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1027 夢が告げた事
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・・・アラタ、行っちゃ駄目
聞き覚えのある声だった。
そう、とても懐かしく、絶対に忘れる事のない声・・・・・
・・・・・・・・・・と戦っちゃ駄目、勝てない
この声は・・・弥生さんだ、弥生さんが俺に何かを伝えているんだ
・・・いい、もし・・・・と会ったら絶対に逃げて・・・・・
なに?肝心なところが聞き取れない・・・弥生さん、俺に誰から逃げろと言ってるんだ?
・・・アラタ・・・このまま進めば、あなたはパウンド・フォーで・・・・と会う事になる
え?弥生さん、待ってくれ、何て言ってるんだ?俺は誰と会うんだ!?
なんでそんな悲しそうな声で・・・・・
・・・アラタ、絶対に戦おうなんて思わないで・・・・・今のあなたでは勝てない
弥生さん!
「ハッ!・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁ・・・・・」
荒い呼吸と共に目が覚めた。
全身にぐっしょりと汗をかいていて、心臓の鼓動も早い。
見慣れない板張りの天井や壁が目に入り、一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが、昨夜泊った小屋だと思い出して一つ息を付いた。
「ふぅ・・・・・夢・・・だったのか・・・」
色の無い夢だった。
真っ暗闇の中で、弥生さんの声だけが聞こえてくる。
そしてその声はとても深い悲しみに満ちていた。
夢は夢だ・・・気にしなくてもいいかもしれない。
だけど俺には、これがただの夢だとは思えなかった。
行っちゃ駄目・・・戦うな・・・
この言葉から考えて、弥生さんは俺に訪れようとしている危機を知らせたかったんだ。
そしてその危機とは・・・・・俺達が向かっているパウンド・フォーにある。
「アラタ、うなされていたようだが・・・悪い夢でも見たのか?」
上半身を起こして額を押さえていると、正面から声をかけられた。
顔を上げると、見慣れた赤い髪が目に入った。
「あ、レイチェル・・・ああ、悪い夢ってわけじゃないんだけど・・・」
レイチェルは俺の正面にしゃがんで両手を組むと、うん、と小さく答えて、そのまま黙って話しの続きを待つ。
「・・・声が聞こえたんだ・・・弥生さんの声が・・・・・行っちゃ駄目だって、戦うな、勝てないって・・・俺に危険を教えるような事を言うんだ」
「・・・・・アラタ、それはこれから行くパウンド・フォーの事か?戦うなとは、パウンド・フォーにいる闇の蛇と戦うなと、そういう事か?」
俺の話す夢の内容に、レイチェルは真剣に耳を傾けてくれた。
夢なんだからと流されるかもと思ったが・・・そうだな、レイチェルは人の話しをちゃんと聞いてくれるんだった。
初めて俺がこの世界に来た時だって、荒唐無稽にしか思えない俺の話しを真剣に聞いてくれたんだよな。
「・・・行っちゃ駄目だってのは、パウンド・フォーの事だと思う。でも戦うな、勝てないってのは、蛇の事じゃないと思う。そこだけハッキリと聞き取れなかったんだけど、あれは人の名前を言っていたように思うんだ・・・」
そう、あれは人の名前を言っていたはずだ。
なぜかそこだけ聞き取れなかったけど、蛇とか獣の類ではない。
誰かの名前だったはずだ・・・
「そうか・・・つまりパウンド・フォーに行くと、アラタはアラタ以上の戦闘力を持った何者かと戦う事になる。そしてアラタはそいつに敗れると、そうシンジョウ・ヤヨイは言っているんだな?」
レイチェルの声色が変わった。
真剣みを帯びた口調は固く、それはつまり俺の話しを疑う事なく信じたという事だ。
「ああ・・・弥生さんの言葉を考えると、そう言っているようにしか思えない。レイチェル・・・レイチェルは夢の話しでも信じてくれるんだな?」
「ん?ああ・・・まぁ、誰の話しでも信じるわけではないぞ?ただアラタはくそ真面目だからな。こういう話しで嘘をつかない事はよく知っている。それに時を越えて繋がる想いや、魂だけになっても届く心というものは本当にあるからな・・・・・店長から聞いてるだろ?」
「あ・・・うん、そう言えば確かに・・・」
