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理太郎

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1285 ミゼル 対 トリッシュ

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「ウラァァァァァーーーーーーーッ!」

樹々の間をかいくぐりながら、帝国の青魔法使いの女に向かって氷の槍を撃ち放つ!

「ふん!無駄だと言っているでしょう?その程度で私の結界は破れませんよ」

トリッシュ・ルパージュは左手の平を前に出すと、青く輝く結界を作り出して、刺氷弾を撥ね返した。

「チッ、反応が速い!」

ミゼルは舌を打った。トリッシュはミゼルが考えていたよりも、ずっと戦闘に長けていたからだ。
戦いを回避しようとしていた事からも、あまり戦闘には自信が無いのだとも思った。
しかしいざ戦ってみると、自分の刺氷弾に完璧に結界を合わせてくる。反応速度の速さ、そして瞬時に結界を張る魔力操作も、かなり高いレベルだった。

接近戦を挑み速攻で倒す。そしてアゲハを追いかけようと考えていたが、事は思い通りには運びそうになかった。

「どうしました?もう終わりですか?威勢の割に大した事ないですね?その程度ではいつまで経っても私の結界は破れませんよ?諦めてさっさと帰ったらどうです?私も暇じゃないんですよ」

眉根を寄せて面倒くさそうに言葉を吐き捨てるトリッシュ。
彼女にとってこの戦いは何の意味も無いのだ。早く国に戻り、今回得たインスピレーションから、新たなる魔道具の制作に取り掛かりたい。その気持ちが非常に強く心を占めていた。

およそ4~5メートル程の距離を開けて、ミゼルとトリッシュは睨み合う。

「へっ、まぁそう言うなよ。ここにいるって事はあんたも軍人なんだろ?だったらクインズベリーの俺を前にして、逃げるのはまずいんじゃねぇの?」

「私は研究者です。軍は私の魔道具を必要とし、私は研究に役立つかもと思い同行しただけです。軍人になった覚えはありません。まぁ、ノミのような脳みそしかないあなたには、どれもこれも同じに見えるんでしょうね」

「・・・本当に口の悪い女だぜ」

「クソ野郎とこれ以上話す事はないわね。自分の手を汚すのは不本意だけど、もう終わらせるわ」

そう言うなりトリッシュの体から滲み出ている、青い魔力の粒子が大きく噴き出した。
粒子は足元から全身を覆うようにトリッシュを包み込むと、景色に溶け込むようにトリッシュの姿が消えていった。


「なにっ!?」

目の前で跡形もなく消えたトリッシュを見て、ミゼルは驚きの声を上げた。

消えただと!?これは・・・まさかコイツか!?昨日から帝国軍の兵士達が姿を消して襲ってきたが、全部この女の力だったって事か!?
くそっ!単純だがとんでもねぇ魔道具だぞ!あれだけの数の兵士達の姿を消していたんだ、もしここでこの女を逃がせば、あとでとんでもねぇ脅威になって戻ってくるはずだ!

絶対にここで仕留めなきゃならねぇ!


「やっぱりな・・・何かあると思ったんだよ。まさか姿を消す魔道具の持ち主だとは、思わなかったけどな。いいぜ・・・やってやる!かかってこい!」

ミゼルは両手に魔力を漲らせると、少し腰を落として周囲を警戒した。
トリッシュは完璧に周囲の景色と同化しており、肉眼で見破る事は不可能と言っていい。
ならばどう戦うか?

実際に姿を消した状態の兵士達と戦って分かった事がある。
確かに完璧に消えているが、その状態を維持する事はかなり難しいようだ。

戦闘が始まると次々に敵の姿が暴かれていった。最初はなにが原因なのか分からなかったが、交戦を重ねて一つの仮説に考えいたった。

火魔法や爆発魔法など、なんらかの攻撃を浴びせると姿を現すのだ。
爆発魔法の余波でも、近くにいた敵の姿がうっすらと見える事もあった。つまりこの姿を消す力は、なんらかの衝撃をあたえれば効果を無くすという事だ。


「問題はどこから来るかだ・・・」

ミゼルは自分にしか聞こえないくらいの声で呟いた。
対処法が分かっても、それは乱戦での事だ。標的が帝国軍という大きな塊であったからこそ、狙いを固定しなくても敵の誰かに当たったのだ。

一対一の今、姿の見えない敵に、火球や刺氷弾を当てる事は困難だろう。

「・・・初級魔法で捉える事は無理だな。かと言って中級にも使えそうなのはねぇし、山ん中で灼炎竜ってのもあぶねぇよな。そうなるとアレしかねぇな・・・」

ミゼルはスッと目を閉じると、両手に漲らせていた魔力を消した。
そして体の中心に魔力を集めると、それを足の先から手の指先、頭のてっぺん、体の隅々にまで行きわたらせた。


姿が見えず、どこから仕掛けてくるか分からない。絶対に不利の状況だが、ミゼルはこれを好機と捉えた。この状況は必然的に自分が待ち、トリッシュが攻めという構図になる。

そしてこの待ちが、今の自分にとって非常に都合が良かった。
相手の攻撃が自分に当たるその時、敵は近くにいる。見えなくても攻撃を受けるその時だけは、正確に相手の位置を知る事ができる。

その瞬間に後の先を取れば仕留める事ができる。

見えなくても問題はない。手を使わずとも発する事ができる魔法はある。

「見せてやるぜ、黒魔法使いの神髄を!」




ふん、クソ野郎が何か企んでるようですね?
だいたい分かりますよ。私が姿を消した時の反応を見ると、昨日と今日、この二日間の戦闘で、私の魔道具ブレンドを知ったという事でしょう?その解き方も。

でもどうします?解き方を知っていても、私がどこにいるか分からなければ攻撃を当てる事はできないでしょ?中級か上級魔法でも使ってみます?それなら直撃はできなくても、衝撃の余波で私のブレンドを解く事はできるかもしれない。
でもあなたはそんな事はしないでしょうね。ここまで戦って分かった。あなたは意外に慎重な男のようだ。大技を使って外した場合、致命的なスキを私に見せる事になる。次の魔法を撃つまでの時間を、私が見逃さない事も計算に入れてるんでしょ?

そうなると私に対抗する手段は限られてきますよね?

どこから来るか分からない敵に、後の先をとって仕留める。たとえ背中から刺されるとしても、反撃を可能とする魔法。


・・・・・ふふふ、分かりましたよ。あなたの狙いが・・・それしかないでしょうね。


いいですね。本当にいいですよ。
私を見失っているようですし、このまま帰ろうと思ったんですが残って良かったですよ。

戦う事は久しぶりですが、たまには良いものですね。この緊張感・・・脳に刺さりますよ。

でもあなたは一つだけ見誤っている。
あなた、私に遠距離攻撃が無いと思ってるでしょ?だから悠長に待っていられるんですよ。

私が自分の能力の欠点を把握してないとでも思ってるんですか?
見くびられたものですね。

自分の考えのあまさを悔やんで死になさい!



「ぐぅッ!」

突然足に走った強い痛みに、ミゼルは呻き声を上げた。

「なっ!?こ、これはっ・・・!?」

痛みに顔を歪めて視線を落とすと、左の太腿に、細く長い金属の針が突き刺さっていた。
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