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4.人が住んでいない森に家を建てて暮らしてみる
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※ ※ ※ ※ ※
──そんな事を思っていた日もあったよな。
オレは遠い目で宙を見つめながら、心の中で呟いた。
獣人の子を連れてきてから、今日で三週間経過である。以前図書館でこの国の暦を学んだけれど、人の集落で生活していないオレには無縁だった。でも七日で一週間だから、それだけは分かりやすい。あ、日って言うんだった。
今は森の中で暮らしているけど、集落の人に会わないとは限らないし。勝手に住み着いてるから税金とか知らないけど、とりあえず異世界人に出合った時に激しい違和感を感じさせない心掛けは必要だと思っている。別に他人にどう思われようが良いけど、敵対視されて攻撃されるのは迷惑だからだ。
オレは、可能ならば平和に安穏とした人生でありたいと思う。──とか何とか言っても、異世界トリップしてる時点で平和からは掛け離れてしまってるがな。
それに精霊契約についても、知らない間にこの世界常識から外れてしまっているらしい。ソロから聞いた話では、一人につき精霊契約が一つとの事。
稀に二つ同時契約が成された実例もあるらしいが、それこそ建国以前の嘘か本当か定かではないような逸話なのだとか。──オレ、それどころか全色だし。しかも全精霊契約数が百六とか、化け物じみているって。
おかしな奴等に利用されそうで、誰にも言わないし言うつもりもない。けど残念ながら、集落入り口で精霊石に触れたら多色持ちなのが即バレなのだ。
前回のリドツォルで団長さんが出てきたのもその為で、まぁ何とかあの時はセスの存在に助けられて誤魔化せたのである。──実際はオレ自身も、その時に精霊契約してなかったから知らなかったがな。
とまぁ語ってしまったが、今は。
「あっ!セス、ズルい!ティユもぉ!」
「うるさいです。これはセスの仕事ですので、ティユは違う事を探しなさい」
「ティユもそれやりたいっ」
「何故、毎回セスの仕事を奪おうとするのですか」
「違うもんっ。ティユがやろうと思ってた仕事だもんっ」
オレの目の前で、小さな白イタチと猫獣人の子が一枚の雑巾を引っ張り合っていた。
この丸太小屋は大きくないものの、掃除をしなければ当然汚れが溜まる。セスは細々と掃除やオレの身の回りの世話に気を回してくれるのだが、ティユがここに来てから少しだけ変化があった。
ティユはセスが出すオレの想像した食事が気に入ったようで、元気になってからも住み着いてしまったのである。
こんな小さな子供を森へ追い出す訳にもいかない。それに何らかの迫害を受けて傷だらけだったティユを知っているのだから、町や村へ強引に連れていく気にもならなかった。
ティユがオレと出会う前にどのような待遇を受けてきたか聞いた事もあるが、思い出させようとすると酷く精神的に不安定になる。結局親がいない事と名前、年齢くらいしか聞き出せなかった。
けれどもセスは『食事を無償で提供出来ない』と言い、何でも良いから仕事をしろと告げたのである。六歳の子供に何をさせる気かと思っていたけど、これもセスなりの教育の一環のようだった。
掃除の仕方から洗濯の仕方など、魔力を使わなくても出来る生きる為に必要な事を教え込んでいたんだよな。──おかげで既にオレよりも生活能力が高いんだ。
そもそもオレは、セスが色々してくれる為に自分から行動しない。第一、しようと思った時には手を回されているのだ。ダメ人間まっしぐらのオレである。
掃除や洗濯、食事の世話を全て周囲から与えられる今のオレ。仮にセスとティユが少しの間いなくとも、精霊がオレの思いを叶えてしまう。
単に精霊はオレからの感謝の気持ちという名の、魔力対価が物理的に欲しいだけなのだ。──この辺りは欲望に正直なティユと似ている。
「ではこちらはティユに任せます。隅々まで手を抜かずに、床の水拭きを頼みます」
「はあい~」
「トーリ様。お茶を御持ちします」
「あぁ、ありがとうセス」
少しだけ小腹空いたなとか思えば、すぐにセスが察してくれた。自分が動かずに事が済むなんて、将来のオレはデブデブテカテカなキモおやじになるだろう。
自分で想像しておいて愕然としたオレは、もう少し真面目に筋トレをしようと心に決めた。
とはいえ、オレは四六時中セスとティユと共にいる。
二人用に部屋もベッドも用意してあるのに、何故か寝る場所はオレの周囲なのだ。頭部付近にセスが陣取り、横辺りから足下周辺をティユが占めている。
何度も自分達の部屋で寝るように言ったが、聞き入れられる事は未だにない。──解せぬ。
そんな思考の中にいたオレだったが、脳内に鈴の音が鳴り響いた。これは良く言うならばチャイム、悪く言うならば警報である。
「トーリ様」
「あぁ。侵入者だな」
周囲に風の結界を張り巡らせているセスが、静かな声音でオレに確認をしてきた。
この様子から、魔獣の類いではないだろう。逆に能ある存在──ヒトであると予想出来た。
ヒト種に至っては、目的があれば多少の『嫌な感じ』程度では道を避けてくれない。この森の中で生活をするようになってかなりなるが、今のところティユ以外に良識あるヒト種に出会った事がなかった。
