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1440 湿地帯の戦い方
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ザビル・アルバレスは武器を持っていない。必要ないからだ。
初めからそうだったわけではない。かつては剣や斧を使っていた事もある。
しかし鋼鉄の体を手にいれてから、アルバレスにとって武器とは、何も意味をなさないものとなってしまったのだ。
なぜなら己の鋼鉄の体を傷つけらない得物など役に立たない。己の鋼鉄の体以上に、硬く丈夫な武器など無いのだから。
「ウオラァァァァァーーーーーーーーッツ!」
ニメートルの巨体が振るう左右の剛腕を、ヴァージニアは後ろへ跳びながら躱していた。
「どうした!?逃げてるだけじゃ勝てないぞ!」
空振りした拳が樹にあたろうとも、アルバレスは全く意に介さない。常人ならば拳を痛めるところだが、アルバレスに限っては樹の方が砕けるからだ。
ここが森林地帯であっても、己の体へのダメージが無いのだから、障害物など気にする必要は無い。
顔にぶつかる枝葉にも一切の注意を払わず、泥を跳ね飛ばしながら一直線に向かって来る。
その圧たるや凄まじく、下がりながら反撃の機会を狙っていたヴァージニアも、躱すだけで精一杯だった。
「くっ!この化け物め!」
頬をかすめた拳が、ヴァージニアの青い髪を数本切り裂く。
硬く重いアルバレスの拳は、ヴァージニアにはとても防御できるものではなかった。一発でも受ければ、骨を砕かれ肉を潰されるだろう。かすめた頬から流れる一筋の血を拭う事もせず、ヴァージニアは冷たい汗を流した。
「くそ!ヴァージニア隊長っ!」
周囲で帝国軍第三師団の兵と交戦中の魔道剣士達は、防戦一方のヴァージニアに加勢したくともできなかった。
千人足らずの魔道剣士に対し、帝国軍はこの場にいる兵だけも数千人にも及ぶ。しかも体力型だけの魔道剣士とは違い、当然三系統の魔法使いも揃えている。
それだけの戦力差でありながら、魔道剣士ならではの予測できない戦い方で、互角に持ち込んでいるだけでも賞賛ものなのだ。しかしこれは綱渡りのような均衡状態である。
魔道剣士一人で数人を相手にしているのだから、一人でも戦力を割いてしまえば、そこから雪崩のように均衡状態が崩れる事もありえる。
苦戦を強いられているヴァージニアの助けに入りたいが、自分達が帝国兵を押さえているからこそ、ヴァージニアとアルバレスの一対一という状態を作る事ができている。
もしここで一人でも抜けて、その穴から帝国兵が流れ込んだら、今より苦しい状況になるかもしれない。
そう考えた時、魔道剣士達は動く事ができなかった。
ギリギリの状況で選択をせまられた彼らが選んだ答え、それは・・・
「信じろ!ヴァージニア隊長なら切り抜けるはずだ!」
魔道剣士達が選んだ答えは、信じるという事。
自分達をここまで引き上げた隊長を信じる。魔道剣士隊隊長ヴァージニア・フィールディングならば、アルバレスなどに負けるはずがない!
「そうだ!俺達の役目はこいつらを隊長に近づけさせない事だ!」
「絶対に通すな!」
一人の魔道剣士が声を上げ、目の前の帝国兵を斬り伏せた。するとそれに続くように、一人また一人と剣士達が声を上げて剣を振るう。
そう、彼らは自分達の役目を果たす事だけに集中した。
数で劣っている自分達が、数倍の戦力を持つ帝国と互角に戦えているのは、魔道剣士の奇策とも言える戦い方によるものだ。見慣れ戦法を警戒し、帝国兵が慎重になっているところも大きい。
しかし長くは持たない。時間が経てば徐々に程帝国兵に読まれるだろう。一度形勢が傾けば、数の差を埋める事はできない。
だからそうなる前に、ヴァージニアには何としても大将首を取ってもらうしかない。
「魔道剣士の力を見せてやれッ!」
決死の覚悟で挑む魔道剣士達は、ヴァージニアの勝利だけを信じて剣を振るった。
「うッ!」
ヴァージニアは後ろへ跳ぼうとして、泥に足を取られた。転びそうになったところを持ち堪えるが、バランスを崩して足を止めた事は致命的だった。
「もらったァァァァァーーーーーーーッツ!」
鋼鉄よりも硬い拳を振り被ったアルバレスが、ヴァージニアの頭に容赦なく叩き込む!
