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1343 奪われた意思
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「クインズベリーだ!クインズベリー軍が攻めて来たぞーーーーーーーッツ!」
円で囲む帝国軍の後方から声が上がったのは、前方の黒魔法使い達がラクエルに魔法を撃った直後だった。
即座に反応した帝国兵の目には、何千何万ものクインズベリー軍が突撃をかけて来る姿だった。
シルヴィアの竜氷縛が作った氷の道を渡り、先発したアラタ達が帝国の攻撃を止めた事で、クインズベリー軍はユナニマス大川を渡る事ができたのだ。
そして上陸したクインズベリー軍は、全軍をぶつけるのみである。
さながら押し寄せる大波の如き勢いのクインズベリー軍だったが、帝国軍も数では負けていない。
ガルバンとヴァネッサ、そして副団長のアーロン・カカーチェを失った帝国軍だが、それを補うため、各部隊の隊長クラスが指揮を執り号令を出す。
「怯むな!体力型を前に黒魔法兵は援護射撃だ!クインズベリーを叩き潰せ!」
武器を持ち構えた帝国の兵達は、部隊長の指示で即座に隊列を揃えると、クインズベリー軍に真っ向からぶつかって行った!
「・・・クインズベリー・・・ユナニマス大川を渡って来たのですね」
「シャンテル、危ないよ、こっちへ」
両軍のぶつかり合いが始まると、宝飾をあしらった煌びやかな鎧で身を包んだ、精悍な顔つきの男がシャンテル・ガードナーに近づき、その肩に手を乗せ後方に下がるように促した。
「・・・ノーマン・・・あなたですね?」
シャンテルは自分の肩に置かれたノーマンの手をそっと払うと、視線を上げて咎めるようにノーマンを見た。
「え?何の事だい?」
「なぜ、黒魔法使い達に撃たせたのですか?私は指示を出していません。師団長の私を差し置いてこんな勝手な真似ができるのは、皇帝の甥であるノーマン・ブルーナー、あなただけです」
スっと視線を向けた先には、濛々と上がる土煙が映った。今しがた黒魔法使い達が一斉射撃を行った跡だ。標的は金髪の女戦士ラクエル・エンリケス。足を痛めていたラクエルには、四方八方から撃ち込まれた攻撃魔法を躱す術はなかった。
「・・・あ~、バレちゃった?でもさぁ、キミを護るためなんだよ?あんな近い距離で敵と向き合って、殺されてたかもしれないじゃないか?僕はキミのために魔法兵に指示を出したんだ。感謝してくれてもいいんじゃないかい?」
軽薄そうに笑うノーマンに、シャンテルは非難するように口調を強めた。
「私を護る?今までずっと後ろに隠れていたあなたが?ガルバンもヴァネッサも、カカーチェ叔父様も、みんなが命を賭して戦っていたのに、あなたは安全なところから指示を出しただけ。それで私に感謝しろと言うのですか?それに私の能力は知っているでしょう?この魔力がある限り、私の命を脅かせるものなんて何もありません」
そこまで一気に責め立てると、それまでヘラヘラと笑っていたノーマンの顔が凍り付いたように固まった。
そして・・・・・
「・・・ひどいな、シャンテル。それが婚約者に言う言葉かい?僕は皇帝の甥なんだ、崇高な血を持つ僕にもしもの事があったら大変だろ?そういうところ、婚約者なら気遣ってほしいな」
「・・・あなたのそういうところが嫌いです。私は、彼女ともう少し話してみたかった・・・」
「キミもそろそろ受け入れたらどうだい?僕とキミの婚約は皇帝の決めた事だ。逆らえばどうなるか分かるだろ?キミはよくてもキミの大事な白魔法兵団はどうなるのかな?賢いキミならどうすればいいか分かるだろ?」
「・・・あなた、最低です」
「おやおや、キミがそれを言うのかい?」
互いの視線が交差する。しかし嫌悪感を隠しもせずにぶつけるシャンテルに対し、ノーマンの目には立場的優位を見せる嘲笑が浮かんでいた。
「・・・まぁ、済んだ事はもういいじゃないか?それよりも・・・え?」
フッと鼻で笑いシャンテルから目を反らしたノーマンだったが、反らした先で目に映ったものに、驚きをあらわにした。
「・・・結界?どうやって・・・?」
「ノーマン?どうしたのですか・・・っ!?」
表情をこわばらせたノーマンを見て、シャンテルもその視線を追った。
無数に撃ち込まれた攻撃魔法、それによって起きた爆発による煙が風に流されると、青く輝く結界に護られたラクエルの姿が見えた。
「・・・あなた、体力型ですよね?」
結解の中のラクエルに、その問いかけが聞こえたかは分からない。
しかし結界の中で、してやったりと歯を見せて笑っているラクエルの反応を見る限り、彼女がこの結界を張ったという事で間違いはなさそうだ。
いつの間に持っていたのか、左手に握っている小さな銀板を見せつけるように前に出した。
「なんだアレ?・・・結界を作る魔道具?大障壁(だいしょうへき)か?」
「いえ、大障壁ではないようです。形は似ていますが結界の規模が小さいですね。おそらく使い捨ての魔道具です。体力型が使える魔道具は限られていますから。敵ながら用意周到ですね」
眉を顰(ひそ)めるノーマンに、シャンテルは冷静に分析した答えを提示した。
そしてその分析が合っていると教えるように、ラクエルを包み込み護っていた結界が、バラバラと崩れて消えた。
「一度だけ結界を張れる魔道具、魔障板(ましょうばん)。これがなかったらヤバかったかな・・・」
効力を失った銀版を砂の上に放ると、ラクエルは右手に握る白い刃のナイフを、シャンテルではなく、その隣に立つノーマンに差し向けた。
「・・・女、僕にナイフを向ける事がどういう意味か分かっているのか?僕はノーマン・ブルーナー、皇帝の甥だぞ?」
「だからなに?聞こえてたよ、アタシに魔法ぶっ放したのアンタの指示だってね?」
やや前傾姿勢になって左足に力を込める。
利き足ではないが、それでもラクエルのスピードなら、一瞬で距離を詰める事が可能である。
「・・・シャンテル、あの女を殺せ。僕に殺意を向けるなんて許せない」
「・・・・・」
「シャンテル、返事はどうした?立場を分かっているのか?」
僅かな迷いを見せたシャンテルに、ノーマンが苛立ちを見せる。
事実上、仲間を人質に取られているようなものなのだ。シャンテルの答えは一つしかなかった。
「・・・分かりました」
できる事ならこのクインズベリーの女性と、もっと話してみたかった。
さっき手を差し伸べられた時、ほんの少しだけ夢を見てしまった。もしあの手を取っていたら・・・・・
いえ、今更ですね・・・・・・・
私は帝国で最も多くの人を殺した女。帝国の大陸統一のために心は捨てたのです。
「死が怖くないのなら、どうぞ向かって来てください」
シャンテル・ガードナーは、ラクエルを殺す覚悟を固めた。
円で囲む帝国軍の後方から声が上がったのは、前方の黒魔法使い達がラクエルに魔法を撃った直後だった。
即座に反応した帝国兵の目には、何千何万ものクインズベリー軍が突撃をかけて来る姿だった。
シルヴィアの竜氷縛が作った氷の道を渡り、先発したアラタ達が帝国の攻撃を止めた事で、クインズベリー軍はユナニマス大川を渡る事ができたのだ。
そして上陸したクインズベリー軍は、全軍をぶつけるのみである。
さながら押し寄せる大波の如き勢いのクインズベリー軍だったが、帝国軍も数では負けていない。
ガルバンとヴァネッサ、そして副団長のアーロン・カカーチェを失った帝国軍だが、それを補うため、各部隊の隊長クラスが指揮を執り号令を出す。
「怯むな!体力型を前に黒魔法兵は援護射撃だ!クインズベリーを叩き潰せ!」
武器を持ち構えた帝国の兵達は、部隊長の指示で即座に隊列を揃えると、クインズベリー軍に真っ向からぶつかって行った!
「・・・クインズベリー・・・ユナニマス大川を渡って来たのですね」
「シャンテル、危ないよ、こっちへ」
両軍のぶつかり合いが始まると、宝飾をあしらった煌びやかな鎧で身を包んだ、精悍な顔つきの男がシャンテル・ガードナーに近づき、その肩に手を乗せ後方に下がるように促した。
「・・・ノーマン・・・あなたですね?」
シャンテルは自分の肩に置かれたノーマンの手をそっと払うと、視線を上げて咎めるようにノーマンを見た。
「え?何の事だい?」
「なぜ、黒魔法使い達に撃たせたのですか?私は指示を出していません。師団長の私を差し置いてこんな勝手な真似ができるのは、皇帝の甥であるノーマン・ブルーナー、あなただけです」
スっと視線を向けた先には、濛々と上がる土煙が映った。今しがた黒魔法使い達が一斉射撃を行った跡だ。標的は金髪の女戦士ラクエル・エンリケス。足を痛めていたラクエルには、四方八方から撃ち込まれた攻撃魔法を躱す術はなかった。
「・・・あ~、バレちゃった?でもさぁ、キミを護るためなんだよ?あんな近い距離で敵と向き合って、殺されてたかもしれないじゃないか?僕はキミのために魔法兵に指示を出したんだ。感謝してくれてもいいんじゃないかい?」
軽薄そうに笑うノーマンに、シャンテルは非難するように口調を強めた。
「私を護る?今までずっと後ろに隠れていたあなたが?ガルバンもヴァネッサも、カカーチェ叔父様も、みんなが命を賭して戦っていたのに、あなたは安全なところから指示を出しただけ。それで私に感謝しろと言うのですか?それに私の能力は知っているでしょう?この魔力がある限り、私の命を脅かせるものなんて何もありません」
そこまで一気に責め立てると、それまでヘラヘラと笑っていたノーマンの顔が凍り付いたように固まった。
そして・・・・・
「・・・ひどいな、シャンテル。それが婚約者に言う言葉かい?僕は皇帝の甥なんだ、崇高な血を持つ僕にもしもの事があったら大変だろ?そういうところ、婚約者なら気遣ってほしいな」
「・・・あなたのそういうところが嫌いです。私は、彼女ともう少し話してみたかった・・・」
「キミもそろそろ受け入れたらどうだい?僕とキミの婚約は皇帝の決めた事だ。逆らえばどうなるか分かるだろ?キミはよくてもキミの大事な白魔法兵団はどうなるのかな?賢いキミならどうすればいいか分かるだろ?」
「・・・あなた、最低です」
「おやおや、キミがそれを言うのかい?」
互いの視線が交差する。しかし嫌悪感を隠しもせずにぶつけるシャンテルに対し、ノーマンの目には立場的優位を見せる嘲笑が浮かんでいた。
「・・・まぁ、済んだ事はもういいじゃないか?それよりも・・・え?」
フッと鼻で笑いシャンテルから目を反らしたノーマンだったが、反らした先で目に映ったものに、驚きをあらわにした。
「・・・結界?どうやって・・・?」
「ノーマン?どうしたのですか・・・っ!?」
表情をこわばらせたノーマンを見て、シャンテルもその視線を追った。
無数に撃ち込まれた攻撃魔法、それによって起きた爆発による煙が風に流されると、青く輝く結界に護られたラクエルの姿が見えた。
「・・・あなた、体力型ですよね?」
結解の中のラクエルに、その問いかけが聞こえたかは分からない。
しかし結界の中で、してやったりと歯を見せて笑っているラクエルの反応を見る限り、彼女がこの結界を張ったという事で間違いはなさそうだ。
いつの間に持っていたのか、左手に握っている小さな銀板を見せつけるように前に出した。
「なんだアレ?・・・結界を作る魔道具?大障壁(だいしょうへき)か?」
「いえ、大障壁ではないようです。形は似ていますが結界の規模が小さいですね。おそらく使い捨ての魔道具です。体力型が使える魔道具は限られていますから。敵ながら用意周到ですね」
眉を顰(ひそ)めるノーマンに、シャンテルは冷静に分析した答えを提示した。
そしてその分析が合っていると教えるように、ラクエルを包み込み護っていた結界が、バラバラと崩れて消えた。
「一度だけ結界を張れる魔道具、魔障板(ましょうばん)。これがなかったらヤバかったかな・・・」
効力を失った銀版を砂の上に放ると、ラクエルは右手に握る白い刃のナイフを、シャンテルではなく、その隣に立つノーマンに差し向けた。
「・・・女、僕にナイフを向ける事がどういう意味か分かっているのか?僕はノーマン・ブルーナー、皇帝の甥だぞ?」
「だからなに?聞こえてたよ、アタシに魔法ぶっ放したのアンタの指示だってね?」
やや前傾姿勢になって左足に力を込める。
利き足ではないが、それでもラクエルのスピードなら、一瞬で距離を詰める事が可能である。
「・・・シャンテル、あの女を殺せ。僕に殺意を向けるなんて許せない」
「・・・・・」
「シャンテル、返事はどうした?立場を分かっているのか?」
僅かな迷いを見せたシャンテルに、ノーマンが苛立ちを見せる。
事実上、仲間を人質に取られているようなものなのだ。シャンテルの答えは一つしかなかった。
「・・・分かりました」
できる事ならこのクインズベリーの女性と、もっと話してみたかった。
さっき手を差し伸べられた時、ほんの少しだけ夢を見てしまった。もしあの手を取っていたら・・・・・
いえ、今更ですね・・・・・・・
私は帝国で最も多くの人を殺した女。帝国の大陸統一のために心は捨てたのです。
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