ。理由として第一に、この世界のものではないものが多いから。
さすがに電化製品を出したりはしていないが、恐らく発電機を出せば問題なく使えるだろう。燃料すら、オレは用意出来るのだ。
それから五日が経過した。
何故『五日』なのか。──そう。通常ならば二、三日もあれば回復すると言われていた魔力欠乏症である。
それが五日もベッドの住人となってしまったオレだ。
「さすがです、トーリ様。総数、百を超える精霊との契約で御座いました」
「……あぁ、そうみたいだ」
まだ気だるさが抜けきらないオレだったが、何とか室内移動程度ならば自力でこなせる程度までは回復している。
実際にはあの翌日、寝て起きた時には半分程度まで回復していたのだ。
それがここまで長引いたのは、あの後もオレの周囲から離れなかった精霊達が、次から次へと契約を申し込んできたからである。
さすがに起き上がる事すら出来なくなったオレを見て、セスがキレた。
魔力残量が数値で確認出来る訳ではないので正確には分からないが、オレが歩行困難に陥る手前になると精霊を引き離すという、マネージャー的行動に出たのである。──セスがいなければ魔力が枯渇して、オレはミイラのようになっていたかもしれない。
ともあれ、結果的にオレは集まった全ての精霊との契約を完了したのだ。
その数、百六。──これが何故か不思議と、感覚で分かる。七つの種別ごとにそれぞれ、十から三十程だ。恐らく偏りがあるのは、オレ自身との属性的な相性もあるのだろう。
「トーリ様。彼の者が近付いて来ています」
「……またか」
「排除致しますか?」
セスが緊迫したような空気で毛を逆立たせた。これは団長さんが来た時に見せる反応で、オレもこの五日の間に何度となく体験したので知っている。
最低、朝晩の二回はこの部屋にやって来る団長さんだ。表向きはオレの見舞いとしてではあるが、セスがその都度かなり警戒するのである。
あまりにセスが嫌っているようなので、オレとしてもお近づきになりたくなかった。
「ソロは?」
「共にいないようです」
「そうか。それなら扉に近付けないようにしてくれ。今は休みたい」
「かしこまりました、トーリ様」
セスにお願いして、団長さんに会わないで良いようにしてもらう。
風の魔力で壁を作れるので、シールド的なもので扉をガードしてくれる筈だ。
とにかくオレは身体を休めて、魔力を回復させたい。そして早くこの町を出たいのだ。──オレとしては、セス欲しさで暴走した団長さんに暗殺されるのも嫌だし。
セスの態度から好かれていない事を察して欲しいのだが、団長さんは折れない性格らしい。
この部屋に顔を出す度に剣呑な雰囲気のセスを見つめているのに、ここへ立ち寄らないという選択肢は存在していないようなのだ。
オレの気疲れ要因の一つでもある。
そうして団長さんの訪問を拒絶したオレは、再びベッドに身体を沈めた。──やはり、このふわふわ布団は最高である。
※ ※ ※ ※ ※
どれくらい時間が経ったのか、オレはいつの間にか爆睡していたようだ。
目覚めた時には周囲が薄暗く、既に日が暮れている事が分かる。
「お目覚めですか、トーリ様」
「あぁ。セス、今は何時頃だ?」
「はい。この世界の時間で言うなれば、木の時でございます。何度か訪問者が御座いましたが、全て追い払ってございます」
「……そうか。手間を掛けさせたな」
「いいえ、トーリ様。深く御休みになられていたので、セスは邪魔者を排除しただけです。何か御召し上がりになられますか?」
「あぁ……、そうだな。うどんが食べたい」
「かしこまりました、トーリ様」
そうして幾分軽くなった身体を感じながら、近くのテーブルにうどんを出してもらった。
セスの亜空間は本当に便利で、オレの想像する通りの品物を出す事が出来る。温度も大きさも関係なく、更には思うまま某ファストフードのバーガーやチキンも普通に出せるのだ。
当然の事ながらお盆や箸は完備で、定食にしたり漬物を添えたりも出来る。──最高だ。
そうしてセスと二人で海老天うどんを食べた。異世界で衣食住に全く困らないのもセスがいるからで、非常に助かっている。
ちなみにセスもうどんを食べたのだが、さすがに箸は使わず手掴みだった。それ故にか熱いのは好みでないようで、普段からオレが食べるものより少し温度を下げた同じものを食べている。
「あ、セス。あの布団も亜空間に入れておくな」
「はい、トーリ様。どの様なものでも、お気に召した時に御想像下さいませ」
「いつもありがとう」
「セスはトーリ様と共にあれる事が喜びでございます」
食べ終わった食器類をセスが亜空間に戻したところで、思い出したようにオレは言った。
連日ふわふわ布団で寝ていたので、既に手放し難く思っていたのである。こうしていつでもオレの思い浮かべる想像物をセスの亜空間に格納出来るので、この世界の金銭を持っていなくても不都合がないのだ。
「……そろそろここから出るか」
「はい、トーリ様。いつでも出立出来ますので、お声掛け下さいませ」
セスの楽しそうな声音に後押しされるように、オレは身の回りに自分のものがないか確認する。
とはいえ、いつ人が入ってきても良いように、基本的にオレのものは出しておかないようにしているのだ。理由として第一に、この世界のものではないものが多いから。
さすがに電化製品を出したりはしていないが、恐らく発電機を出せば問題なく使えるだろう。燃料すら、オレは用意出来るのだ。
0
あなたにおすすめの小説
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる