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【340 兜割り】
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「・・・エリン隊が押されてきた。フローラ、出れるか?」
「は、はい!お、お任せください!」
砦の最上階で戦局を見ていたペトラだが、拮抗していた前線に変化が生じ始めた事を敏感に読み取った。
その原因は突如帝国軍の後方で見えた、暗闇を打ち消す程の大きな明かり・・・炎だ。
炎は前線に躍り出ると、圧倒的な突破力でカエストゥス軍を打ち崩していく。
「あの炎は深紅の鎧だな。炎を纏って次々と叩き伏せているのか。間違いない。あの炎を纏ったヤツが指揮官か」
ペトラはコバレフと戦った時の事を思い出していた。
あの時も僅かに月明かりが差し込むだけの暗い夜だった。
「フローラ、あの明かりは炎だ。帝国軍の師団長クラスが着る事のできる、深紅の鎧は知っているな?あの炎がそれだ。私は一度あの鎧と戦っているが、その気になれば、天まで届くほどの炎も出す事ができる。お前の役目は治療だが、戦場に出る以上、あの炎には気を付けろよ」
「は、はい!で、ではフローラ隊、しゅ、出陣します!」
「・・・あぁ、ちょっと待てフローラ」
ペトラに敬礼をして背を向けるが、フローラのあまりに緊張してコチコチになっている様子を見て、ペトラが呼び止めた。
「な、なんでしょうか?」
「・・・ん~、あ~っと、そうだ!それ、そのマフラー!エロールの巻いてるのと同じじゃない?どうしたの?」
「あ、は、はい!そうなんです!これ、先輩が私のために編んでくれたんです!俺がお前を絶対に護るって!先輩ってたまにすごい大胆なんです!」
「え、そう・・・なの?エロールって、そんなカッコ良い事言うヤツだっけ?」
「はい!素直じゃないんです!この前だって・・・」
「あー!分かった分かった!その話は、この戦いが終わったら聞くから!フローラ、大好きな先輩のためにも、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
ペトラがからかうように口の端を上げて笑うと、フローラはしまったと言うように、少し顔を赤くして口元に手を当てた。
「・・・肩の力、抜けたみたいだね?」
「・・・はい!隊長!ありがとうございます!では、改めまして、フローラ・ラミレス!出陣します!それと、先輩の事はしかたなく面倒見て上げてるだけです!」
フローラは元気よく手を上げると、駆け足でその場を離れて行った。
「ふぅむ!娘よ、筋は悪くない。だが、ワシとやり合うにはまだ若すぎる」
モズリーが槍を薙ぎ払うと、エリンはその一撃を受け止めきれずに体ごと弾き飛ばされた。
「くっ!」
背中から地面に叩きつけられ、何度もその体を転がらせる。
「はぁ、はぁ・・・こ、これほどとは・・・」
即座に膝を着き、上半身を起こして剣を向ける。
手ごわい相手とは考えていたが、もう少し何かできると思っていた。
なにもできず一方的に押される姿は、完全に子ども扱いだった。
ディーン・モズリーは、エリンの予想をはるか上回る実力者だった。
「なっ・・・!?」
エリンは追撃に備え体制を立て直した。
だが、モズリーは追撃どころか地面に槍を突き刺し、腕を組んでエリンを見ていた。
「き・・・貴様!馬鹿にしているのか!なぜ攻めてこない!貴様程の男なら今私に止めをさせただろう!」
自分など歯牙にもかけない。言葉にこそ出さないが、モズリーの目はそう語っていた。
屈辱にエリンはモズリーを怒鳴りつけるが、モズリーはまるで表情を変えず、諭すように静かに言葉を発した。
「娘よ、ワシとの力の差は十分に理解できたであろう?降伏せよ。今すぐに軍を引かせれば、捕虜としても温情ある待遇を約束しよう」
「・・・なん、だと?ふ・・・ふざけるな!私は剣士として誇りを持ってこの場に立っている!命など惜しくないわ!」
「若いな。拾える命を見逃すか・・・だが、よかろう。一度は助かる機会を与えた。剣士の誇りと言うのであれば、それに応えるのも務めよ」
エリンの覚悟を見て取ったモズリーは槍を引き抜くと、先程までより鋭い視線をエリンに向けた。
深紅の鎧も、モズリーの気迫に呼応し高々と炎を噴射させる。
帝国軍もカエストゥス軍も、その闘気に気圧され、モズリーとエリンの周りだけが円を描くように開かれた。
「フッ・・・自軍の兵士ながら、なんとも情けない。この程度の気で下がってしまうとはな」
モズリーは重心を後ろに、やや前傾姿勢になり、槍の穂先をエリンに向けた。
突きだ!
構えからして突きしかない。それ以外には考えられなかった。
エリンは予測は正しい。
だが、それは相手が飛び道具を持っていない場合の正解だった。
エリンが立ち上がり剣を構えると、モズリーは、ハッ!と短い掛け声とともに、その場で槍を突き出した。
突き出された穂先から、炎が鋭く噴射され、エリンに襲いかかる。
「なに!?」
咄嗟に左に飛んで躱すが、躱した先にはすでにモズリーが回り込んでいた。
「娘よ、これがお前の望んだ結末だ」
エリンがモズリーの言葉を認識した時には、モズリーはその炎を纏う槍を、はエリンの胸目掛けて突き出していた。
突然槍が弾かれた事に、モズリーの思考が僅かな時間停止する。
標的を確実に捉え、そして間違いなく刺し貫けるタイミングだった。
しかし、エリンの胸を突き刺したと思った瞬間、モズリーが穂先から感じた感触は、まるで鋼鉄の塊にでも突き立てたかのような、およそ人の体とは思えないものだった。
そして、モズリーは己の槍を止めた物の正体を目にし、驚愕に目を剥いた。
「・・・マ、マフラー・・・だと?」
まさか防がれるとは露にも思わなかった。しかも長年研鑽を積み鍛え上げた一撃を受け止めた物は、やわなマフラーだったのだ。
さらにモズリーの槍は、力をそのまま返されたように後ろに弾かれる。
あまりに予想だにしない事態による思考の停止、そして体勢が崩れた事で、モズリーに致命的な隙ができる。
「素晴らしいぞフローラ、よくぞ止めた」
漆黒のマントに身を包み、闇夜の空から降って来たペトラの大剣が、モズリーの兜を叩き割った。
「は、はい!お、お任せください!」
砦の最上階で戦局を見ていたペトラだが、拮抗していた前線に変化が生じ始めた事を敏感に読み取った。
その原因は突如帝国軍の後方で見えた、暗闇を打ち消す程の大きな明かり・・・炎だ。
炎は前線に躍り出ると、圧倒的な突破力でカエストゥス軍を打ち崩していく。
「あの炎は深紅の鎧だな。炎を纏って次々と叩き伏せているのか。間違いない。あの炎を纏ったヤツが指揮官か」
ペトラはコバレフと戦った時の事を思い出していた。
あの時も僅かに月明かりが差し込むだけの暗い夜だった。
「フローラ、あの明かりは炎だ。帝国軍の師団長クラスが着る事のできる、深紅の鎧は知っているな?あの炎がそれだ。私は一度あの鎧と戦っているが、その気になれば、天まで届くほどの炎も出す事ができる。お前の役目は治療だが、戦場に出る以上、あの炎には気を付けろよ」
「は、はい!で、ではフローラ隊、しゅ、出陣します!」
「・・・あぁ、ちょっと待てフローラ」
ペトラに敬礼をして背を向けるが、フローラのあまりに緊張してコチコチになっている様子を見て、ペトラが呼び止めた。
「な、なんでしょうか?」
「・・・ん~、あ~っと、そうだ!それ、そのマフラー!エロールの巻いてるのと同じじゃない?どうしたの?」
「あ、は、はい!そうなんです!これ、先輩が私のために編んでくれたんです!俺がお前を絶対に護るって!先輩ってたまにすごい大胆なんです!」
「え、そう・・・なの?エロールって、そんなカッコ良い事言うヤツだっけ?」
「はい!素直じゃないんです!この前だって・・・」
「あー!分かった分かった!その話は、この戦いが終わったら聞くから!フローラ、大好きな先輩のためにも、ちゃんと帰ってくるんだよ?」
ペトラがからかうように口の端を上げて笑うと、フローラはしまったと言うように、少し顔を赤くして口元に手を当てた。
「・・・肩の力、抜けたみたいだね?」
「・・・はい!隊長!ありがとうございます!では、改めまして、フローラ・ラミレス!出陣します!それと、先輩の事はしかたなく面倒見て上げてるだけです!」
フローラは元気よく手を上げると、駆け足でその場を離れて行った。
「ふぅむ!娘よ、筋は悪くない。だが、ワシとやり合うにはまだ若すぎる」
モズリーが槍を薙ぎ払うと、エリンはその一撃を受け止めきれずに体ごと弾き飛ばされた。
「くっ!」
背中から地面に叩きつけられ、何度もその体を転がらせる。
「はぁ、はぁ・・・こ、これほどとは・・・」
即座に膝を着き、上半身を起こして剣を向ける。
手ごわい相手とは考えていたが、もう少し何かできると思っていた。
なにもできず一方的に押される姿は、完全に子ども扱いだった。
ディーン・モズリーは、エリンの予想をはるか上回る実力者だった。
「なっ・・・!?」
エリンは追撃に備え体制を立て直した。
だが、モズリーは追撃どころか地面に槍を突き刺し、腕を組んでエリンを見ていた。
「き・・・貴様!馬鹿にしているのか!なぜ攻めてこない!貴様程の男なら今私に止めをさせただろう!」
自分など歯牙にもかけない。言葉にこそ出さないが、モズリーの目はそう語っていた。
屈辱にエリンはモズリーを怒鳴りつけるが、モズリーはまるで表情を変えず、諭すように静かに言葉を発した。
「娘よ、ワシとの力の差は十分に理解できたであろう?降伏せよ。今すぐに軍を引かせれば、捕虜としても温情ある待遇を約束しよう」
「・・・なん、だと?ふ・・・ふざけるな!私は剣士として誇りを持ってこの場に立っている!命など惜しくないわ!」
「若いな。拾える命を見逃すか・・・だが、よかろう。一度は助かる機会を与えた。剣士の誇りと言うのであれば、それに応えるのも務めよ」
エリンの覚悟を見て取ったモズリーは槍を引き抜くと、先程までより鋭い視線をエリンに向けた。
深紅の鎧も、モズリーの気迫に呼応し高々と炎を噴射させる。
帝国軍もカエストゥス軍も、その闘気に気圧され、モズリーとエリンの周りだけが円を描くように開かれた。
「フッ・・・自軍の兵士ながら、なんとも情けない。この程度の気で下がってしまうとはな」
モズリーは重心を後ろに、やや前傾姿勢になり、槍の穂先をエリンに向けた。
突きだ!
構えからして突きしかない。それ以外には考えられなかった。
エリンは予測は正しい。
だが、それは相手が飛び道具を持っていない場合の正解だった。
エリンが立ち上がり剣を構えると、モズリーは、ハッ!と短い掛け声とともに、その場で槍を突き出した。
突き出された穂先から、炎が鋭く噴射され、エリンに襲いかかる。
「なに!?」
咄嗟に左に飛んで躱すが、躱した先にはすでにモズリーが回り込んでいた。
「娘よ、これがお前の望んだ結末だ」
エリンがモズリーの言葉を認識した時には、モズリーはその炎を纏う槍を、はエリンの胸目掛けて突き出していた。
突然槍が弾かれた事に、モズリーの思考が僅かな時間停止する。
標的を確実に捉え、そして間違いなく刺し貫けるタイミングだった。
しかし、エリンの胸を突き刺したと思った瞬間、モズリーが穂先から感じた感触は、まるで鋼鉄の塊にでも突き立てたかのような、およそ人の体とは思えないものだった。
そして、モズリーは己の槍を止めた物の正体を目にし、驚愕に目を剥いた。
「・・・マ、マフラー・・・だと?」
まさか防がれるとは露にも思わなかった。しかも長年研鑽を積み鍛え上げた一撃を受け止めた物は、やわなマフラーだったのだ。
さらにモズリーの槍は、力をそのまま返されたように後ろに弾かれる。
あまりに予想だにしない事態による思考の停止、そして体勢が崩れた事で、モズリーに致命的な隙ができる。
「素晴らしいぞフローラ、よくぞ止めた」
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