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【1528 遠き落日 ④】
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「ただいま、クラレッサちゃん。頭痛はどう?」
魚釣りに行ったクマさんが帰ってきました。竹で作った魚籠には、魚がいっぱい入っているのが見えます。今日は大漁のようでした。
私はお魚一匹で十分ですが、クマさんは体が大きいから沢山食べるので良かったです。
「おかえりなさい、クマさん。一日寝ていたのでだいぶ良くなりました」
ベッドから体を起こして答えると、クマさんはほっとしたように微笑みました。
昨日、ハーブティーを飲んだ時、ふいにある女性の名前が出たのです。
メアリーちゃん・・・その名前はとても自然と私の口から出ました。思い出せないけれど、とても親しかったのかもしれません。そうでないと、あんなに普通には出て来ないと思うから。
そしてその後私は、強い頭痛に襲われて寝込んでしまったのです。
以前あのお爺さんの顔が頭に思い浮かんだ時よりも強く、意識が朦朧としてしまったのです。
そんな私をクマさんはベッドに運んで、寝かせてくれたのです。
「良かったぁ、でもまだ横になってた方がいいよ。ご飯はボクが作るからさ」
「ありがとうございます。じゃあクマさん、今日はあまえさせてもらいます」
だいぶ良くなりましたが、まだ少し頭が重い感じがします。
私はクマさんにお願いする事にしました。
「うん。大丈夫だから、まだ無理をしないで横になっててね」
クマさんは優しい言葉をかけてくれると、魚籠を持ってキッチンに行きました。
慣れた手つきで魚を捌くクマさんの背中を見つめながら、私はそっと額に手をあてました。
・・・・・メアリーちゃん
霧がかかったようにぼんやりとした記憶の中で、時折見えるシーンがあります。
大勢の子供達が楽しそうに遊んでいる大きな家。
ここはどこ?思い出せないけれど、私はきっとこの家に住んでいたんだ。
そしてそこには私もいて、白髪のおじいさんや、金髪のお姉さんもいました。
顔はハッキリと見えないけれど、私はこのお爺さんを知っている。このお姉さんを知っている。
とても優しいお爺さん、私はこのお爺さんが大好きだった。
私を助けてくれた・・・・・私に居場所をくれたお爺さん。
金髪のお姉さんは料理が上手で、私も色んな料理を教えてもらった。
子供達もみんな大好きで・・・・・
ハーブティー・・・・・
「うっ・・・痛い・・・・・」
ズキッと強い痛みが頭に走って、私は両手で頭を押さえました。
もう少し・・・もう少しでなにかを思い出せそうなのに・・・大切な・・・・・・・・・
「・・・・・ちゃん!クラレッサちゃん!クラレッサちゃん!大丈夫!?」
「・・・う、ん・・・・・あ、クマさん・・・・・」
いつの間にか気を失っていたみたいです。頭を押さえたままベッドにうずくまっていた私に、クマさんはおろおろしながらも、一生懸命声をかけてくれました。
「あ、よ、良かった、気が付いた!クラレッサちゃん、大丈夫?また頭痛?」
「・・・はい、ここに来る前の事を考えると、頭がとても痛くなるんです。大切な事を忘れてる気がするんです。とても、大切な・・・・・」
孤児院
「・・・孤児院・・・・・」
「え、孤児院?」
ふいに頭に浮かんだ言葉、映像・・・そう、孤児院・・・あの家は孤児院だ。
私はそこに住んでいたんだ。
「クマさんは・・・私、孤児院にいました」
「クラレッサちゃん・・・思い出したの?」
私はクマさんに向き直りました。クマさんは心配そうに私を見つめています。
「・・・少しだけ、思い出しました。私は孤児院に住んでいたんです。そこでお爺さんとお姉さん、大勢の子供達と暮らしていました」
