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【1532 遠き落日 ⑧ 】
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家の中にまねかれた私とクマさんは、応接室に通されました。
二十人くらいは入れそうな広い部屋です。宝石をあしらわれた壺だったり、よく分かりませんが高そうな絵が飾ってあったりで、何というかお金持ちだという事は一目で分かりました。
本当はクマさんの家なんですけどね。
私とクマさんは促されるままに、黒い革張りのソファに座りましたが、これもすごく高そうです。
ジョナスとその父親と母親は、向かい合う形で私達の前に腰を下ろしました。
「久しぶりだねぇ、ウシク。なかなか顔を見せないから心配してたんだよ?」
ジョナスの父親が、ニコニコしながら話し始めました。
五十代くらいでしょうか。白髪交じりの髪は後ろに撫でつける形で整えられていて、パリっとした白いシャツを着ています。お腹は出ていますが清潔感はある人です。ただ、ねっとりとした話し方だし、この笑顔もうさんくさくて、クマさんを歓迎した笑顔でなさそうです。
「あ・・・はい・・・その、すみません」
「クマさん、なんで謝るんですか?」
三人掛けのソファを、二人分占領するくらい大きな体を縮こまらせて、ぼそぼそと謝罪するクマさんに私は首をかしげました。
ジョナスの父親は、私達の反応など気にせずに話しを続けます。
「ジョナスから聞いているが、お嬢さんはウシクの家に同居しているそうだね?」
こんな可愛い娘がウシクとねぇ、そう言ってジョナスの父は、隣に座る女性に顔を向けました。
「そうねぇ、本当に驚いたわぁ。お嬢さんはウシクの彼女さんかしらぁ?」
こちらも五十代くらいで、金色の髪をアップにしてまとめていて、質の良さそうな黄色のワンピースを着た細身の女性でした。胸元には大きな真珠のネックレスで、指にもこれまた大きな宝石の付いた指輪をつ付けています。そしてわざとらしいくらい、ねちゃっとしてて耳に残る話し方でした。
「私はクマさんの彼女ではありません。同居人です」
話しをふられたので、とりあえず聞かれた事だけ答えました。ちなみに聞かれてないので、私は名前も言ってません。きっと自分達より下だと思っている人の名前なんて、興味もないのでしょう。
私が同居人だと答えると、ジョナスのお母さんはおおげさなくらいニコニコしながら、まぁ~!と言って大きく頷きました。
「あらあら!あなたウシクをクマさんって呼んでるの?そうなのそうなの?まぁねぇ、確かにクマっぽいかもしれないわねぇ?そうなのそうなの~?いえね、息子からウシクの家に女の子がいるって聞いてたから、私てっきり、あらあらそういう関係ではなかったのね?いやだわ~私の早とちりだったのね?でもねぇ~、男と女が一つ屋根の下なんて・・・ねぇ~?そう思われてもしかたないわよねぇ~?」
「・・・あの、何を言ってるんですか?」
訳が分かりません。
ジョナスはニヤニヤしているし、ジョナスの父親はねっとりしているし、ジョナスの母親はねちゃっとしているし、いったい何なのですか?今日は私達はなんのためにここに呼ばれたのでしょうか?
思い切り眉間にシワを寄せて、訳分かりませんという顔をすると、それを見てクマさんが意を決したように前を向いて口を開きました。
「あ、あの!ジョナス君、今日は何の用事でボク達を呼んだの?」
そうです。本当になんの用なのでしょうか?嫌な予感しかしませんが、嫌な事はささっと終わらせるに限ります。今すぐ答えてください。時間は待ってくれません。
ジョナスは話しを向けられると、待ってましたとばかりにニヤリと口角を上げて、ぐいっと体を前に詰めて話し始めました。
「おう、ウシよぉ、お前とその娘よぉ、この村に住めよ」
「え?」
今この人、何て言いました?
