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【1526 遠き落日②】
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「クマさん、質問があります。大事な質問です」
お互いに自己紹介を終えたところで、私は右手を挙げてクマさんの顔を見つめました。
「大事な質問?な、なにかな?」
クマさんは二、三回、目を瞬かせると、少し怯えた様子で私に確認してきました。
声をかけただけでこれです。
クマさんはとても大きな体をしているのに、なんでこんなに怖がりなのでしょうか?本当に不思議です。
今は私がベットを借りて座っていますが、クマさんは大人が二人は座れそうな大きな椅子を出してきて、
私の前に座っています。こんな大きな椅子に一人で座って丁度良いのですから、クマさんはやっぱりクマさんです。
気を取り直して、私はクマさんに質問をしました。
「クマさんはクマさんなのに、本当はクマさんではなくて、ウシさんなのですか?」
クマさんはウシクと名乗りました。クマさんなのにウシさんなんです。これはどういう事なのでしょうか?
「・・・え?ええっと・・・ク、クマさんがクマさんでウシさん?」
質問の意図がうまく伝わらなかったのでしょうか?
クマさんは首をかしげています。だから私はもう一度説明をしました。
「はい、クマさんはクマさんですよね?でもクマさんはウシさんと名前を言いました。だからクマさんは本当はクマさんではなくて、ウシさんなのですか?」
「え?えっと、クマさんがウシさんでって・・・・・ご、ごめん、キミの言っている事がよく分からない」
クマさんはおでこに汗を滲ませて、本当に困ったように私に説明を求めてきます。
どうやら私の話しが分かりづらかったようなので、私はそれからたっぷり十分も時間をかけて説明して、やっと私の言いたい事がクマさんに伝わりました。
「・・・なるほど、つまりウシクという名前のクマさんだったんですね」
それなら納得です。クマさんだけどウシクさん。私はうんうん頷いて、クマさんをじっと見つめます。
「え、えっと・・・一応ボクも人間なんだけど」
「クマさんの姿をした人間なんですよね?」
「え、いや、そうじゃなくて、本当に人間なんだけど・・・うん、でもそんなに似てるんなら、クマでもいいかな・・・」
少し苦笑いしてますが、どうやらクマさんは分かってくれたようです。
「ところでクマさん、ここはどこですか?倒れているところを運んでくださったというのは聞きましたが、もう少し詳しく知りたいです」
「え?・・・あ、えっと、キミはこの山の麓に倒れていたんだ。僕は魚釣りをして帰って来る時に見つけて、最初は死んでるのかと思って驚いたけど、息があったから連れて来たんだ。その・・・村に行って治療をしなきゃって考えたけど、僕が連れて行ってもしキミに何かされたら悪いから・・・」
クマさんは悲しそうな顔をして俯いてしまいました。
本当に村の人とは仲が悪いみたい・・・いいえ、クマさんは仲良くしたいけど、一方的に嫌われてるみたいです。こんな可愛いクマさんが虐げられているなんて、私も悲しくなります。
「・・・クマさんと一緒にいるだけで、私もイジメられてしまうのですか?村の人はなんでそこまでクマさんを嫌うのでしょうか?」
「・・・そ、それは、その、ボクが・・・・・!?」
聞いてはいけない事だったのでしょうか?