まだ頭の中が整理できていません。みんなで食事をした事、外で遊んだ事、ぐずる小さな子をあやした事、色んな場面が一変に頭に思い起こされて、目が回りそうです。
でも少しづつ、ゆっくりと・・・私はクマさんに話しました。
「・・・霧がかかったようにぼんやりとしていて・・・顔は思い出せないんです。でも、楽しかった・・・温かかった・・・それだけは分かるんです」
クマさんは私の話しを、口を挟まずうんうんと頷いて、黙って聞いてくれました。
そして私が思い出せるだけの事を話し終えると、クマさんは水の入ったコップをくれました。
「・・・ありがとうございます」
寝て起きたばかりで、一気に話したから喉はとても乾いていました。
冷たい水が喉を通る感覚に、頭もスッキリ冴えるようです。
私が一息つくのを待って、クマさんは優しく言葉をかけてくれました。
「孤児院はすごく居心地の良い場所だったんだね」
「はい・・・みんなに会いたいです」
「うん、大丈夫だよ。きっと会えるよ・・・あ、もしかしてクラレッサちゃんは、みんなと山登りでもしてたのかな?」
「え?山登りですか?」
急になんでそんな事を言うのかと、クマさんをじっと見つめると、クマさんは腕を組んで話し始めました。
「うん。どうしてこんな山に一人で倒れていたんだろう?って不思議だったんだけど、山登りをしていてはぐれたんじゃないかな?それで・・・えっと、転んで頭を打って記憶を無くしたのとか」
クマさんの言う通り、確かに私がこの山で倒れていた理由は分かりません。
どうして私が一人で倒れていたのか・・・私はあえて、あまり深くは考えないようにしていました。
考えると頭も痛くなるし、今のこの生活が楽しかったから・・・
でも、記憶の一部が戻った今、だんだん自分の過去と向き合わないといけないのかもしれません。
「そう、ですね・・・私も、どうして自分がこの山で倒れていたのか気になります。山登り・・・・・はい、みんなでここに来たのかもしれませんね・・・」
私はどうしてここにいるのでしょうか・・・・・
クマさんの言う通り、みんなで山登りに来たのかもしれないけど、なんとなく違う気がします。
なんだか、怖い・・・
知りたいけど、知りたくない・・・
自分の事なのに、自分でも自分の気持ちがよく分かりません。
でも、私の心の奥にある何かが、真実を知る事を怖がっています。
知らなくてはいけない。だけど知る事が怖い。
私に何があったのか、それを知ってしまったら私は・・・・・・・
「・・・クラレッサちゃん、あの、もしよかったら明日お出かけでもしようか?」
「え?お出かけ・・・ですか?」
「う、うん・・・えっと、クラレッサちゃん、いつも家にいるでしょ?たまには外に出て気分転換もいいかなと思って。この山は風が気持ち良いし、天気の良い日は動物も沢山見れるし、川の水も綺麗で美味しいよ」
クマさんは私を元気づけようとしてくれているようです。
色々考えて難しい顔をしてしまったので、落ち込んでいるように見えたのだと思います。
「あ、まだ頭が痛いかな?やっぱり家で休んだ方がいいよね」
「クマさん、大丈夫です。私行きたいです。明日はお散歩に連れて行ってください」
私はニッコリと笑って答えました。
今はあまり難しく考えない方がいいかもしれません。クマさんと一緒に自然に触れて、楽しい事を考えましょう。
クマさんも安心したように笑ってくれました。
翌日は青空が広がるとても良い天気でした。私はお弁当を作って、クマさんと一緒に外に出ました。
ここに住んでから、私はほとんど外に出ていません。ゴミの片づけで少し玄関先に出るくらいです。
なんで今まで外に出なかったのかと言われると、理由は私も説明がしにくいのですが、なんとなく一人では怖かったのです。
クマさんは優しいけれど、ここは私は知らない土地です。
右も左も分からない場所を、一人で歩く事は怖い。そういう気持ちが、無意識で心の底にあったのかと思います。