全く予想していない事を言われて、私もクマさんも固まってしまいました。
そんな私達の困惑もおかいまく、目の前の顔だけは良い男は、ペラペラと言葉を続けます。
「だからよぉ、あんな山の中にいねぇでこの村に帰って来て住めって言ってんだよ。家なら心配すんな、この裏に小屋があんだろ?ちっと古いけどお前ら二人くらいなら住めるから、そこ使えよ。ウシが今住んでる小屋と大差ねぇから十分住めんだろ」
この男は本当に何を言っているのでしょうか?
なんで今更クマさんが、こんな村に住まないといけないのでしょうか?こんな居心地の悪い村、一日だって住めたものではありません。嫌な思いをするだけに決まってます。
クマさん断りましょう!
そう思ってクマさんに目を向けると、クマさんはおでこに汗をかいて、困ったように俯いていました。
「クマさん・・・」
やっぱりクマさんは、この人達には強く出られないようです。
何年も何年も刷り込まれた苦手意識は、早々消えるものではありません。
昨日私を庇って前に出てくれたのは、本当に勇気を振り絞ったのです。
「二人とも帰ったらすぐに荷物まとめて来いよ。分かったな?」
「お断りします」
当然のように私達に命令するジョナスに、私は首を横に振って、キッパリとお断りしました。
「・・・あ?」
「あ?じゃないです。嫌です。この村には住みません。帰りましょう、クマさん」
ジョナスがものすごい目で睨みつけてきましたが、無視です。私はソファから腰を上げると、クマさんに手を差し伸べました。まさか私がここまでハッキリ断るとは思ってなかったのか、クマさんは驚いたように私を見ています。
ほら、行きますよ。そう言ってクマさんの手を取ると、ジョナスの父親が私達に待ったをかけました。
「まぁ待ちたまえ。そんなに急いで結論を出さなくてもいいだろう?キミ達にとって悪い話しじゃないんだ。もう少し話しを聞いていきなさい」
右手を前に出して、座れと促してきます。話し方は丁寧ですが、有無を言わさぬ強さはあります。
権力者らしいと言いますか、自分に逆らう者なんていないと思ってる感じです。
「聞いても答えは変わらないと思います。だってあなた達はクマさんが嫌いなんですよね?それなのにこの村に住めなんて、どう考えても嫌な事しか頭に浮かびません」
「おやおや・・・なんだか誤解があるようだね?確かに私達とウシクには、ちょっとした行き違いがあったけれど、今は解決してるし何の遺恨もないんだよ。そうだよね?ウシク」
ジョナスの父親は、張り付けたような笑顔をクマさんに向けました。
言葉の端々に威圧感が滲み出ています。
「う、あ・・・えっと・・・」
クマさんはジョナスの父親の目も、まともに見られないようです。
まるで叱られた子供みたいに、下を向いて小さくなってしまいました。
「ウシク、私達はね、お前と仲良くしたいんだよ。お前は両親も亡くして天涯孤独だろ?うちの裏に住めば、なにかあった時に私達が助けてあげられるんだよ?それにこの村には仕事も沢山ある。お前は山で自分が食べるだけの魚と猪を獲っているが、私達がそれを町で売ってお金にしてあげよう。力仕事だって沢山あるんだ。村のみんながお前を待っているんだよ」
「えっと・・・その・・・・・」
まるでクマさんを頼りにしている、クマさんの事を考えているように言っていますが、これはダメです。
どう考えてもクマさんをいいように使う気満々です。いったい何の用かと思ったら、まさかこんな事を考えていたとは思いませんでした。
当然拒否です。断固拒否です。お断りの一択しかありませんが、こんなに青ざめて震えている状態のクマさんでは、うまく考えがまとまらないと思います。
