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416 クリスの宿屋で ①
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「よーし、閉店だ閉店。アラやん、店の鍵かけてこい」
「あ、はい行ってきます」
四時半、陽が傾き夕焼け空になった頃だ。
俺がこの世界に来たのは7月、ちょうど夏真っ盛りの時だった。
その時は7時になってもまだ明るかったが、ほんの三ヶ月でこんなに変わるんなだなと、出入り口のドアから空を見上げて感じていた。
「・・・アラタ」
「ん?あ、ユーリ・・・どうかした?」
シャッターを下ろし鍵をかけていると、後ろから声をかけられた。
振り返るとユーリが薄紫色のパーカーのポケットに両手を入れて、俺を見上げるようにして立っていた。
最近は慣れて来たけど、ユーリはあまり表情の変化がないので、機嫌が良いのか悪いのか分かり辛い。
でも、今日はなんとなく表情が柔らかく見える。
「おめでとう」
「ん?・・・あぁ!うん、ちゃんと認めてもらえたよ。ありがとう」
カチュアとの結婚の許可がもらえた事をお祝いしてくれているんだ。
ユーリはカチュアと一番仲が良い。
前に俺の家に泊まりに来た時も、カチュアに心のこもった言葉をかけていた。
自分の事でもないのに、とても喜んでくれている。
「それでね、急な話しだけど、今日これから色々まとめたお祝いをする事になった」
「ん?」
本当に急な話しに俺が首を傾げると、ユーリは淡々と言葉を続ける。
「場所はクリスさんの宿屋。クリーンは忘れずに持って来る事。後片付けが終わったら事務所に集合。じゃあまた後で」
用件だけ伝えると、ユーリは回れ右してスタスタと自分の白魔法コーナーに戻って行った。
一人残された俺は、いまいち話しが飲み込めずにいたが、ふとある事を思い出した。
「・・・あ!もしかして、こないだレイチェルが言ってた祝勝会か?」
俺がマルゴンを倒した事で、国王陛下に謁見する事になり、この前俺とレイチェルで城へ行ったのだ。
その帰りの馬車の中で、俺がカチュアへプロポーズした事や、マルゴン戦の勝利とか、色々ひっくるめてレイチェルから祝勝会をやろうと話されていた。
しかし、今の時期にそんな事やって大丈夫なのか?
そう考えながら戸締りを終えて事務所に入ると、レイチェルは一言ではっきり言い切った。
「あぁ、今日なら問題ない」
「え、なんで?」
いつ王妃様から召集がかけられるか分からないのに、いいのだろうか?
俺の表情から考えている事を読み取ったように、レイチェルは言葉を続けた。
「まだ何も連絡が来ないからだ。考えてもみろ、夜は外に出れないんだぞ?仮に今連絡をもらっても我々は何もできない。つまり、緊急で今すぐ来いという連絡があるとしても、それは昼間に入るべき連絡なんだ。もう五時前だ。王妃様も今日何か行動をする気はないという事だ」
「・・・なるほど。確かにその通りだ」
俺が納得して頷くと、レイチェルはさらに言葉を続けた。
「もっと言えば、王妃様は慎重な方だ。準備は万全に整える。ケイトがセインソルボ山へ入った時にも、王妃様が裏で入念に用意をしてくれた事は聞いただろう?だから、当日に連絡をしてくる事はまず考えられない。私達の準備を考えて決行の二日前には連絡をくれるはずだ。それに・・・多分ギリギリまで待っているんだと思う」
「待ってる?何を?」
そこでレイチェルは事務所の窓から外に目を向けた。
差し込む夕陽がレイチェルの赤い髪と一体になったように、綺麗に染め上げる。
「・・・店長が帰ってくるのを」
どこか寂し気にそう呟いたレイチェル。
一人でカエストゥスに行ったというので、やはり心配なのだろう。
そして王妃様が店長の帰りを待っていると言うのは、なるほど、と頷けた。
一人で三系統全ての魔法を使えるという、規格外の人のようだから、その戦闘力は計り知れないものなのだろう。
偽国王に反旗を翻すというのであれば、絶対に必要な戦力のはずだ。
ケイトの話しでは、10月末までには戻って来るという約束のようだ。
そう考えるともうすぐ帰ってくると思うが、今日のところは何もないという事か。
「・・・そういう訳だ。だから今日は問題ない。一応写しの鏡は持って行くが、使う事はないだろう。まぁ・・・アラタはカチュアの家から帰ってきたばかりで、忙しくさせてしまって悪いと思うが、今日は付き合ってくれ。実は昼休憩の時、クリスさんの宿屋に行って部屋の空きや、料理の確認をしたんだが問題なかったようでね。いつまでも先延ばしにするのも何だし、今日はエルちゃんのご両親も店に来てたからタイミングが良かったんだ。先に行って待ってるはずだ」
確かに前々からジャレットさんにも一度飲みに行かないか?と誘われていたし、レイチェルや他のみんなも祝勝会いつやる?と楽しみにしていてくれていた。
いつまでも先延ばしにして、そのうちと言っていたら結局できないだろう。
王妃様の件も問題ないと言うのであれば、できるうちにやってしまった方がいいかもしれない。
「分かった。俺は全然大丈夫だ。喜んで参加させてもらうよ」
「うん、そう言ってくれて助かるよ。なんせ今日決めた事だからね。ちょっと無理に話しを進めたから、どうしても都合が悪いのならしかたないと思ってたんだが、主役のキミが参加でなによりだ」
レイチェルはホッとしたように笑ってくれた。
いつもテキパキ動いていて決断力も高いけど、色々と気を使ってもいるのかもしれないと思った。
「うぇ~い、終わったぜ~」
俺とレイチェルの話しが終わったところで、事務所のドアが開いてジャレットさんが入って来た。
帳簿を付けていたため、俺より来るのが遅くなったのだ。
「あ、アラタ君!早いね」
続いてカチュアにユーリも入って来て、ぞろぞろと人が集まり出した。
「みんな来たし私は外で待っているぞ。なるべく早く準備してくれよ?だんだん暗くなってきた」
レイチェルはショルダーバックを斜めにかけると、ドアを開けて外へ出て行った。
「準備も何も、俺は手ぶらだからな~」
リカルドはスタスタ歩いてドアを開け、そのまま外へ出て行った。
そう言えばこいつは財布をポケットに入れてるだけで、他には何も持って来ないんだった。
リカルドらしいと言えばらしい。
他のみんなも準備ができた順にどんどん外へ出て行った。
「アラタ君、お待たせ!じゃあ行こっか」
「うん」
最後に俺とカチュアが外に出て、鍵を閉めた。
ミゼルさんが付き合っているという宿屋のクリスさん。
名前はよく聞いていたけど、会うのは初めてだ。どんな人だろう。
なんとなくカチュアに聞いてみると、カチュアは少し俺を睨んで、浮気は駄目だからね、と釘を刺してきた。
「いやいや!よく名前は聞いてたから、それでどんな人か聞いただけだよ」
慌てて否定すると、カチュアはクスクス笑って、分かってるよ、と言ってくれた。
「ちょっと意地悪言っただけだよ。アラタ君はそんな人じゃないって知ってるからね」
そうカチュアは俺と手を繋いできた。
「・・・最近俺をイジるの多くない?」
「そんな事ないよ。ふふふ」
この笑い方は確信犯だな。
しかたないなと軽く息を付くと、一番前を歩くリカルドが振り返って急かすように手を振った。
「おーい!兄ちゃん!カチュア!遅せーぞー!早く来いよ!」
ちょっと歩くのが遅かったようだ。
俺とカチュアは顔を見合わせると、少し足を速めて前を歩くみんなを追いかけた。
「あ、はい行ってきます」
四時半、陽が傾き夕焼け空になった頃だ。
俺がこの世界に来たのは7月、ちょうど夏真っ盛りの時だった。
その時は7時になってもまだ明るかったが、ほんの三ヶ月でこんなに変わるんなだなと、出入り口のドアから空を見上げて感じていた。
「・・・アラタ」
「ん?あ、ユーリ・・・どうかした?」
シャッターを下ろし鍵をかけていると、後ろから声をかけられた。
振り返るとユーリが薄紫色のパーカーのポケットに両手を入れて、俺を見上げるようにして立っていた。
最近は慣れて来たけど、ユーリはあまり表情の変化がないので、機嫌が良いのか悪いのか分かり辛い。
でも、今日はなんとなく表情が柔らかく見える。
「おめでとう」
「ん?・・・あぁ!うん、ちゃんと認めてもらえたよ。ありがとう」
カチュアとの結婚の許可がもらえた事をお祝いしてくれているんだ。
ユーリはカチュアと一番仲が良い。
前に俺の家に泊まりに来た時も、カチュアに心のこもった言葉をかけていた。
自分の事でもないのに、とても喜んでくれている。
「それでね、急な話しだけど、今日これから色々まとめたお祝いをする事になった」
「ん?」
本当に急な話しに俺が首を傾げると、ユーリは淡々と言葉を続ける。
「場所はクリスさんの宿屋。クリーンは忘れずに持って来る事。後片付けが終わったら事務所に集合。じゃあまた後で」
用件だけ伝えると、ユーリは回れ右してスタスタと自分の白魔法コーナーに戻って行った。
一人残された俺は、いまいち話しが飲み込めずにいたが、ふとある事を思い出した。
「・・・あ!もしかして、こないだレイチェルが言ってた祝勝会か?」
俺がマルゴンを倒した事で、国王陛下に謁見する事になり、この前俺とレイチェルで城へ行ったのだ。
その帰りの馬車の中で、俺がカチュアへプロポーズした事や、マルゴン戦の勝利とか、色々ひっくるめてレイチェルから祝勝会をやろうと話されていた。
しかし、今の時期にそんな事やって大丈夫なのか?
そう考えながら戸締りを終えて事務所に入ると、レイチェルは一言ではっきり言い切った。
「あぁ、今日なら問題ない」
「え、なんで?」
いつ王妃様から召集がかけられるか分からないのに、いいのだろうか?
俺の表情から考えている事を読み取ったように、レイチェルは言葉を続けた。
「まだ何も連絡が来ないからだ。考えてもみろ、夜は外に出れないんだぞ?仮に今連絡をもらっても我々は何もできない。つまり、緊急で今すぐ来いという連絡があるとしても、それは昼間に入るべき連絡なんだ。もう五時前だ。王妃様も今日何か行動をする気はないという事だ」
「・・・なるほど。確かにその通りだ」
俺が納得して頷くと、レイチェルはさらに言葉を続けた。
「もっと言えば、王妃様は慎重な方だ。準備は万全に整える。ケイトがセインソルボ山へ入った時にも、王妃様が裏で入念に用意をしてくれた事は聞いただろう?だから、当日に連絡をしてくる事はまず考えられない。私達の準備を考えて決行の二日前には連絡をくれるはずだ。それに・・・多分ギリギリまで待っているんだと思う」
「待ってる?何を?」
そこでレイチェルは事務所の窓から外に目を向けた。
差し込む夕陽がレイチェルの赤い髪と一体になったように、綺麗に染め上げる。
「・・・店長が帰ってくるのを」
どこか寂し気にそう呟いたレイチェル。
一人でカエストゥスに行ったというので、やはり心配なのだろう。
そして王妃様が店長の帰りを待っていると言うのは、なるほど、と頷けた。
一人で三系統全ての魔法を使えるという、規格外の人のようだから、その戦闘力は計り知れないものなのだろう。
偽国王に反旗を翻すというのであれば、絶対に必要な戦力のはずだ。
ケイトの話しでは、10月末までには戻って来るという約束のようだ。
そう考えるともうすぐ帰ってくると思うが、今日のところは何もないという事か。
「・・・そういう訳だ。だから今日は問題ない。一応写しの鏡は持って行くが、使う事はないだろう。まぁ・・・アラタはカチュアの家から帰ってきたばかりで、忙しくさせてしまって悪いと思うが、今日は付き合ってくれ。実は昼休憩の時、クリスさんの宿屋に行って部屋の空きや、料理の確認をしたんだが問題なかったようでね。いつまでも先延ばしにするのも何だし、今日はエルちゃんのご両親も店に来てたからタイミングが良かったんだ。先に行って待ってるはずだ」
確かに前々からジャレットさんにも一度飲みに行かないか?と誘われていたし、レイチェルや他のみんなも祝勝会いつやる?と楽しみにしていてくれていた。
いつまでも先延ばしにして、そのうちと言っていたら結局できないだろう。
王妃様の件も問題ないと言うのであれば、できるうちにやってしまった方がいいかもしれない。
「分かった。俺は全然大丈夫だ。喜んで参加させてもらうよ」
「うん、そう言ってくれて助かるよ。なんせ今日決めた事だからね。ちょっと無理に話しを進めたから、どうしても都合が悪いのならしかたないと思ってたんだが、主役のキミが参加でなによりだ」
レイチェルはホッとしたように笑ってくれた。
いつもテキパキ動いていて決断力も高いけど、色々と気を使ってもいるのかもしれないと思った。
「うぇ~い、終わったぜ~」
俺とレイチェルの話しが終わったところで、事務所のドアが開いてジャレットさんが入って来た。
帳簿を付けていたため、俺より来るのが遅くなったのだ。
「あ、アラタ君!早いね」
続いてカチュアにユーリも入って来て、ぞろぞろと人が集まり出した。
「みんな来たし私は外で待っているぞ。なるべく早く準備してくれよ?だんだん暗くなってきた」
レイチェルはショルダーバックを斜めにかけると、ドアを開けて外へ出て行った。
「準備も何も、俺は手ぶらだからな~」
リカルドはスタスタ歩いてドアを開け、そのまま外へ出て行った。
そう言えばこいつは財布をポケットに入れてるだけで、他には何も持って来ないんだった。
リカルドらしいと言えばらしい。
他のみんなも準備ができた順にどんどん外へ出て行った。
「アラタ君、お待たせ!じゃあ行こっか」
「うん」
最後に俺とカチュアが外に出て、鍵を閉めた。
ミゼルさんが付き合っているという宿屋のクリスさん。
名前はよく聞いていたけど、会うのは初めてだ。どんな人だろう。
なんとなくカチュアに聞いてみると、カチュアは少し俺を睨んで、浮気は駄目だからね、と釘を刺してきた。
「いやいや!よく名前は聞いてたから、それでどんな人か聞いただけだよ」
慌てて否定すると、カチュアはクスクス笑って、分かってるよ、と言ってくれた。
「ちょっと意地悪言っただけだよ。アラタ君はそんな人じゃないって知ってるからね」
そうカチュアは俺と手を繋いできた。
「・・・最近俺をイジるの多くない?」
「そんな事ないよ。ふふふ」
この笑い方は確信犯だな。
しかたないなと軽く息を付くと、一番前を歩くリカルドが振り返って急かすように手を振った。
「おーい!兄ちゃん!カチュア!遅せーぞー!早く来いよ!」
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