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理太郎

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999 フェリックスの頼み

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「・・・なんだと?」

口を突いて出たのは、自分でも驚くような固い声だった。
目の前に座る男、ゴールド騎士のフェリックスが口にした人物の名は、レイジェスと因縁浅からぬ男だったからだ。

かつてクインズベリー最強と謳われた男、マルコス・ゴンサレス。
偽国王との戦いが終わった後、二人の部下、ジェイミー・アンカハス。ノルベルト・ヤファイを連れて、クインズベリーを去っていた。

その後の消息は不明だったのだが、フェリックスは帝国との国境付近で見つけたと言うのだ。

「さすがに驚いたみたいだね?」

レイチェルの反応は、フェリックスの予想通りだった。
レイチェルが唯一敗北を喫した男マルコス・ゴンサレス、この男の名前を出せば、大きく動揺するだろうという事は分かっていた。

「・・・あの戦いから一年も経つ・・・その間まったく消息が掴めたなかったマルコスを、よく見つけられたものだな?」

やや前のめりになりながら、レイチェルは正面に座るフェリックスに鋭い視線をぶつけた。
渋々といった様子でこの席についたレイチェルだったが、マルコスの名前が出た途端、まるきり姿勢が変わった。

「まぁ、僕が見つけたわけじゃないんだけどね。僕はルナの護衛があるから、基本的に城から出れない。せいぜい騎士団の宿舎までかな。見つけたのはね、レイマートさ」

自分は関係ないと言うように、フェリックスは手の平をひらひらと振って答えた。

「レイマート・ハイランド・・・新しくゴールド騎士になった男だな。あいつか」

シルバー騎士の序列一位だった男だが、当時からゴールド騎士の領域に、片足を踏み込んだ実力者だった。
偽国王を倒した後、その実力が再評価され、ゴールド騎士へと昇格している。
掴みどころがなく、何を考えているのかいまいち読めない男だったが、レイチェルはこの男が嫌いではなかった。


「そうそう、そのレイマート。今話したように僕はルナの護衛で動けない。だからアルベルトが中心になって騎士団を見ているんだ。言っておくけど、今の騎士団はトレバーが団長だった時とは全然違うよ?アルベルトは僕よりずっと厳しいから、騎士団もビシっとしてるからね。まぁそういうわけで、比較的自由に動けるのがレイマートってわけ。それで今レイマートは、シルバー騎士を数人連れて、帝国との国境付近の警戒にあたってるんだよ。決戦は冬と予想されてるけど、いつ何があるかわからないからね」

そこまで話すと、フェリックスはレイチェルの反応を見るように一度言葉を切った。

「・・・そうか、それでレイマートは、いつ、どんな状況でマルコスを見つけたんだ?」

「うん、僕とアルベルトに伝令が届いたのが昨日の夕方なんだ。帝国との距離、騎士の移動速度を考えると、実際にレイマートがマルコスを見つけたのは7日位前かな。帝国との国境は平野が続いているから、身を隠す場所はあまりないだろ?だからレイマートは、平野に入る前の山岳地帯、パウンド・フォーから、遠距離を見る事ができる魔道具を使って監視していたらしい。数日それを続けていたら、ある日マルコスらしき男が反対側、東のパウンド・フォーに現れたらしいんだ」


「・・・パウンド・フォーか、帝国に攻めいるためには、必ず越えなければならない山だな。クインズベリーからは必然的に西入りをしなければならないが、マルコスは東から現れたんだな?だとすると、ヤツはすでに帝国に入っていた可能性があるな?」

山岳地帯パウンド・フォー。
クインズベリーと帝国との間を隔て、まるで帝国を護るようにそびえ立つ、高く険しい山々である。
そして山々の並びの中で、特に高い山が四つあり、それを指してパウンド・フォーと呼ばれるようになった。

貿易を行っていた時には、舗装された山道を通る事ができたが、帝国兵がクインズベリーに攻めて来た後は封鎖されている。
当然帝国のからの監視もあるため、無理に通ろうとすれば戦闘は避ける事ができない。

ゴールド騎士のレイマートが、たった数人のシルバー騎士だけを連れて潜伏したのは、帝国の監視網を潜り抜けるためには、少数精鋭が最も好ましいと判断したためである。

「そうなるね、ただ、帝国に入っていたと言っても、僕はマルコスが裏切ったとは思っていない。あいつはいけ好かないヤツだけど、良くも悪くもこの国のために行動している。伝令の話しでは、マルコスの他にも5~6人の男がいたそうだ。つまりアンカハスとヤファイ以外にも、連れているって事だね」

「・・・そうか」

そう一言だけ口にすると、レイチェルは腕を組んで押し黙った。
視線はフェリックスとの間のテーブルの上に注がれ、何かを考えるように眉を寄せている。


「・・・なにか気になるのかな?」

数十秒程度の沈黙だったが、口を閉ざしたままのレイチェルに、フェリックスが静かに問いかけた。

「・・・推測だが、マルコスは自分だけの部隊を作って、帝国と戦おうとしているんじゃないか?」

「へぇ、さすがだね。僕達も同じ事を考えたよ、ね?アルベルト」

レイチェルの考えを聞くと、フェリックスは出入口の脇に立っているアルベルトに声を飛ばした。

レイチェルも顔半分程振り返ると、アルベルトは、そうだ、と頷きながら近づいて来た。

「俺達もお前と同じ考えに至った。自由を得たマルゴンは、独立した部隊を作って帝国と戦うつもりだ」

「そうか・・・国を出て何をしているのかと思えば、あいつ・・・この事は、アンリエール様は?」

アルベルトはフェリックスの隣の椅子を引いて腰を下ろすと、話しの核心に迫った。

「報告はしてある。ああ、お前には俺達から話すと陛下に頼んだんだ。当事者である俺達の方が、正確に伝えられるだろ?」

「なるほど・・・だがそれだけじゃないんだろ?」

わざわざ謁見が終わるのを待って、ここまで連れてきたのだ。
マルコスらしき者を見かけた。それを教えるだけにしては、ゴールド騎士が二人も揃って話す必要があるだろうか?大げさな感じがする。
それに、言ってしまえば、騎士団がレイチェルに教える義務はないのだ。

つまりもっと別な用事・・・ハッキリ言えば面倒事があるはずなのだ。


さっさと話せ、そう言うようにアルベルトとフェリックスの顔を交互に見やる。

二人は顔を合わせると、意思を確認するように頷き合った。
口を開いたのはフェリックスだった。


「鋭いね、さすがだよレイチェル・エリオット。その通り、実は頼みがあるんだ。伝令からはマルコスの報告の他にもう一件、パウンド・フォーの西側にて、全長10メートルにも及ぶ大蛇が何匹も現れて、レイマート達が襲われたそうなんだ。救援が必要だ。手を貸してくれないか?」
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