クマさんは何やら言い辛そうに私から目を逸らしました。
私はクマさんにやっぱり大丈夫と、そう言葉をかけようとしたその時です。
突然家の扉が大きな音を立てて、乱暴に開かれたのです。
「おいウシ!オメェ最近何コソコソしてやがん・・・あぁ?なんで女がいんだよ?」
扉を開けて入って来たのは、長い金色の髪で青い瞳の、スラリとした男の人でした。
一般的には美男子という言葉が当てはまるのかもしれません。
ですが私の目には、この男性がとても醜く映りました。
男性はズカズカと私の前まで歩いて来ると、私の体をジロジロと舐めまわすように見て、最後に私の目を見てニヤっと笑いました。ハッキリ言って気持ち悪いです。
「・・・へぇ~、けっこう可愛いじゃん?ねぇキミさ、なんでこんなとこにいんの?ウシとどういう関係?」
この男性は自分の容姿に相当な自信を持っているようです。
話し方もそうですが、雰囲気や態度からソレがありありと伝わってきます。
そういう男性が好きな女性もいるでしょう。でも私にとっては不快でしかありません。
「クマさんは倒れていた私を助けてくれた優しい人です。ひどい事をするつもりなら怒りますよ」
「クマ?え、なに?こいつの事?へぇ~・・・まぁ確かにクマみてぇにでけぇけどな。それよりも見かけによらず気が強いじゃん?なぁ、俺と一緒に村に行こうぜ。こいつと一緒にいても魚と猪肉しか食えねぇし、つまんねぇだろ?」
「そんな事ありません。私はお魚も猪肉も大好きです。それにクマさんは優しいし、つまらなくありません。あなたの村がどれだけ裕福か知りませんが、私は興味がないので行きません」
キッパリと断ってみせると、ムッとしたのか眉間にシワを寄せて舌を打ちました。自分の誘いが断られるなんて、思ってなかったのでしょう。
「チッ・・・おいウシ、お前なんなの?ろくに村の手伝いもしねぇくせによ、女連れ込んで楽しくやってたわけだ?今まで面倒見てやった恩を忘れたわけ?」
「え?い、いや、そんな事・・・だってこの前村に行ったら、ジョナス君が邪魔だから来るなって・・・」
「はあ~~~?なにそれ?俺のせい?俺が悪いの?俺に言われたから村の手伝いしなくてもいいってなるわけ?」
「だ、だって、来るなって言われたら、どうしようも・・・」
「お前さぁ、自分で考える事できないの?来るなって言われても村のためにできる事を考えるべきだろ?それもしないで言い訳ばっかでよぉ、人のせいにすんなよな?腹立つわぁ~」
金髪の男性ジョナスさんは、クマさんに顔を向けると、高圧的な口調で攻め始めました。
内容は聞いていて不快でしかたありません。よくこんな理不尽な事が言えるものです。
クマさんは萎縮してしまったようで、青ざめてうつむいています。
「・・・ご、ごめんなさ・・・」
「クマさんは悪くないです!」
ジョナスさんに謝りそうになったクマさんの前に出て、私はジョナスさんを睨みつけました。
「な、なんだよ!?」
「なんだよじゃありません。あなたの言ってる事はめちゃくちゃです。これ以上クマさんをイジめるのでしたら、私が許しません」
「あぁ?許さないって、お前が俺を?・・・もしかして俺の事なめてんの?俺はよ、村で一番の体力型だぞコラ!」
男の人に凄まれても、不思議と怖くありませんでした。
普通、体格の良い男性に睨まれれば怖いと思うのですが、私にはこの人が自分より弱いとすら感じられるのです。
でも腕力では敵いません。ではどうすれば私が、この失礼な男性に勝てるのでしょうか?
そう考えた時、自然と右手が相手に向けられました。
「あ?・・・なに?まさか本当に俺とやる気?お前黒魔法使いか?でもこの距離で体力型と・・・うッ!?」
意識せずとも力の使い方は体が覚えているようでした。
手の平から発した冷たい波動に、金髪の男性ジョナスが顔を青くして後ずさりをします。
「・・・ん~、この力はなんでしょう?魔力とは違うようですね。でもなんだか懐かしい・・・」
私も魔力くらいは覚えています。そして私は自分が白魔法使いという事も知っています。
でも今、私が使ったこの力は、魔力とは全く別の力です。
誰かに教えてもらったような・・・大切な誰かに・・・・・・
クラレッサ、今のお前さんなら大丈夫じゃよ
悪霊はもうおらん、テレンスが連れて行ってくれたじゃろ?
