31 / 53
4.人が住んでいない森に家を建てて暮らしてみる
4-4
しおりを挟む
※ ※ ※ ※ ※
「トーリ様はお優しすぎます」
「そうか?」
散々食べた獣人の子は、今は腹を出して寝ている。
その光景はとても和むが、腹部の膨らみに比べると手足が細すぎるのが余計に目立った。
種族単位の確執などは分からないが、リドツォルの町では同じ人間族しか見ていない。
種族間で違う集落を形成しているのかもしれないが、この獣人の子は明らかに不当な暴力の痕跡があるのだ。
「町で他の種族を見たか?」
「いいえ、トーリ様。先のリドツォルでは丸耳のヒト族しか見ていません。町全体を散策した訳ではありませんので、確実な事は分かりかねますが」
「そうだな。でもそうすると、この子は……」
セスとオレが二人で話していると、急に獣人の子の様子が変わる。
大の字になって心地良さそうに寝ていたそれまでと違って、背中を丸めて苦しそうに震えているのだ。
「……め、なさ……。ぐすっ……るし、て……め……なさ……」
途切れ途切れに聞こえてくる圧し殺した泣き声と謝罪の言葉だろうそれ。
こんなに小さな子供が、どうしてここまで苦しまないとならないのか。オレは他者に対してあまり深く関わらない性質だったが、泣いて震える幼子を放置しておける程冷徹でもない。
「大丈夫だ。もうここにはキミを苦しめるものはない」
静かにベッドに歩み寄ったオレは、少しぎこちなくではあるもののその子の頭を撫でていた。
慣れない自分の行動に驚きもするが、それ以上にオレにしがみつくようにその子が抱き付いてきた事に驚愕して固まる。けれども人肌恋しいのかすがり付きたい心境なのか、腹部へ回された腕からはオレに対する悪意を感じなかった。
「トーリ様。排除致しますか?」
「……いや、問題ない。敵意も害意も感じない」
「それはそうですが、セスはあまりセス以外をトーリ様に近付けたくはありません」
「すまない。だがせめてこの子が自力で行動出来るようになるまで、な」
「申し訳ございません、トーリ様。セスはトーリ様の決定に反する事は致しません」
「ありがとう、セス」
獣人の子の頭を撫でつつ、静かにベッドに腰を下ろす。
とりあえずセスを説得する事に成功したようで、一安心だ。けれどもセスってば過保護なあまりか、すぐオレ以外を『排除』しようとする。
この発言を聞く度、毎回心臓が縮まるのだ。こういうのも何だが、オレは小心者だから本当にやめてほしい。
「さっきの話。この子の背景を聞き出せると良いのだが」
「……そうですね」
「とにかく、今は休ませるしかないな」
「はい、トーリ様。ではもう一つベッドをお出し致します」
獣人の子も撫でている内に落ち着いたようで、再び穏やかな寝息を立てていた。その様子を暫く見ているうちに、オレにも睡魔が歩み寄ってくる。
久し振りに森の中を見て歩いて、何だかんだ色々驚きもあって疲れた。しかも猫耳獣人がいるとか超ファンタジーなんだけど。
オレは内心一人で物凄く盛り上がっていたのだが、セスの言葉にベッドを追加で設置する必要性を思い出した。獣人の子がいつまでここにいるかは不明だが、さすがに寝る場所は別に準備しておかなければならない。
「あぁ、そうして……ん、手を放してくれそうにないな」
「では、排除いたし」
「それは良いから」
「ですが」
「このまま少し寝る。後で部屋をもう一つ作ろう」
「……はい、トーリ様」
手を少しばかり強引に外そうと思ったのだが──この獣人の子、やたら力が強い。オレの腹部に回された腕は折れそうな程細いのに、がっしりオレの服を掴んで放さないのだ。
何これ、くっそ可愛いんだけど。引き離そうとすると、いやいやをするみたいに腹にグリグリ頭を押し付けて来て。出ないけどミルク出してやりたくなる。 母性──いや、父性かこれ。
しがみつく動物が小猿かコアラくらいしか思い浮かばないが、オレの脳内イメージが母親の腹にくっつく子動物を連想させた。だがそうこうしている妄想がヤバい方向へ暴走しそうになった為、オレは思考を放棄する。
そのまま獣人の子を配慮しつつ、コロッとベッドに身体を横たえた。
起きたら部屋を追加して、この子の休む場所を整えよう。そういえばセスが不満そうだった。そうか。もしかしたらセスの部屋もないのに、この子の部屋をって言ったからかもな。
オレは夢うつつとなる思考の中で、いつも共に寝ているセスを思い浮かべる。
小さな白イタチであるセスは、大きく場所を必要としないので当然のようにオレと同じベッドに寝ていた。獣臭くもないし、排泄を失敗する事もない為、普通の動物のような対応を必要としないのである。
けれども、オレと言葉を交わす事が出来る知能ある生体だ。これはもう一度、セスの意見をきちんと聞いてみなくてはならない。
言葉ではいつもオレ優先でいてくれるが、感情も思考もあるセスの本心は分からないのだ。普通に人間と同じように好みもあれば、良し悪しの判断がオレと違う事もあるだろう。──そう思うと、オレはかなりセスに甘えすぎている。
ダメじゃん、オレ。今日なんて、何度もセスの言葉を無下にしてなかったか。不快さをみせていた事に気付いていたのにも関わらず、強引にオレの意見を突き通してしまっていたじゃないか。見捨てられたらどうするよ、オレ。
