1,531 / 1,560
【1530 遠き落日 ⑥】
しおりを挟む
「あ、ジ、ジョナス君・・・」
突然現れたジョナスに、ウシクは動揺を隠せなかった。
びくりと体を震わせ、おどおどしながらジョナスに顔を向ける。
「おい、ウシよぉ~、お前なんでここにいんの?つーか花畑って、お前似合わねぇなぁ~」
ジョナスはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、花畑に足を踏み入れた。
赤、青、黄色の綺麗な花を、何の躊躇いも無く踏みつけながら歩き、ウシクの前に立った。
「おいおい、ウシよぉ、何とか言えよ?ったく、でっけぇ図体してんのに情けねぇなぁ?」
向かい合う二人の体格差は大きい。190cmはあるウシクに対して、ジョナスは170cm程だろう。
体重にいたっては、ウシクは100キロを越えている巨漢だが、ジョナスは一回りも二回りも細い。
腕力で言えば、考えるまでもなくウシクの方が強い。しかしウシクは長年しみついたジョナスへの苦手意識から、言葉を返せずにいた。
「そこまでです。これ以上クマさんになにか言うのでしたら、私が許しませんよ」
青ざめた表情で俯くウシクを庇うように、クラレッサが前に出た。
キッと鋭い目を向けると、ジョナスは先日受けたクラレッサの霊気、ジョナスにとっては正体不明の力を思い出したのか、一瞬ビクリと頬を引きつらせた。だがすぐにニヤリと笑うと、余裕を見せるように肩をすくめて軽い調子で話し始めた。
「おいおい、そう睨むなって。こないだも言ったけど、ウシと一緒にいても全然楽しくねぇだろ?毎日山の中で魚と猪肉ばっか食べてて飽きねぇの?俺の家はよ、村で一番の金持ちなんだよ。俺のとこにくれば美味い料理だって綺麗な服だって、なんだって買ってやれるぜ?こないだ俺に何かした事は許してやるから、今からでも俺んとこに来いよ」
「そのお金は、元々はクマさんのお金ですよね?」
饒舌に話しながらジョナスは右手を伸ばし、クラレッサの肩に触れようとしたが、クラレッサの口から出た言葉にジョナスは手を止めた。
「・・・あ?」
「あ?じゃないです。クマさんから聞きました。あなたクマさんの従弟なのに、酷い事ばかり言って嫌いです。なんでクマさんを家から追い出したんですか?クマさんの家なのに乗っ取るなんて、ひど過ぎます。最低です」
ジョナスは眉間に強くシワを寄せて、クラレッサを睨みつける。だがクラレッサはまるで動じる事なく、真正面から言い返した。
ジョナスの言葉通り、ジョナスの家は村で一番裕福であり、その資金力で誰も逆らう事ができないほどの権力を持っている。何をしても許されてきたジョナスは、ここまで真向から敵意ある言葉をぶつけられたのは初めてだった。
「お前・・・この前もだけどよ、俺を誰だと思ってんだ?」
ギリッと歯を鳴らし、怒りに頬を引くつかせてクラレッサを睨みつける。
「失礼な人としか思ってません。それで、なんでクマさんを追い出したんですか?クマさんに悪いと思わないんですか?ひど過ぎます。最低です」
ジョナスはウシクを除けば、村で一番の体力型である。
金という権力を持っているが、金の力を借りずとも村の男達の上に立つ実力は持っていた。
しかしそのジョナスが睨みつけても、目の前の白髪の小柄な女は目を逸らさない。それどころか睨み返して、強い口調で非難までしてくるのだ。
女性としてクラレッサに興味を持っていたジョナスだが、これには我慢ならず激情した。
「おい!ちょっと顔が良いからって舐めやがって!痛い目に合わねぇと・・・!」
拳を振り上げたジョナスだったが、自分とクラレッサの間にウシクが割って入った事で、ピタリと拳を止めた。
「・・・おいウシ、なんのつもりだよ?邪魔だ、どけ」
青い目を吊り上げてウシクを睨みつける。普段のウシクであれば、ジョナスに逆らう事なく退いていた。
だが今回はジョナスの言葉に従わなかった。従うわけにはいかなかった。
「ジ、ジョナス君・・・お、女の子に暴力は、ダメだよ」
声は震えていた。自分の方が体が大きくても、ウシクは10年以上も自尊心を蔑まされてきたのだ。
ジョナスへの苦手意識、心の中に根付いた自己肯定感の低さは、そう簡単に取り除けるものではない。
今こうしてジョナスの前に立ち、反論しただけでも嫌な汗が滲み出て、足が震えているのだ。
「・・・あぁ?んだとコラ!ウシの癖に俺に逆らうってのか!?」
ジョナスはウシクの胸倉を掴むと、怒声を浴びせた。
女であるクラレッサに非難され、使い走り程度の存在でしかないウシクには言葉を返され、ジョナスの怒りは頂点に達していた。
ジョナスから発せられる怒気、ピリピリと張りつめる空気に、つい先ほどまで花に止まっていた蝶も、枝葉に止まり羽を休めて鳥達も逃げ出してしまった。
僅かな静寂の後、口を開いたのはウシクだった。
「・・・ジョナス君、ボクは何もしないよ。今日はここに、クラレッサちゃんと散歩をしてお弁当を食べに来ただけなんだ。それだけだよ」
「なっ!?ウシ・・・てめぇ」
まだ微かに声は震えていた。だが顔を上げて、ジョナスの目を見て答えたウシクからは、今までのおどおどした様子は見られない。ウシクの目にはまだ恐怖心は残っている。しかし、ここだけは退けないという、確かな強い意思が見えた。
「クマさん・・・」
ウシクの背に護られているクラレッサも、その強い気持ちを感じていた。
もしジョナスがウシクに、少しでも暴力を振るっていれば、迷わず霊気で叩き潰していた。
しかしウシクは正々堂々とジョナスの前に立ち、言葉で戦う事選んだ。そしてジョナスはそのウシクの覚悟に気圧されていた。
「ウシのくせに、俺に、よくも・・・」
飼い犬に噛まれる。
この時のジョナスの心情を一言で表すならば、その言葉が一番近いだろう。
もっともジョナスはウシクを可愛がっていたり、面倒を見ていたわけではない。だが自分より格下であり、自分が許しているから村への出入りもできる。自分が生かしてやっていると言っていい、そんな存在の男に、口答えをされた上に睨まれたのだ。断じて許されるものではなく、制裁を与えねばならない事案だった。
怒りで顔を紅潮さえ、わなわなと体を震わせながら、ジョナスはウシクに右手の人指し指を突き付けた。
「ウシ、お前明日俺の家に来い」
怒りを滲ませた低い声でウシクに命令をする。
睨みを利かせ、有無を言わせぬ圧力は、逆らう事は許さないと恫喝しているようなものだった。
ウシクは家を追い出されてから10年以上、一度たりとも生まれ育ったあの家に足を入れた事はない。
なぜ今更呼ばれるのか?家に行ってどうするのか?何かさせられるのか?
「え、あ、明日?なんで?」
「明日だ。その女も連れて来いよ?いいな?」
スッとウシクの背にいるクラレッサに目を向けると、ジョナスは冷笑を浮かべた。
「え?ク、クラレッサちゃんも?」
「そうだ、二人で来いよ?逃げたら許さねぇからな」
キッパリとそれだけ告げると、ジョナスはウシクの返答を待たずに背中を向けて、花畑から出て行った。
「・・・ク、クラレッサちゃん、ごめんね、巻き込んじゃって。今日はキミに元気になってほしくてここに来たのに、嫌な気持ちにさせちゃって・・・」
ジョナスの姿が小さくなり、そして見えなくなると、ウシクはゆっくりと振り返ってクラレッサに頭を下げた。大きな体を縮こまらせて、心底すまなそうに頭を下げているウシクだが、クラレッサは努めて明るく言葉を返した。
「クマさん、謝らないでください。私は大丈夫です。悪いのは全部あの失礼な男です。クマさんは何も悪くありません」
「で、でも、クラレッサちゃんに嫌な思いをさせちゃったから・・・」
「クマさん、前にも言いましたが、クマさんは気を使い過ぎです。私が大丈夫と言ったら大丈夫なんです。だから顔を上げてください。目を見てお話しをしましょう」
そう言われ、ウシクがおずおずと顔を上げると、クラレッサは満足そうに微笑んだ。
「そうです。クマさんは何も悪くありません。だから堂々としてください。ところで、あの人はなんでここに来たのでしょうか?お花畑に用事があるようには見えませんし、謎です」
クラレッサが腕を組んで首を傾げると、ウシクは何か思い当たったように、もしかして、と小さく呟いた。
「・・・ボク達をつけていたのかもしれない。前にもボクが出かけた先で、ジョナス君が待ち伏せしてた事があったんだ。ジョナス君ってお金で友達を使って、ボクの行動を探る時があるんだ。もしかして今回も友達にボクの事を調べさせて、後をつけて来たのかも・・・」
「え!?なんですかそれ!?驚きです、すごく気持ち悪いです!待ち伏せして何をするんですか!?」
「えっと、村ではボクの髪を切ってくれないから、町に髪を切りに行くところだったんだ。でもジョナス君はボクが髪を切りに行く事を知ってて、お前が髪切ってどうするんだってバカにしてきて・・・」
「・・・なんですかそれ?許せません。最低です」
あの男、やっぱり捻り潰した方がいいのではないでしょうか?
