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1427 魔道剣士の姉弟とビンセント
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「・・・今のうちだな」
ビンセントは袖を破ると、右の腿にキツク巻き付けた。
剣で刺されたのだから、それでどうにかなるものではないが、少しは出血を抑えられるだろう。
しかし痛みは一向に治まらず、額には汗が滲む。片足では満足に動く事もできず、このまま帝国兵に一斉攻撃を受けていたら危なかったのは事実だ。
今ビンセントの視線の先では、赤茶色の髪の黒魔法使いアドニスが、巨大な白ミミズを誘導して帝国軍をかき乱している。それで帝国軍の目が自分から逸れた事には助けられた。
まだ若いが機転が利くし、連携も取りやすい。組んだ相手がアドニスで良かった。
そうビンセントが思っていると、後ろから声をかけられた。
「あなた、ずいぶん深手を負わされたみたいね?」
聞き覚えのある声にビンセントが振り返ると、そこには長身の男女が立っていた。
二人ともコバルトブルーの長い髪で、髪と同じ深く明るい青色の瞳をビンセントに向けていた。
魔導剣士のフィールディング姉弟である。
魔導剣士隊は帝国軍を寄せ付けぬ強さを見せ、先行したビンセントとパロにも追いついてしまったのだ。
姉であるヴァージニアが、ビンセントの右足を指差す。
「ああ、そこの男が第三師団の副団長でね。勝ったのはいいが、足をやられたよ」
傍に倒れている深紅の鎧の男を指さしながら答えると、ヴァージニアの弟のアランが、肩を竦めて一歩前に出て来た。
「やれやれ、たかが副団長相手にその怪我とはね。リンジーさんもどうしてこの人を、アルバレスにぶつけようと考えたんだろう?僕達姉弟に任せておけばよかったのにさ、ね?姉さん」
明らかにビンセントを挑発していたが、ビンセントは意に介する様子は見せない。アランの皮肉っぷりはこれが初めてではないからだ。ビンセントに取り合う気はなく、ただ黙ってアランに目を向けた。
「やめなさい。アラン。リンジーさんは魔導剣士隊を再結成し、私達の実力を認めてくださった方よ。リンジーさんの決めた事に、不平不満は慎みなさい」
「・・・分かったよ、姉さん」
ヴァージニアに睨まれると、アランは不満気に眉をひそめたが、それ以上のビンセントに何かを言う事もなく、口を噤んだ。
「・・・もういいか?まだ戦闘中なんだ、話しが終わりなら俺は行くぞ」
ビンセントが話しを切り上げて二人に背を向けようとすると、再びヴァージニアが声をかけた。
「待ちなさい、あなたその怪我で戦えるわけないでしょ?」
「・・・だが、アドニスが一人で敵を引き付けているんだ。俺が行かないと」
「片足で役に立てると思ってるの?いいから、そこに座りなさい。治療してあげるわ」
ヴァージニアはビンセントの言葉に被せて、地面を指差した。
「治療?この傷は回復薬程度ではどうにもならないぞ。お前達魔導剣士は全員体力型のはずだろ?」
「バカにしてるのかしら?そんな事見れば分かるわよ。白魔法使いを連れて来ているから言ってるに決まってるでしょ?いいから早く座りなさい。まさか泥の上に座るのは嫌だなんて言わないわよね?」
ヴァージニアは鋭く目を細めると、冷たく、そして有無を言わさぬ口調でビンセントに言い放った。
ビンセントとヴァージニア、二人はあまり会話をした事はなかった。しかしビンセントの印象では、ヴァージニアはあまり他人に干渉しないタイプに感じていた。それがまさか、ここまで強い言葉を使うとは思ってもいなかった。
驚きはあった。しかし自分の怪我を治療してくれるというのだから、無碍に断る理由もない。
ビンセントは、分かった、と短く答えると、その場に腰を下ろした。
「それとアラン、あなたがビンセントの代わりに、アドニスを援護してきなさい」
「え?・・・ああ、分かったよ。姉さんは優しいな」
突然の事で少しだけ意外そうに眉を上げるが、アランは小さく笑って頷いた。そして後ろに控える魔道剣士達に顔を向けると、着いて来いと手を振って、前へと足を進めた。
「・・・すまない、助かる」
「あら、案外素直なのね?安心なさい、アランは強いから任せておけばいいわ。あなたは治療に集中する事ね」
白い大ミミズが暴れまわりかき乱しているが、アドニスがたった一人で帝国兵に囲まれている状況に変わりはない。しかし数百人の魔道剣士達が加勢に向かった事で、ビンセントも安堵を覚え、感謝の言葉を口にした。その言葉を受けてヴァージニアも表情を柔らかくすると、後ろに控えていた数人の白魔法使いの女性に、声をかけて呼び寄せた。
「魔道剣士隊は確かに体力型が中心よ。けれど回復要員は絶対に必要なるわ。だから私は、魔道剣士隊専属の白魔法使いを育てたの」
しっかり治してあげなさい。ヴァージニアの言葉に彼女達は、はい、と返事をすると、ビンセントに癒しの魔力を送り始めた。
「ビンセント・・・その傷、剣で足を刺し貫かれたんでしょ?彼女達のヒールで完治はできるわ。できるけど、それだけの傷を完全に治すには、ちょっと時間がかかるわ。だからここからは私達に任せない」