でも今日はクマさんと一緒にお散歩だから怖くありません、朝からとてもウキウキとした気持ちでした。
でもそんな私達の楽しい時間を、壊す人が現れました。
あの失礼な男、ジョナスです。
魚釣りに行ったクマさんが帰ってきました。竹で作った魚籠には、魚がいっぱい入っているのが見えます。今日は大漁のようでした。
私はお魚一匹で十分ですが、クマさんは体が大きいから沢山食べるので良かったです。
「おかえりなさい、クマさん。一日寝ていたのでだいぶ良くなりました」
ベッドから体を起こして答えると、クマさんはほっとしたように微笑みました。
昨日、ハーブティーを飲んだ時、ふいにある女性の名前が出たのです。
メアリーちゃん・・・その名前はとても自然と私の口から出ました。思い出せないけれど、とても親しかったのかもしれません。そうでないと、あんなに普通には出て来ないと思うから。
そしてその後私は、強い頭痛に襲われて寝込んでしまったのです。
以前あのお爺さんの顔が頭に思い浮かんだ時よりも強く、意識が朦朧としてしまったのです。
そんな私をクマさんはベッドに運んで、寝かせてくれたのです。
「良かったぁ、でもまだ横になってた方がいいよ。ご飯はボクが作るからさ」
「ありがとうございます。じゃあクマさん、今日はあまえさせてもらいます」
だいぶ良くなりましたが、まだ少し頭が重い感じがします。
私はクマさんにお願いする事にしました。
「うん。大丈夫だから、まだ無理をしないで横になっててね」
クマさんは優しい言葉をかけてくれると、魚籠を持ってキッチンに行きました。
慣れた手つきで魚を捌くクマさんの背中を見つめながら、私はそっと額に手をあてました。
・・・・・メアリーちゃん
霧がかかったようにぼんやりとした記憶の中で、時折見えるシーンがあります。
大勢の子供達が楽しそうに遊んでいる大きな家。
ここはどこ?思い出せないけれど、私はきっとこの家に住んでいたんだ。
そしてそこには私もいて、白髪のおじいさんや、金髪のお姉さんもいました。
顔はハッキリと見えないけれど、私はこのお爺さんを知っている。このお姉さんを知っている。
とても優しいお爺さん、私はこのお爺さんが大好きだった。
私を助けてくれた・・・・・私に居場所をくれたお爺さん。
金髪のお姉さんは料理が上手で、私も色んな料理を教えてもらった。
子供達もみんな大好きで・・・・・
ハーブティー・・・・・
「うっ・・・痛い・・・・・」
ズキッと強い痛みが頭に走って、私は両手で頭を押さえました。
もう少し・・・もう少しでなにかを思い出せそうなのに・・・大切な・・・・・・・・・
「・・・・・ちゃん!クラレッサちゃん!クラレッサちゃん!大丈夫!?」
「・・・う、ん・・・・・あ、クマさん・・・・・」
いつの間にか気を失っていたみたいです。頭を押さえたままベッドにうずくまっていた私に、クマさんはおろおろしながらも、一生懸命声をかけてくれました。
「あ、よ、良かった、気が付いた!クラレッサちゃん、大丈夫?また頭痛?」
「・・・はい、ここに来る前の事を考えると、頭がとても痛くなるんです。大切な事を忘れてる気がするんです。とても、大切な・・・・・」
孤児院
「・・・孤児院・・・・・」
「え、孤児院?」
ふいに頭に浮かんだ言葉、映像・・・そう、孤児院・・・あの家は孤児院だ。
私はそこに住んでいたんだ。
「クマさんは・・・私、孤児院にいました」
「クラレッサちゃん・・・思い出したの?」
私はクマさんに向き直りました。クマさんは心配そうに私を見つめています。
「・・・少しだけ、思い出しました。私は孤児院に住んでいたんです。そこでお爺さんとお姉さん、大勢の子供達と暮らしていました」
まだ頭の中が整理できていません。みんなで食事をした事、外で遊んだ事、ぐずる小さな子をあやした事、色んな場面が一変に頭に思い起こされて、目が回りそうです。