私の心に殺意が芽生えると、体中からあの冷たい力が滲み出て来ます。
「あ!ク、クラレッサちゃん!落ち着いて!ボ、ボクは大丈夫だから!気にしてないから!」
クマさんが慌てて私をなだめてきます。クマさん、人が良すぎます。怒る時は怒っていいんです。
「クマさん。お話しがあります。大事なお話しです」
私はクマさんの目をじっと見つめました。
「えっと、な、なにかな?」
「クマさんは優し過ぎます。怒る時は怒っていいんです。私は怒ってます。あの人は本当に許せません」
「う、うん・・・」
私もつい強い口調になってしまいました。クマさんは怒られていると感じたのかもしれません。
下を向いてしまいました。いけません、クマさんを責めたいわけではないのですが、私も反省です。
「・・・クマさん、さっきはありがとうございます。私をかばってくれて。とても頼もしかったですよ」
「え、あ、うん・・・その、ジョナス君がクラレッサちゃんを殴ろうとしたから。それだけは絶対ダメだから・・・」
私がクマさんにお礼の言葉を伝えると、クマさんは照れたように笑って、ほっぺたをポリポリとかきました。こういう仕草は本当に可愛いです。
それと、私もなんだか変です。ほっぺたが少し熱いです。
クマさんが私のために、勇気を出して前に出てくれた事が嬉しくて・・・・・
「あのさ、クラレッサちゃん・・・」
「はい、なんですか?」
クマさんは急に真面目な顔になると、意を決したように硬い口調で、私を見つめてきました。
「あのさ・・・ボク、明日行ってくるよ」
突然現れたジョナスに、ウシクは動揺を隠せなかった。
びくりと体を震わせ、おどおどしながらジョナスに顔を向ける。
「おい、ウシよぉ~、お前なんでここにいんの?つーか花畑って、お前似合わねぇなぁ~」
ジョナスはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、花畑に足を踏み入れた。
赤、青、黄色の綺麗な花を、何の躊躇いも無く踏みつけながら歩き、ウシクの前に立った。
「おいおい、ウシよぉ、何とか言えよ?ったく、でっけぇ図体してんのに情けねぇなぁ?」
向かい合う二人の体格差は大きい。190cmはあるウシクに対して、ジョナスは170cm程だろう。
体重にいたっては、ウシクは100キロを越えている巨漢だが、ジョナスは一回りも二回りも細い。
腕力で言えば、考えるまでもなくウシクの方が強い。しかしウシクは長年しみついたジョナスへの苦手意識から、言葉を返せずにいた。
「そこまでです。これ以上クマさんになにか言うのでしたら、私が許しませんよ」
青ざめた表情で俯くウシクを庇うように、クラレッサが前に出た。
キッと鋭い目を向けると、ジョナスは先日受けたクラレッサの霊気、ジョナスにとっては正体不明の力を思い出したのか、一瞬ビクリと頬を引きつらせた。だがすぐにニヤリと笑うと、余裕を見せるように肩をすくめて軽い調子で話し始めた。
「おいおい、そう睨むなって。こないだも言ったけど、ウシと一緒にいても全然楽しくねぇだろ?毎日山の中で魚と猪肉ばっか食べてて飽きねぇの?俺の家はよ、村で一番の金持ちなんだよ。俺のとこにくれば美味い料理だって綺麗な服だって、なんだって買ってやれるぜ?こないだ俺に何かした事は許してやるから、今からでも俺んとこに来いよ」
「そのお金は、元々はクマさんのお金ですよね?」
饒舌に話しながらジョナスは右手を伸ばし、クラレッサの肩に触れようとしたが、クラレッサの口から出た言葉にジョナスは手を止めた。
「・・・あ?」
「あ?じゃないです。クマさんから聞きました。あなたクマさんの従弟なのに、酷い事ばかり言って嫌いです。なんでクマさんを家から追い出したんですか?クマさんの家なのに乗っ取るなんて、ひど過ぎます。最低です」
ジョナスは眉間に強くシワを寄せて、クラレッサを睨みつける。だがクラレッサはまるで動じる事なく、真正面から言い返した。