白魔法使い達の治療が始まると、ヴァージニアはビンセントにそう言葉を告げた。
ビンセントは袖を破ると、右の腿にキツク巻き付けた。
剣で刺されたのだから、それでどうにかなるものではないが、少しは出血を抑えられるだろう。
しかし痛みは一向に治まらず、額には汗が滲む。片足では満足に動く事もできず、このまま帝国兵に一斉攻撃を受けていたら危なかったのは事実だ。
今ビンセントの視線の先では、赤茶色の髪の黒魔法使いアドニスが、巨大な白ミミズを誘導して帝国軍をかき乱している。それで帝国軍の目が自分から逸れた事には助けられた。
まだ若いが機転が利くし、連携も取りやすい。組んだ相手がアドニスで良かった。
そうビンセントが思っていると、後ろから声をかけられた。
「あなた、ずいぶん深手を負わされたみたいね?」
聞き覚えのある声にビンセントが振り返ると、そこには長身の男女が立っていた。
二人ともコバルトブルーの長い髪で、髪と同じ深く明るい青色の瞳をビンセントに向けていた。
魔導剣士のフィールディング姉弟である。
魔導剣士隊は帝国軍を寄せ付けぬ強さを見せ、先行したビンセントとパロにも追いついてしまったのだ。
姉であるヴァージニアが、ビンセントの右足を指差す。
「ああ、そこの男が第三師団の副団長でね。勝ったのはいいが、足をやられたよ」
傍に倒れている深紅の鎧の男を指さしながら答えると、ヴァージニアの弟のアランが、肩を竦めて一歩前に出て来た。
「やれやれ、たかが副団長相手にその怪我とはね。リンジーさんもどうしてこの人を、アルバレスにぶつけようと考えたんだろう?僕達姉弟に任せておけばよかったのにさ、ね?姉さん」
明らかにビンセントを挑発していたが、ビンセントは意に介する様子は見せない。アランの皮肉っぷりはこれが初めてではないからだ。ビンセントに取り合う気はなく、ただ黙ってアランに目を向けた。
「やめなさい。アラン。リンジーさんは魔導剣士隊を再結成し、私達の実力を認めてくださった方よ。リンジーさんの決めた事に、不平不満は慎みなさい」
「・・・分かったよ、姉さん」
ヴァージニアに睨まれると、アランは不満気に眉をひそめたが、それ以上のビンセントに何かを言う事もなく、口を噤んだ。
「・・・もういいか?まだ戦闘中なんだ、話しが終わりなら俺は行くぞ」
ビンセントが話しを切り上げて二人に背を向けようとすると、再びヴァージニアが声をかけた。
「待ちなさい、あなたその怪我で戦えるわけないでしょ?」
「・・・だが、アドニスが一人で敵を引き付けているんだ。俺が行かないと」
「片足で役に立てると思ってるの?いいから、そこに座りなさい。治療してあげるわ」
ヴァージニアはビンセントの言葉に被せて、地面を指差した。
「治療?この傷は回復薬程度ではどうにもならないぞ。お前達魔導剣士は全員体力型のはずだろ?」
「バカにしてるのかしら?そんな事見れば分かるわよ。白魔法使いを連れて来ているから言ってるに決まってるでしょ?いいから早く座りなさい。まさか泥の上に座るのは嫌だなんて言わないわよね?」
ヴァージニアは鋭く目を細めると、冷たく、そして有無を言わさぬ口調でビンセントに言い放った。
ビンセントとヴァージニア、二人はあまり会話をした事はなかった。しかしビンセントの印象では、ヴァージニアはあまり他人に干渉しないタイプに感じていた。それがまさか、ここまで強い言葉を使うとは思ってもいなかった。
驚きはあった。しかし自分の怪我を治療してくれるというのだから、無碍に断る理由もない。
ビンセントは、分かった、と短く答えると、その場に腰を下ろした。
「それとアラン、あなたがビンセントの代わりに、アドニスを援護してきなさい」
「え?・・・ああ、分かったよ。姉さんは優しいな」
突然の事で少しだけ意外そうに眉を上げるが、アランは小さく笑って頷いた。そして後ろに控える魔道剣士達に顔を向けると、着いて来いと手を振って、前へと足を進めた。
「・・・すまない、助かる」
「あら、案外素直なのね?安心なさい、アランは強いから任せておけばいいわ。あなたは治療に集中する事ね」
白い大ミミズが暴れまわりかき乱しているが、アドニスがたった一人で帝国兵に囲まれている状況に変わりはない。しかし数百人の魔道剣士達が加勢に向かった事で、ビンセントも安堵を覚え、感謝の言葉を口にした。その言葉を受けてヴァージニアも表情を柔らかくすると、後ろに控えていた数人の白魔法使いの女性に、声をかけて呼び寄せた。
「魔道剣士隊は確かに体力型が中心よ。けれど回復要員は絶対に必要なるわ。だから私は、魔道剣士隊専属の白魔法使いを育てたの」
しっかり治してあげなさい。ヴァージニアの言葉に彼女達は、はい、と返事をすると、ビンセントに癒しの魔力を送り始めた。
「ビンセント・・・その傷、剣で足を刺し貫かれたんでしょ?彼女達のヒールで完治はできるわ。できるけど、それだけの傷を完全に治すには、ちょっと時間がかかるわ。だからここからは私達に任せない」
白魔法使い達の治療が始まると、ヴァージニアはビンセントにそう言葉を告げた。
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