クマさん・・・大丈夫ですよ、私が護りますから。
クマさんは私を助けてくれました。だから今度は私がクマさんを助けます。
「いい加減にしてください。何も解決なんかしてませんよ。この村には住みませんし、もう帰ります」
私はジョナスの父親を睨んで、ハッキリと言ってやりました。
するとジョナスの父親の頬が、ピキッと引きつりました。
「・・・キミねぇ、人の好意を無碍(むげ)にするのは、よろしくないね?私はね、世間知らずのウシクのために言ってあげてるんだよ?キミだってそうだ。あまり言いたくないが、キミももう少し世の中というものを知った方がいい。うちのジョナスが色々と教えてもいいと言ってるから、ウシクと一緒にこの村に住みなさい」
ジョナスの父親が、良い事言ったという顔を息子に向けると、ジョナスもしかたねぇなと言わんばかりのニヤついた顔を私に向けてきました。
「あ~、まぁそう言う事だ。お前もウシに同情してんだろうけどよ、いつまでも山ん中にいるつもりじゃねぇんだろ?この村に来れば旨いものも食えるし、町に遊びに連れて行ってやるよ。お前が俺の言う事を聞くってんなら、お前は裏の小屋じゃなくて、この家に部屋を用意してやってもいいんだぜ?」
本当にこの人達は何を言ってるんでしょうか?
私はもう返事をするのも面倒になったので、クマさんの手を掴んで、そのまま部屋の出口に向かって足を進めました。
そしてジョナスはそれが、よっぽど頭にきたようです。
「チッ、おい!お前らいい加減にしろよ!お前らみたいな貧乏人が俺にそんな態度をとっていいと思ってんのか!?」
ドン!とテーブルを叩いて立ち上がると、後ろから私の肩を掴んで来たのです。
「おい!コラ!なめてんじゃねぇぞ!」
そう怒鳴って無理やり私を振り向かせると、右手を振り上げたました。
女の私を殴る気です。本当に最低な人です。しかしこの男は忘れてしまったのでしょうか?
クマさんの家で私に何をされたのか?昨日お花畑で私が何もをしなかったから、アレは何かの間違いだったと都合良く記憶を書き換えてしまったのでしょうか?
それでしたら、思い出させてあげなければなりません。
私はスッとジョナスの青い目を見て、その力を使いました。
「女が調子に乗ってんじゃ・・・あ、がぁッ!?」
振り上げた右手で私の頬をぶとうとしたジョナスは、喉を押さえてその場に崩れ落ちました。
「あ、ぐぁッ・・・熱、あぐ、い、息、がぁ・・・!」
断片的に思い出した記憶ですが、私の体には、魔力とは別に霊気という力があるようです。
この力は見るだけで相手の息の根を止める事ができるくらい、恐ろしい力という事も思い出しました。
できれば使いたくはありませんが、白魔法使いの私には、暴力に対抗できる力が霊気しかありません。
それにこの男は本当に乱暴です。一度徹底的に懲らしめた方がいいでしょう。
喉は焼けるように熱く、呼吸も満足にできない。
手加減していますが、そろそろ意識を失う事でしょう。
「あ、ちょっ、これ・・・ 」
クマさんが心配そうに私を見ます。
私がこのままジョナスを殺してしまわないか、気にしているのかしれません。
「大丈夫ですよ、もう私達にちょっかいをかけられないくらい痛めつけるだけです。安心してください」
そう私が答えた時、ジョナスの父親が突然大声を上げて、ソファから跳び上がりました。
ガタガタと体を震わせて、恐怖に満ちた目を私に向けてきます。目の前で自分の息子が倒されたのですから、驚いたり怖がったりするのは理解できますが、ちょっと怯え過ぎではないでしょうか?
「うぁぁぁぁぁーーー!お、お前!ま、まさか!な、なんで気が付かなかったんだ・・・ま、まさかク、クラレッサ!?クラレッサなのか!?そ、その右目!義眼だな!白い髪、そしてその訳の分からない寒気のする力!間違いない!帝国のクラレッサだな!」
帝国の、クラレッサ・・・・・
その言葉は、私の記憶を強く深く刺激しました
二十人くらいは入れそうな広い部屋です。宝石をあしらわれた壺だったり、よく分かりませんが高そうな絵が飾ってあったりで、何というかお金持ちだという事は一目で分かりました。
本当はクマさんの家なんですけどね。
私とクマさんは促されるままに、黒い革張りのソファに座りましたが、これもすごく高そうです。
ジョナスとその父親と母親は、向かい合う形で私達の前に腰を下ろしました。
「久しぶりだねぇ、ウシク。なかなか顔を見せないから心配してたんだよ?」
ジョナスの父親が、ニコニコしながら話し始めました。
五十代くらいでしょうか。白髪交じりの髪は後ろに撫でつける形で整えられていて、パリっとした白いシャツを着ています。お腹は出ていますが清潔感はある人です。ただ、ねっとりとした話し方だし、この笑顔もうさんくさくて、クマさんを歓迎した笑顔でなさそうです。
「あ・・・はい・・・その、すみません」
「クマさん、なんで謝るんですか?」
三人掛けのソファを、二人分占領するくらい大きな体を縮こまらせて、ぼそぼそと謝罪するクマさんに私は首をかしげました。
ジョナスの父親は、私達の反応など気にせずに話しを続けます。
「ジョナスから聞いているが、お嬢さんはウシクの家に同居しているそうだね?」
こんな可愛い娘がウシクとねぇ、そう言ってジョナスの父は、隣に座る女性に顔を向けました。
「そうねぇ、本当に驚いたわぁ。お嬢さんはウシクの彼女さんかしらぁ?」
こちらも五十代くらいで、金色の髪をアップにしてまとめていて、質の良さそうな黄色のワンピースを着た細身の女性でした。胸元には大きな真珠のネックレスで、指にもこれまた大きな宝石の付いた指輪をつ付けています。そしてわざとらしいくらい、ねちゃっとしてて耳に残る話し方でした。
「私はクマさんの彼女ではありません。同居人です」
話しをふられたので、とりあえず聞かれた事だけ答えました。ちなみに聞かれてないので、私は名前も言ってません。きっと自分達より下だと思っている人の名前なんて、興味もないのでしょう。
私が同居人だと答えると、ジョナスのお母さんはおおげさなくらいニコニコしながら、まぁ~!と言って大きく頷きました。
「あらあら!あなたウシクをクマさんって呼んでるの?そうなのそうなの?まぁねぇ、確かにクマっぽいかもしれないわねぇ?そうなのそうなの~?いえね、息子からウシクの家に女の子がいるって聞いてたから、私てっきり、あらあらそういう関係ではなかったのね?いやだわ~私の早とちりだったのね?でもねぇ~、男と女が一つ屋根の下なんて・・・ねぇ~?そう思われてもしかたないわよねぇ~?」
「・・・あの、何を言ってるんですか?」
訳が分かりません。
ジョナスはニヤニヤしているし、ジョナスの父親はねっとりしているし、ジョナスの母親はねちゃっとしているし、いったい何なのですか?今日は私達はなんのためにここに呼ばれたのでしょうか?
思い切り眉間にシワを寄せて、訳分かりませんという顔をすると、それを見てクマさんが意を決したように前を向いて口を開きました。
「あ、あの!ジョナス君、今日は何の用事でボク達を呼んだの?」
そうです。本当になんの用なのでしょうか?嫌な予感しかしませんが、嫌な事はささっと終わらせるに限ります。今すぐ答えてください。時間は待ってくれません。
ジョナスは話しを向けられると、待ってましたとばかりにニヤリと口角を上げて、ぐいっと体を前に詰めて話し始めました。
「おう、ウシよぉ、お前とその娘よぉ、この村に住めよ」
「え?」
今この人、何て言いました?
全く予想していない事を言われて、私もクマさんも固まってしまいました。
そんな私達の困惑もおかいまく、目の前の顔だけは良い男は、ペラペラと言葉を続けます。
「だからよぉ、あんな山の中にいねぇでこの村に帰って来て住めって言ってんだよ。家なら心配すんな、この裏に小屋があんだろ?ちっと古いけどお前ら二人くらいなら住めるから、そこ使えよ。ウシが今住んでる小屋と大差ねぇから十分住めんだろ」
この男は本当に何を言っているのでしょうか?
なんで今更クマさんが、こんな村に住まないといけないのでしょうか?こんな居心地の悪い村、一日だって住めたものではありません。嫌な思いをするだけに決まってます。
クマさん断りましょう!
そう思ってクマさんに目を向けると、クマさんはおでこに汗をかいて、困ったように俯いていました。
「クマさん・・・」
やっぱりクマさんは、この人達には強く出られないようです。
何年も何年も刷り込まれた苦手意識は、早々消えるものではありません。
昨日私を庇って前に出てくれたのは、本当に勇気を振り絞ったのです。
「二人とも帰ったらすぐに荷物まとめて来いよ。分かったな?」
「お断りします」
当然のように私達に命令するジョナスに、私は首を横に振って、キッパリとお断りしました。
「・・・あ?」
「あ?じゃないです。嫌です。この村には住みません。帰りましょう、クマさん」
ジョナスがものすごい目で睨みつけてきましたが、無視です。私はソファから腰を上げると、クマさんに手を差し伸べました。まさか私がここまでハッキリ断るとは思ってなかったのか、クマさんは驚いたように私を見ています。
ほら、行きますよ。そう言ってクマさんの手を取ると、ジョナスの父親が私達に待ったをかけました。
「まぁ待ちたまえ。そんなに急いで結論を出さなくてもいいだろう?キミ達にとって悪い話しじゃないんだ。もう少し話しを聞いていきなさい」
右手を前に出して、座れと促してきます。話し方は丁寧ですが、有無を言わさぬ強さはあります。
権力者らしいと言いますか、自分に逆らう者なんていないと思ってる感じです。
「聞いても答えは変わらないと思います。だってあなた達はクマさんが嫌いなんですよね?それなのにこの村に住めなんて、どう考えても嫌な事しか頭に浮かびません」
「おやおや・・・なんだか誤解があるようだね?確かに私達とウシクには、ちょっとした行き違いがあったけれど、今は解決してるし何の遺恨もないんだよ。そうだよね?ウシク」
ジョナスの父親は、張り付けたような笑顔をクマさんに向けました。
言葉の端々に威圧感が滲み出ています。
「う、あ・・・えっと・・・」
クマさんはジョナスの父親の目も、まともに見られないようです。
まるで叱られた子供みたいに、下を向いて小さくなってしまいました。
「ウシク、私達はね、お前と仲良くしたいんだよ。お前は両親も亡くして天涯孤独だろ?うちの裏に住めば、なにかあった時に私達が助けてあげられるんだよ?それにこの村には仕事も沢山ある。お前は山で自分が食べるだけの魚と猪を獲っているが、私達がそれを町で売ってお金にしてあげよう。力仕事だって沢山あるんだ。村のみんながお前を待っているんだよ」
「えっと・・・その・・・・・」
まるでクマさんを頼りにしている、クマさんの事を考えているように言っていますが、これはダメです。
どう考えてもクマさんをいいように使う気満々です。いったい何の用かと思ったら、まさかこんな事を考えていたとは思いませんでした。
当然拒否です。断固拒否です。お断りの一択しかありませんが、こんなに青ざめて震えている状態のクマさんでは、うまく考えがまとまらないと思います。
クマさん・・・大丈夫ですよ、私が護りますから。
クマさんは私を助けてくれました。だから今度は私がクマさんを助けます。
