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理太郎

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1276 フィゲロア 対 ジャロン

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クインズベリー国には城を護る四つの塔がある。四つ塔には城を護る四人の守護者がおり、体力型、白魔法使い、青魔法使い、黒魔法使いと、彼らはそれぞれ異なる属性を持っていた。

守護者達は四勇士と呼ばれ、国が有事の際にはその力を遺憾なく発揮し、国を護る事を義務付けられていた。

彼らは一人一人が一騎当千の力を持つと言われており、最優先すべき役目は国の防衛であり、本来は国を離れる事はできない。

だが今回の帝国との戦争では、彼ら四人全員が参戦し、帝国まで出陣すると発表された。
国の防衛のために残すのではなく、帝国を攻め落とすために出向かうのだ。

四勇士ならば必ずや、帝国を打倒するための大きな力になる。
たとえそれが万人の頂点に立つ師団長であろうとも、きっと打ち倒すだろう。

それがクインズベリー国女王、アンリエールの信頼と決断だった。




「俺は体力型だから、魔法使い程には魔力を感じる事はできない。だがそれでも、貴様が相当な使い手だという事は分かる。何者だ?」

帝国軍第二師団長ジャロン・リピネッツは、目の前の茶髪の魔法使いを観察するように見つめた。

他人に対してまず関心を見せる事のないジャロンだったが、自分と相対するこの男から感じられる圧力は、並みの魔法使いが持ち得るものではないと瞬時に理解したのだ。

一目見ただけの印象でも、帝国の幹部クラスの力量を持っているかもしれない。
そう思わせる程だった。

そしてこの男は、ジャロンの質問に何ら反論する事もなく、すんなりと答えた。

「クインズベリー国、四勇士ライース・フィゲロアだ。祖国を侵略するお前ら帝国を、この手で叩き潰すためにここに来た」

鋭い口調でそう話すと、右手に持つ自分の身長程もある黒塗りの杖を、ジャロン・リピネッツに突きつけた。杖の先端にある赤く丸い石が、フィゲロアの闘争心を表すかのように赤く輝き出す。

「ほぉ、貴様があの四勇士か?国王に変身して、城に潜入していたマウリシオから聞いているぞ。めったに表舞台に出て来ないそうだな?実力はあるようだが、マウリシオに踊らされ内紛にまで至った国なのだから、程度は知れるというものだな」

「ほざけッ!」

ジャロンの語り口は抑揚が無く、まるで文章を読んでいるような淡々としたものだったが、それがかえってフィゲロアの神経を逆撫でした。

なぜなら誰も口にはしないが、偽国王マウリシオによって、長年国が操られていた事は国家の恥であり、そしてその正体も策略も見抜けず、偽国王側に立って戦った事は、四勇士の名を地に落とす程の愚行だった自覚があるからだ。

心の内に抱えたしこりを刺激され、フィゲロアが動いた。

フィゲロアがジャロンに向けた黒塗りの杖は、魔力を炎に換える魔道具、炎の杖である。
その先端の赤く丸い宝石が強く光ると、ジャロン・リピネッツに向かって荒ぶる大きな炎が噴出された!


「焼かれて死・・・ッ!?」


体を捻りフィゲロアの炎を躱したジャロンは、そのまま真っすぐフィゲロアに向かって駆けて来た!
その右手には刃渡り二十センチほどの古びたナイフが握られていた。


こ、こいつ!なんだ今の反応は?俺が炎を撃つと同時、いや撃つ前に躱していなかったか?
まるで最初から炎の軌道が分かっていたような動きだ。
反応が鋭すぎる!


目を見開くフィゲロア。

ジャロンはそのまま距離を詰めると、まだ右手に握る杖を前方に向けたままになっている、フィゲロアの右側腹部に狙いを付けて、真っ直ぐにナイフを突き出した!

「蝕(むしば)まれろ」

小さく呟かれたその声が、まるで呪詛のようにフィゲロアの耳に届いた。

「ッ!」

申し分のないタイミングだった。だがジャロンの握る古びたナイフは、フィゲロアの腹に刺さる直前で、青く輝く障壁によって防がれた。

「異常な反応速度だな、だが俺の結界を突破する事はできねぇぞ!」

ジャロンのナイフを防いだフィゲロアは、右手に握る炎の杖の先端をジャロンに向けた。すでに二発目の魔力は込められている。近距離からジャロンに向けて炎を撃とうとして、そこで腕が止まった。



・・・音が聞こえる。だがそれはこの場の戦いでは聞こえるはずのない音だ。

・・・なんだ、この音は?ボコボコと、まるで水でも沸かしているような、何かが蒸発しているような・・・これはどこから・・・・・


自分の胸より下、そう丁度ジャロンのナイフを止めた辺りから聞こえる。
正体不明の音を探り顔を向けると、目に映ったものにフィゲロアは驚愕した。

「なにィッ!?」

フィゲロは驚愕した。
ジャロン・リピネッツのナイフを止めている自分の結界が、ボコボコと黒い気泡を立てながら、バターのように溶かされているのだ。


な、なんだこれは!?結界が溶かされているのか!?それにこの黒い気泡、ナイフの切っ先から出ているこの黒い煙、卵でも腐らせたような吐き気をもよおす匂いだ。

こいつ、いったいなにをした!?


「脆いな」


フィゲロアが己の結界を溶かすナイフに気を取られたのは一瞬だった。
だがその一瞬で、ジャロン・リピネッツのナイフはフィゲロアの結界を突破した。

「ッ!しまっ・・・!」

反応が一瞬遅れたフィゲロアはジャロンのナイフを躱しきれず、脇腹に深々と突き立てられた。





「・・・この手ごたえ・・・なんだ、そのローブは?」

ジャロンの右手に伝わってきたのは、肉を抉る感触ではなかった。
柔らかい布とはとても思えない硬い質感、繊維の一本一本がまるで鉄でできているかのような感触に、ジャロンは微かに眉を寄せた。

「ぐぅっ・・・!」

刺された、と言うよりは押された事で、フィゲロアは足をふらつかせながら後退した。

なぜジャロンのナイフが刺さらなかったのか?それはフィゲロアのローブが、鉄の硬度を持つ特殊繊維、鉄糸(てっし)を使用して作られていたからだった。

これはアラタがジャレットからもらったグローブにも使われており、強度の割に軽量で柔軟性もある事から、フィゲロアは万一に備えて自分のローブを鉄糸で仕立てていた。

備えが功を奏し刺さりはしなかった。しかし勢い強く脇腹を突かれた事に変わりはない。
鋭い痛みに襲われ、フィゲロアは膝を着きそうになる。

だが今は痛みにかまけている場合ではない。なぜなら・・・

「ッ!?な、なんだこれは!?俺のローブがッ!」

なぜならジャロンのナイフは、フィゲロアの肉体こそ抉る事はできなかったが、身に纏う青いローブに触れる事はできたのだから。

斬り裂く事はできなかったが、触れる事はできた。それだけで十分だった。


「くそっ!」

ナイフで突かれた腹部から黒い煙が上がっていく。ローブはまるで焼け落ちるように、ぼろぼろと崩れていく。このままこれを着ているわけにはいかない。もしローブから更に内側に侵食されたらどうなる?

焦りからフィゲロアは額に汗を滲ませる。そしてローブを脱ぐと地面に叩きつけた。

「はぁっ!はぁっ!な、なんだよこれ?」

着用者に捨てられたローブは、そのままぶすぶすと煙を上げながら崩れ落ち、そして灰となって消えた。

驚きを隠せないフィゲロアに、ジャロン・リピネッツは説明するように正体を口にした。

「触れた物を腐敗させるこのナイフこそ、俺の魔道具、呪いの刃だ。次は貴様の肉を腐らせてやる 」

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