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1545 その身を盾に
「う・・・ぐぅ・・・はぁ、はぁ・・・・・」
か、勝った・・・・・
精霊の炎は撃ち抜き、あの男・・・ジャック・フレイジャーも消し飛ばした。
決着を見て、私は砂の上に膝を着いた。もう限界だった、とても立っていられない。
指先から力が抜ける。右手に握っていたガラスのナイフが、サクッと音を立てて砂の上に落ちて刺さった。
極軽量のナイフ一本握る力も残っていない。言葉通り全てを出し尽くした。
眩暈がして意識が飛びそうになったが、ぐっと歯を食いしばって耐えた。まだ戦争は続いているんだ、今ここで気を失うわけにはいかない。
この時、私は勝利を確信していた。
真空波と精霊の炎のぶつかりあいで、辺り一帯に砂埃が巻き上がっているが、私は黄金の真空波がジャック・フレイジャーを飲み込むところを確かに見た。だからこそ、この戦いに勝ったと言い切れる。
この戦いは終わった、終わったはずだった・・・・・
「・・・ッ!?」
ふいに感じた殺気、冷たくも鋭い射るような視線を感じて、私は空を見上げた。
「・・・な、に・・・貴様・・・」
ま、まさか・・・信じられない、まともにくらったはずだ、それなにいったいどうやって!?
「う・・・ぐ・・・・・あぁ・・・・・」
喉の奥から絞り出すような呻き声だった。
その男は足元から燃え上がる炎を纏いながら空に立ち、かろうじて残った右目だけでレイチェルを見下ろしていた。
しかしその右目がどこかおかしい。本当に自分を見ているのか?いや、見えているのか?
虚ろな目には、力と言うか意思のようなものが感じられない。怒りでも憎しみでも、何かしら感情があれば分かるものだが、ジャックの目は焦点も合っておらず、レイチェルは薄気味悪さを感じた。
色黒だった肌は至るところが切られて、体中から流れ落ちる血で真っ赤に染まっていた。とてつもない出血量だった、生きているのが不思議なくらいに。左腕は関節が砕かれたらしく、本来曲がらない方に折れ曲がり、左の足首も折れているのか、だらりとぶら下がっていた。
開いたままの口からは、か細い呻き声が漏れている。もはや意識があるのかすら定かではない。
「・・・あれは、まさか!」
レイチェルはジャック・フレイジャーの異常に気が付くと同時に、何がそうさせているのかも理解した。
足元から立ち上る炎は、まるでジャックを支えているかのように腕や足に絡みついている。
自力で立つ力も残っていないジャックを、炎が支えているのだ。
そして体力型のジャックが空中に浮かんでいる事も、この炎によるものなのだろう。
そう炎が・・・火の精霊がすでに意識の無いジャックを操っているのだ!
「ぐ、う・・・くそっ、なんて精霊だよ!」
火の精霊、争いを好む精霊だというが、まさか人間を操るとは!
あの男は、ジャックはもう意識が無い、その体を使っていったい何をする気だ!
くっ、右手・・・ダメだ、動かない・・・真空破どころか、落としたナイフを拾う事もできない。
この時レイチェルは立ち上がる力さえ残っておらず、空中に立つジャック・フレイジャーを見上げる事しかできなかった。黄金の真空波で全てを出し尽くした彼女には、もう何も残っていなかった。
ジャック・フレイジャーに絡みつく炎は、人形でも操るかのように血塗れに体に炎を這い巡らせた。
触手のように長く伸びる炎が腕を動かし、人差し指を地上のレイチェルに付きつける。その指先には高密度に凝縮された炎が灯る。それは小さくて静かだが、地上のレイチェルが感じ取れるくらい、凄まじい熱量を放っていた。
ジャック・フレイジャーの目には光が無い。意識は途絶えている。
しかし砂の上に膝を着き、何も抵抗する事ができないでいるレイチェルを見下ろすその表情が、ニヤリと嗤ったのだ。
「ッ・・・!火の精霊!」
嗤った・・・のか?あの男、ジャックはおそらく意識を失っている。意識があったとしてもあんなふうに嗤えるはずがない、これは、火の精霊が操っているなんてものじゃない・・・乗っ取りだ。
火の精霊がジャックの体を乗っ取ったんだ。
本来、あれほどの力を持った男の体を奪うなんて、精霊であってもそうたやすくできるはずがない。
だが重症を負って意識を失っている今なら、赤子の手を捻るようなものだったろう。
「ぐ!こ、このまま、じゃ・・・!」
ジャック・フレイジャーの指先で燃える炎は、上級魔法に匹敵する熱量を持っていた。
万全の状態であれば、真空波で迎撃する事は可能だ。だが満身創痍の今、レイチェルには迎撃どころか躱す事さえできない。
アレをくらえば死ぬ。
このままむざむざ焼かれるしかないのか?
いいや、当然そんなつもりはない!最後まで戦い、あがいて、生き残ってみせる!
「ぐ、うぁぁぁぁーーーーーーーーッツ!動け!動け!動くんだぁぁぁーーーーーーッツ!」
震える右手ではもう拳も握れないが、己の足を叩いて、叩いて、何度も叩いて声を張り上げる。
だが、気持ちとは裏腹に、レイチェルの体はとうに限界を超えて、体を起こす事さえできなかった。
ジャック・フレイジャーは・・・いや、ジャックの体を奪った火の精霊は、邪悪に歪んだ笑みでレイチェルを見下ろしている。先刻の精霊の炎を消し飛ばされた事は、火の精霊にとっても想像だにできない事だった。人間が精霊の力を上回ってくるなど、ありえない事だった。
それだけにこの赤毛の女戦士は、火の精霊にとって危険人物と認識をされた。即刻葬り去らなければと考えたが、その機会はすぐに訪れた。全てを出し尽くした赤毛の女戦士は、今こうして跪いているのだから。
ただ自分達を睨む事しかできない無力な姿を見ると、受けた屈辱も晴らされていく。
火の精霊はしばしレイチェルを見下ろしていたが、やがて飽きたのか、気が晴れたのか、スッと笑みを消した。
そして唇を、シネ、と短く動かすと、指先で燃える炎をレイチェルに撃ち放った!
「ぐッ、クソッ!こんなところで!」
我が身に襲い掛かる炎を目にして、レイチェルは死を覚悟した。
最期まで諦めない。あがいてあがいて、あがき抜く。その心は折れていないが、体が動かない以上どうにもならない現実がある。単身で敵陣深く入り込んだため、仲間の援護も期待できない。
もはや打つ手が無かった。
だが、精霊の炎がレイチェルを焼く事はなかった。
なぜなら・・・・・
「ッ!?」
突如レイチェルの頭に降りた影、まるでその身を盾にするように、両手を広げて目の前に立ったその男は・・・・・
「レイ・ランデル!」
レイチェルに敗北し、倒れていた帝国軍第一師団長レイ・ランデルだった。
己の名を背中に浴びてもレイ・ランデルは振り返らなかった。
だからこの時、彼がどんな顔をしていたのかは分からない。
なぜ?なんのために?なにがレイ・ランデルを動かしたのか?
だがレイ・ランデルは、本来レイチェルがくらうはずだった精霊の火をその身で受けた。
胸に刺さった炎は一瞬で全身を包みこみ、空高く昇る火柱となって激しく燃え上がった。
「バ、バカな!レイ!レイ・ランデル!お前なぜ!?」
レイチェルの声が聞こえたのか、それは分からない
だが微かに・・・ほんの微かに後ろに顔を向けたレイ・ランデルの口元は、微笑んでいるように見えた
か、勝った・・・・・
精霊の炎は撃ち抜き、あの男・・・ジャック・フレイジャーも消し飛ばした。
決着を見て、私は砂の上に膝を着いた。もう限界だった、とても立っていられない。
指先から力が抜ける。右手に握っていたガラスのナイフが、サクッと音を立てて砂の上に落ちて刺さった。
極軽量のナイフ一本握る力も残っていない。言葉通り全てを出し尽くした。
眩暈がして意識が飛びそうになったが、ぐっと歯を食いしばって耐えた。まだ戦争は続いているんだ、今ここで気を失うわけにはいかない。
この時、私は勝利を確信していた。
真空波と精霊の炎のぶつかりあいで、辺り一帯に砂埃が巻き上がっているが、私は黄金の真空波がジャック・フレイジャーを飲み込むところを確かに見た。だからこそ、この戦いに勝ったと言い切れる。
この戦いは終わった、終わったはずだった・・・・・
「・・・ッ!?」
ふいに感じた殺気、冷たくも鋭い射るような視線を感じて、私は空を見上げた。
「・・・な、に・・・貴様・・・」
ま、まさか・・・信じられない、まともにくらったはずだ、それなにいったいどうやって!?
「う・・・ぐ・・・・・あぁ・・・・・」
喉の奥から絞り出すような呻き声だった。
その男は足元から燃え上がる炎を纏いながら空に立ち、かろうじて残った右目だけでレイチェルを見下ろしていた。
しかしその右目がどこかおかしい。本当に自分を見ているのか?いや、見えているのか?
虚ろな目には、力と言うか意思のようなものが感じられない。怒りでも憎しみでも、何かしら感情があれば分かるものだが、ジャックの目は焦点も合っておらず、レイチェルは薄気味悪さを感じた。
色黒だった肌は至るところが切られて、体中から流れ落ちる血で真っ赤に染まっていた。とてつもない出血量だった、生きているのが不思議なくらいに。左腕は関節が砕かれたらしく、本来曲がらない方に折れ曲がり、左の足首も折れているのか、だらりとぶら下がっていた。
開いたままの口からは、か細い呻き声が漏れている。もはや意識があるのかすら定かではない。
「・・・あれは、まさか!」
レイチェルはジャック・フレイジャーの異常に気が付くと同時に、何がそうさせているのかも理解した。
足元から立ち上る炎は、まるでジャックを支えているかのように腕や足に絡みついている。
自力で立つ力も残っていないジャックを、炎が支えているのだ。
そして体力型のジャックが空中に浮かんでいる事も、この炎によるものなのだろう。
そう炎が・・・火の精霊がすでに意識の無いジャックを操っているのだ!
「ぐ、う・・・くそっ、なんて精霊だよ!」
火の精霊、争いを好む精霊だというが、まさか人間を操るとは!
あの男は、ジャックはもう意識が無い、その体を使っていったい何をする気だ!
くっ、右手・・・ダメだ、動かない・・・真空破どころか、落としたナイフを拾う事もできない。
この時レイチェルは立ち上がる力さえ残っておらず、空中に立つジャック・フレイジャーを見上げる事しかできなかった。黄金の真空波で全てを出し尽くした彼女には、もう何も残っていなかった。
ジャック・フレイジャーに絡みつく炎は、人形でも操るかのように血塗れに体に炎を這い巡らせた。
触手のように長く伸びる炎が腕を動かし、人差し指を地上のレイチェルに付きつける。その指先には高密度に凝縮された炎が灯る。それは小さくて静かだが、地上のレイチェルが感じ取れるくらい、凄まじい熱量を放っていた。
ジャック・フレイジャーの目には光が無い。意識は途絶えている。
しかし砂の上に膝を着き、何も抵抗する事ができないでいるレイチェルを見下ろすその表情が、ニヤリと嗤ったのだ。
「ッ・・・!火の精霊!」
嗤った・・・のか?あの男、ジャックはおそらく意識を失っている。意識があったとしてもあんなふうに嗤えるはずがない、これは、火の精霊が操っているなんてものじゃない・・・乗っ取りだ。
火の精霊がジャックの体を乗っ取ったんだ。
本来、あれほどの力を持った男の体を奪うなんて、精霊であってもそうたやすくできるはずがない。
だが重症を負って意識を失っている今なら、赤子の手を捻るようなものだったろう。
「ぐ!こ、このまま、じゃ・・・!」
ジャック・フレイジャーの指先で燃える炎は、上級魔法に匹敵する熱量を持っていた。
万全の状態であれば、真空波で迎撃する事は可能だ。だが満身創痍の今、レイチェルには迎撃どころか躱す事さえできない。
アレをくらえば死ぬ。
このままむざむざ焼かれるしかないのか?
いいや、当然そんなつもりはない!最後まで戦い、あがいて、生き残ってみせる!
「ぐ、うぁぁぁぁーーーーーーーーッツ!動け!動け!動くんだぁぁぁーーーーーーッツ!」
震える右手ではもう拳も握れないが、己の足を叩いて、叩いて、何度も叩いて声を張り上げる。
だが、気持ちとは裏腹に、レイチェルの体はとうに限界を超えて、体を起こす事さえできなかった。
ジャック・フレイジャーは・・・いや、ジャックの体を奪った火の精霊は、邪悪に歪んだ笑みでレイチェルを見下ろしている。先刻の精霊の炎を消し飛ばされた事は、火の精霊にとっても想像だにできない事だった。人間が精霊の力を上回ってくるなど、ありえない事だった。
それだけにこの赤毛の女戦士は、火の精霊にとって危険人物と認識をされた。即刻葬り去らなければと考えたが、その機会はすぐに訪れた。全てを出し尽くした赤毛の女戦士は、今こうして跪いているのだから。
ただ自分達を睨む事しかできない無力な姿を見ると、受けた屈辱も晴らされていく。
火の精霊はしばしレイチェルを見下ろしていたが、やがて飽きたのか、気が晴れたのか、スッと笑みを消した。
そして唇を、シネ、と短く動かすと、指先で燃える炎をレイチェルに撃ち放った!
「ぐッ、クソッ!こんなところで!」
我が身に襲い掛かる炎を目にして、レイチェルは死を覚悟した。
最期まで諦めない。あがいてあがいて、あがき抜く。その心は折れていないが、体が動かない以上どうにもならない現実がある。単身で敵陣深く入り込んだため、仲間の援護も期待できない。
もはや打つ手が無かった。
だが、精霊の炎がレイチェルを焼く事はなかった。
なぜなら・・・・・
「ッ!?」
突如レイチェルの頭に降りた影、まるでその身を盾にするように、両手を広げて目の前に立ったその男は・・・・・
「レイ・ランデル!」
レイチェルに敗北し、倒れていた帝国軍第一師団長レイ・ランデルだった。
己の名を背中に浴びてもレイ・ランデルは振り返らなかった。
だからこの時、彼がどんな顔をしていたのかは分からない。
なぜ?なんのために?なにがレイ・ランデルを動かしたのか?
だがレイ・ランデルは、本来レイチェルがくらうはずだった精霊の火をその身で受けた。
胸に刺さった炎は一瞬で全身を包みこみ、空高く昇る火柱となって激しく燃え上がった。
「バ、バカな!レイ!レイ・ランデル!お前なぜ!?」
レイチェルの声が聞こえたのか、それは分からない
だが微かに・・・ほんの微かに後ろに顔を向けたレイ・ランデルの口元は、微笑んでいるように見えた
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