「いい加減にしてください。何も解決なんかしてませんよ。この村には住みませんし、もう帰ります」
私はジョナスの父親を睨んで、ハッキリと言ってやりました。
するとジョナスの父親の頬が、ピキッと引きつりました。
「・・・キミねぇ、人の好意を無碍(むげ)にするのは、よろしくないね?私はね、世間知らずのウシクのために言ってあげてるんだよ?キミだってそうだ。あまり言いたくないが、キミももう少し世の中というものを知った方がいい。うちのジョナスが色々と教えてもいいと言ってるから、ウシクと一緒にこの村に住みなさい」
ジョナスの父親が、良い事言ったという顔を息子に向けると、ジョナスもしかたねぇなと言わんばかりのニヤついた顔を私に向けてきました。
「あ~、まぁそう言う事だ。お前もウシに同情してんだろうけどよ、いつまでも山ん中にいるつもりじゃねぇんだろ?この村に来れば旨いものも食えるし、町に遊びに連れて行ってやるよ。お前が俺の言う事を聞くってんなら、お前は裏の小屋じゃなくて、この家に部屋を用意してやってもいいんだぜ?」
本当にこの人達は何を言ってるんでしょうか?
私はもう返事をするのも面倒になったので、クマさんの手を掴んで、そのまま部屋の出口に向かって足を進めました。
そしてジョナスはそれが、よっぽど頭にきたようです。
「チッ、おい!お前らいい加減にしろよ!お前らみたいな貧乏人が俺にそんな態度をとっていいと思ってんのか!?」
ドン!とテーブルを叩いて立ち上がると、後ろから私の肩を掴んで来たのです。
「おい!コラ!なめてんじゃねぇぞ!」
そう怒鳴って無理やり私を振り向かせると、右手を振り上げたました。
女の私を殴る気です。本当に最低な人です。しかしこの男は忘れてしまったのでしょうか?
クマさんの家で私に何をされたのか?昨日お花畑で私が何もをしなかったから、アレは何かの間違いだったと都合良く記憶を書き換えてしまったのでしょうか?
それでしたら、思い出させてあげなければなりません。
私はスッとジョナスの青い目を見て、その力を使いました。
「女が調子に乗ってんじゃ・・・あ、がぁッ!?」
振り上げた右手で私の頬をぶとうとしたジョナスは、喉を押さえてその場に崩れ落ちました。
「あ、ぐぁッ・・・熱、あぐ、い、息、がぁ・・・!」
断片的に思い出した記憶ですが、私の体には、魔力とは別に霊気という力があるようです。
この力は見るだけで相手の息の根を止める事ができるくらい、恐ろしい力という事も思い出しました。
できれば使いたくはありませんが、白魔法使いの私には、暴力に対抗できる力が霊気しかありません。
それにこの男は本当に乱暴です。一度徹底的に懲らしめた方がいいでしょう。
喉は焼けるように熱く、呼吸も満足にできない。
手加減していますが、そろそろ意識を失う事でしょう。
「あ、ちょっ、これ・・・ 」
クマさんが心配そうに私を見ます。
私がこのままジョナスを殺してしまわないか、気にしているのかしれません。
「大丈夫ですよ、もう私達にちょっかいをかけられないくらい痛めつけるだけです。安心してください」
そう私が答えた時、ジョナスの父親が突然大声を上げて、ソファから跳び上がりました。
ガタガタと体を震わせて、恐怖に満ちた目を私に向けてきます。目の前で自分の息子が倒されたのですから、驚いたり怖がったりするのは理解できますが、ちょっと怯え過ぎではないでしょうか?
「うぁぁぁぁぁーーー!お、お前!ま、まさか!な、なんで気が付かなかったんだ・・・ま、まさかク、クラレッサ!?クラレッサなのか!?そ、その右目!義眼だな!白い髪、そしてその訳の分からない寒気のする力!間違いない!帝国のクラレッサだな!」
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