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1115 アゲハの修行
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午後の陽が一番高く登った時、店から離れた森の奥で、アゲハとウィッカーが向かい合っていた。
二人の間には昨晩降り積もった新雪が、陽の光を浴びてキラキラと眩しいくらい輝いている。
「さぁてと、今日こそ一本とらせてもらうよ」
首と肩を回し呼吸を整えると、戦闘態勢に入った事を告げるように、アゲハの表情が一気に引き締まった。
「いつでもいいぞ」
アゲハの持つ得物の長さはニメートル五十センチ、先に反りのある刃が付いている。
左脇に構えた薙刀を強く握り締めると、右足で強く大地を蹴った!
対するウィッカーは、両手の平に風を集めると、軽く肘を曲げて両手を前に出した。
足を広げ、やや腰を落として迎え撃つ構えだ。
「ハァァァァァァーーーーーーーーッツ!」
気合いと共に、真っ直ぐに突きを繰り出した!
「・・・・・」
ウィッカーはアゲハの突きを、表情を変えずに右手一本で受け流した。
だがこの突きは囮である。前方に力を流されたアゲハは前のめりになるが、そのまま地面を蹴って飛び上がり、ウィッカーの顔面目掛けて左の膝を叩き込む!
「・・・チッ!」
「フッ・・・」
膝蹴りが入ったと思ったが、ウィッカーは左手に纏う風の盾で、アゲハの膝を受け止めていた。
先制攻撃で一気に決めるつもりだった。だがウィッカーの見せる笑みは、アゲハの攻撃を完全に読んでいたという事を教えていた。思わず顔をしかめて舌を打つが、まだ終わったわけではない。
「ハッ!」
膝を止められ、ウィッカーから体が離れると、すくい上げるように薙刀の石突を振り上げた!
狙いは的の大きい胴体。ほとんど密着した状態から、長物による直線的な攻撃は、バックステップでは避けようがない。
風の盾で受けるか、それとも体を捻り躱すか?
アゲハの予想はこの二択だった。おそらくこの振り上げが当たる事はないだろう。
受けるか躱すか、どちらかを選んだ時、それに合わせて用意しておいた追撃を食らわせる。
そう考えていた。
だがウィッカーの選択はそのどちらでもない。
「なにッ!?」
「まだあまい」
受けるでも躱すでもなく、前に出る。
懐に入り込まれたアゲハの振り上げは空を切り、がら空きになった胴にウィッカーの掌打が入った。
「・・・ここのところ、俺が一度も反撃をしなかったから、攻められる可能性を排除していたな?その思い込みが今回の敗因だ。例え百回反撃をされなかったとしても、百一回目には手を出してくるかもしれない。アゲハ、思い込みは危険だぞ」
雪の上に両手と両足を投げ出し、倒れているアゲハを見下ろしながら、ウィッカーが淡々と敗因を告げる。
「うっ、く・・・はぁ・・・」
「・・・アゲハ、キミは俺に勝つ事だけに執着しているな。だから雑念が入って、風を読み切れない。いいか、心を落ち着けて風の声に耳を傾けるんだ。キミは風の精霊とも心を通じ合えている。あとは風に身をゆだね、精霊と心を一つにするんだ。精霊を操るんじゃない。反対に精霊に操られてもいけない。精霊を信じて心を一つにするんだ。そうすればキミは、本当の強さを手に入れられる」
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
腹部に受けた一発で、アゲハは完全にリズムを崩された。
そこからは結局一度もペースを掴む事ができず、なすすべもないまま今こうして冷たい雪の上に倒されている。
返す言葉も吐き出せず、ただ息を切らしているアゲハに対して、ウィッカーは伝えるべき言葉だけを伝えると、そのまま背を向けて立ち去った。
「・・・くそっ!・・・・・・」
ウィッカーの姿が見えなくなっても、アゲハはしばらく倒れたまま空を見上げていた。
やがて悔しさを噛み締めるように呟くと、拳を握り締めて雪原を叩いた。
翌日も、さらにその次の日も、アゲハはウィッカーに挑み続けた。
結果としては全く歯がたたず、一方的に倒されて終わりだった。
そして倒されたアゲハに対して、ウィッカーは同じ言葉をかけ続けた。
そして迎えた七日目・・・・・・
「・・・おや、今日は目が違うな?気持ちの変化でもあったか?」
「まぁね・・・そんなとこかな」
いつもの森の奥で向かい合う二人。
ウィッカーは、アゲハの目の奥にある光を見抜いた。それはこれまでのアゲハには無い光だった。
「そうか・・・今日は期待していいのかな?」
「ああ・・・これまでガッカリさせて悪かったね。今日はあんたのそのすましたツラを、驚きに変えてやるよ」
挑発ともとれる言葉を浴びせられても、アゲハは表情を変える事なく、むしろ余裕さえ感じられる笑みを見せた。
そして解き放たれた緑色の風は、一見するとこれまでと同じに見えた。
だがその実は全く質が違っていた。
ただ力のままに精霊の力をふるっていたこれまではとは、まったく違う。
言うなれば一体感。そう、アゲハと風の精霊が真に心を通わせたのだ。
「・・・あんたに負けっぱなしでさ、毎日悔しがってた私に同情したのかな・・・昨日の夜慰められたんだ」
「・・・なるほど、慰めた、か・・・・・アゲハ、同情を哀れみとは思うなよ。それだけ精霊がキミを気にかけているという事だ。まぁ、その風を見れば、俺に言われるまでもないようだがな」
アゲハが薙刀を中段に構えると、ウィッカーも両手に風を纏わせて構えた。
「・・・店長・・・あんたに言われた事がやっと分かったよ。私は風の精霊と心が通じ合っていると思ってたけど、本当の意味では理解していなかった。精霊の声に真摯に耳を傾ける・・・それが私はできていなかった」
「けれど今は違う・・・さて、そろそろ見せてもらおうか、キミの力を・・・」
ウィッカーとアゲハの間の空気が緊張を帯びて張りつめた。
二人はそれきり口を閉じたまま睨み合う。そして・・・・・・・
「ハァッ・・・ハァッ・・・くっそぉ・・・また、勝てなかった・・・」
真の風を纏ったアゲハの猛攻は、これまでとは段違いの力を見せた。
だが結果として、自分はまたしても雪の上に倒れている。
自分の顔に影を作る金色の髪の男を見上げ、アゲハは悔しそうに呟いた。
「だが、俺の攻撃を何度も躱した。攻撃も何発かもらいそうになった。特に最後の一発は危なかった、まだ腕がしびれているよ・・・アゲハ、合格だ。あとは戦いの日まで体を休めておけ」
フッと笑って左腕をプラプラ振って見せる。
「ねぇ・・・私、もっと強くなれると思う?」
「ああ・・・もちろん、なれるさ」
その質問に、ウィッカーはやさしく微笑んで答えた。
「・・・そっか・・・・・よし、じゃあ店長、いつかあんたにも勝ってみせるからね」
満足そうに笑うアゲハ。
その表情は、力が及ばなかった事への悔しさよりも、もっと大きな物を見つけた事で満ちたりていた。
二人の間には昨晩降り積もった新雪が、陽の光を浴びてキラキラと眩しいくらい輝いている。
「さぁてと、今日こそ一本とらせてもらうよ」
首と肩を回し呼吸を整えると、戦闘態勢に入った事を告げるように、アゲハの表情が一気に引き締まった。
「いつでもいいぞ」
アゲハの持つ得物の長さはニメートル五十センチ、先に反りのある刃が付いている。
左脇に構えた薙刀を強く握り締めると、右足で強く大地を蹴った!
対するウィッカーは、両手の平に風を集めると、軽く肘を曲げて両手を前に出した。
足を広げ、やや腰を落として迎え撃つ構えだ。
「ハァァァァァァーーーーーーーーッツ!」
気合いと共に、真っ直ぐに突きを繰り出した!
「・・・・・」
ウィッカーはアゲハの突きを、表情を変えずに右手一本で受け流した。
だがこの突きは囮である。前方に力を流されたアゲハは前のめりになるが、そのまま地面を蹴って飛び上がり、ウィッカーの顔面目掛けて左の膝を叩き込む!
「・・・チッ!」
「フッ・・・」
膝蹴りが入ったと思ったが、ウィッカーは左手に纏う風の盾で、アゲハの膝を受け止めていた。
先制攻撃で一気に決めるつもりだった。だがウィッカーの見せる笑みは、アゲハの攻撃を完全に読んでいたという事を教えていた。思わず顔をしかめて舌を打つが、まだ終わったわけではない。
「ハッ!」
膝を止められ、ウィッカーから体が離れると、すくい上げるように薙刀の石突を振り上げた!
狙いは的の大きい胴体。ほとんど密着した状態から、長物による直線的な攻撃は、バックステップでは避けようがない。
風の盾で受けるか、それとも体を捻り躱すか?
アゲハの予想はこの二択だった。おそらくこの振り上げが当たる事はないだろう。
受けるか躱すか、どちらかを選んだ時、それに合わせて用意しておいた追撃を食らわせる。
そう考えていた。
だがウィッカーの選択はそのどちらでもない。
「なにッ!?」
「まだあまい」
受けるでも躱すでもなく、前に出る。
懐に入り込まれたアゲハの振り上げは空を切り、がら空きになった胴にウィッカーの掌打が入った。
「・・・ここのところ、俺が一度も反撃をしなかったから、攻められる可能性を排除していたな?その思い込みが今回の敗因だ。例え百回反撃をされなかったとしても、百一回目には手を出してくるかもしれない。アゲハ、思い込みは危険だぞ」
雪の上に両手と両足を投げ出し、倒れているアゲハを見下ろしながら、ウィッカーが淡々と敗因を告げる。
「うっ、く・・・はぁ・・・」
「・・・アゲハ、キミは俺に勝つ事だけに執着しているな。だから雑念が入って、風を読み切れない。いいか、心を落ち着けて風の声に耳を傾けるんだ。キミは風の精霊とも心を通じ合えている。あとは風に身をゆだね、精霊と心を一つにするんだ。精霊を操るんじゃない。反対に精霊に操られてもいけない。精霊を信じて心を一つにするんだ。そうすればキミは、本当の強さを手に入れられる」
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
腹部に受けた一発で、アゲハは完全にリズムを崩された。
そこからは結局一度もペースを掴む事ができず、なすすべもないまま今こうして冷たい雪の上に倒されている。
返す言葉も吐き出せず、ただ息を切らしているアゲハに対して、ウィッカーは伝えるべき言葉だけを伝えると、そのまま背を向けて立ち去った。
「・・・くそっ!・・・・・・」
ウィッカーの姿が見えなくなっても、アゲハはしばらく倒れたまま空を見上げていた。
やがて悔しさを噛み締めるように呟くと、拳を握り締めて雪原を叩いた。
翌日も、さらにその次の日も、アゲハはウィッカーに挑み続けた。
結果としては全く歯がたたず、一方的に倒されて終わりだった。
そして倒されたアゲハに対して、ウィッカーは同じ言葉をかけ続けた。
そして迎えた七日目・・・・・・
「・・・おや、今日は目が違うな?気持ちの変化でもあったか?」
「まぁね・・・そんなとこかな」
いつもの森の奥で向かい合う二人。
ウィッカーは、アゲハの目の奥にある光を見抜いた。それはこれまでのアゲハには無い光だった。
「そうか・・・今日は期待していいのかな?」
「ああ・・・これまでガッカリさせて悪かったね。今日はあんたのそのすましたツラを、驚きに変えてやるよ」
挑発ともとれる言葉を浴びせられても、アゲハは表情を変える事なく、むしろ余裕さえ感じられる笑みを見せた。
そして解き放たれた緑色の風は、一見するとこれまでと同じに見えた。
だがその実は全く質が違っていた。
ただ力のままに精霊の力をふるっていたこれまではとは、まったく違う。
言うなれば一体感。そう、アゲハと風の精霊が真に心を通わせたのだ。
「・・・あんたに負けっぱなしでさ、毎日悔しがってた私に同情したのかな・・・昨日の夜慰められたんだ」
「・・・なるほど、慰めた、か・・・・・アゲハ、同情を哀れみとは思うなよ。それだけ精霊がキミを気にかけているという事だ。まぁ、その風を見れば、俺に言われるまでもないようだがな」
アゲハが薙刀を中段に構えると、ウィッカーも両手に風を纏わせて構えた。
「・・・店長・・・あんたに言われた事がやっと分かったよ。私は風の精霊と心が通じ合っていると思ってたけど、本当の意味では理解していなかった。精霊の声に真摯に耳を傾ける・・・それが私はできていなかった」
「けれど今は違う・・・さて、そろそろ見せてもらおうか、キミの力を・・・」
ウィッカーとアゲハの間の空気が緊張を帯びて張りつめた。
二人はそれきり口を閉じたまま睨み合う。そして・・・・・・・
「ハァッ・・・ハァッ・・・くっそぉ・・・また、勝てなかった・・・」
真の風を纏ったアゲハの猛攻は、これまでとは段違いの力を見せた。
だが結果として、自分はまたしても雪の上に倒れている。
自分の顔に影を作る金色の髪の男を見上げ、アゲハは悔しそうに呟いた。
「だが、俺の攻撃を何度も躱した。攻撃も何発かもらいそうになった。特に最後の一発は危なかった、まだ腕がしびれているよ・・・アゲハ、合格だ。あとは戦いの日まで体を休めておけ」
フッと笑って左腕をプラプラ振って見せる。
「ねぇ・・・私、もっと強くなれると思う?」
「ああ・・・もちろん、なれるさ」
その質問に、ウィッカーはやさしく微笑んで答えた。
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