だからこれからは霊気の使い方をきちんと覚えればいいんじゃ
この力がいつか、クラレッサの大切な人を護る力になるじゃろう
クラレッサ・・・・・ワシはお前が幸せになる事を、心から願っとるよ
「お・・・爺、さん・・・・・お爺さん・・・・・」
ふと、記憶の底に眠る欠片が目の前に映し出されました
そう、私はこのお爺さんを知っている・・・
とても大切な、大切なお爺さんで、私のお父さんでもある人・・・・・
「な、なんなんだよ・・・なんなんだよお前!き、気持ち悪ぃなッ!」
霊力という力をジョナスは知らない。しかし体が感じる圧迫感に身の危険を感じたのか、顔を引きつらせて焦ったように声を荒げながら、ジョナスは走り去って行った。
ウシクは今目の前で起きた事が理解できず、戸惑い立ち尽くしていた。
村の青年ジョナスの嫌がらせは今に始まった事ではない。
何年も、十年以上も前から続いているのだ。
今回のように突然家に押し入って来て、難癖をつけられる事も初めてではない。
自分はそれを受け入れるしかないと諦めていた。
けれど今日、変化がおきた。
いつものように、ジョナスの言いがかりを黙って聞くしかないと思っていたら、白髪の女の子がジョナスを追い返したのだ。
「あ、・・・ク、クラレッサちゃん、そ、その・・・ありが・・・?」
欠片も想像していなかった事態にしばし呆然としてしまったが、ウシクは自分のために怒ってくれたこの女の子に、感謝を伝えようとして、そして目を見開き固まった。
「・・・・・クマさん、私・・・」
クラレッサの瞳からは、透明な雫が頬を伝い落ちていた。
「ク、クラレッサ、ちゃん・・・・・泣いて、るの?」
「え?・・・あ、わ、私・・・なんで・・・・・」
頬に手を当てると指先が濡れる。
クラレッサはそこで初めて、自分が涙を流している事に気が付いた。
「私・・・お爺さんがいて、みんな・・・みんな、どこ?なんで私だけ・・・クマさん、私はなんでここにいるんですか?」
ついさっき、強烈な気を発してジョナスを威圧した女の子が、今は怯えたように涙を流して体を震わせている。
「なんで?なんで?なんで?お爺さんお爺さんお爺さんお爺さんお爺さん、みんなどこなの!?」
クラレッサの口調はどんどん早くなる。発する言葉の意味はウシクには全く分からない。両手で頭を押さえてうずくまる姿は、クラレッサの不安定な精神を如実に表していた。
けれどウシクは今この時、自分が何をしなければならないかだけは分かった。
自分はこの女の子に助けられた。それは紛れもない事実だ。
だったら今度は自分が助ける番だ。
「クラレッサちゃん・・・キミが何を悲しんでいるのか、ボクには分からない。でも、どこにも居場所がないんだったら、ここにいてもいいんだよ」
ウシクは腰を曲げクラレッサに視線を合わせると、優しく言葉をかけた。
「・・・ク、クマさん・・・わ、私、お爺さんと一緒に住んでたの・・・みんなも一緒にいたのに・・・私、なんで・・・・・」
「クラレッサちゃん・・・そのお爺さんやみんなの事、ボクには分からないけど・・・でも、そんなに悲しい顔をするんだから、きっととても大切な人達だったんだね。ボクは何もできないけど・・・でも、落ち着くまでここに住んだらどうかな?ご飯くらいは食べさせてあげられるよ。えっと、魚と・・・猪肉ばっかりだけど・・・」
普段笑わないからか、ぎこちない笑顔で話しかけるウシクに、クラレッサは目をパチパチとさせる。
そしてウシクの優しい言葉に、心が少し落ち着いたようだ。
「・・・クマさん、いいのですか?私がここにいても?」
「う、うん・・・ボクみたいな大男と一緒で、嫌じゃなければだけど・・・」
「クマさん・・・・・私、嬉しいです。ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言ってウシクの手を取り、クラレッサはニコリと微笑んだ。
・・・ねぇ、クマさん
私ね、この時本当に嬉しかったんだよ
どこにも行く場所のない私に、クマさんは優しくしてくれた
温かいご飯を食べさせてくれた
温かいお布団で寝させてくれた
クマさんはずっと温かかった
お爺さんや孤児院のみんなと会えなくなって、とても悲しくて辛かったけど・・・・・
クマさんと出会えて良かった
クマさんがいてくれたから、寂しくなかったんだよ
ありがとう・・・・・これからもずっと一緒だよ、クマさん
お互いに自己紹介を終えたところで、私は右手を挙げてクマさんの顔を見つめました。
「大事な質問?な、なにかな?」
クマさんは二、三回、目を瞬かせると、少し怯えた様子で私に確認してきました。
声をかけただけでこれです。
クマさんはとても大きな体をしているのに、なんでこんなに怖がりなのでしょうか?本当に不思議です。
今は私がベットを借りて座っていますが、クマさんは大人が二人は座れそうな大きな椅子を出してきて、
私の前に座っています。こんな大きな椅子に一人で座って丁度良いのですから、クマさんはやっぱりクマさんです。
気を取り直して、私はクマさんに質問をしました。
「クマさんはクマさんなのに、本当はクマさんではなくて、ウシさんなのですか?」
クマさんはウシクと名乗りました。クマさんなのにウシさんなんです。これはどういう事なのでしょうか?