でも少しづつ、ゆっくりと・・・私はクマさんに話しました。
「・・・霧がかかったようにぼんやりとしていて・・・顔は思い出せないんです。でも、楽しかった・・・温かかった・・・それだけは分かるんです」
クマさんは私の話しを、口を挟まずうんうんと頷いて、黙って聞いてくれました。
そして私が思い出せるだけの事を話し終えると、クマさんは水の入ったコップをくれました。
「・・・ありがとうございます」
寝て起きたばかりで、一気に話したから喉はとても乾いていました。
冷たい水が喉を通る感覚に、頭もスッキリ冴えるようです。
私が一息つくのを待って、クマさんは優しく言葉をかけてくれました。
「孤児院はすごく居心地の良い場所だったんだね」
「はい・・・みんなに会いたいです」
「うん、大丈夫だよ。きっと会えるよ・・・あ、もしかしてクラレッサちゃんは、みんなと山登りでもしてたのかな?」
「え?山登りですか?」
急になんでそんな事を言うのかと、クマさんをじっと見つめると、クマさんは腕を組んで話し始めました。
「うん。どうしてこんな山に一人で倒れていたんだろう?って不思議だったんだけど、山登りをしていてはぐれたんじゃないかな?それで・・・えっと、転んで頭を打って記憶を無くしたのとか」
クマさんの言う通り、確かに私がこの山で倒れていた理由は分かりません。
どうして私が一人で倒れていたのか・・・私はあえて、あまり深くは考えないようにしていました。
考えると頭も痛くなるし、今のこの生活が楽しかったから・・・
でも、記憶の一部が戻った今、だんだん自分の過去と向き合わないといけないのかもしれません。
「そう、ですね・・・私も、どうして自分がこの山で倒れていたのか気になります。山登り・・・・・はい、みんなでここに来たのかもしれませんね・・・」
私はどうしてここにいるのでしょうか・・・・・
クマさんの言う通り、みんなで山登りに来たのかもしれないけど、なんとなく違う気がします。
なんだか、怖い・・・
知りたいけど、知りたくない・・・
自分の事なのに、自分でも自分の気持ちがよく分かりません。
でも、私の心の奥にある何かが、真実を知る事を怖がっています。
知らなくてはいけない。だけど知る事が怖い。
私に何があったのか、それを知ってしまったら私は・・・・・・・
「・・・クラレッサちゃん、あの、もしよかったら明日お出かけでもしようか?」
「え?お出かけ・・・ですか?」
「う、うん・・・えっと、クラレッサちゃん、いつも家にいるでしょ?たまには外に出て気分転換もいいかなと思って。この山は風が気持ち良いし、天気の良い日は動物も沢山見れるし、川の水も綺麗で美味しいよ」
クマさんは私を元気づけようとしてくれているようです。
色々考えて難しい顔をしてしまったので、落ち込んでいるように見えたのだと思います。
「あ、まだ頭が痛いかな?やっぱり家で休んだ方がいいよね」
「クマさん、大丈夫です。私行きたいです。明日はお散歩に連れて行ってください」
私はニッコリと笑って答えました。
今はあまり難しく考えない方がいいかもしれません。クマさんと一緒に自然に触れて、楽しい事を考えましょう。
クマさんも安心したように笑ってくれました。
翌日は青空が広がるとても良い天気でした。私はお弁当を作って、クマさんと一緒に外に出ました。
ここに住んでから、私はほとんど外に出ていません。ゴミの片づけで少し玄関先に出るくらいです。
なんで今まで外に出なかったのかと言われると、理由は私も説明がしにくいのですが、なんとなく一人では怖かったのです。
クマさんは優しいけれど、ここは私は知らない土地です。
右も左も分からない場所を、一人で歩く事は怖い。そういう気持ちが、無意識で心の底にあったのかと思います。
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