店長から聞いた過去の戦争の話しでも、亡くなった人がその想い人のために、何らかの力を発揮したという話しがあった。
店長自身も皇帝との戦いで、亡くなったジャニスから命を助けてもらったそうだ。
その時店長は意識を失っていたそうだが、体に流れてくる回復の魔力は感じ取れていたらしい。
そしてその魔力はジャニスのものだったと、確信していたそうだ。
「アラタ、だから私は信じるよ。シンジョウ・ヤヨイはキミのために夢の中で語り掛けた。それはキミとヤヨイの魂の結びつきが確かなものだという証拠だ。本当に良い人と出会ってたんだな・・・この世界で再会する事はできなかったが、心と心は今も繋がっているんだぞ」
「・・・・・そっか・・・俺、弥生さんに会えなくて寂しかったけど・・・心と心は今も繋がってるんだな・・・」
首から下げた、欠けた樹のネックレスを手に取る。
それは弥生さんが使っていた薙刀・・・新緑の欠片。
「・・・ああ、キミとシンジョウ・ヤヨイは今も繋がっているんだ」
レイチェルが優しく目を細めた。
俺と弥生さんは今も繋がっている・・・そう言われる事がとても嬉しくて、胸が温かくなる。
「・・・・・なぁレイチェル、俺どうすればいいと思う?弥生さんはパウンド・フォーに行くなって言ってたけどさ・・・」
「ふむ・・・正直悩ましいな。シンジョウ・ヤヨイの忠告に従うべきなんだろうが、レイマート達を救出するにはキミの光の力は絶対に必要だ。だから私の案としては、キミはレイマート達を助けたら、その何者かに会う前に山を降りたらどうだ?」
「え、俺だけで降りるの?」
「そうだ。シンジョウ・ヤヨイは戦うな、逃げろと言ってたんだろ?つまり山に行っても、逃げれば助かるという事だろ?だったらそれでもいいんじゃないのか?」
レイチェルの説明には頷けるものがあった。
確かにその通りだ。弥生さんの言葉はそう捉える事もできる。
だがやはり、パウンド・フォーに行かない事が前提なのではないか?
戦うな、逃げろ、この言葉も含めてパウンド・フォーに行くなと、そう言っていたのではないだろうか?
「・・・アラタ、まぁキミが考えている事は分かる。私も自分で言っておいてなんだが、ちょっと強引な解釈だと思う。でも実際にキミがいないとこの救出は成り立たない。闘気で立ち向かえるといっても、本物の闇には通用しないんだ」
「ああ、分かってる・・・・・そうだな、俺はレイマート達を助けるために来たんだ。ここで逃げ帰るわけにはいかないよな・・・」
両の拳を握り締める。
俺には闇と戦える光の力がある。この力は闘気よりも強く、本物の闇を消す事もできる。
パウンド・フォーにいる闇の蛇を倒すには必要な力なんだ。
「弥生さんの言葉は忘れずに気を付ける。だから俺もこのまま行くよ」
「悪いな・・・そうしてもらえると正直助かるよ。私もシンジョウ・ヤヨイの言葉は頭に入れておこう。キミに万一の事が起きないよう、フォローはしっかりさせてもらう」
覚悟を決めてレイチェルに自分の意思を告げると、レイチェルは少し安心したように息をついた。
それから表情を引き締めると、俺をサポートすると言ってくれた。
「レイチェル、ここから先もよろしく頼むな」
「ああ、もちろんだ。任せておけ」
二人で顔を見合わせて笑みを零した。
最初からずっとレイチェルは俺を助けてくれた
レイチェルの言う通りにしていれば、何も心配はいらなかった
俺はレイチェルを心から信頼している
この世界に来て、最初に会ったのがレイチェルでなければ今のこの生活は無かった
カチュアとも出会う事はなかっただろうし、今頃どうなっていたか分からない
レイチェルには返しきれない恩がある
だから俺で力になれるのであれば、喜んでこの力を使おう
パウンド・フォーに行く事に躊躇いはない
だが・・・・・・・・・
・・・アラタ・・・行っちゃ駄目
・・・あなたはパウンド・フォーで・・・・と会う事になる
・・・絶対に戦おうなんて思わないで・・・・・今のあなたでは勝てない
弥生さんの言葉が脳に刻まれて、決して薄れる事はなかった
聞き覚えのある声だった。
そう、とても懐かしく、絶対に忘れる事のない声・・・・・
・・・・・・・・・・と戦っちゃ駄目、勝てない
この声は・・・弥生さんだ、弥生さんが俺に何かを伝えているんだ
・・・いい、もし・・・・と会ったら絶対に逃げて・・・・・
なに?肝心なところが聞き取れない・・・弥生さん、俺に誰から逃げろと言ってるんだ?
・・・アラタ・・・このまま進めば、あなたはパウンド・フォーで・・・・と会う事になる
え?弥生さん、待ってくれ、何て言ってるんだ?俺は誰と会うんだ!?
なんでそんな悲しそうな声で・・・・・
・・・アラタ、絶対に戦おうなんて思わないで・・・・・今のあなたでは勝てない
弥生さん!
「ハッ!・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁ・・・・・」
荒い呼吸と共に目が覚めた。
全身にぐっしょりと汗をかいていて、心臓の鼓動も早い。
見慣れない板張りの天井や壁が目に入り、一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが、昨夜泊った小屋だと思い出して一つ息を付いた。
「ふぅ・・・・・夢・・・だったのか・・・」
色の無い夢だった。
真っ暗闇の中で、弥生さんの声だけが聞こえてくる。
そしてその声はとても深い悲しみに満ちていた。
夢は夢だ・・・気にしなくてもいいかもしれない。
だけど俺には、これがただの夢だとは思えなかった。
行っちゃ駄目・・・戦うな・・・
この言葉から考えて、弥生さんは俺に訪れようとしている危機を知らせたかったんだ。
そしてその危機とは・・・・・俺達が向かっているパウンド・フォーにある。
「アラタ、うなされていたようだが・・・悪い夢でも見たのか?」
上半身を起こして額を押さえていると、正面から声をかけられた。
顔を上げると、見慣れた赤い髪が目に入った。
「あ、レイチェル・・・ああ、悪い夢ってわけじゃないんだけど・・・」
レイチェルは俺の正面にしゃがんで両手を組むと、うん、と小さく答えて、そのまま黙って話しの続きを待つ。
「・・・声が聞こえたんだ・・・弥生さんの声が・・・・・行っちゃ駄目だって、戦うな、勝てないって・・・俺に危険を教えるような事を言うんだ」
「・・・・・アラタ、それはこれから行くパウンド・フォーの事か?戦うなとは、パウンド・フォーにいる闇の蛇と戦うなと、そういう事か?」
俺の話す夢の内容に、レイチェルは真剣に耳を傾けてくれた。
夢なんだからと流されるかもと思ったが・・・そうだな、レイチェルは人の話しをちゃんと聞いてくれるんだった。
初めて俺がこの世界に来た時だって、荒唐無稽にしか思えない俺の話しを真剣に聞いてくれたんだよな。
「・・・行っちゃ駄目だってのは、パウンド・フォーの事だと思う。でも戦うな、勝てないってのは、蛇の事じゃないと思う。そこだけハッキリと聞き取れなかったんだけど、あれは人の名前を言っていたように思うんだ・・・」
そう、あれは人の名前を言っていたはずだ。
なぜかそこだけ聞き取れなかったけど、蛇とか獣の類ではない。
誰かの名前だったはずだ・・・
「そうか・・・つまりパウンド・フォーに行くと、アラタはアラタ以上の戦闘力を持った何者かと戦う事になる。そしてアラタはそいつに敗れると、そうシンジョウ・ヤヨイは言っているんだな?」
レイチェルの声色が変わった。
真剣みを帯びた口調は固く、それはつまり俺の話しを疑う事なく信じたという事だ。
「ああ・・・弥生さんの言葉を考えると、そう言っているようにしか思えない。レイチェル・・・レイチェルは夢の話しでも信じてくれるんだな?」
「ん?ああ・・・まぁ、誰の話しでも信じるわけではないぞ?ただアラタはくそ真面目だからな。こういう話しで嘘をつかない事はよく知っている。それに時を越えて繋がる想いや、魂だけになっても届く心というものは本当にあるからな・・・・・店長から聞いてるだろ?」
「あ・・・うん、そう言えば確かに・・・」
店長から聞いた過去の戦争の話しでも、亡くなった人がその想い人のために、何らかの力を発揮したという話しがあった。
店長自身も皇帝との戦いで、亡くなったジャニスから命を助けてもらったそうだ。
その時店長は意識を失っていたそうだが、体に流れてくる回復の魔力は感じ取れていたらしい。
そしてその魔力はジャニスのものだったと、確信していたそうだ。
「アラタ、だから私は信じるよ。シンジョウ・ヤヨイはキミのために夢の中で語り掛けた。それはキミとヤヨイの魂の結びつきが確かなものだという証拠だ。本当に良い人と出会ってたんだな・・・この世界で再会する事はできなかったが、心と心は今も繋がっているんだぞ」
「・・・・・そっか・・・俺、弥生さんに会えなくて寂しかったけど・・・心と心は今も繋がってるんだな・・・」
首から下げた、欠けた樹のネックレスを手に取る。
それは弥生さんが使っていた薙刀・・・新緑の欠片。
「・・・ああ、キミとシンジョウ・ヤヨイは今も繋がっているんだ」
レイチェルが優しく目を細めた。
俺と弥生さんは今も繋がっている・・・そう言われる事がとても嬉しくて、胸が温かくなる。
「・・・・・なぁレイチェル、俺どうすればいいと思う?弥生さんはパウンド・フォーに行くなって言ってたけどさ・・・」
「ふむ・・・正直悩ましいな。シンジョウ・ヤヨイの忠告に従うべきなんだろうが、レイマート達を救出するにはキミの光の力は絶対に必要だ。だから私の案としては、キミはレイマート達を助けたら、その何者かに会う前に山を降りたらどうだ?」
「え、俺だけで降りるの?」
「そうだ。シンジョウ・ヤヨイは戦うな、逃げろと言ってたんだろ?つまり山に行っても、逃げれば助かるという事だろ?だったらそれでもいいんじゃないのか?」
レイチェルの説明には頷けるものがあった。
確かにその通りだ。弥生さんの言葉はそう捉える事もできる。
だがやはり、パウンド・フォーに行かない事が前提なのではないか?
戦うな、逃げろ、この言葉も含めてパウンド・フォーに行くなと、そう言っていたのではないだろうか?
「・・・アラタ、まぁキミが考えている事は分かる。私も自分で言っておいてなんだが、ちょっと強引な解釈だと思う。でも実際にキミがいないとこの救出は成り立たない。闘気で立ち向かえるといっても、本物の闇には通用しないんだ」
「ああ、分かってる・・・・・そうだな、俺はレイマート達を助けるために来たんだ。ここで逃げ帰るわけにはいかないよな・・・」
両の拳を握り締める。
俺には闇と戦える光の力がある。この力は闘気よりも強く、本物の闇を消す事もできる。
パウンド・フォーにいる闇の蛇を倒すには必要な力なんだ。
「弥生さんの言葉は忘れずに気を付ける。だから俺もこのまま行くよ」
「悪いな・・・そうしてもらえると正直助かるよ。私もシンジョウ・ヤヨイの言葉は頭に入れておこう。キミに万一の事が起きないよう、フォローはしっかりさせてもらう」
覚悟を決めてレイチェルに自分の意思を告げると、レイチェルは少し安心したように息をついた。
それから表情を引き締めると、俺をサポートすると言ってくれた。
「レイチェル、ここから先もよろしく頼むな」
「ああ、もちろんだ。任せておけ」
二人で顔を見合わせて笑みを零した。
最初からずっとレイチェルは俺を助けてくれた
レイチェルの言う通りにしていれば、何も心配はいらなかった
俺はレイチェルを心から信頼している
この世界に来て、最初に会ったのがレイチェルでなければ今のこの生活は無かった
カチュアとも出会う事はなかっただろうし、今頃どうなっていたか分からない
レイチェルには返しきれない恩がある
だから俺で力になれるのであれば、喜んでこの力を使おう
パウンド・フォーに行く事に躊躇いはない
だが・・・・・・・・・
・・・アラタ・・・行っちゃ駄目
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