ジョナスの言葉通り、ジョナスの家は村で一番裕福であり、その資金力で誰も逆らう事ができないほどの権力を持っている。何をしても許されてきたジョナスは、ここまで真向から敵意ある言葉をぶつけられたのは初めてだった。
「お前・・・この前もだけどよ、俺を誰だと思ってんだ?」
ギリッと歯を鳴らし、怒りに頬を引くつかせてクラレッサを睨みつける。
「失礼な人としか思ってません。それで、なんでクマさんを追い出したんですか?クマさんに悪いと思わないんですか?ひど過ぎます。最低です」
ジョナスはウシクを除けば、村で一番の体力型である。
金という権力を持っているが、金の力を借りずとも村の男達の上に立つ実力は持っていた。
しかしそのジョナスが睨みつけても、目の前の白髪の小柄な女は目を逸らさない。それどころか睨み返して、強い口調で非難までしてくるのだ。
女性としてクラレッサに興味を持っていたジョナスだが、これには我慢ならず激情した。
「おい!ちょっと顔が良いからって舐めやがって!痛い目に合わねぇと・・・!」
拳を振り上げたジョナスだったが、自分とクラレッサの間にウシクが割って入った事で、ピタリと拳を止めた。
「・・・おいウシ、なんのつもりだよ?邪魔だ、どけ」
青い目を吊り上げてウシクを睨みつける。普段のウシクであれば、ジョナスに逆らう事なく退いていた。
だが今回はジョナスの言葉に従わなかった。従うわけにはいかなかった。
「ジ、ジョナス君・・・お、女の子に暴力は、ダメだよ」
声は震えていた。自分の方が体が大きくても、ウシクは10年以上も自尊心を蔑まされてきたのだ。
ジョナスへの苦手意識、心の中に根付いた自己肯定感の低さは、そう簡単に取り除けるものではない。
今こうしてジョナスの前に立ち、反論しただけでも嫌な汗が滲み出て、足が震えているのだ。
「・・・あぁ?んだとコラ!ウシの癖に俺に逆らうってのか!?」
ジョナスはウシクの胸倉を掴むと、怒声を浴びせた。
女であるクラレッサに非難され、使い走り程度の存在でしかないウシクには言葉を返され、ジョナスの怒りは頂点に達していた。
ジョナスから発せられる怒気、ピリピリと張りつめる空気に、つい先ほどまで花に止まっていた蝶も、枝葉に止まり羽を休めて鳥達も逃げ出してしまった。
僅かな静寂の後、口を開いたのはウシクだった。
「・・・ジョナス君、ボクは何もしないよ。今日はここに、クラレッサちゃんと散歩をしてお弁当を食べに来ただけなんだ。それだけだよ」
「なっ!?ウシ・・・てめぇ」
まだ微かに声は震えていた。だが顔を上げて、ジョナスの目を見て答えたウシクからは、今までのおどおどした様子は見られない。ウシクの目にはまだ恐怖心は残っている。しかし、ここだけは退けないという、確かな強い意思が見えた。
「クマさん・・・」
ウシクの背に護られているクラレッサも、その強い気持ちを感じていた。
もしジョナスがウシクに、少しでも暴力を振るっていれば、迷わず霊気で叩き潰していた。
しかしウシクは正々堂々とジョナスの前に立ち、言葉で戦う事選んだ。そしてジョナスはそのウシクの覚悟に気圧されていた。
「ウシのくせに、俺に、よくも・・・」
飼い犬に噛まれる。
この時のジョナスの心情を一言で表すならば、その言葉が一番近いだろう。
もっともジョナスはウシクを可愛がっていたり、面倒を見ていたわけではない。だが自分より格下であり、自分が許しているから村への出入りもできる。自分が生かしてやっていると言っていい、そんな存在の男に、口答えをされた上に睨まれたのだ。断じて許されるものではなく、制裁を与えねばならない事案だった。
怒りで顔を紅潮さえ、わなわなと体を震わせながら、ジョナスはウシクに右手の人指し指を突き付けた。
「ウシ、お前明日俺の家に来い」
怒りを滲ませた低い声でウシクに命令をする。
睨みを利かせ、有無を言わせぬ圧力は、逆らう事は許さないと恫喝しているようなものだった。
ウシクは家を追い出されてから10年以上、一度たりとも生まれ育ったあの家に足を入れた事はない。
なぜ今更呼ばれるのか?家に行ってどうするのか?何かさせられるのか?