当然防御は不可能である。そしてこれをくらえばヴァージニアの頭など、木っ端みじんに砕け散るだろう。しかし体勢を崩したヴァージニアに躱す術はない。もはやこれまでかと思われたその時、ヴァージニアは青い目を細めてニヤリと笑った。
「ぬおッツ!?」
振り下ろした拳がヴァージニアの青い髪に触れるか寸でのところで、突如アルバレスの上体が大きく揺れ動いた。真っ先に違和感を感じたのは足元だった。
まるで何かに足首でも掴まれたように、うまく足を持ち上げる事もできない。
「くっ、いったい・・・ッ!?」
足元に顔を向けて驚愕した。
「な、なんだこれはッツ!?」
自分の足がズブズブと泥の中に沈んでいくのだ。
おかしい!ありえない!今の今までこの泥の上に立っていたのだ!
深さはせいぜい足首までだった、それがなぜ膝の近くまで沈んでいる!?これはまるで・・・!
「ふふふ・・・土の中の水気を増やす魔道具、土流れの玉。一言で言うと沼を作る魔道具ね」
アルバレスの足が沈み始めた時、ヴァージニアはすでに一歩大きく後ろに跳んでいた。
そう、全てはヴァージニアの策略だったのだ。
「さっきバランスを崩した時、泥の中に落としておいたのよ。乾いた土なら時間がかかるけど、すでに泥が出来上がっているなら話しは別よ。一瞬で増量した水が土と混ざって、ご覧の通り沼の出来上がりってわけ」
ヴァージニアは腰に巻いた革袋から、飴玉程の大きさの茶色の玉を取り出して、種明かしとばかりにアルバレスに見せた。
「ぐぬぅぅぅぅぅ!小癪な真似をしやがって!」
「いくらあんたが馬鹿力でも、底無し沼からは脱出できないでしょ?リングマガ湿地帯で戦う事が分かってから、私はこの地を最大に生かす準備をしていたのよ」
罠にはめられた事を理解したアルバレスが激高するが、腰まで沼に浸かった状態では、もがくほどに体が沈んでいく。ヴァージニアはアルバレスが脱出できない状態だと確認すると、くるりと背を向けて歩き出した。
「あ!?おい!てめぇどこに行く気・・・!?」
「ふふふ、ここまで弾かれてたなんて、やっぱりすごい衝撃だったのね」
数歩歩いて立ち止まると、ヴァージニアは正面の樹の根に刺さっている刃を引き抜いた。
「・・・てめぇ、それは・・・」
ヴァージニアが引き抜いた刃を見て、アルバレスの顔色が変わった。それが自分の胸に真一文字の傷跡を残したと知っているからだ。
「深紅の鎧は壊れた。生身で耐えらえるかしらね?」
振り返ったヴァージニアは、微笑みを浮かべながら長剣迅雷をアルバレスに差し向けた。
初めからそうだったわけではない。かつては剣や斧を使っていた事もある。
しかし鋼鉄の体を手にいれてから、アルバレスにとって武器とは、何も意味をなさないものとなってしまったのだ。
なぜなら己の鋼鉄の体を傷つけらない得物など役に立たない。己の鋼鉄の体以上に、硬く丈夫な武器など無いのだから。
「ウオラァァァァァーーーーーーーーッツ!」
ニメートルの巨体が振るう左右の剛腕を、ヴァージニアは後ろへ跳びながら躱していた。
「どうした!?逃げてるだけじゃ勝てないぞ!」
空振りした拳が樹にあたろうとも、アルバレスは全く意に介さない。常人ならば拳を痛めるところだが、アルバレスに限っては樹の方が砕けるからだ。
ここが森林地帯であっても、己の体へのダメージが無いのだから、障害物など気にする必要は無い。
顔にぶつかる枝葉にも一切の注意を払わず、泥を跳ね飛ばしながら一直線に向かって来る。
その圧たるや凄まじく、下がりながら反撃の機会を狙っていたヴァージニアも、躱すだけで精一杯だった。
「くっ!この化け物め!」
頬をかすめた拳が、ヴァージニアの青い髪を数本切り裂く。
硬く重いアルバレスの拳は、ヴァージニアにはとても防御できるものではなかった。一発でも受ければ、骨を砕かれ肉を潰されるだろう。かすめた頬から流れる一筋の血を拭う事もせず、ヴァージニアは冷たい汗を流した。
「くそ!ヴァージニア隊長っ!」
周囲で帝国軍第三師団の兵と交戦中の魔道剣士達は、防戦一方のヴァージニアに加勢したくともできなかった。
千人足らずの魔道剣士に対し、帝国軍はこの場にいる兵だけも数千人にも及ぶ。しかも体力型だけの魔道剣士とは違い、当然三系統の魔法使いも揃えている。
それだけの戦力差でありながら、魔道剣士ならではの予測できない戦い方で、互角に持ち込んでいるだけでも賞賛ものなのだ。しかしこれは綱渡りのような均衡状態である。
魔道剣士一人で数人を相手にしているのだから、一人でも戦力を割いてしまえば、そこから雪崩のように均衡状態が崩れる事もありえる。
苦戦を強いられているヴァージニアの助けに入りたいが、自分達が帝国兵を押さえているからこそ、ヴァージニアとアルバレスの一対一という状態を作る事ができている。
もしここで一人でも抜けて、その穴から帝国兵が流れ込んだら、今より苦しい状況になるかもしれない。
そう考えた時、魔道剣士達は動く事ができなかった。
ギリギリの状況で選択をせまられた彼らが選んだ答え、それは・・・
「信じろ!ヴァージニア隊長なら切り抜けるはずだ!」
魔道剣士達が選んだ答えは、信じるという事。
自分達をここまで引き上げた隊長を信じる。魔道剣士隊隊長ヴァージニア・フィールディングならば、アルバレスなどに負けるはずがない!
「そうだ!俺達の役目はこいつらを隊長に近づけさせない事だ!」
「絶対に通すな!」
一人の魔道剣士が声を上げ、目の前の帝国兵を斬り伏せた。するとそれに続くように、一人また一人と剣士達が声を上げて剣を振るう。
そう、彼らは自分達の役目を果たす事だけに集中した。
数で劣っている自分達が、数倍の戦力を持つ帝国と互角に戦えているのは、魔道剣士の奇策とも言える戦い方によるものだ。見慣れ戦法を警戒し、帝国兵が慎重になっているところも大きい。
しかし長くは持たない。時間が経てば徐々に程帝国兵に読まれるだろう。一度形勢が傾けば、数の差を埋める事はできない。
だからそうなる前に、ヴァージニアには何としても大将首を取ってもらうしかない。
「魔道剣士の力を見せてやれッ!」
決死の覚悟で挑む魔道剣士達は、ヴァージニアの勝利だけを信じて剣を振るった。
「うッ!」
ヴァージニアは後ろへ跳ぼうとして、泥に足を取られた。転びそうになったところを持ち堪えるが、バランスを崩して足を止めた事は致命的だった。
「もらったァァァァァーーーーーーーッツ!」
鋼鉄よりも硬い拳を振り被ったアルバレスが、ヴァージニアの頭に容赦なく叩き込む!
当然防御は不可能である。そしてこれをくらえばヴァージニアの頭など、木っ端みじんに砕け散るだろう。しかし体勢を崩したヴァージニアに躱す術はない。もはやこれまでかと思われたその時、ヴァージニアは青い目を細めてニヤリと笑った。
「ぬおッツ!?」
振り下ろした拳がヴァージニアの青い髪に触れるか寸でのところで、突如アルバレスの上体が大きく揺れ動いた。真っ先に違和感を感じたのは足元だった。
まるで何かに足首でも掴まれたように、うまく足を持ち上げる事もできない。
「くっ、いったい・・・ッ!?」
足元に顔を向けて驚愕した。
「な、なんだこれはッツ!?」
自分の足がズブズブと泥の中に沈んでいくのだ。
おかしい!ありえない!今の今までこの泥の上に立っていたのだ!
深さはせいぜい足首までだった、それがなぜ膝の近くまで沈んでいる!?これはまるで・・・!
「ふふふ・・・土の中の水気を増やす魔道具、土流れの玉。一言で言うと沼を作る魔道具ね」
アルバレスの足が沈み始めた時、ヴァージニアはすでに一歩大きく後ろに跳んでいた。
そう、全てはヴァージニアの策略だったのだ。
「さっきバランスを崩した時、泥の中に落としておいたのよ。乾いた土なら時間がかかるけど、すでに泥が出来上がっているなら話しは別よ。一瞬で増量した水が土と混ざって、ご覧の通り沼の出来上がりってわけ」
ヴァージニアは腰に巻いた革袋から、飴玉程の大きさの茶色の玉を取り出して、種明かしとばかりにアルバレスに見せた。
「ぐぬぅぅぅぅぅ!小癪な真似をしやがって!」
「いくらあんたが馬鹿力でも、底無し沼からは脱出できないでしょ?リングマガ湿地帯で戦う事が分かってから、私はこの地を最大に生かす準備をしていたのよ」
罠にはめられた事を理解したアルバレスが激高するが、腰まで沼に浸かった状態では、もがくほどに体が沈んでいく。ヴァージニアはアルバレスが脱出できない状態だと確認すると、くるりと背を向けて歩き出した。
「あ!?おい!てめぇどこに行く気・・・!?」
「ふふふ、ここまで弾かれてたなんて、やっぱりすごい衝撃だったのね」
数歩歩いて立ち止まると、ヴァージニアは正面の樹の根に刺さっている刃を引き抜いた。
「・・・てめぇ、それは・・・」
ヴァージニアが引き抜いた刃を見て、アルバレスの顔色が変わった。それが自分の胸に真一文字の傷跡を残したと知っているからだ。
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