「・・・え?ええっと・・・ク、クマさんがクマさんでウシさん?」
質問の意図がうまく伝わらなかったのでしょうか?
クマさんは首をかしげています。だから私はもう一度説明をしました。
「はい、クマさんはクマさんですよね?でもクマさんはウシさんと名前を言いました。だからクマさんは本当はクマさんではなくて、ウシさんなのですか?」
「え?えっと、クマさんがウシさんでって・・・・・ご、ごめん、キミの言っている事がよく分からない」
クマさんはおでこに汗を滲ませて、本当に困ったように私に説明を求めてきます。
どうやら私の話しが分かりづらかったようなので、私はそれからたっぷり十分も時間をかけて説明して、やっと私の言いたい事がクマさんに伝わりました。
「・・・なるほど、つまりウシクという名前のクマさんだったんですね」
それなら納得です。クマさんだけどウシクさん。私はうんうん頷いて、クマさんをじっと見つめます。
「え、えっと・・・一応ボクも人間なんだけど」
「クマさんの姿をした人間なんですよね?」
「え、いや、そうじゃなくて、本当に人間なんだけど・・・うん、でもそんなに似てるんなら、クマでもいいかな・・・」
少し苦笑いしてますが、どうやらクマさんは分かってくれたようです。
「ところでクマさん、ここはどこですか?倒れているところを運んでくださったというのは聞きましたが、もう少し詳しく知りたいです」
「え?・・・あ、えっと、キミはこの山の麓に倒れていたんだ。僕は魚釣りをして帰って来る時に見つけて、最初は死んでるのかと思って驚いたけど、息があったから連れて来たんだ。その・・・村に行って治療をしなきゃって考えたけど、僕が連れて行ってもしキミに何かされたら悪いから・・・」
クマさんは悲しそうな顔をして俯いてしまいました。
本当に村の人とは仲が悪いみたい・・・いいえ、クマさんは仲良くしたいけど、一方的に嫌われてるみたいです。こんな可愛いクマさんが虐げられているなんて、私も悲しくなります。
「・・・クマさんと一緒にいるだけで、私もイジメられてしまうのですか?村の人はなんでそこまでクマさんを嫌うのでしょうか?」
「・・・そ、それは、その、ボクが・・・・・!?」
聞いてはいけない事だったのでしょうか?
クマさんは何やら言い辛そうに私から目を逸らしました。
私はクマさんにやっぱり大丈夫と、そう言葉をかけようとしたその時です。
突然家の扉が大きな音を立てて、乱暴に開かれたのです。
「おいウシ!オメェ最近何コソコソしてやがん・・・あぁ?なんで女がいんだよ?」
扉を開けて入って来たのは、長い金色の髪で青い瞳の、スラリとした男の人でした。
一般的には美男子という言葉が当てはまるのかもしれません。
ですが私の目には、この男性がとても醜く映りました。
男性はズカズカと私の前まで歩いて来ると、私の体をジロジロと舐めまわすように見て、最後に私の目を見てニヤっと笑いました。ハッキリ言って気持ち悪いです。
「・・・へぇ~、けっこう可愛いじゃん?ねぇキミさ、なんでこんなとこにいんの?ウシとどういう関係?」
この男性は自分の容姿に相当な自信を持っているようです。
話し方もそうですが、雰囲気や態度からソレがありありと伝わってきます。
そういう男性が好きな女性もいるでしょう。でも私にとっては不快でしかありません。
「クマさんは倒れていた私を助けてくれた優しい人です。ひどい事をするつもりなら怒りますよ」
「クマ?え、なに?こいつの事?へぇ~・・・まぁ確かにクマみてぇにでけぇけどな。それよりも見かけによらず気が強いじゃん?なぁ、俺と一緒に村に行こうぜ。こいつと一緒にいても魚と猪肉しか食えねぇし、つまんねぇだろ?」
「そんな事ありません。私はお魚も猪肉も大好きです。それにクマさんは優しいし、つまらなくありません。あなたの村がどれだけ裕福か知りませんが、私は興味がないので行きません」
キッパリと断ってみせると、ムッとしたのか眉間にシワを寄せて舌を打ちました。自分の誘いが断られるなんて、思ってなかったのでしょう。
「チッ・・・おいウシ、お前なんなの?ろくに村の手伝いもしねぇくせによ、女連れ込んで楽しくやってたわけだ?今まで面倒見てやった恩を忘れたわけ?」
「え?い、いや、そんな事・・・だってこの前村に行ったら、ジョナス君が邪魔だから来るなって・・・」
「はあ~~~?なにそれ?俺のせい?俺が悪いの?俺に言われたから村の手伝いしなくてもいいってなるわけ?」
「だ、だって、来るなって言われたら、どうしようも・・・」
「お前さぁ、自分で考える事できないの?来るなって言われても村のためにできる事を考えるべきだろ?それもしないで言い訳ばっかでよぉ、人のせいにすんなよな?腹立つわぁ~」
金髪の男性ジョナスさんは、クマさんに顔を向けると、高圧的な口調で攻め始めました。
内容は聞いていて不快でしかたありません。よくこんな理不尽な事が言えるものです。
クマさんは萎縮してしまったようで、青ざめてうつむいています。
「・・・ご、ごめんなさ・・・」
「クマさんは悪くないです!」
ジョナスさんに謝りそうになったクマさんの前に出て、私はジョナスさんを睨みつけました。
「な、なんだよ!?」
「なんだよじゃありません。あなたの言ってる事はめちゃくちゃです。これ以上クマさんをイジめるのでしたら、私が許しません」
「あぁ?許さないって、お前が俺を?・・・もしかして俺の事なめてんの?俺はよ、村で一番の体力型だぞコラ!」
男の人に凄まれても、不思議と怖くありませんでした。
普通、体格の良い男性に睨まれれば怖いと思うのですが、私にはこの人が自分より弱いとすら感じられるのです。
でも腕力では敵いません。ではどうすれば私が、この失礼な男性に勝てるのでしょうか?
そう考えた時、自然と右手が相手に向けられました。
「あ?・・・なに?まさか本当に俺とやる気?お前黒魔法使いか?でもこの距離で体力型と・・・うッ!?」
意識せずとも力の使い方は体が覚えているようでした。
手の平から発した冷たい波動に、金髪の男性ジョナスが顔を青くして後ずさりをします。
「・・・ん~、この力はなんでしょう?魔力とは違うようですね。でもなんだか懐かしい・・・」
私も魔力くらいは覚えています。そして私は自分が白魔法使いという事も知っています。
でも今、私が使ったこの力は、魔力とは全く別の力です。
誰かに教えてもらったような・・・大切な誰かに・・・・・・
クラレッサ、今のお前さんなら大丈夫じゃよ
悪霊はもうおらん、テレンスが連れて行ってくれたじゃろ?
