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【1533 遠き落日 ⑨】
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「あ、あなた!急にどうしたの!?帝国のクラレッサ?」
ジョナスの母は、突然ソファから跳び上がった夫に困惑した顔を向ける。
「こ、こいつはクラレッサだ!帝国の白魔法兵団団長のクラレッサ・アリームだ!お、俺は見た事があるんだ!こいつに睨まれただけで人が倒れるんだ、見た目で騙されるな!とんでもねぇ化け物だよ!て、帝国で見た時と雰囲気が全然違うから分からなかった・・・」
ジョナスの父はガタガタと体を震わせながら、一歩二歩と後ずさりをして、クラレッサから離れた。
この家も財産もウシクから奪い取り、一生遊んで暮らせるだけの富は手に入れたが、仕事をしていないわけではなかった。
ウシクの父の仕事にも目を付けたジョナスの父は、それも自分のものにして帝国にも足を伸ばした事があった。その時、偶然にも帝国時代のクラレッサを目にした事があったのだ。
特徴的な白い髪と義眼だったが、あの時の冷たく感情の読めないクラレッサと、今の素直で感情表現が豊かなクラレッサでは、別人と思えるほどに雰囲気が違い、同一人物とは結び付かなかった。
加えて、帝国軍の軍団長の地位にいる者が、こんな田舎でウシクと同居しているなど考えられるはずもない。ジョナスの父がすぐに分からなくてもやむを得ないだろう。
帝国のクラレッサ?
いったいなんの事ですか?帝国?そんなの知りません。
私は孤児院に住んでいたクラレッサです。孤児院は・・・・・
カエストゥス
「うっ!痛い!」
突然頭に走った強い痛みに、私はその場に膝を着きました。
「ク、クラレッサちゃん!」
「あ、頭が・・・い、痛い・・・」
痛い、痛い、痛い、た、助けて・・・助けて、お爺さん・・・・・
強い痛みと一緒に、私の頭の中には色々な場面が映し出されていきました
埋められた記憶を掘り起こすように、沢山の人の顔が、思い出が、いっぱい・・・・・楽しかった
うん、楽しかったんです。あの孤児院で暮らした毎日は、楽しかった
そして・・・辛い記憶も思い出されました
「て、い、こく・・・・・帝国・・・・・」
そう、私は・・・・・帝国にいました
まるで人形のように感情に乏しく、自分の意思を持たなかった
兄がいました・・・ただ一人、兄だけは信じられました
だから兄に言われるまま軍に入りました
悪霊・・・私の右目は御霊の目という水晶で作られた義眼です
この御霊の目には悪霊が憑いていました。そして悪霊の力を使って、私は戦いました
多くの人に危害を加えました。殺人だけはしませんでしたが、それでも人を傷つけてきたのです
当時は何も感じませんでしたが、お爺さんと出会って人の温かさを知った今では、あの日々はもう思い出す事も辛いです
悪霊は兄が引き剥がして、この世の向こう側へ連れて行っていくれました
兄は私を護るために戦い亡くなったそうです
とても辛くて悲しかったけれど・・・
お爺さんが私を引き取ってくれて、孤児院のみんなと家族になって・・・
私は・・・私は頑張って生きようって思う事ができました
いつか、いつか私が歳を取って、兄がお迎えに来てくれた時、私は幸せだったと笑顔で伝えるために
「はぁ・・・はぁ・・・わ、私は・・・帝国じゃ、ない・・・」
両手と両膝を床に着いて、言葉を絞り出します
呼吸は大きく乱れていて、動悸も激しい。頭が痛くて眩暈もするし、気持ち悪くて吐き気もします
でも・・・思い出した
「ゲホッ!ゲホッ!はぁ、ふぅ・・・チッ、この、てめぇよくも!」
私の霊気に潰されていたジョナスが体を起こしました。
一気に記憶が戻ったショックで集中力が乱れ、ジョナスを縛る霊気が消えてしまったのです。
大きく咳き込み、おぼつかない足取りで立ち上がりました。かなり消耗しているようですが、怒りに顔を歪ませて私を見下ろします。
「ゲホッ!・・・はぁ、はぁ・・・なんだよ、急にずいぶん具合が悪そうじゃねぇか?」
「はぁ・・・はぁ・・・うっ!」
頭が・・・頭が痛い!割れそうです!
両手で頭を押さえてうずくまった私を見て、ジョナスは私の頭の上から、心底楽しそうに言いました。
「へぇ~、そんなに頭が痛いんだ?」
その声が耳に届いた次の瞬間、私は頭に強い衝撃を受けて床に倒されました。
「ク、クラレッサちゃん!ッ、ジョナス君なんて事を!女の子の頭を蹴るなんて!」
「ッ!ぐぅ、うぅ!」
あ、頭が!い、痛い!
「ハッ!うっせぇよ!調子に乗りやがって!」
「ッ!」
ジョナスは怒鳴り声を上げて、私のお腹を蹴りつけました。つま先がお腹に刺さり、呼吸が止まる痛みと苦しさに、意識が遠のきそうになります。
「オラ!クソがっ!女のくせに俺をコケにしやがって!死ね!死ね!」
床に倒れている私を、ジョナスは何度も何度も蹴りつけてきます。
ただでさえ頭が割れそうなくらい強い頭痛に襲われているのに、体まで蹴られて私はまったく抵抗できませんでした。
い、痛い・・・痛い・・・・・
このまま死んじゃうのかな・・・・・そう思った時・・・
「や、やめろォォォォォーーーーーーーーーーーッ!」
家中に響き渡るくらい大きな声を上げて、クマさんが私の前に飛び出しました。
そしてそのまま両手でジョナスを突き飛ばしました。
クマさんから見れば子供のような体格のジョナスは、ソファや家具に体をぶつけながら壁まで吹っ飛ばされて体を打ち付けると、顔から床にバタンと倒れてそれっきり動かなくなりました。
大きな亀裂の入った壁からは、バラバラと破片が落ちていきます。すごい力です。
ジョナスの父と母は、あまりの事に声も出せずに固まっています。
「う、あ・・・クマ、さん・・・」
「クラレッサちゃん!大丈夫!?」
痛みで大きな声は出せませんが、クマさんの名前を呼ぶと、クマさんは慌てた様子振り返って、私の前にしゃがみました。
「クマ、さん・・・ありが、とう・・・強い、ですね・・・」
「ク、クラレッサちゃん・・・ご、ごめん、ボクが臆病だから、こんな、こんなひどいめに・・・ごめん、ご、ごめんよ、クラレッサちゃん・・・う、うぅ・・・」
クマさんは目に涙を浮かべながら、優しく私の体を起こしてくれました。
「ふふふ・・・泣かないで、クマさん・・・護って、くれたじゃ、ないですか・・・」
やっぱりクマさんは涙脆いです。こんなに大きく強いのに。
泣かないでください。私は大丈夫ですよ。
私はクマさんに心配させないように、笑ってみせました。なんだか少しだけ頭痛も治まってきました。
クマさんが護ってくれて、安心したからかもしれません。
「ウ、ウシク・・・お、お前、息子になんて事を・・・こんな事をして、ただで済むと思ってるのか?」
ようやく頭が動き始めたジョナスの父親が、まだ倒れたまま動かない息子を見つめながら、怒りで声を震わせました。
我に返った母親は、悲鳴を上げてジョナスに駆け寄ります。さすがに死んではいないと思いますが、あんな勢いで壁にぶつけられたのです。完全に気を失っているのでしょう。
「おい!聞いているのかウシク!私の息子にこんなとんでも事をして、どういうつもりだ!恩を仇で返しおって!許されないぞ!」
反応を見せないクマさんに無視をされたと感じたらしく、ジョナスの父がクマさんに怒声をぶつけました。
「・・・・・」
クマさんは何も答えません。
じっと押し黙ったまま、ジョナスの父親に背中を向けています。
「おい!ウシク!いい加減にしろ!私にそんな態度をとっていいと思っているのか!」
激昂したジョナスの父親がズンズンと近づいてきて、クマさんの右肩に手をかけました。
「こっちを向くん・・・!?」
クマさんは背中を向けたまま、自分の右肩に手をかけるジョナスの父親の右手を、左手でぐっと掴みました。クマさんの大きな手は、ジョナスの父親の手を上からすっぽりと隠してしまいました。
「な、なにをする!ウシク、この手を離さんか!」
クマさんは何も答えません。
ただ、少し握る力を強めると、ジョナスの父親は顔を痛みに顔を歪ませて、声を荒げながらクマさんの背中をドンドンと、何度も蹴りつけました。
「あっ、ぐうぁぁぁぁ!い、痛い!つ、潰れる!や、やめろ!やめろ!やめてくれウシクゥゥゥゥゥーーーーー!」
ついにジョナスの父親は悲鳴を上げ、何度も懇願しました。
クマさんがもう少し、もうあとほんの少しでも力を入れていれば、ジョナスの父親の右手はグシャっと潰されていた事でしょう。
そこでようやくクマさんは手を離すと、ゆっくりと腰を上げて振り返りました。
「はぁ、はぁ・・・ウ、ウシク、お前・・・ッ!?」
私からは見えませんが、ジョナスの父親はクマさんの顔を見ると、目を見開いて固まってしまいました。
顔は見えなくても、クマさんの雰囲気がいつもと違う事は分かります。よほど怖い顔をしていたのかもしれません。
「・・・叔父さん、もうボク達に関わらないで」
「ウ、ウシ、ク・・・」
怒気を含んだその声は、とてもあの優しいクマさんから発せられたとは思えないものでした。
後ろで聞いている私だって、お腹の底に響いて、冷や汗が出る程です。
真正面からそれをぶつけられたジョナスの父親は、顔が真っ青になって震えています。
ジョナスの母親も腰を抜かしてしまったようです。目には涙を浮かべ、顔を引きつらせてガタガタ震えています。もう息子を介抱するどころではなくなっているようです。
「この家もお金もいらない。叔父さんに全部あげる。だからもう二度とボク達の前に姿を見せないで。もし今度ボク達の前に現れたら・・・・・許さない」
クマさんはそれだけ言い残すと、また私に向き直って、そっと私を抱きかかえてくれました。
「あ、あの、クマさん・・・」
すでに私はヒールで自分の怪我を治しています。いつの間にか頭痛も治まっていたので、もう自分で歩けます。それを伝えようと思ったのですが・・・
「行こう、クラレッサちゃん。もう誰にもキミを傷つけさせないから。ボクがキミを護るから」
いつものクマさんの笑顔と優しい声です。
でも、いつもより強くて、頼もしくなっていました。
なんだかこのまま抱っこして欲しい気持ちになったので、このままクマさんにあまえようと思いました。
「はい、クマさん、お家に帰りましょう」
私も笑顔でそう言葉を返しました。
ジョナスの母は、突然ソファから跳び上がった夫に困惑した顔を向ける。
「こ、こいつはクラレッサだ!帝国の白魔法兵団団長のクラレッサ・アリームだ!お、俺は見た事があるんだ!こいつに睨まれただけで人が倒れるんだ、見た目で騙されるな!とんでもねぇ化け物だよ!て、帝国で見た時と雰囲気が全然違うから分からなかった・・・」
ジョナスの父はガタガタと体を震わせながら、一歩二歩と後ずさりをして、クラレッサから離れた。
この家も財産もウシクから奪い取り、一生遊んで暮らせるだけの富は手に入れたが、仕事をしていないわけではなかった。
ウシクの父の仕事にも目を付けたジョナスの父は、それも自分のものにして帝国にも足を伸ばした事があった。その時、偶然にも帝国時代のクラレッサを目にした事があったのだ。
特徴的な白い髪と義眼だったが、あの時の冷たく感情の読めないクラレッサと、今の素直で感情表現が豊かなクラレッサでは、別人と思えるほどに雰囲気が違い、同一人物とは結び付かなかった。
加えて、帝国軍の軍団長の地位にいる者が、こんな田舎でウシクと同居しているなど考えられるはずもない。ジョナスの父がすぐに分からなくてもやむを得ないだろう。
帝国のクラレッサ?
いったいなんの事ですか?帝国?そんなの知りません。
私は孤児院に住んでいたクラレッサです。孤児院は・・・・・
カエストゥス
「うっ!痛い!」
突然頭に走った強い痛みに、私はその場に膝を着きました。
「ク、クラレッサちゃん!」
「あ、頭が・・・い、痛い・・・」
痛い、痛い、痛い、た、助けて・・・助けて、お爺さん・・・・・
強い痛みと一緒に、私の頭の中には色々な場面が映し出されていきました
埋められた記憶を掘り起こすように、沢山の人の顔が、思い出が、いっぱい・・・・・楽しかった
うん、楽しかったんです。あの孤児院で暮らした毎日は、楽しかった
そして・・・辛い記憶も思い出されました
「て、い、こく・・・・・帝国・・・・・」
そう、私は・・・・・帝国にいました
まるで人形のように感情に乏しく、自分の意思を持たなかった
兄がいました・・・ただ一人、兄だけは信じられました
だから兄に言われるまま軍に入りました
悪霊・・・私の右目は御霊の目という水晶で作られた義眼です
この御霊の目には悪霊が憑いていました。そして悪霊の力を使って、私は戦いました
多くの人に危害を加えました。殺人だけはしませんでしたが、それでも人を傷つけてきたのです
当時は何も感じませんでしたが、お爺さんと出会って人の温かさを知った今では、あの日々はもう思い出す事も辛いです
悪霊は兄が引き剥がして、この世の向こう側へ連れて行っていくれました
兄は私を護るために戦い亡くなったそうです
とても辛くて悲しかったけれど・・・
お爺さんが私を引き取ってくれて、孤児院のみんなと家族になって・・・
私は・・・私は頑張って生きようって思う事ができました
いつか、いつか私が歳を取って、兄がお迎えに来てくれた時、私は幸せだったと笑顔で伝えるために
「はぁ・・・はぁ・・・わ、私は・・・帝国じゃ、ない・・・」
両手と両膝を床に着いて、言葉を絞り出します
呼吸は大きく乱れていて、動悸も激しい。頭が痛くて眩暈もするし、気持ち悪くて吐き気もします
でも・・・思い出した
「ゲホッ!ゲホッ!はぁ、ふぅ・・・チッ、この、てめぇよくも!」
私の霊気に潰されていたジョナスが体を起こしました。
一気に記憶が戻ったショックで集中力が乱れ、ジョナスを縛る霊気が消えてしまったのです。
大きく咳き込み、おぼつかない足取りで立ち上がりました。かなり消耗しているようですが、怒りに顔を歪ませて私を見下ろします。
「ゲホッ!・・・はぁ、はぁ・・・なんだよ、急にずいぶん具合が悪そうじゃねぇか?」
「はぁ・・・はぁ・・・うっ!」
頭が・・・頭が痛い!割れそうです!
両手で頭を押さえてうずくまった私を見て、ジョナスは私の頭の上から、心底楽しそうに言いました。
「へぇ~、そんなに頭が痛いんだ?」
その声が耳に届いた次の瞬間、私は頭に強い衝撃を受けて床に倒されました。
「ク、クラレッサちゃん!ッ、ジョナス君なんて事を!女の子の頭を蹴るなんて!」
「ッ!ぐぅ、うぅ!」
あ、頭が!い、痛い!
「ハッ!うっせぇよ!調子に乗りやがって!」
「ッ!」
ジョナスは怒鳴り声を上げて、私のお腹を蹴りつけました。つま先がお腹に刺さり、呼吸が止まる痛みと苦しさに、意識が遠のきそうになります。
「オラ!クソがっ!女のくせに俺をコケにしやがって!死ね!死ね!」
床に倒れている私を、ジョナスは何度も何度も蹴りつけてきます。
ただでさえ頭が割れそうなくらい強い頭痛に襲われているのに、体まで蹴られて私はまったく抵抗できませんでした。
い、痛い・・・痛い・・・・・
このまま死んじゃうのかな・・・・・そう思った時・・・
「や、やめろォォォォォーーーーーーーーーーーッ!」
家中に響き渡るくらい大きな声を上げて、クマさんが私の前に飛び出しました。
そしてそのまま両手でジョナスを突き飛ばしました。
クマさんから見れば子供のような体格のジョナスは、ソファや家具に体をぶつけながら壁まで吹っ飛ばされて体を打ち付けると、顔から床にバタンと倒れてそれっきり動かなくなりました。
大きな亀裂の入った壁からは、バラバラと破片が落ちていきます。すごい力です。
ジョナスの父と母は、あまりの事に声も出せずに固まっています。
「う、あ・・・クマ、さん・・・」
「クラレッサちゃん!大丈夫!?」
痛みで大きな声は出せませんが、クマさんの名前を呼ぶと、クマさんは慌てた様子振り返って、私の前にしゃがみました。
「クマ、さん・・・ありが、とう・・・強い、ですね・・・」
「ク、クラレッサちゃん・・・ご、ごめん、ボクが臆病だから、こんな、こんなひどいめに・・・ごめん、ご、ごめんよ、クラレッサちゃん・・・う、うぅ・・・」
クマさんは目に涙を浮かべながら、優しく私の体を起こしてくれました。
「ふふふ・・・泣かないで、クマさん・・・護って、くれたじゃ、ないですか・・・」
やっぱりクマさんは涙脆いです。こんなに大きく強いのに。
泣かないでください。私は大丈夫ですよ。
私はクマさんに心配させないように、笑ってみせました。なんだか少しだけ頭痛も治まってきました。
クマさんが護ってくれて、安心したからかもしれません。
「ウ、ウシク・・・お、お前、息子になんて事を・・・こんな事をして、ただで済むと思ってるのか?」
ようやく頭が動き始めたジョナスの父親が、まだ倒れたまま動かない息子を見つめながら、怒りで声を震わせました。
我に返った母親は、悲鳴を上げてジョナスに駆け寄ります。さすがに死んではいないと思いますが、あんな勢いで壁にぶつけられたのです。完全に気を失っているのでしょう。
「おい!聞いているのかウシク!私の息子にこんなとんでも事をして、どういうつもりだ!恩を仇で返しおって!許されないぞ!」
反応を見せないクマさんに無視をされたと感じたらしく、ジョナスの父がクマさんに怒声をぶつけました。
「・・・・・」
クマさんは何も答えません。
じっと押し黙ったまま、ジョナスの父親に背中を向けています。
「おい!ウシク!いい加減にしろ!私にそんな態度をとっていいと思っているのか!」
激昂したジョナスの父親がズンズンと近づいてきて、クマさんの右肩に手をかけました。
「こっちを向くん・・・!?」
クマさんは背中を向けたまま、自分の右肩に手をかけるジョナスの父親の右手を、左手でぐっと掴みました。クマさんの大きな手は、ジョナスの父親の手を上からすっぽりと隠してしまいました。
「な、なにをする!ウシク、この手を離さんか!」
クマさんは何も答えません。
ただ、少し握る力を強めると、ジョナスの父親は顔を痛みに顔を歪ませて、声を荒げながらクマさんの背中をドンドンと、何度も蹴りつけました。
「あっ、ぐうぁぁぁぁ!い、痛い!つ、潰れる!や、やめろ!やめろ!やめてくれウシクゥゥゥゥゥーーーーー!」
ついにジョナスの父親は悲鳴を上げ、何度も懇願しました。
クマさんがもう少し、もうあとほんの少しでも力を入れていれば、ジョナスの父親の右手はグシャっと潰されていた事でしょう。
そこでようやくクマさんは手を離すと、ゆっくりと腰を上げて振り返りました。
「はぁ、はぁ・・・ウ、ウシク、お前・・・ッ!?」
私からは見えませんが、ジョナスの父親はクマさんの顔を見ると、目を見開いて固まってしまいました。
顔は見えなくても、クマさんの雰囲気がいつもと違う事は分かります。よほど怖い顔をしていたのかもしれません。
「・・・叔父さん、もうボク達に関わらないで」
「ウ、ウシ、ク・・・」
怒気を含んだその声は、とてもあの優しいクマさんから発せられたとは思えないものでした。
後ろで聞いている私だって、お腹の底に響いて、冷や汗が出る程です。
真正面からそれをぶつけられたジョナスの父親は、顔が真っ青になって震えています。
ジョナスの母親も腰を抜かしてしまったようです。目には涙を浮かべ、顔を引きつらせてガタガタ震えています。もう息子を介抱するどころではなくなっているようです。
「この家もお金もいらない。叔父さんに全部あげる。だからもう二度とボク達の前に姿を見せないで。もし今度ボク達の前に現れたら・・・・・許さない」
クマさんはそれだけ言い残すと、また私に向き直って、そっと私を抱きかかえてくれました。
「あ、あの、クマさん・・・」
すでに私はヒールで自分の怪我を治しています。いつの間にか頭痛も治まっていたので、もう自分で歩けます。それを伝えようと思ったのですが・・・
「行こう、クラレッサちゃん。もう誰にもキミを傷つけさせないから。ボクがキミを護るから」
いつものクマさんの笑顔と優しい声です。
でも、いつもより強くて、頼もしくなっていました。
なんだかこのまま抱っこして欲しい気持ちになったので、このままクマさんにあまえようと思いました。
「はい、クマさん、お家に帰りましょう」
私も笑顔でそう言葉を返しました。
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