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6.ここが魔の森だって知らなかった
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※ ※ ※ ※ ※
「何でダメなの~っ」
「生態系が崩れる恐れがあります」
「分かんない~っ」
「どうであれダメです」
声を張り上げるティユに対し、セスが淡々とダメ出しをしている。
オレが風呂から出た時にはこうなっていたのだが、ティユは半分涙目になっていた。
「どうした」
「トーリ様」
「トーリ様~っ」
声を掛けた途端。パタパタと駆け寄ってきたティユが、オレの腰辺りにしがみついて顔を腹部に押し付けて来る。
ここに来てからは栄養のある食べ物を充分食べられるからか、体格も子供特有のふんわりした感じになったティユ。金色の猫もふもふも、艶があって触り心地が良いのだ。
「珍しいな、ティユ。セスに食って掛かるのは」
「だってぇ~」
「ダメです、トーリ様。今のティユは反抗期です」
「違うもんっ」
「違わないですね。決め事は絶対です」
「意地悪イタチ~っ」
椅子の上からオレの足下までやって来たセスは、二本脚で立ち上がってから告げた。
ティユが反抗期、か。まぁ無くはないだろうな、そもまだ未就学児だ。
ところで、二人で何の話だろうか。セスが決め事とか言っていたが。
しかしながら、セスが告げている内容にオレが横槍を入れるのはダメだろう。
例えばあれだ。母親が注意をしていて、父親が正反対の事を言っては子供を混乱させる。自分の都合の良い事しか耳に入れなくなってしまっては、先々で本人が困るだろう。
オレはそう判断すると、二人をそのままで椅子へ腰掛ける。すると、すぐさまセスがテーブルに冷たいカフェオレを用意してくれた。さすがはセスである。風呂上がりに摘めたい飲み物。気が利く。
謝意を告げ、カップを口にしながら窓から外を眺める。とても平和な時が流れていた。
※ ※ ※ ※ ※
穏やかな日々は、そう長くは続かないようだ。
朝早くにセスから告げられた内容に、オレは焦って外に飛び出したのである。
「……何処だ、ここ」
呟くオレの耳には、思うような返答は返ってこない。
今現在、広大な森の中で絶賛迷子中だった。
少し前。セスから、魔の森で獣人が丸耳族に追われていると報告を受けた。
その時のオレは熟睡中だったのだが、申し訳なさそうに告げたセス。でもオレが『獣人の危機を感知したらどんな場合でも教えてくれるように』と念を押していた事もあり、就寝中にも関わらず起こしてくれたのだ。
それから急いで服を着て、ティユに留守番を告げてから森へ入る。いつものように肩に乗せたセスのナビで、目的地へ向かっていた──のだが。
激しい音と光。それに伴う爆風で突然足下が無くなり、落ちた。
恐らく冒険者だろう相手からの攻撃により、セスの防御が前方へ集中。その直後、オレの足下の地面が消えた。
理由は分からないが、突如急降下したオレにセスがついてくる事はなく。オレは突然襲った力に引っ張られるまま、体勢を崩した。
落下はそれ程長くはなかったと思うが、気付くと誰もいない森の中に立っていたオレ。
落ちた筈なのに。体勢を崩した筈なのに。普通に地面に立っていた。──はい、今ここ。
森の中。周囲からは物音一つ、気配すら感じない。
これは異常な事だった。
木々の中にあれば、自然と様々な生態の立てる微かな音や気配があって然るべき。それが皆無なのである。
オレはその場に立ち尽くしたまま、とりあえず今後を考えた。
方向が分からないばかりか、精霊たちも見えない。
あれ程オレの周囲を漂っていた精霊たちが、全くいない事もおかしい。これは、何者かの結界に招かれてしまったのだと気付かされた。
「はぁ……。で、何の用」
魔の森でセスより強い者。それは黒竜以外にはいないだろう。
オレはセスがいないと創造物を実体化出来ない為、はっきり言って単独ではヨワヨワである。しかも魔法を使う為の精霊たちもいないので、本当に己の肉体しかない。
そんな現実に思い切り溜め息を吐きながら、オレは視線を上へ向けた。
何故かは不明だが、何となくそんな感じがしたのである。
『ほぅ。我を恐れぬのか』
身体に響く重低音。グルルという唸り声と共に、何故か日本語が聞こえるオレの耳だ。
この世界に来てから思った事だが。どうやらオレには、万能翻訳機能が搭載されているらしい。丸耳族と呼ばれるヒト族も。ふさふさ獣人もツルヒヤ獣人も変わらず、オレは対話が可能だった。
そして山羊的動物や鶏的動物などの動物も、水牛的魔獣のような魔獣も同様で。鳴き声と日本語が同時に聞こえる便利仕様だ。
初めはセスだけが特別かと思ったが。──まてよ。セスはオレ以外のヒトとも会話可能だったな。
ともあれ。自然に好かれるという神様プレゼントは、こんなに大きなものだった。
「別に。敵意を向けられた訳でもないし、悪意も感じない。……それともまさか、怖がってほしいのか?」
『……否』
「それなら良いだろ。で、何かオレに用があったから呼んだんじゃないのか」
見えない何かと、上空に向かって喋っていたが。
予想していただけに驚きもしないが、溶けるように景色が変わって目前に現れた黒い影。三階建ての建物より大きな、岩のような巨体を持つ黒き竜である。
トカゲを巨大化したような、黒い鱗に覆われたその肌。背中には蝙蝠のような膜状の翼があって、四肢は体格に合わせて非常に頑丈そうだった。
「何でダメなの~っ」
「生態系が崩れる恐れがあります」
「分かんない~っ」
「どうであれダメです」
声を張り上げるティユに対し、セスが淡々とダメ出しをしている。
オレが風呂から出た時にはこうなっていたのだが、ティユは半分涙目になっていた。
「どうした」
「トーリ様」
「トーリ様~っ」
声を掛けた途端。パタパタと駆け寄ってきたティユが、オレの腰辺りにしがみついて顔を腹部に押し付けて来る。
ここに来てからは栄養のある食べ物を充分食べられるからか、体格も子供特有のふんわりした感じになったティユ。金色の猫もふもふも、艶があって触り心地が良いのだ。
「珍しいな、ティユ。セスに食って掛かるのは」
「だってぇ~」
「ダメです、トーリ様。今のティユは反抗期です」
「違うもんっ」
「違わないですね。決め事は絶対です」
「意地悪イタチ~っ」
椅子の上からオレの足下までやって来たセスは、二本脚で立ち上がってから告げた。
ティユが反抗期、か。まぁ無くはないだろうな、そもまだ未就学児だ。
ところで、二人で何の話だろうか。セスが決め事とか言っていたが。
しかしながら、セスが告げている内容にオレが横槍を入れるのはダメだろう。
例えばあれだ。母親が注意をしていて、父親が正反対の事を言っては子供を混乱させる。自分の都合の良い事しか耳に入れなくなってしまっては、先々で本人が困るだろう。
オレはそう判断すると、二人をそのままで椅子へ腰掛ける。すると、すぐさまセスがテーブルに冷たいカフェオレを用意してくれた。さすがはセスである。風呂上がりに摘めたい飲み物。気が利く。
謝意を告げ、カップを口にしながら窓から外を眺める。とても平和な時が流れていた。
※ ※ ※ ※ ※
穏やかな日々は、そう長くは続かないようだ。
朝早くにセスから告げられた内容に、オレは焦って外に飛び出したのである。
「……何処だ、ここ」
呟くオレの耳には、思うような返答は返ってこない。
今現在、広大な森の中で絶賛迷子中だった。
少し前。セスから、魔の森で獣人が丸耳族に追われていると報告を受けた。
その時のオレは熟睡中だったのだが、申し訳なさそうに告げたセス。でもオレが『獣人の危機を感知したらどんな場合でも教えてくれるように』と念を押していた事もあり、就寝中にも関わらず起こしてくれたのだ。
それから急いで服を着て、ティユに留守番を告げてから森へ入る。いつものように肩に乗せたセスのナビで、目的地へ向かっていた──のだが。
激しい音と光。それに伴う爆風で突然足下が無くなり、落ちた。
恐らく冒険者だろう相手からの攻撃により、セスの防御が前方へ集中。その直後、オレの足下の地面が消えた。
理由は分からないが、突如急降下したオレにセスがついてくる事はなく。オレは突然襲った力に引っ張られるまま、体勢を崩した。
落下はそれ程長くはなかったと思うが、気付くと誰もいない森の中に立っていたオレ。
落ちた筈なのに。体勢を崩した筈なのに。普通に地面に立っていた。──はい、今ここ。
森の中。周囲からは物音一つ、気配すら感じない。
これは異常な事だった。
木々の中にあれば、自然と様々な生態の立てる微かな音や気配があって然るべき。それが皆無なのである。
オレはその場に立ち尽くしたまま、とりあえず今後を考えた。
方向が分からないばかりか、精霊たちも見えない。
あれ程オレの周囲を漂っていた精霊たちが、全くいない事もおかしい。これは、何者かの結界に招かれてしまったのだと気付かされた。
「はぁ……。で、何の用」
魔の森でセスより強い者。それは黒竜以外にはいないだろう。
オレはセスがいないと創造物を実体化出来ない為、はっきり言って単独ではヨワヨワである。しかも魔法を使う為の精霊たちもいないので、本当に己の肉体しかない。
そんな現実に思い切り溜め息を吐きながら、オレは視線を上へ向けた。
何故かは不明だが、何となくそんな感じがしたのである。
『ほぅ。我を恐れぬのか』
身体に響く重低音。グルルという唸り声と共に、何故か日本語が聞こえるオレの耳だ。
この世界に来てから思った事だが。どうやらオレには、万能翻訳機能が搭載されているらしい。丸耳族と呼ばれるヒト族も。ふさふさ獣人もツルヒヤ獣人も変わらず、オレは対話が可能だった。
そして山羊的動物や鶏的動物などの動物も、水牛的魔獣のような魔獣も同様で。鳴き声と日本語が同時に聞こえる便利仕様だ。
初めはセスだけが特別かと思ったが。──まてよ。セスはオレ以外のヒトとも会話可能だったな。
ともあれ。自然に好かれるという神様プレゼントは、こんなに大きなものだった。
「別に。敵意を向けられた訳でもないし、悪意も感じない。……それともまさか、怖がってほしいのか?」
『……否』
「それなら良いだろ。で、何かオレに用があったから呼んだんじゃないのか」
見えない何かと、上空に向かって喋っていたが。
予想していただけに驚きもしないが、溶けるように景色が変わって目前に現れた黒い影。三階建ての建物より大きな、岩のような巨体を持つ黒き竜である。
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