「トーリ様はお優しすぎます」
「そうか?」
散々食べた獣人の子は、今は腹を出して寝ている。
その光景はとても和むが、腹部の膨らみに比べると手足が細すぎるのが余計に目立った。
種族単位の確執などは分からないが、リドツォルの町では同じ人間族しか見ていない。
種族間で違う集落を形成しているのかもしれないが、この獣人の子は明らかに不当な暴力の痕跡があるのだ。
「町で他の種族を見たか?」
「いいえ、トーリ様。先のリドツォルでは丸耳のヒト族しか見ていません。町全体を散策した訳ではありませんので、確実な事は分かりかねますが」
「そうだな。でもそうすると、この子は……」
セスとオレが二人で話していると、急に獣人の子の様子が変わる。
大の字になって心地良さそうに寝ていたそれまでと違って、背中を丸めて苦しそうに震えているのだ。
「……め、なさ……。ぐすっ……るし、て……め……なさ……」
途切れ途切れに聞こえてくる圧し殺した泣き声と謝罪の言葉だろうそれ。
こんなに小さな子供が、どうしてここまで苦しまないとならないのか。オレは他者に対してあまり深く関わらない性質だったが、泣いて震える幼子を放置しておける程冷徹でもない。
「大丈夫だ。もうここにはキミを苦しめるものはない」
静かにベッドに歩み寄ったオレは、少しぎこちなくではあるもののその子の頭を撫でていた。
慣れない自分の行動に驚きもするが、それ以上にオレにしがみつくようにその子が抱き付いてきた事に驚愕して固まる。けれども人肌恋しいのかすがり付きたい心境なのか、腹部へ回された腕からはオレに対する悪意を感じなかった。
「トーリ様。排除致しますか?」
「……いや、問題ない。敵意も害意も感じない」
「それはそうですが、セスはあまりセス以外をトーリ様に近付けたくはありません」
「すまない。だがせめてこの子が自力で行動出来るようになるまで、な」
「申し訳ございません、トーリ様。セスはトーリ様の決定に反する事は致しません」
「ありがとう、セス」
獣人の子の頭を撫でつつ、静かにベッドに腰を下ろす。
とりあえずセスを説得する事に成功したようで、一安心だ。けれどもセスってば過保護なあまりか、すぐオレ以外を『排除』しようとする。
この発言を聞く度、毎回心臓が縮まるのだ。こういうのも何だが、オレは小心者だから本当にやめてほしい。
「さっきの話。この子の背景を聞き出せると良いのだが」
「……そうですね」
「とにかく、今は休ませるしかないな」
「はい、トーリ様。ではもう一つベッドをお出し致します」
獣人の子も撫でている内に落ち着いたようで、再び穏やかな寝息を立てていた。その様子を暫く見ているうちに、オレにも睡魔が歩み寄ってくる。
久し振りに森の中を見て歩いて、何だかんだ色々驚きもあって疲れた。しかも猫耳獣人がいるとか超ファンタジーなんだけど。
オレは内心一人で物凄く盛り上がっていたのだが、セスの言葉にベッドを追加で設置する必要性を思い出した。獣人の子がいつまでここにいるかは不明だが、さすがに寝る場所は別に準備しておかなければならない。
「あぁ、そうして……ん、手を放してくれそうにないな」
「では、排除いたし」
「それは良いから」
「ですが」
「このまま少し寝る。後で部屋をもう一つ作ろう」
「……はい、トーリ様」
手を少しばかり強引に外そうと思ったのだが──この獣人の子、やたら力が強い。オレの腹部に回された腕は折れそうな程細いのに、がっしりオレの服を掴んで放さないのだ。
何これ、くっそ可愛いんだけど。引き離そうとすると、いやいやをするみたいに腹にグリグリ頭を押し付けて来て。出ないけどミルク出してやりたくなる。 母性──いや、父性かこれ。
しがみつく動物が小猿かコアラくらいしか思い浮かばないが、オレの脳内イメージが母親の腹にくっつく子動物を連想させた。だがそうこうしている妄想がヤバい方向へ暴走しそうになった為、オレは思考を放棄する。
そのまま獣人の子を配慮しつつ、コロッとベッドに身体を横たえた。
起きたら部屋を追加して、この子の休む場所を整えよう。そういえばセスが不満そうだった。そうか。もしかしたらセスの部屋もないのに、この子の部屋をって言ったからかもな。
オレは夢うつつとなる思考の中で、いつも共に寝ているセスを思い浮かべる。
小さな白イタチであるセスは、大きく場所を必要としないので当然のようにオレと同じベッドに寝ていた。獣臭くもないし、排泄を失敗する事もない為、普通の動物のような対応を必要としないのである。
けれども、オレと言葉を交わす事が出来る知能ある生体だ。これはもう一度、セスの意見をきちんと聞いてみなくてはならない。
言葉ではいつもオレ優先でいてくれるが、感情も思考もあるセスの本心は分からないのだ。普通に人間と同じように好みもあれば、良し悪しの判断がオレと違う事もあるだろう。──そう思うと、オレはかなりセスに甘えすぎている。
ダメじゃん、オレ。今日なんて、何度もセスの言葉を無下にしてなかったか。不快さをみせていた事に気付いていたのにも関わらず、強引にオレの意見を突き通してしまっていたじゃないか。見捨てられたらどうするよ、オレ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる