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1393 カーン 対 アルツール
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「ッ!なんだ、この風は!?」
真冬では考えられない熱い風が、突然吹きつけてきた。
異常事態にラミール・カーンが剣を引いて一歩飛び退くと、第五師団副団長のアルツール・バレンズエラも、後方に地面を蹴って距離を取った。
風が吹きつけて来る方向に顔を向けると、数十、いや百メートル以上は離れたところで、赤々と燃え上がる炎が見えた。相当な火力だ、これだけ離れていても肌がチリチリと焼けそうになる。
あれだけの炎、黒魔法使いが火の上級魔法でも使ったのか?分からないが、一つだけハッキリしている事がある。
敵陣の奥深くまで踏み込んで行ったのは、ロンズデール軍ではアブエル・マレスだけだ。
つまりあの炎は、マレスが交戦した事で起きたという事だ。
マレスは体力型だ、であるならば帝国の黒魔法使いの攻撃によるもの、そう考える事が当然である。
「・・・仲間が気がかりか?」
アルツール・バレンズエラは、ラミール・カーンの心の機微を探るように目を細めた。
ここまで剣戟(けんげき)を重ねてきたが、両者の実力は互角だった。
アルツールは副団長として申し分のない力と技を持っている。いずれは師団長の座を狙えるだけの器もある。
そしてアルツール最大の武器は、人の目を欺く誘導術にあった。
どう動けば相手の視線を逸らす事ができるか?
それを熟知しているアルツールは、巧な動きによって相手の視線を誘導し、自分から外させる。
それによって相手は、まるでアルツールが自分の前から一瞬にして姿を消したかのように錯覚し、後ろを取られてしまうのだ。
アルツールはこの戦い方で勝ち続け、第五師団の副団長まで上り詰めたのだ。
しかし常勝を重ねたこの戦法が、ラミール・カーンには通用しなかった。
頭、肩、指先、足、視線、全身のいたるところを使い、カーンの隙を作ろうとしたが、アルツールのいかなる誘導にも、カーンは微塵もゆさぶられる事はなかった。
必然的に戦いは、真っ向からのぶつかり合いになっていた。
「仲間、だと?・・・ふん、そんなものではない。俺は自分のために戦っているだけだ、他の連中がどうなろうと知った事ではない」
「・・・ほう、意外だな。貴様らのような連中は、仲間を何より大事すると思ったが?」
さも当然のように答えるカーンに、アルツールはかすかに眉を顰(ひそ)めた。
アルツールは自分達帝国が、侵略戦争をしかけた事を十分に自覚している。帝国としての都合の良い言い分はあるが、善か悪かを問われるまでもなく、確実に悪だと承知しているのだ。
だからこそロンズデールの戦士が、仲間の命を軽んじる発言をした事に少なからず驚いたのだ。
「おいおい、さっき名乗ったよな?俺の名はラミール・カーン、魔道剣士だ。帝国で話しが出た事があると思うが?」
「魔道剣士?・・・ああ、なるほどそうか。思い出した。以前我が帝国に己の国を売り渡そうとした連中がいたが、ロンズデールの魔道剣士と言っていたな、貴様がそうか・・・それならば納得だ」
それまで能面のように表情の無かったアルツールだったが、カーンの素性に思い当たると、その目には侮蔑の色がハッキリと浮かんだ。
ロンズデールを売り渡し、自分達魔道剣士だけが帝国で保身を図る。
かつてロンズデールの魔道剣士が主体となり進めていた売国行為は、帝国軍の人間ならば誰でも知っている事だった。
そしてその行為は、帝国からしても見下げ果てたものだった。
「愛国心も誇りも無い男が、よくもこの場に立てたものだ。売国奴をまた受け入れるロンズデール国は、よほど人材不足のようだな」
アルツールは口数が多い男ではない。余計な事は言わず、己の任務を淡々とこなす実直な男である。
しかしそのアルツールにここまで言わせるほど、帝国での魔道剣士の印象は悪かった。
仮にあのクルーズ船での戦いで帝国が勝ち、カーンの思惑通りロンズデールを帝国に売り渡す事が成功していたとしても、魔道剣士隊は帝国で長生きはできなかっただろう。
国を売った人間など、信用できるはずがないからだ。
「へっ、言ってくれるじゃねぇか?まぁ、確かに俺は国を売ろうとした悪党だがよ、てめぇ如きに遅れはとらねぇぞ」
カーンは笑った。売国奴、その通りである。祖国を裏切った男が、今また祖国のために戦おうなど、滑稽の極みだろう。しかしカーンはかつての自分の行い、一度たりとも悔いた事はない。
なぜならそれが間違っていたとしても、ロンズデールに血を流させないために、最善と思われる行動だったのだから。
結果がどうなろうと、自分で選んだ選択に最後まで準じたのだから。
カーンは両手で握る大剣を腰の高さで持ち構え、切っ先をアルツールに向けた。
「そろそろ終わらせようぜ、叩き潰してやるよ」
「・・・いいだろう、私も売国奴とこれ以上話す口は持ち合わせていないからな」
冷たく言葉を吐き捨てると、アルツールも剣を握り直した。
空気が張りつめ、両者の間の緊張感が高まっていく・・・・・
そこから決着までは僅か十秒足らずだった
真冬では考えられない熱い風が、突然吹きつけてきた。
異常事態にラミール・カーンが剣を引いて一歩飛び退くと、第五師団副団長のアルツール・バレンズエラも、後方に地面を蹴って距離を取った。
風が吹きつけて来る方向に顔を向けると、数十、いや百メートル以上は離れたところで、赤々と燃え上がる炎が見えた。相当な火力だ、これだけ離れていても肌がチリチリと焼けそうになる。
あれだけの炎、黒魔法使いが火の上級魔法でも使ったのか?分からないが、一つだけハッキリしている事がある。
敵陣の奥深くまで踏み込んで行ったのは、ロンズデール軍ではアブエル・マレスだけだ。
つまりあの炎は、マレスが交戦した事で起きたという事だ。
マレスは体力型だ、であるならば帝国の黒魔法使いの攻撃によるもの、そう考える事が当然である。
「・・・仲間が気がかりか?」
アルツール・バレンズエラは、ラミール・カーンの心の機微を探るように目を細めた。
ここまで剣戟(けんげき)を重ねてきたが、両者の実力は互角だった。
アルツールは副団長として申し分のない力と技を持っている。いずれは師団長の座を狙えるだけの器もある。
そしてアルツール最大の武器は、人の目を欺く誘導術にあった。
どう動けば相手の視線を逸らす事ができるか?
それを熟知しているアルツールは、巧な動きによって相手の視線を誘導し、自分から外させる。
それによって相手は、まるでアルツールが自分の前から一瞬にして姿を消したかのように錯覚し、後ろを取られてしまうのだ。
アルツールはこの戦い方で勝ち続け、第五師団の副団長まで上り詰めたのだ。
しかし常勝を重ねたこの戦法が、ラミール・カーンには通用しなかった。
頭、肩、指先、足、視線、全身のいたるところを使い、カーンの隙を作ろうとしたが、アルツールのいかなる誘導にも、カーンは微塵もゆさぶられる事はなかった。
必然的に戦いは、真っ向からのぶつかり合いになっていた。
「仲間、だと?・・・ふん、そんなものではない。俺は自分のために戦っているだけだ、他の連中がどうなろうと知った事ではない」
「・・・ほう、意外だな。貴様らのような連中は、仲間を何より大事すると思ったが?」
さも当然のように答えるカーンに、アルツールはかすかに眉を顰(ひそ)めた。
アルツールは自分達帝国が、侵略戦争をしかけた事を十分に自覚している。帝国としての都合の良い言い分はあるが、善か悪かを問われるまでもなく、確実に悪だと承知しているのだ。
だからこそロンズデールの戦士が、仲間の命を軽んじる発言をした事に少なからず驚いたのだ。
「おいおい、さっき名乗ったよな?俺の名はラミール・カーン、魔道剣士だ。帝国で話しが出た事があると思うが?」
「魔道剣士?・・・ああ、なるほどそうか。思い出した。以前我が帝国に己の国を売り渡そうとした連中がいたが、ロンズデールの魔道剣士と言っていたな、貴様がそうか・・・それならば納得だ」
それまで能面のように表情の無かったアルツールだったが、カーンの素性に思い当たると、その目には侮蔑の色がハッキリと浮かんだ。
ロンズデールを売り渡し、自分達魔道剣士だけが帝国で保身を図る。
かつてロンズデールの魔道剣士が主体となり進めていた売国行為は、帝国軍の人間ならば誰でも知っている事だった。
そしてその行為は、帝国からしても見下げ果てたものだった。
「愛国心も誇りも無い男が、よくもこの場に立てたものだ。売国奴をまた受け入れるロンズデール国は、よほど人材不足のようだな」
アルツールは口数が多い男ではない。余計な事は言わず、己の任務を淡々とこなす実直な男である。
しかしそのアルツールにここまで言わせるほど、帝国での魔道剣士の印象は悪かった。
仮にあのクルーズ船での戦いで帝国が勝ち、カーンの思惑通りロンズデールを帝国に売り渡す事が成功していたとしても、魔道剣士隊は帝国で長生きはできなかっただろう。
国を売った人間など、信用できるはずがないからだ。
「へっ、言ってくれるじゃねぇか?まぁ、確かに俺は国を売ろうとした悪党だがよ、てめぇ如きに遅れはとらねぇぞ」
カーンは笑った。売国奴、その通りである。祖国を裏切った男が、今また祖国のために戦おうなど、滑稽の極みだろう。しかしカーンはかつての自分の行い、一度たりとも悔いた事はない。
なぜならそれが間違っていたとしても、ロンズデールに血を流させないために、最善と思われる行動だったのだから。
結果がどうなろうと、自分で選んだ選択に最後まで準じたのだから。
カーンは両手で握る大剣を腰の高さで持ち構え、切っ先をアルツールに向けた。
「そろそろ終わらせようぜ、叩き潰してやるよ」
「・・・いいだろう、私も売国奴とこれ以上話す口は持ち合わせていないからな」
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