だからこれからは霊気の使い方をきちんと覚えればいいんじゃ
この力がいつか、クラレッサの大切な人を護る力になるじゃろう
クラレッサ・・・・・ワシはお前が幸せになる事を、心から願っとるよ
「お・・・爺、さん・・・・・お爺さん・・・・・」
ふと、記憶の底に眠る欠片が目の前に映し出されました
そう、私はこのお爺さんを知っている・・・
とても大切な、大切なお爺さんで、私のお父さんでもある人・・・・・
「な、なんなんだよ・・・なんなんだよお前!き、気持ち悪ぃなッ!」
霊力という力をジョナスは知らない。しかし体が感じる圧迫感に身の危険を感じたのか、顔を引きつらせて焦ったように声を荒げながら、ジョナスは走り去って行った。
ウシクは今目の前で起きた事が理解できず、戸惑い立ち尽くしていた。
村の青年ジョナスの嫌がらせは今に始まった事ではない。
何年も、十年以上も前から続いているのだ。
今回のように突然家に押し入って来て、難癖をつけられる事も初めてではない。
自分はそれを受け入れるしかないと諦めていた。
けれど今日、変化がおきた。
いつものように、ジョナスの言いがかりを黙って聞くしかないと思っていたら、白髪の女の子がジョナスを追い返したのだ。
「あ、・・・ク、クラレッサちゃん、そ、その・・・ありが・・・?」
欠片も想像していなかった事態にしばし呆然としてしまったが、ウシクは自分のために怒ってくれたこの女の子に、感謝を伝えようとして、そして目を見開き固まった。
「・・・・・クマさん、私・・・」
クラレッサの瞳からは、透明な雫が頬を伝い落ちていた。
「ク、クラレッサ、ちゃん・・・・・泣いて、るの?」
「え?・・・あ、わ、私・・・なんで・・・・・」
頬に手を当てると指先が濡れる。
クラレッサはそこで初めて、自分が涙を流している事に気が付いた。
「私・・・お爺さんがいて、みんな・・・みんな、どこ?なんで私だけ・・・クマさん、私はなんでここにいるんですか?」
ついさっき、強烈な気を発してジョナスを威圧した女の子が、今は怯えたように涙を流して体を震わせている。
「なんで?なんで?なんで?お爺さんお爺さんお爺さんお爺さんお爺さん、みんなどこなの!?」
クラレッサの口調はどんどん早くなる。発する言葉の意味はウシクには全く分からない。両手で頭を押さえてうずくまる姿は、クラレッサの不安定な精神を如実に表していた。
けれどウシクは今この時、自分が何をしなければならないかだけは分かった。
自分はこの女の子に助けられた。それは紛れもない事実だ。
だったら今度は自分が助ける番だ。
「クラレッサちゃん・・・キミが何を悲しんでいるのか、ボクには分からない。でも、どこにも居場所がないんだったら、ここにいてもいいんだよ」
ウシクは腰を曲げクラレッサに視線を合わせると、優しく言葉をかけた。
「・・・ク、クマさん・・・わ、私、お爺さんと一緒に住んでたの・・・みんなも一緒にいたのに・・・私、なんで・・・・・」
「クラレッサちゃん・・・そのお爺さんやみんなの事、ボクには分からないけど・・・でも、そんなに悲しい顔をするんだから、きっととても大切な人達だったんだね。ボクは何もできないけど・・・でも、落ち着くまでここに住んだらどうかな?ご飯くらいは食べさせてあげられるよ。えっと、魚と・・・猪肉ばっかりだけど・・・」
普段笑わないからか、ぎこちない笑顔で話しかけるウシクに、クラレッサは目をパチパチとさせる。
そしてウシクの優しい言葉に、心が少し落ち着いたようだ。
「・・・クマさん、いいのですか?私がここにいても?」
「う、うん・・・ボクみたいな大男と一緒で、嫌じゃなければだけど・・・」
「クマさん・・・・・私、嬉しいです。ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言ってウシクの手を取り、クラレッサはニコリと微笑んだ。
・・・ねぇ、クマさん
私ね、この時本当に嬉しかったんだよ
どこにも行く場所のない私に、クマさんは優しくしてくれた
温かいご飯を食べさせてくれた
温かいお布団で寝させてくれた
クマさんはずっと温かかった
お爺さんや孤児院のみんなと会えなくなって、とても悲しくて辛かったけど・・・・・
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