「え、あ、明日?なんで?」
「明日だ。その女も連れて来いよ?いいな?」
スッとウシクの背にいるクラレッサに目を向けると、ジョナスは冷笑を浮かべた。
「え?ク、クラレッサちゃんも?」
「そうだ、二人で来いよ?逃げたら許さねぇからな」
キッパリとそれだけ告げると、ジョナスはウシクの返答を待たずに背中を向けて、花畑から出て行った。
「・・・ク、クラレッサちゃん、ごめんね、巻き込んじゃって。今日はキミに元気になってほしくてここに来たのに、嫌な気持ちにさせちゃって・・・」
ジョナスの姿が小さくなり、そして見えなくなると、ウシクはゆっくりと振り返ってクラレッサに頭を下げた。大きな体を縮こまらせて、心底すまなそうに頭を下げているウシクだが、クラレッサは努めて明るく言葉を返した。
「クマさん、謝らないでください。私は大丈夫です。悪いのは全部あの失礼な男です。クマさんは何も悪くありません」
「で、でも、クラレッサちゃんに嫌な思いをさせちゃったから・・・」
「クマさん、前にも言いましたが、クマさんは気を使い過ぎです。私が大丈夫と言ったら大丈夫なんです。だから顔を上げてください。目を見てお話しをしましょう」
そう言われ、ウシクがおずおずと顔を上げると、クラレッサは満足そうに微笑んだ。
「そうです。クマさんは何も悪くありません。だから堂々としてください。ところで、あの人はなんでここに来たのでしょうか?お花畑に用事があるようには見えませんし、謎です」
クラレッサが腕を組んで首を傾げると、ウシクは何か思い当たったように、もしかして、と小さく呟いた。
「・・・ボク達をつけていたのかもしれない。前にもボクが出かけた先で、ジョナス君が待ち伏せしてた事があったんだ。ジョナス君ってお金で友達を使って、ボクの行動を探る時があるんだ。もしかして今回も友達にボクの事を調べさせて、後をつけて来たのかも・・・」
「え!?なんですかそれ!?驚きです、すごく気持ち悪いです!待ち伏せして何をするんですか!?」
「えっと、村ではボクの髪を切ってくれないから、町に髪を切りに行くところだったんだ。でもジョナス君はボクが髪を切りに行く事を知ってて、お前が髪切ってどうするんだってバカにしてきて・・・」
「・・・なんですかそれ?許せません。最低です」
あの男、やっぱり捻り潰した方がいいのではないでしょうか?
私の心に殺意が芽生えると、体中からあの冷たい力が滲み出て来ます。
「あ!ク、クラレッサちゃん!落ち着いて!ボ、ボクは大丈夫だから!気にしてないから!」
クマさんが慌てて私をなだめてきます。クマさん、人が良すぎます。怒る時は怒っていいんです。
「クマさん。お話しがあります。大事なお話しです」
私はクマさんの目をじっと見つめました。
「えっと、な、なにかな?」
「クマさんは優し過ぎます。怒る時は怒っていいんです。私は怒ってます。あの人は本当に許せません」
「う、うん・・・」
私もつい強い口調になってしまいました。クマさんは怒られていると感じたのかもしれません。
下を向いてしまいました。いけません、クマさんを責めたいわけではないのですが、私も反省です。
「・・・クマさん、さっきはありがとうございます。私をかばってくれて。とても頼もしかったですよ」
「え、あ、うん・・・その、ジョナス君がクラレッサちゃんを殴ろうとしたから。それだけは絶対ダメだから・・・」
私がクマさんにお礼の言葉を伝えると、クマさんは照れたように笑って、ほっぺたをポリポリとかきました。こういう仕草は本当に可愛いです。
それと、私もなんだか変です。ほっぺたが少し熱いです。
クマさんが私のために、勇気を出して前に出てくれた事が嬉しくて・・・・・
「あのさ、クラレッサちゃん・・・」
「はい、なんですか?」
クマさんは急に真面目な顔になると、意を決したように硬い口調で、私を見つめてきました。
「あのさ・・・ボク、明日行ってくるよ」
0
あなたにおすすめの小説
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる