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1358 信念を捨ててでも
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「がぁッ・・・!」
ラザレナの左拳がフェリックスの顔面を打ちぬいた!
は、速い!こ、このボクが芯を外すのがやっとだ!
拳が当たる瞬間に、かろうじて後ろに跳んでダメージを軽減させたが、それでも頭を大きく揺さぶられて砂の上に倒れそうになった。
歯を食いしばり、後ろ脚に地面を強く踏みつけて堪えるが、大きくバランスを崩してしまいすぐには反撃に移れない。
それは攻撃をしかける側からすれ大きな好機であるはずだが、ラザレナ・シールズはその場を一歩も動く事なく、ただ嘲るような視線だけを向けて笑っていた。
「フッ!」
短く息を吐き、フェリックスの脇を駆け抜けたのは、魔道剣士ラクエル・エンリケスだった。
スピードではフェリックスにも引けをとらないラクエルは、ラザレナとの距離を一蹴りで詰めると、右手に握る氷結のナイフを真っすぐに突き出した!
氷結のナイフは刃で刺す事に重点は置いていない。触れれば凍らせる事ができるのだから、掠らせるだけでもいいのだ。だからこそラクエルの狙いは、的が大きい胴体だった。
「それ、二度もくらわないわよ」
「っ!?」
ラクエルの伸ばした右腕を上から押さえるようにして、ラザレナは左手一本で掴み止めてみせた。
「ふふふ、残念だった・・・!?」
「ハァッ!」
右腕を掴んでいるラザレナの左手に、更に自身の左手を重ね合わせて支点にすると、ラクエルは右足で地面を蹴って跳び上がった。
そして胸に引き付けた左足を、ラザレナの胸を目掛けて真っすぐ勢いよく叩き込む!
入っ・・・!?
申し分のないタイミングだった。意表をついた動きでもあり、並みの相手ならば確実に入っていた。
しかしラザレナの力量は、ラクエルが考える数段上を行っていた。
突然足が浮いたかと思うと、視界が揺れて体が大きく振り回される。
「なッ!?」
「ふふふ、良い攻撃だったわ!相手が私じゃなければ入っていたでしょうねぇー!」
ラザレナは楽しそうに笑いながら、掴んでいたラクエルの右腕にぐっと力を入れると、そのまま左腕一本でその体を持ち上げて、自身の足を軸に回転しながらラクエルの体を振り回し始めた!
「ッ・・・!」
「あはははははは!このまま手を離したらどこまで飛ぶのかしらね!?それとも頭から地面に叩きつけてあげようか?砂の上だから案外助かるかもしれないわよ!」
言葉など返せるはずがない。視点が定まらず、視界に映るものが目まぐるしく変わる。頭が痛むくらい強い圧迫感に襲われ、ラクエルは苦痛に顔を歪めた。
「あら、無視かしら?それとも話せないのかな?まぁ、どちらでもいいわ。それなら私が決めてあげる。せっかくこれだけ勢いが付いているんだから、どこまで飛ぶか放り投げて・・・!」
ふいに頭上に落ちた影にラザレナが顔を上げると、金色に輝くオーラのハンマーを掲げ、ジャレットが上空から飛び込んで来た!
「オラァァァァァーーーーーーーッツ!」
闘気の剣、通常のオーラブレードではまず当てる事ができないだろう。
ならば広い面で打ち付ける、オーラブレードの第二段階、オーラハンマーで頭から叩き潰す!
「あら、それって最悪な攻撃って分かってる?私がどこに手を離すか考えてないわよね?」
独楽のように回っていたラザレナは、上半身を上に捻って左腕に角度を付けると、頭の上に落下してくる
ジャレットを目掛けて、ラクエルを投げつけた!
「あんまなめんなよ?そんくれぇ考えてるさ、俺は一人じゃねぇッ!」
「ッ!?」
ラクエルの手を離したラザレナの目に飛び込んで来たのは、横から飛び込んで来た黒髪の男の影だった。
「ラァッ!」
アラタである。
アラタはオーラハンマーを振り被り落下してくるジャレットと、そのジャレットを目掛けてラクエルを投げつけたラザレナ。この二人の間に飛び込んでラクエルを受け止めたのだ。
髪の毛程の僅かなタイミングのズレも許されない。ヘタをすれば自分も衝突に巻き込まれる危険がある中、躊躇なく飛び込む度胸が要求される。しかしアラタは見事それをやってのけた。
「ナイスだアラヤン!」
ジャレットの攻撃の軌道上から二人の姿が消えた事で、ジャレットは何一つ躊躇う事がなくなった。
対するラザレナは、まさかここで横から誰かが入って来るなどまるで頭に無かった。ラクエルをジャレットにぶつけてお終いだと確信していた。それだけにほんの一瞬だが、状況を飲み込むために思考を停止させてしまった。
そしてそのほんの一瞬が、勝負の機をジャレットに傾けた。
「くらえぇぇぇぇーーーーーーーッツ!」
完璧にラザレナを捉えたジャレットは、金色のオーラで形作られた大きなハンマーを振り下ろした!
全身全霊を込めて打ち付けたジャレットのオーラハンマーは、耳をつんざく大爆音とともに砂地を陥没させ、空高くまで届く巨大な砂埃を巻き上げさせた。
濛々と立ち昇る黄色い砂の煙によって、ほんの数メートル先も満足に見る事もできない。
「げほっ、ぺっ・・・ふぅ・・・」
アラタは咳こんで顔をしかめた。ジャレットの一撃によって、砂粒が入ったらしい。
ラクエルをすぐ脇に下ろすと、口の中のじゃりっとした細かい異物を吐き出した。
「うぅ・・・痛ッ、くぅ・・・あ、ありがとアラタ、助かったよ」
意識はあるが、振り回された事でまだ目眩が残り、船酔いにも似た気分の悪さにラクエルは体を起こせずにいた。顔をしかめ息を切らしながら、アラタに感謝を伝える。
「大丈夫か?まさか片手で人を振り回すなんて・・・見た目からじゃ考えられない腕力だ。あの女、あの剣から零れた血を浴びてから、信じられないくらい力が上がってる。今のジャレットさんの一発で倒せていなかったら・・・・・」
まだ視界が塞がれていて戦況の確認はできないが、ジャレットの一撃がどうなったのか、そっちに目を向けずにはいられなかった。
ここまでの攻防で十分に分かった。
血を浴びて変貌したラザレナの戦闘力は、あまりにも圧倒的だった。ゴールド騎士のフェリックスでさえ手玉にとられてしまっている。今はまだラザレナが遊んでいるため、なんとか持ちこたえられている。
だがこれ以上戦いが長引きラザレナが飽いてしまった時、果たしてしのぎ切れるだろうか?
ゴクリと固唾を飲んだその時、赤く吹き荒れる炎が砂を吹き飛ばし、それに伴う熱波が周囲を焼き払った!
「なっ!?」
まずい!とんでもない熱だ!
驚異的な熱量を瞬時に見抜いたアラタは、咄嗟に両手を前に出して光を放出した。
イメージは円状の壁である。自分とラクエルを護る盾として、光の力で熱波を防ぐ!
「ぐっ!ア、アラタ、これは!?」
光の盾で護られているが、眩しいくらいの炎の赤に、ラクエルは眉を寄せて目を細めた。
「俺の光の力で熱波を防いでいる!それよりまずいぞ!この炎はあの女の炎だ、それはつまりジャレットさんの攻撃が・・・・・」
その後に続く言葉は飲み込んだ。だがこの炎が示すものは、ジャレットの攻撃が功を成しえなかったという事だ。
押し寄せてくる熱波を防ぎながら、アラタはぐっと歯を噛みしめて前方を睨みつけた。
「うふふふ、いいわ、すごくいい。けど残念ね・・・」
砂煙が消し飛ぶと、妖しく笑う女の声が耳に届いた。
「ッ!・・・ジャレットさん!」
砂煙が晴れて明るくなった視界の先、そこでアラタが目にしたもの、それは・・・・・
「なかなかのパワーだけど、血狂刃を開放した私には通用しないわよ」
ラザレナの左腕一本に喉を掴み持ち上げられ、苦し気に呻くジャレットの姿だった。
「苦しそうね・・・ふふふ、この戦いも飽きてきたし、そろそろ楽にしてあげましょうか?」
右手に握る真紅の片手剣をスッと上げて、ジャレットの喉元に刃を押し当てる。
「う、ぐぅぅっ!あ、がぁ・・・」
歯を食いしばり、両手でラザレナの手を引き剥がそうともがくジャレットだが、ラザレナの指の一本も外す事ができなかった。信じられない力だった。この細い腕のどこにこれだけの力があるのかと、目を疑う程の恐ろしい膂力である。
「ふふふ・・・どうかしら?私がもう少しだけ力を込めると、あなたの首から真っ赤な血が噴き出しちゃうでしょうね・・・どう?怖い?」
ジャレットの首から、ツー・・・っと一筋の血が流れると、血狂刃はまるで喜んでいるように淡く赤い光を放って見えた。
「やめろぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーッツ!」
考えるより先に飛び出していた。
光の力を全開にし、拳を握りしめて一直線にラザレナに向っていた。
女性は殴らないという信念が一瞬頭をよぎった。だがジャレットの喉に食い込むラザレナの指、そして苦痛に歪む顔を見て、アラタはギリっと歯を食いしばり、全てを振り払うように叫んだ。
「あら?すごい力・・・あなた、さっきまで実力を隠してたのかしら?この男より楽しめそうね」
自分に向かって突進してくるアラタに気が付くと、ラザレナはジャレットへの興味を無くしたように、左腕一本で放り投げた。
そしてアラタに向き直ると、真紅の片手剣を正面に向けて構えた。
「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッツ!」
右の拳を握り締め、光の力を集中させる!
覚悟は決めた。取り押さえるなんてあまい考えでは、大切な仲間が殺されてしまう。
信念よりも大事なものがある。ジャレットさんを・・・仲間の命を護るためなら俺の信念なんて捨ててやる!
「うふふ、その目、とっても素敵よ・・・っ!?」
アラタの拳に宿る強大な力、そして殺意の籠った鋭い目に、ラザレナは歓喜で体がゾクゾクと震える事を感じた。
そしてアラタの拳、ラザレナの赤い刃が交差したその時、背後から放たれた竜巻を思わせる凄まじい風の渦が、ラザレナを襲い飲み込んだ!
「なにっ!?」
目の前で赤い女が風の渦に飲まれ、上空へと飛ばされていった。
風の上級魔法トルネード・バースト、いや、それ以上の威力を思わせる凄まじい威力。
誰がこれほどの魔法を!?
足を止めて、驚きをあらわに風が放たれた方向に顔を向けると、そこには白いローブを風にはためかせた、オレンジ色の髪の魔法使いが、白い羽を向けて立っていた。
「アラタ君!自分を見失わないで!」
カチュアは声を高く叫んだ。
ラザレナの左拳がフェリックスの顔面を打ちぬいた!
は、速い!こ、このボクが芯を外すのがやっとだ!
拳が当たる瞬間に、かろうじて後ろに跳んでダメージを軽減させたが、それでも頭を大きく揺さぶられて砂の上に倒れそうになった。
歯を食いしばり、後ろ脚に地面を強く踏みつけて堪えるが、大きくバランスを崩してしまいすぐには反撃に移れない。
それは攻撃をしかける側からすれ大きな好機であるはずだが、ラザレナ・シールズはその場を一歩も動く事なく、ただ嘲るような視線だけを向けて笑っていた。
「フッ!」
短く息を吐き、フェリックスの脇を駆け抜けたのは、魔道剣士ラクエル・エンリケスだった。
スピードではフェリックスにも引けをとらないラクエルは、ラザレナとの距離を一蹴りで詰めると、右手に握る氷結のナイフを真っすぐに突き出した!
氷結のナイフは刃で刺す事に重点は置いていない。触れれば凍らせる事ができるのだから、掠らせるだけでもいいのだ。だからこそラクエルの狙いは、的が大きい胴体だった。
「それ、二度もくらわないわよ」
「っ!?」
ラクエルの伸ばした右腕を上から押さえるようにして、ラザレナは左手一本で掴み止めてみせた。
「ふふふ、残念だった・・・!?」
「ハァッ!」
右腕を掴んでいるラザレナの左手に、更に自身の左手を重ね合わせて支点にすると、ラクエルは右足で地面を蹴って跳び上がった。
そして胸に引き付けた左足を、ラザレナの胸を目掛けて真っすぐ勢いよく叩き込む!
入っ・・・!?
申し分のないタイミングだった。意表をついた動きでもあり、並みの相手ならば確実に入っていた。
しかしラザレナの力量は、ラクエルが考える数段上を行っていた。
突然足が浮いたかと思うと、視界が揺れて体が大きく振り回される。
「なッ!?」
「ふふふ、良い攻撃だったわ!相手が私じゃなければ入っていたでしょうねぇー!」
ラザレナは楽しそうに笑いながら、掴んでいたラクエルの右腕にぐっと力を入れると、そのまま左腕一本でその体を持ち上げて、自身の足を軸に回転しながらラクエルの体を振り回し始めた!
「ッ・・・!」
「あはははははは!このまま手を離したらどこまで飛ぶのかしらね!?それとも頭から地面に叩きつけてあげようか?砂の上だから案外助かるかもしれないわよ!」
言葉など返せるはずがない。視点が定まらず、視界に映るものが目まぐるしく変わる。頭が痛むくらい強い圧迫感に襲われ、ラクエルは苦痛に顔を歪めた。
「あら、無視かしら?それとも話せないのかな?まぁ、どちらでもいいわ。それなら私が決めてあげる。せっかくこれだけ勢いが付いているんだから、どこまで飛ぶか放り投げて・・・!」
ふいに頭上に落ちた影にラザレナが顔を上げると、金色に輝くオーラのハンマーを掲げ、ジャレットが上空から飛び込んで来た!
「オラァァァァァーーーーーーーッツ!」
闘気の剣、通常のオーラブレードではまず当てる事ができないだろう。
ならば広い面で打ち付ける、オーラブレードの第二段階、オーラハンマーで頭から叩き潰す!
「あら、それって最悪な攻撃って分かってる?私がどこに手を離すか考えてないわよね?」
独楽のように回っていたラザレナは、上半身を上に捻って左腕に角度を付けると、頭の上に落下してくる
ジャレットを目掛けて、ラクエルを投げつけた!
「あんまなめんなよ?そんくれぇ考えてるさ、俺は一人じゃねぇッ!」
「ッ!?」
ラクエルの手を離したラザレナの目に飛び込んで来たのは、横から飛び込んで来た黒髪の男の影だった。
「ラァッ!」
アラタである。
アラタはオーラハンマーを振り被り落下してくるジャレットと、そのジャレットを目掛けてラクエルを投げつけたラザレナ。この二人の間に飛び込んでラクエルを受け止めたのだ。
髪の毛程の僅かなタイミングのズレも許されない。ヘタをすれば自分も衝突に巻き込まれる危険がある中、躊躇なく飛び込む度胸が要求される。しかしアラタは見事それをやってのけた。
「ナイスだアラヤン!」
ジャレットの攻撃の軌道上から二人の姿が消えた事で、ジャレットは何一つ躊躇う事がなくなった。
対するラザレナは、まさかここで横から誰かが入って来るなどまるで頭に無かった。ラクエルをジャレットにぶつけてお終いだと確信していた。それだけにほんの一瞬だが、状況を飲み込むために思考を停止させてしまった。
そしてそのほんの一瞬が、勝負の機をジャレットに傾けた。
「くらえぇぇぇぇーーーーーーーッツ!」
完璧にラザレナを捉えたジャレットは、金色のオーラで形作られた大きなハンマーを振り下ろした!
全身全霊を込めて打ち付けたジャレットのオーラハンマーは、耳をつんざく大爆音とともに砂地を陥没させ、空高くまで届く巨大な砂埃を巻き上げさせた。
濛々と立ち昇る黄色い砂の煙によって、ほんの数メートル先も満足に見る事もできない。
「げほっ、ぺっ・・・ふぅ・・・」
アラタは咳こんで顔をしかめた。ジャレットの一撃によって、砂粒が入ったらしい。
ラクエルをすぐ脇に下ろすと、口の中のじゃりっとした細かい異物を吐き出した。
「うぅ・・・痛ッ、くぅ・・・あ、ありがとアラタ、助かったよ」
意識はあるが、振り回された事でまだ目眩が残り、船酔いにも似た気分の悪さにラクエルは体を起こせずにいた。顔をしかめ息を切らしながら、アラタに感謝を伝える。
「大丈夫か?まさか片手で人を振り回すなんて・・・見た目からじゃ考えられない腕力だ。あの女、あの剣から零れた血を浴びてから、信じられないくらい力が上がってる。今のジャレットさんの一発で倒せていなかったら・・・・・」
まだ視界が塞がれていて戦況の確認はできないが、ジャレットの一撃がどうなったのか、そっちに目を向けずにはいられなかった。
ここまでの攻防で十分に分かった。
血を浴びて変貌したラザレナの戦闘力は、あまりにも圧倒的だった。ゴールド騎士のフェリックスでさえ手玉にとられてしまっている。今はまだラザレナが遊んでいるため、なんとか持ちこたえられている。
だがこれ以上戦いが長引きラザレナが飽いてしまった時、果たしてしのぎ切れるだろうか?
ゴクリと固唾を飲んだその時、赤く吹き荒れる炎が砂を吹き飛ばし、それに伴う熱波が周囲を焼き払った!
「なっ!?」
まずい!とんでもない熱だ!
驚異的な熱量を瞬時に見抜いたアラタは、咄嗟に両手を前に出して光を放出した。
イメージは円状の壁である。自分とラクエルを護る盾として、光の力で熱波を防ぐ!
「ぐっ!ア、アラタ、これは!?」
光の盾で護られているが、眩しいくらいの炎の赤に、ラクエルは眉を寄せて目を細めた。
「俺の光の力で熱波を防いでいる!それよりまずいぞ!この炎はあの女の炎だ、それはつまりジャレットさんの攻撃が・・・・・」
その後に続く言葉は飲み込んだ。だがこの炎が示すものは、ジャレットの攻撃が功を成しえなかったという事だ。
押し寄せてくる熱波を防ぎながら、アラタはぐっと歯を噛みしめて前方を睨みつけた。
「うふふふ、いいわ、すごくいい。けど残念ね・・・」
砂煙が消し飛ぶと、妖しく笑う女の声が耳に届いた。
「ッ!・・・ジャレットさん!」
砂煙が晴れて明るくなった視界の先、そこでアラタが目にしたもの、それは・・・・・
「なかなかのパワーだけど、血狂刃を開放した私には通用しないわよ」
ラザレナの左腕一本に喉を掴み持ち上げられ、苦し気に呻くジャレットの姿だった。
「苦しそうね・・・ふふふ、この戦いも飽きてきたし、そろそろ楽にしてあげましょうか?」
右手に握る真紅の片手剣をスッと上げて、ジャレットの喉元に刃を押し当てる。
「う、ぐぅぅっ!あ、がぁ・・・」
歯を食いしばり、両手でラザレナの手を引き剥がそうともがくジャレットだが、ラザレナの指の一本も外す事ができなかった。信じられない力だった。この細い腕のどこにこれだけの力があるのかと、目を疑う程の恐ろしい膂力である。
「ふふふ・・・どうかしら?私がもう少しだけ力を込めると、あなたの首から真っ赤な血が噴き出しちゃうでしょうね・・・どう?怖い?」
ジャレットの首から、ツー・・・っと一筋の血が流れると、血狂刃はまるで喜んでいるように淡く赤い光を放って見えた。
「やめろぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーッツ!」
考えるより先に飛び出していた。
光の力を全開にし、拳を握りしめて一直線にラザレナに向っていた。
女性は殴らないという信念が一瞬頭をよぎった。だがジャレットの喉に食い込むラザレナの指、そして苦痛に歪む顔を見て、アラタはギリっと歯を食いしばり、全てを振り払うように叫んだ。
「あら?すごい力・・・あなた、さっきまで実力を隠してたのかしら?この男より楽しめそうね」
自分に向かって突進してくるアラタに気が付くと、ラザレナはジャレットへの興味を無くしたように、左腕一本で放り投げた。
そしてアラタに向き直ると、真紅の片手剣を正面に向けて構えた。
「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッツ!」
右の拳を握り締め、光の力を集中させる!
覚悟は決めた。取り押さえるなんてあまい考えでは、大切な仲間が殺されてしまう。
信念よりも大事なものがある。ジャレットさんを・・・仲間の命を護るためなら俺の信念なんて捨ててやる!
「うふふ、その目、とっても素敵よ・・・っ!?」
アラタの拳に宿る強大な力、そして殺意の籠った鋭い目に、ラザレナは歓喜で体がゾクゾクと震える事を感じた。
そしてアラタの拳、ラザレナの赤い刃が交差したその時、背後から放たれた竜巻を思わせる凄まじい風の渦が、ラザレナを襲い飲み込んだ!
「なにっ!?」
目の前で赤い女が風の渦に飲まれ、上空へと飛ばされていった。
風の上級魔法トルネード・バースト、いや、それ以上の威力を思わせる凄まじい威力。
誰がこれほどの魔法を!?
足を止めて、驚きをあらわに風が放たれた方向に顔を向けると、そこには白いローブを風にはためかせた、オレンジ色の髪の魔法使いが、白い羽を向けて立っていた。
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