大概は森の中で薬草などの採取か、肉となる生物を目的とした狩りの為らしい。そしてそのどれもが、己の手を煩わせる事を厭う者達が主体となって動いていたのだ。
──そんな事を思っていた日もあったよな。
オレは遠い目で宙を見つめながら、心の中で呟いた。
獣人の子を連れてきてから、今日で三週間経過である。以前図書館でこの国の暦を学んだけれど、人の集落で生活していないオレには無縁だった。でも七日で一週間だから、それだけは分かりやすい。あ、日って言うんだった。
今は森の中で暮らしているけど、集落の人に会わないとは限らないし。勝手に住み着いてるから税金とか知らないけど、とりあえず異世界人に出合った時に激しい違和感を感じさせない心掛けは必要だと思っている。別に他人にどう思われようが良いけど、敵対視されて攻撃されるのは迷惑だからだ。
オレは、可能ならば平和に安穏とした人生でありたいと思う。──とか何とか言っても、異世界トリップしてる時点で平和からは掛け離れてしまってるがな。
それに精霊契約についても、知らない間にこの世界常識から外れてしまっているらしい。ソロから聞いた話では、一人につき精霊契約が一つとの事。
稀に二つ同時契約が成された実例もあるらしいが、それこそ建国以前の嘘か本当か定かではないような逸話なのだとか。──オレ、それどころか全色だし。しかも全精霊契約数が百六とか、化け物じみているって。
おかしな奴等に利用されそうで、誰にも言わないし言うつもりもない。けど残念ながら、集落入り口で精霊石に触れたら多色持ちなのが即バレなのだ。
前回のリドツォルで団長さんが出てきたのもその為で、まぁ何とかあの時はセスの存在に助けられて誤魔化せたのである。──実際はオレ自身も、その時に精霊契約してなかったから知らなかったがな。
とまぁ語ってしまったが、今は。
「あっ!セス、ズルい!ティユもぉ!」
「うるさいです。これはセスの仕事ですので、ティユは違う事を探しなさい」
「ティユもそれやりたいっ」
「何故、毎回セスの仕事を奪おうとするのですか」
「違うもんっ。ティユがやろうと思ってた仕事だもんっ」
オレの目の前で、小さな白イタチと猫獣人の子が一枚の雑巾を引っ張り合っていた。
この丸太小屋は大きくないものの、掃除をしなければ当然汚れが溜まる。セスは細々と掃除やオレの身の回りの世話に気を回してくれるのだが、ティユがここに来てから少しだけ変化があった。
ティユはセスが出すオレの想像した食事が気に入ったようで、元気になってからも住み着いてしまったのである。
こんな小さな子供を森へ追い出す訳にもいかない。それに何らかの迫害を受けて傷だらけだったティユを知っているのだから、町や村へ強引に連れていく気にもならなかった。
ティユがオレと出会う前にどのような待遇を受けてきたか聞いた事もあるが、思い出させようとすると酷く精神的に不安定になる。結局親がいない事と名前、年齢くらいしか聞き出せなかった。
けれどもセスは『食事を無償で提供出来ない』と言い、何でも良いから仕事をしろと告げたのである。六歳の子供に何をさせる気かと思っていたけど、これもセスなりの教育の一環のようだった。
掃除の仕方から洗濯の仕方など、魔力を使わなくても出来る生きる為に必要な事を教え込んでいたんだよな。──おかげで既にオレよりも生活能力が高いんだ。
そもそもオレは、セスが色々してくれる為に自分から行動しない。第一、しようと思った時には手を回されているのだ。ダメ人間まっしぐらのオレである。
掃除や洗濯、食事の世話を全て周囲から与えられる今のオレ。仮にセスとティユが少しの間いなくとも、精霊がオレの思いを叶えてしまう。
単に精霊はオレからの感謝の気持ちという名の、魔力対価が物理的に欲しいだけなのだ。──この辺りは欲望に正直なティユと似ている。
「ではこちらはティユに任せます。隅々まで手を抜かずに、床の水拭きを頼みます」
「はあい~」
「トーリ様。お茶を御持ちします」
「あぁ、ありがとうセス」
少しだけ小腹空いたなとか思えば、すぐにセスが察してくれた。自分が動かずに事が済むなんて、将来のオレはデブデブテカテカなキモおやじになるだろう。
自分で想像しておいて愕然としたオレは、もう少し真面目に筋トレをしようと心に決めた。
とはいえ、オレは四六時中セスとティユと共にいる。
二人用に部屋もベッドも用意してあるのに、何故か寝る場所はオレの周囲なのだ。頭部付近にセスが陣取り、横辺りから足下周辺をティユが占めている。
何度も自分達の部屋で寝るように言ったが、聞き入れられる事は未だにない。──解せぬ。
そんな思考の中にいたオレだったが、脳内に鈴の音が鳴り響いた。これは良く言うならばチャイム、悪く言うならば警報である。
「トーリ様」
「あぁ。侵入者だな」
周囲に風の結界を張り巡らせているセスが、静かな声音でオレに確認をしてきた。
この様子から、魔獣の類いではないだろう。逆に能ある存在──ヒトであると予想出来た。
ヒト種に至っては、目的があれば多少の『嫌な感じ』程度では道を避けてくれない。この森の中で生活をするようになってかなりなるが、今のところティユ以外に良識あるヒト種に出会った事がなかった。
大概は森の中で薬草などの採取か、肉となる生物を目的とした狩りの為らしい。そしてそのどれもが、己の手を煩わせる事を厭う者達が主体となって動いていたのだ。
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